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第6章 開戦


6‐01 ダブルトリガー

「全くっ……減ってる気がしないな」
 倒せど倒せど、わき出てくるかのごとくオークの勢いに、思わずぼやきが出る。森の木を背に、銃を構えつつ、カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)
「おいおい……何だよ。もうバテちまったのか?」
 彼女の方を向いて微笑する、ツンツン頭の、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。おっと――彼の鋭く赤い目が光る。ふりかぶってくるオークをすかさず、余裕で撃ち抜く。
 どさっ。足もとに倒れ伏すオーク。
「はあ、はあ。……馬鹿言え、お前に合わせて手を抜くのに飽きてきたってだけだ」
 言いつつも、息を切らし、木に背をもたれさせるカーマル。
「ほーそいつはありがたいな。俺も暴れたりないところだ!」

 森のなかが、にわかに慌しくなってきた。
 そろそろ、昼過ぎ。教導団の本巣攻撃が始まったのだろう。
 ここは本巣周辺の森。
 本巣に集まってくるオークや、警戒中のオークがごろごろしている。
 そんな中、教導団の指揮を離れてすでに戦闘状態にあるのは、二十歳を越えているが、小柄で小学校高学年くらいにしか見えないカーマルに、二十歳手前だがどこからどう見てもおっさんのラルク。
 教導団&パラ実のちょっと変わったコンビの二人だ。
「ふむ……仲良き事は素晴らしき哉……だな。
 って!! そして、オレがいるぜ?」
 アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)。過去、放浪の旅の途中、ラルクを拾いここまで育ててきた苦労人の、ドラゴニュートである。

「おっ。また、来やがるぜ?」
「あ、ああ」
 幾らか離れた森の中を、騎狼が駆けていく音。かなりの数だ。
「あれはおそらく、ボクら教導団の騎狼部隊、か……」
 その音を聞きつけた森のオーク達が、一斉に向かっていく。二人の周囲にも再び、オークが集まり始めた。
「カーマル! 交代でリロードしていくぞ!!」
「よし!」
 撃ちまくるラルク。カーマルも、銃を構える。



6‐02 馳せる、騎狼部隊

 馳せる、騎狼部隊。
「さあぁ、行くか!!」
 先頭を駆けるのは、デゼル。そのすぐ後ろには、ルケトが、
「おいおい張り切って、騎狼から落っこちるんじゃないぞ」
 間もなく、敵の本拠である本巣に近付く。
 森の道を抜け、木々の数が減ってくると、オークの姿がちらほらと見え始めた。手負の者も多い。
 峡谷の北端になる切り立つ山を背に、高く聳え立ったオークの城が見える。あれが、本巣か……

 斥候によると、本巣の前は、戦の準備でごったがえしているとのことだったが、半ば、陣容を整えつつある。
 が、先の負け戦から、未だ態勢を整え直してはおらず、こちらの攻撃に驚いている様子だ。
「一番メイスはもらったー!」パワーブレスで自らの身体能力を高めると、突出しそのまま真っ先に突っ込んでいく、カッティ。
 突然の来襲に身構える暇もないオークがカッティに小突かれ、転がっていく。
 三、四、五、……十、二十、……いよいよ、敵陣の中に突入した形だ。
 ナイトのデゼル、菅野、ミューレリアは先頭になり、ランスチャージの構え。相良も、初陣に恐る恐るだが、しっかりとランスを持ち直しそれに並ぶ。
「うう、けっこう、いやかなり、は、速いぜ、これは……! ほんと、振り落とされないようにしないと!」
 必死で騎狼を御するミューレリア。初の、騎狼に乗っての戦い。事前に、騎狼に触れたり乗ってみたりはしているが、実際に戦場を駆けるスピードは尋常ではない。
「さ、相良君は大丈夫? 付いてきています?!」心配そうに横を見やる菅野。
「……う、うん……」
 騎狼にしがみ付く相良。だがわりと冷静に状況を見ていた。乗ってみると、けっこうな高さで、迫ってくるオークからも、騎狼によって守られている感もある。
 ランスを前に突き出し、前面に展開してくる敵を払っていく。
 騎士としての戦いは、徐々に形になりつつある。
「ハッハァー! 楽しいぜ、オークを屠るのは!」デゼルは、ほぼ騎狼と一体化しつつある。

 その後ろにはセイバー達が、確実に敵を切り倒していく。
 中でもルケトの勢い(イライラ)や凄まじく、その攻勢普段の四割増也。ルケトには、オークがアレの顔にしか見えない。「あのデブ、あれからオレに何度もしつこく手紙を寄こしやがって! ……ルケトちゃんだと、気安く呼ぶなこの豚っ!」
「……これは凄い。伊織にも見習ってもらわねば」
 それを横目にしつつ、すれ違い様にオークに斬撃を加えていく、グラン。

 アリーセは、部隊の中央で、敵陣の観察を最優先する。
 敵の本陣ということもあって、投石器の数が多い。
「イレブン、あちらに、投石器が集められているわ」
「むっ」
「ミーナ!」菅野が振り返って、叫ぶ。
「任せてっ。サンダーブラスト!」
 雷を降り注がせ、一つ、二つ、確実に破壊していく、ミーナ。
 剣を振り上げるイレブン。放たれた轟雷閃に、更に三つ、四つと倒されていく投石器。

 騎狼を駆るシャンバラ人達が、彼らに続き、敵陣をかき乱していく。
 オーク兵が徐々に集まり、幾つかの集団をまとめ、騎狼部隊を側面から締め上げようとしてくる。
「オラオラオラァ! 教導団は一番槍、騎狼部隊の御通りだ!!
 邪魔する奴は踏み潰すぜッラァ!!」
 火術をぶちまける、駿河。騎狼部隊にあってすっかりノリは族と化しているが、隊列は乱していない。
「ギャアァァ!」
 黒焦げになって散っていく、オーク。
 本巣からも、襲撃を聞きつけた兵が出てきている。
(魔道師は何処だ……?)
 族ノリながらも、内心は冷静に、周囲に目線を巡らせる駿河。
(魔道師……)
 アリーセも、細心の注意を払う。
 ロブも、魔道師の姿が見えれば、すぐにも狙撃できる用意はある。だが、そこにはハーフオークもある筈。それには危害を加えたくない……多くの者の共通の思いでもあった。
「はっ」
 アリーセは、側面の緩い丘陵上に、敵の一隊が展開するのを見つけた。いちばん高いところに、魔道師。と、なると、ハーフオーク……
「オイ、反対側もだぜ!!」駿河が叫ぶ。
 一斉に、矢を射かけてくる。
 ディフェンスシフトを張るナイト達に守られ、矢の雨を何とか逃れる。
「あっ。ユハラさん!」
「ぐぁ」
 肩に矢を受け落馬しそうになったユハラを、グスタフが、がっと掴み上げる。
「っと。ユハラさん、大丈夫か?!」
 矢の、次の波が来る。
「きゃっ」
「っと、アリーセ……!」
「あ、ありがとうグスタフ。……私も助けられちゃった」
「うぉぉ!」
 両脇ににユハラ、アリーセを抱え、駆けるグスタフ。
 矢の雨地帯は抜けたが……
「あれを俺たちが何とかしないとまずいってわけだな」

 後方、脱落しそうな数名のところへ、メイベルが駆けつけ、リカバリーをかける。
「皆、しっかり!」
「はあ、はあ、私はもう駄目だ……」
「ああっ」
 前のめりになって操舵を失いそうなシャンバラ兵の手綱をとって、励ます、メイベル。
 追いすがってくるオークを、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がモーニングスターを振るい、何とか引き剥がす。
 どんっ
「ギャアァァ!」
「アリシア。援護しよう」
「ええ、ロブ」
 最後尾へ速度を緩めて下がってくる、ロブ、アリシア。
 ロブが、スプレーショットで敵の追撃を払い除けた。

 最前列。
 本巣入り口の前に、守備隊が集結している。
「あの手前で、切り返そう」
 ナイト達が、敵前衛とぶつかる。
 守備隊は、動かなかった。
 そのまま、向きを変え離脱する、騎狼部隊。
 本巣門の上に、機晶姫らしき姿が見えたが、攻撃してくる様子はなかった。



6‐03 チェック II

 出撃を開始した、南西分校=チェックII。
 昼間でも「薄暗い、オークの森の奥へと、足を踏み入れていく。道と言える道はない。
 やがてすぐ、厚い樹冠に覆われ、空は見えなくなる。
「クナイ?」
「ええ、北都様。警戒を強めて参りましょうか」
「皆さん、では禁猟区を張っていきますね」
 清泉の禁猟区がかけられたおかげで、安全度は高まるが、いずれ戦いは避けられない。
 各々の思いを胸に、森を奥へ、奥へ。
 森の中は、静かだ。鳥の羽音や、虫の鳴き声の聞こえる以外は。獣の気配もなく。
 早足で、すでに森へ入って十分程、いやもっと来ただろうか。
「北都様。どうやら……」
「うん。禁猟区が働き始めたみたいだねぇ。皆さん、そろそろ注意を」
 周囲にある茂みや、木陰に注意し、時折響く物音に警戒しを高め進んでいく一行。
 ……まあ、テキトーに、テキトーに、と思いつつも、ついつい足を早めていた東條。
 通り越した木の影に、何かいたぞ……はっ。
 オー、 オー、 オーク !! 声が出ない。
 ブタっぽい顔をしたそいつ、突如、大まさかりを振りかぶって……「そ、それ。俺に振り下ろそう、ってことだよねぇ」
「ニタ。
 オォォォォク!!」
 ……
「ムッ」
「……村雨さん」
 前方を警戒しつつ、進んでいた村雨と風森。
 カン、カン、ガッ 打ち合う音。
「あっちだ」
「ま、待って!焔!」
 アリシアが、村雨のマントを引っぱって、引き止める。
「来たな」
 村雨、剣の柄に手をあてる。
 暗い木々の影から、続々と、現れ出てきたオーク達。
「巽!」
「ティア、下がってて」
 風森、すらりと剣を抜く。
 次に葉月が追いつき、オークの姿を見とめるや、剣を抜き構える。セイバーの三人が、剣槍を手にしたオーク勢と向き合う。
 すぐに皆が、追いついてくる。ウェイル、十六夜、如月、清泉、クナイ。
「如月さん、あちらで東條さんが」
「まかせといて!」
 さっ、と素早く走り出すウィザードの如月。
 追おうとするオーク勢に、走ってきた国頭、
「おぉっと、お前ら余所見してんじゃねぇ!!」
 ズドドドドド。
 スプレーショット、撒き散らされる弾丸に飛ばされるオーク。「っしゃあ抜刀突撃だぜっ!」
 戦闘態勢に入っていた葉月、風森、村雨、と次々切り込んでいく。更に、走りこんでくると、そのまま続いて切り込んでいく、
 ゴザルザ・ゲッコー! ばしっ! まずは一撃でござる!
「崩されぬよう、一丸となっていくでござるよ!」
「……よし」
 初陣となるウェイルも、意を決し、ランスを握り締める。
「ウェイル、どうか無理はしないでね!」
 ウェイルの手を握り、声をかけるフェリシア。
「援護はぼくに、まかせてください」
 恐る恐るながらも、次の射撃に入る国頭と並んで、銃を構える、影野。
 突撃するウェイルを援護し、シャープシューターで確実にオークを狙い撃つ。
「僕も、いくよ」少し不安気な清泉に、「大丈夫でございます、北都様。私がお守り致します」声をかけるクナイ。
 北都も、しっかりとデリンジャーを手にする。

 その幾らか前方では、オークと数合打ち合った東條、
「ほうほぅ、こんなものかねぇ」
「ドゥシタ? ドタマカチワッタルォォォク!!」
 再び大きく振りかぶるオーク、そのわき腹に斬撃!
 ギャァァ!!
 倒れるオーク、しかしその後ろに、次なるオーク、オーク。
「うはぁ、来たね、来たね」
 少しずつ、楽しくなってきた東條。構えるオークに、今度はこちらから振りかぶる東條、
「あれぇ? まだ、俺切ってないぜぇ」
 どっ、うつ伏せるオーク。
「カガチさ〜ん。私だよ私ー」
「あ、え、っと。如月さん?」
「えへへ」
 どんっ。光学迷彩で姿を消した如月のワンドによる不意打ちに倒れるオーク。ぼっ ぼっ 東條の周りのあちこちで、オークの頭に、腕に、尻に火が着いていく。
「おぉっ。て、感心してる場合じゃない。俺の分も残しておいてくれぇ」
 東條も、ぶん、ぶんと剣を振るい始めるのだった。
 その、更に前方では……
 ゴザルザ・ゲッコー。
「にゃんこは何処でござる!!」
 オークと切り合いしつつそのま、ま森を突っ切っていってしまった。

 オーク勢と打ち合いが始まった間もなく、十六夜は峡谷側に知らせる為、信号弾を放った。
 勢いよく、頭上の樹々を抜けていく信号弾。
 オークは少したじろいだ。
 一気に攻勢をかける、チェックIIの剣士達。
 やがて、斜め前方から、少し奥で戦っていた東條と如月(まだ光学迷彩が効いているので姿は見えないが)も、戻って来る。
 どうやら、討ちもらしはない。
 まだ、戦って数分というところだ。
 数は、そう多くなかった。それでも、二十程は討ったか。
「このあたりには覚えがある。どうやら、もう森奥の付近にまで来ていたようだな」と、村雨。
 そこへ風森が来て、
「村雨さん。伝令らしい者が、あちらの方へ向かおうとしていたのを仕留めました。多分、指揮官のいる場所では」
「なるほど……!」
 風森の進言に従い、皆はその方角へ歩を進める。
 時折、先の信号弾に気づいて警戒しているのだろう、森を歩くオークに出会うが、数名単位である。

 峡谷側の囮部隊が効いているらしく、どうやらオークの森の敵は、見たところ、手薄だ。後方には最小限の警護を残し、峡谷へ兵を向けたのかも知れない。
(キングの姿は、見えないが……)
これなら本陣まで、すぐに達する筈。そこに、やつはいるのか。

 それから、気になることと言えば、誰が倒したか、今までに何度かオークの死体を見つけた。仲間割れではないらしく、死因は、銃によるもの。これは、狙撃か……となるとソルジャー。誰が? と皆、影野の方を見るが。
「ぼ、僕ではない……」
 国頭だったらもっと派手にやってるだろうし。その国頭の言うには、
「まあ何れにしてもこれは、腕は相当確かなのは間違いねぇな」
「それに、俺たちと同じように、オークを倒しているのなら、敵ということはなさそうだしな」
 戦闘が一息つくと、葉月は再びいつもマイペースに戻って、そう語る。
「確かに、それはそうだ」と、皆。
 離れた木の影に隠れ、そんな皆の様子を見る忍びの姿。
「俺はあくまで独りで戦うさ、今は。俺には俺の戦いがある」

 やがて、敵本陣らしい灯かりが見える。
 篠北、ジェニスも、ここで合流してくる。彼女らの言うには、
「しっ。あたし達だよ。オークの多数は、確かに峡谷の方へ移動していった。
 あの後、オークの動きに注意しながらここへたどり着いたんだけど、どうにもおかしなのが、辺りをうろついてて」
 ギチ、ギチ……
「ムッ。アリシア、何か言ったか?」
「ほ、焔? 私は何も……」
「皆さん。禁猟区が……!!」
 ギチギチギチギチ……
「何だ。この音は……」
 ばりばり、一同の横脇の茂みを突き破って出現したのは……
「ウガァァァァァァァ」
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
「オークの、戦車、だと……?」
 剣を抜き放った村雨もあっ気にとられる。
 人間の骨で組み立てられた、オークの戦車(チャリオット)。オーク旗の上に頭蓋骨が突き立っている。

「ドゥハァァァァァ!!」
 一方の樹の後ろから立ち出たのは、騎士鎧に身を固めた大柄なオーク。
 ブンブン、人の持つ数倍の長さのランスを振り回す。

「あ、しまった……」
 後ろ手をとられた。
 いつの間にか、後方を大勢で取り囲まれている。
 体に不気味な模様を施された、どうやらハーフオークの戦士達だ。
 そして、その真ん中にいるのが、仮面フロシキ……
「……あいつが、ビショップ、ってとこか」

(なるほど。ならば、何処だ……キングは?!)
 辺りを見回す村雨。
 そこへすかさず。
 ヒュンッ、オーク騎士のランスが真っ直ぐに突き出される。相当なリーチだ。交わす村雨。
 二撃目を阻んで、騎士の横には、風森が付けた。
「貴公の相手、我らがつとめよう」
 その表情には、自信が見える。
 その傍らには、風森の攻撃を支え、牽制してみせる構えの、ティア。

 仮面の魔術師には、ワンドを掲げた十六夜、如月が対峙した。



6‐04 七日で落とせ

 大軍師カナリー・スポルコフが策を述べるのだ。とりあえず、これは拝聴せねばならない。
「まず、戦力を多めに見せかけるよ。
 敵の偵察に見えるよう、毎日昼間に拠点に到着。拠点からは夜の間にこっそり抜け出して、同じ部隊が何度も村に入り直すんだよ」
 カナリーは、部隊の兵に洗濯竿を持たせ、それに松明を並べて取り付けたものを準備させた。これをもって……
「七日七晩夜襲をかけるよ」
 これによってオーク勢は、教導団兵の数の多さに戦意を失うだろう。
 カナリーは、対岸の砦、となりの砦に、昼間には喚声を上げたり派手な偵察を行うよう命令し、マリーの部隊と併せ三方から圧力をかける心算。
「七日すぎてオークが消耗しきったところで砦一をいただきまーすだよ」
 カナリーは前方に見える一之砦をビッと指さした。
「これで、騎凛ちゃんのハートもカナリーがいただきだねっ♪」





 こちらも北岸、一之砦にたどり着いた、鷹村真一郎と松本可奈。
 鷹村は、砦の裏手に出た。
「おお! あの、壁をよじ登っている方は……?」
 その壁を伝い、砦の上へ上へと進もうとしているのは、クロード・ライリッシュと、その守護天使戒羅樹永久。
 上階の辺りを、箒に乗った女性が飛び交い、寄せて来るオーク兵を翻弄している。
 砦の下には、すでに敵騎狼兵が屯し、長槍でクロード達を引っかけようと躍起になっている。
「なるほどあれが、特殊部隊? ……可奈!」
「ええ、真一郎!」
 二人は走り、壁の下にいる騎狼兵へ突撃を開始した。
 彼らに気づいたオーク騎狼兵が、向きを変えるや、鷹村に踊りかかってくる。
「むぅ!」
 鷹村は、ランスを正面の敵に向け、その場に構えた。迎え撃つ体勢だ。
 突っ込んで来るオーク兵の胸を狙い、ランスを押し出す。騎上の敵に対しとった彼の戦法は確実だ。騎狼から弾き飛ばされ、落下するオーク。
 鷹村に回り込んでこようとするオークに、可奈が相対する。彼の背中は、私が守る……!
「特殊部隊の方々とお見受けしました! ここは俺が。今の内です!」
 砦の上方で、その者達が手を振って礼を述べている。
 さあ、敵に取り囲まれる鷹村……
 鷹村は、まずランスを振るい、騎狼からオークを打ち落とすことに専心した。
 これで、自分の戦いにもっていける。騎狼から落ちそのまま落命するオークもある。
 可奈も、彼を守ることを第一にしつつ、落下したオークを打つ。
 あらかた敵を討ち払うと、彼も壁を上り始めた。可奈が、彼を守る。
「よし、俺も行きますよ!」





 じりじりと、押してくるパウパウ。
 騎狼に乗った大きな敵を相手に、攻勢をかわし、剣を振るう匡。手綱を引くオークの動きは、素早い。次々繰り出される、手斧の斬撃。だが、こちらの切っ先も、もう相手を捉えられそうだ。
 下がりつつも、レイユウは常にしっかりと匡を回復射程に収めている。
「匡を討たせるわけにはいかないぜ?」
 そこへ、軍馬の足音響かせて、軍勢が、砦の虎口へ押し寄せた。
「わて、ブラッディ・マリーが来たからには、オークのすきにはさせんでありますぞ! さあ、この砦はマリーが頂いた!
 特殊部隊は、鉱山に向かわれたし!
 ……
 な、黒炎の匡ではありませんか!!?」

 オークがマリーに気をとられた瞬間、匡の一閃がとうとう敵の首を薙いだ。





 もう、一息だ……が、壁を登るクロード・永久ペアに感付いたオーク兵、矢をつがえ、注意深く、壁の下を覗き込む。
 そこへ、箒に跨った翠葉が、死角よりばっと舞ってくると、雷術で、オークを砦の下へ撃ち落した。
「腐れ縁殿、さすがのお手際」
 クロード・永久は、ついに砦の上方へ到達した。
「さて、一人百程度だったか……」
 派手に暴れるとするか、剣を勢いよく抜き放ち、クロード。
「今日は僕がクロの背中を守っちゃうよ!」
 メイスをぶんぶん振り回す永久。
 たじろぐ弓兵次々、砦の壁伝いに、落として行く。
 クロード、永久は、上階より砦の内部へと攻め込んだ。





 彼も、すぐ砦の壁をよじ登ると、内部へ突入した鷹村真一郎だったが……
「特殊部隊の戦いを見たいと思いましたが、まさか俺がトロルにあたることになりますとは」
 北岸一乃砦の内部に残っていたトロル。峡谷に残る最後の一匹だ。
 しかし、この巨大な敵と、一対一ですか……!
 鷹村は、覚悟を決めた。
「……シャンバラの鷹の一閃、受けて見せろ!」
 トロルの胸めがけて、ランスを構え一直線に駆ける、鷹村。
「むっ!!」
 棍棒が振るい下ろされる。凄い勢いだ。これをまともに受ければ、気を失ってしまうかも知れぬ程の。
 鷹村はもう一度下がり、間合いを計る。
 そこへ、黒炎が駆けつけた。
 戦闘中と見るや、すぐに、彼らが連携し後方に回り込む。
「足斬り崩し頭部断ずが好し」
 匡の指示で皆がそのまま敵の足に集中し奇襲をかける。
 ゴァ?!
 トロルは気づくも、すでにバランスを崩している。
「なるほど……!」
 鷹村も、再度ランスを持ち直した。
 ザッ 後から深く一撃を入れるクロード。
「鷹村殿ぉ!」
 鷹村は、倒れてくるトロルに向き合った。
「くらえぃ!」
 ランスを、トロルの頭部めがけずんと深々突き立てる。
 トロルは叫びを上げ、ずだんと砦の床に突っ伏した。
「まだまだいけるぜ?」周囲に集っていたオーク兵に、不敵に笑むレイユウ。
 敵は壊走した。
 可奈が、正面の階段から駆け上がってくる。
「し、真一郎? 大丈夫だった?!」
「どうということもなく!」

 レイユウは今日こそ、勝利後、無骨な手で匡の頭をがしがしと掻き回し(撫で)てやった。





 黒炎、鷹村、マリーは、一日で砦を落とした。