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開催! 公式ムシバトル

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第四試合
「続きましてーーーぇ! 赤コーナーからパラミタミヤマクワガタのステキ自然、入場っ!」
 ずしっ、ずしっ。地面を踏みしめてゆっくりと、パラミタミヤマクワガタのステキ自然が入場してきた。
 セコンドの影野 陽太(かげの・ようた)は、ステキ自然の背から、放送席のエリザベートに向かって手を振っている。
「ディナークルーズ、楽しみにしていますからーーー!」
「まだ勝っていませんですわ……」
 パートナーのエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、そんな陽太を冷めた目で見つめ、つぶやいた。
「そして、青コーナーからはぁ、パラミタストロンガーのフルアーマーナガンが入場っ!」
「パラミタストロンガー? 聞き慣れない虫だねぇ……」
 解説の2人も、全く知らない虫の種類に、首をかしげている。
 そこで、エリザベートがまた豊富な知識を披露した。
「パラミタストロンガーも、カブトムシの一種ですのよ」
「へぇ、そんなカブトムシもいるんですねぇ」
「身体の赤いラインが、ストロンガーカブトムシの特徴ですわ」
 その言葉通り、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)とともに入場してきたフルアーマーナガンの背には、くっきりと赤いラインが入っていた。
「ナガン! 行ってこい!」
 クワガタとカブトムシ。永遠のライバル。互いに、ハサミや角を天高く持ち上げ、威嚇をしているようだ。
「試合開始!」
 カーン! ゴングが鳴った!
「うーん……どちらも動きませんわぁ」
 それもそのはず。実は両セコンドとも「序盤は相手の攻撃を耐える」という方針なのだ。方向性がまるでかぶってしまっている!
「仕方ない。動いちゃってください!」
 先に動くことにしたのはステキ自然。力強く攻撃を繰り出した。
 ガァン! フルアーマーナガンは堅いボディで防御した。だが、ステキ自然のパワーもなかなかのものだ。
「動こちらも動くぞ。バーストダッシュ!」
 真一郎がフルアーマーナガンにバーストダッシュの援護を行った。
 それに反応してフルアーマーナガンが素早く動き、ステキ自然に体当たりを喰らわせた!
 さらにそのまま連続攻撃! 角で追撃!
「まずい! エリシア、援護をお願いします!」
「仕方ないですわね……えい」
 エリシアから放たれた雷術が、フルアーマーナガンの目をくらませた!
「回り込んで下さい!」
「ココまで来たら、ちゃんと勝って欲しいですわ!」
 セコンド2人の応援に後押しされ、まだ目がくらんでいるフルアーマーナガンの背後に回り込んだステキ自然は、全力でハサミを突き出した!
 後方に回られたことに気がつかなかったフルアーマーナガンは、そのまま勢いよく前に飛ばされ、場外へと落ちた!
「……場外! 勝者、ステキ自然!」
 フルアーマーナガンは傷ついた身体を起こすと、セコンドの真一郎のところまで歩いてきた。
 角を振り上げる。まるで敬礼しているかのようだ。
「リポーターのヘルガです! お話しを聞かせてくだはりますか?」
 ヘルゲイトがインタビューにやって来た。
「このフルアーマーナガンさんに、何か声をかけてあげるとしたら、なんて言いはります?」」
「……お前が、大好きだ!」
 真一郎の顔は、いい笑顔だった。フルアーマーナガンと一緒に精一杯戦い抜き、悔いがないのだろう。
「また来年も期待してるで!」
「もちろん! また来ますよ。こいつと一緒に」


第五試合
「Bブロックも残り2試合! お客さぁん、盛り上がっていきますよー!」
 わあぁぁ! 連続する白熱のバトルに、客席の盛り上がりも最高潮だ。
「では第五試合、選手の入場。パラミタクリムゾンオオスズメバチのビーと、パラミタオオクワガタの黄緑紫の入場ですぅ!」
 赤コーナーから入場してくるのは、これまた赤いスズメバチ。
「パラミタクリムゾンオオスズメバチ……名前が長くて言いにくいですわぁ」
 セコンドのロッソ・ネロ(ろっそ・ねろ)に連れられて、羽を広げて堂々の入場だ。
「ビー、頑張ってね!」
 続いて青コーナーから入場してきたのは、パラミタオオクワガタの黄緑紫。
「希少種であるパラミタオオクワガタが2匹も出場してるなんてぇ、この大会のレベルは高いですわぁ」
 エリザベート校長は満足げだ。
「紫さん、バトルも大事ですけど、目標は素敵なお婿さん捜しですからね」
「女の子らしさも忘れちゃダメだからね!」
 セコンドの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が、丹念に紫の身体を拭いてあげている。
「うんっ! 紫さん、キレイだよ!」
 紫は上品な動きで、バトルステージへと上った。
「試合開始!」
 速さで勝るのは……紫。
 紫の先制攻撃から試合が始まった!
「頑張れ紫さぁん! 美しく攻撃っ!」
 ビーの横っ腹に素早く蹴りを打ち込む!
 実は紫、女の子らしいというか何というか、パラミタオオクワガタとしてはあまりパワーはない方だ。
 それでも、あまり防御に自信がないビーには、少し効いたようだった。
 続いてビーの突進! ビーもそれなりにスピードがある。
「ビー、積極的に動いていこう!」
 ドスッ! ビーがキックを繰り出す!
 ビーの攻撃を避けきれず、紫の身体がぐらつく。
「相手のハチさんも速い……」
 ぐらついた紫に、さらに蹴りを打ち込もうとするビー。
「……逆にチャンス!」
 その瞬間、紫サイドからまばゆい光がほとばしった!
「しまった!」
 まともに光を目に入れてしまったビーは、紫の姿を見失ってしまった。
「カウンター!」
 的の姿を見失って闇雲に蹴りをくりだすビーに、紫は脇から体当たり!
『!』(ボクとんでくーーー!)
 ドサッ。
 ビーが落ちた場所は……場外!
「えーーーっと少々お待ちを。……あ。勝者、黄緑紫!」
 目くらましにあってしまったのはビーだけでなく、実はレフェリーアルツールもしっかり光を見てしまっていた。
 視力の回復を待ち、改めて紫の勝利を宣言した!
「紫さん、頑張ったね!」
 紫をねぎらうセコンドの2人。
「ちなみに、対戦相手のビーさんは雄だよね。なかなか強かったし、紫さんのお婿さんにどうかな?」
 ビーはというと。
『ふるふる』(強すぎる女性はちょっと……)
 セコンドのロッソを置いて、逃げるように引き上げていった。
「ビー……まって……」
 慌てて追いかけていくロッソ。
 当の紫は、ツンと首をそらした。
「紫さんを負かせるような雄じゃないと、ダメなのかなぁ」


第六試合
「Bブロックも、いよいよこの試合で最後となりましたー!」
 どの虫たちも力を尽くして戦ってきた予選Bブロックも、この試合が最後となる。
「では選手の入場ですぅ。えーー……聞いたことない虫ですね。ガイアフレンチクォーターのぴかくぅ☆と、パラミタオオアリジゴクの末広がりちゃん!」
 赤コーナーからは……虫の姿は無いように見えるが……。
「出場する虫はどこかな?」
 レフェリーアルツールが確認を行う。
「ここにいますわ」
 マネット・エェル( ・ )が指さしたのは、どう見ても人間。
 パートナーの九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )そっくりの……というか、誰がどう見ても本人だ。
「ぴかー」
 九弓は虫になりきるつもりのようだが……。
「この大会はムシバトルであるから、人間の出場は認められないのだよ」
 アルツールも、予想外の事態に困り顔だ。
「洋服着てるし……どう見ても人間であろう」
「あのあの、前世は虫だったので、つい先日記憶が戻って……。というか、この子人間っぽいですけど虫ですから、出させてください!」
 何とか試合に出させて欲しいと懇願するマネット。
「エリザベート校長、どうします?」
 判断はエリザベートに委ねられた。
「そうですわねぇ。前世が虫だったっていう話、分からなくもないですわぁ」
「分からなくもない……ことなのか……?」
「対戦相手の末広がりちゃんサイドがいいと言えば、出場は認めますわ」
 このゴタゴタの間に、既に入場を済ませていたパラミタオオアリジゴクの末広がりちゃんのセコンド、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、意に介していない様子だった。
「いいじゃん、かまわないよ! お洋服が脱げちゃっても文句言わないでね」
「不戦勝って好きじゃないし、戦った方が楽しいじゃん!」
「決まりですわねぇ。出場は認めますぅ」
 ほっとした様子のマネット。当のぴかくぅ☆は「え、出るの?」と言いたそうな顔をしている。
「ただし。前世の記憶があるとはいえ、どう見ても今は人間ですし、虫さんより器用なはずですよねぇ。ですのでペナルティとして、あらゆる魔法や能力の使用を禁止しますぅ。援護も禁止ですよぅ!」
 こうして、本人もセコンドも魔法やスキルの使用禁止という条件で、ガイアフレンチクォーターのぴかくぅ☆こと九弓の出場は認められた。
「なんとか出られるようにはなりましたけど……援護も禁止はイタイですわね」
 いろいろあったが、どうにか第六試合は開始する運びとなった。
「試合開始!」
 先に動いたのは、身軽なぴかくぅ☆だ。
「相手の動きはとっても遅そうですわ。先制あるのみ、がんばれますたぁ☆」
 実はけっこうなパワーを持っているぴかくぅ☆。強力なパンチが末広がりちゃんに襲いかかる!
「当たったらやばそうっ!」
「大丈夫……トラッパー発動!」
 魅世瑠の援護、トラッパーが発動した!
 ステージに広がるアリジゴク。
 ぴかくぅ☆は、足をとられてしまった!
「ますたぁ! ああもうっ、援護できないのがもどかしいですわ」
 サイズ、見た目の違いはおいといて、実は両者とも防御はイマイチだがとにかくパワーが強いというタイプ。一撃を当てることができれば、そのまま勝負は決するだろう。
「ぴかーーー! ぴかぴーか!」
 まだトラップから抜け出せず、もがいているぴかくぅ☆。
 その間に、攻撃の体勢に移る末広がりちゃん。
「いっけーーー末広がりちゃんっ! ひん剥いちゃえーーー!」
 セコンドほどおハダカに興味がない末広がりちゃんは、ぴかくぅ☆のふんわりワンピースに目もくれず、直球体当たりで向かっていった!
「キャアアァァァァァ!」
 最後は、人間のかわいい女の子らしい悲鳴だった。
 ふわぁ。
 流行のチュニック丈ワンピと、ラメ入りトレンカをステキに着こなした金髪少女が、アリジゴクにはねられて、砂と一緒にすっ飛ばされた。
 周囲の砂が光に反射してきらきら光り、とても美しい光景だったという。
「ますたぁぁぁ!」
 場外まで飛ばされたぴかくぅ☆のもとへ、マネットは慌てて駆け寄った。
「イタタタ……もういいでしょ? 納豆の仕返しは済んだよね」
「や、やりすぎましたわ……」
「ぴーぽーぴーぽー。救護班ですぅ!」
 まだ立ち上がれない九弓のもとに、大会救護班のシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)が走ってきた。
「お手当しますぅ……って、あれ? 虫さん?」
 虫の手当をするつもりだったのに、どう見ても人間の九弓を見て、目を丸くしている。
「とりあえず治療をお願いしますわ……」
 マネットに頼まれ、シャーロットはヒールで九弓を治療した。
「ちょっとかわった虫さんですのねぇ。人間そっくり。あ、蜜でもお持ちしましょうか?」
「結構よ!」
 人間の女の子に戻った九弓は、マネットの手を借りて起き上がった。
「世の中にはいろんな虫さんがいるんですねぇ」
 礼を言って立ち去る九弓の背中を見送りながら、シャーロットはひとりごとをつぶやいた。
「さ、続きの観戦しましょ。日傘ささなきゃ♪」
 森の中とはいえ、まだまだ日差しが強い時間だ。女子は日焼け止め対策に力を入れた方がよいだろう。