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第8章 鉱山

 鉱山の入り口で迷っているのは、草薙真矢。
 ああーどうしようかなあ……
 入るべきか。入らぬべきか。


8-01 草薙の賭け

 さて、単身砦を飛び出した草薙はその後一時、出撃の準備をするマリーに捕まっていた。
 マリーがシャンバラの新兵達を睨みつけ、その前では、魔女にしてマリーの軍師カナリーが、意気込みを説いていた時のことだ。
「いーい? イレブン達の騎兵部隊が、稲葉山&?越のコンボ(?)で裏山から本巣を蹂躙するからっ、こっちも砦を七日で落とすんだよっ」
「ハアア! 何弱気な顔をしているでありますか!!」
「失敗したら、男はマリちゃんが生のまま頭からボリボリと、女は温泉宿に叩き売り○体盛りの器だよ♪」
 ごくん、と唾を飲み込む兵達。マリーがにたりと、一人一人を睨み回す。
「それからとくに、なぎーは……」
「え、あ、あたし??」
「そうだよ。失敗したら、夜の憲兵総監ことマリちゃんのお仕置き部屋♪」
「そ、そんなぁ……どきどき」
「騎凛ちゃんも例外じゃないんだよ? だから……」カナリーは騎凛の口調になり、「私、物心ついたときから戦場にいましたから、こういうときどうしたらいいかわからないんです……とかいうの禁止」
「エ〜〜ン……わくわく」
「さああ! わかったなら、行くであります!! 者どもは、戦の支度にかかるでありますよ!!」
 こうして、草薙は自らの思いの上に、マリーの策を乗せ、マリーの別働隊として、鉱山に向かった。
 ばたばたと、動き出す兵。
「ああ、草薙さん。だいじょうぶかしら?」
「なぎーなら、やってくれるであります」





 草薙は更に、味方の陣地での果てで、戦斧トマホークを振るって明日の戦の予行演習をする男とも出会った。
「元少尉の松平岩造だ! 少し教導団を離れていたが、この度、再び歩兵として尽力することとなった。貴様は、誰だ?」
「あ、はい。あたしは、新しく戦いに加わることになった草薙真矢」
「どこへ行くつもりだ? 抜けがけは、許されんぞ」
「実は、マリー将軍のかくかくじかじかという策を言い渡されて……(どのみち、戦うしかあたしにはできない、でも……)」
「何?! それは本当か。
 私の用意した決戦用の装備品がここにある。貴様、これを持っていくがよい、さあ!」
「あ、は、はい!」
 草薙、走る。
「フェイト!」
「はっ。岩造様」
「あの草薙とやらの策が本当なら、私達にも勝機があるやも知れん。ここは、賭けてみるか」
「岩造様……!」





 うん。行くしかない。
 彼女の直観は、鉱山に屯するオークと更に邪悪な存在を察知している……けれど。
 草薙の表情が、普段のバカ笑顔から、真剣な戦闘モードに切り替わっていく。



8‐02 牢獄の出会い

 牢屋に入れられた沙鈴。
 そこに囚われていたのは……
「お宝を探しに来たら、捕まっちゃいましてね……」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だった。
 遭遇戦を覚えている方なら、彼の言うことに頷けるかも知れない、
「沙鈴さん、と申されるのですね。なるほど、参謀科の出でいらして、オークスバレーの解放戦に呼ばれたというわけですか。
 私は、実はそれ以前に起こった遭遇戦で、ベオウルフバックスのブレーンを務めた、ウィングと申します。実はあの時も、遺跡発掘の帰りだったのですが、このオークスバレーの鉱山に宝があるとの地図を発見していたので、戦いの後向かったのです。そしたら、やつらに不意を突かれ、ここにいるという次第」
「そうでしたか。ともかく、ウィング殿とお会いできよかった。ときに、その地図は?」
「死守しております」
 装備品は取り上げられ、牢屋の外に置かれているが、ウィングは蒼空学園の制服のベルトをぽん、と叩いた。
「ウィング殿。この地に眠る機晶姫の伝説は聞いていらっしゃいますか?
 もし、夢の力を秘めた機晶姫ならば、敵を眠らせることができるのではとわたしくは考えたのですけれど……」
「ええ。私の手に入れた地図にも、古い言葉で確かに、そのことに触れてある一説があります。
 ヒラニプラ南部に眠りし四体の機晶姫。火、闇、蛇、夢の力を秘めたる機晶姫を司る。エエ、っと……古の戦にて人間に加担し、強大な力で魔を滅し後、暗き鉱山で眠る、と。
 そしてもちろん、その鉱山とはここのこと。そして、夢の機晶姫かどうかはわかりませんが、その一つは、実はここからかなり近い……」
「オォォク!
 オマエラ! 明日、我ラ此処ヲ出ルォォク! オマエラ、ヒトヂチダォォク。我ラガ逃ゲル迄、教導ノ奴ラガ攻撃シテコナイヨウ、盾ニナッテモラウォォク」



8‐03 鉱山の戦い(1)

「やれやれ、歩くのと穴を掘るのが歩兵の仕事ですか。女性の荷物持ちとて、男子の本懐とは思いますがね……。
 ところで。優秀な猟犬というのはわかるであります。ライラプスとは夜空の猟犬。しかし、その前の犬とは何でありましょうか、ただの犬とは??
 確かに僕は、犬属性と言いますか、ちょっと可愛いとことかあるにはあるでありますが……」
 げしっ
 皇甫のキック!
「キャンッ」
「……。それから、更にですぅ。優秀な大犬ちゃんも、私達と一緒ですぅ。カールちゃんですぅ」
「僕も犬だ。キミも犬か。よしよし……しかしこの牙はぞっとしないな」
 皇甫ら一行に付けられたのは、とりわけ嗅覚にすぐれた、選りすぐりの一匹の騎狼だ。
 これには訳があり、皇甫はまた、騎凛から、鉱山組の私品も受け取っている。
 私品として見つかったのは、ジャックのくつ下だ。
「ガルルルル ガルルルル」
「で、ではこっちでいくですぅ。カッティちゃんのブラですぅ〜」
「ワン♪」
 これを頼りに、騎狼の嗅覚を利用しいち早く鉱山組の辿った道筋を見つける、というわけだ。
「カールちゃんが、とっても役に立ってくれるですぅ」
「ぼ、僕は……」
「犬ですぅ」
 げしっ
 皇甫のキック! 皇甫のキック!





 かくして、ジャックが立ち寄った村に辿り着き後、皇甫達は鉱山に向かった。
「あぅーですぅ。ちょっと時間を食ってしまいました……聞き込みをしようと思ったら、あのスケベ爺さん、この私に、ぱふぱふをなぞ」
「むふ」
 げしっげしっげしっ
「あぁっ。皇甫殿っもっと蹴ってくださいですぅ!!」
「……」
 皇甫のぱふぱふ問題に関する真相は定かではないが、こうして彼女達【銭ゲバ】は、鉱山坑道の入り口へと達した。
 早く、行かないと……!
「早くですぅ、急ぐですぅ」
 騎狼に乗って突き進む皇甫。青龍偃月刀っぽい何かを抱え、後ろにまたがる皇甫の武将うんちょう タン(うんちょう・たん)
「にゃんにゃんにゃんにゃん!」
 続くミャオリ兵。
「はあはあはあはあ」
 昴!(徒歩)
 げしげしげしげしっ
 早く行かないと……昴の残りHPも、もう少ない!!





 鉱山に入ってからの、皇甫の策はまた素早かった。
 うんちょうの情報撹乱により、全ての坑道から教導団が迫りつつあるとの偽報が広がり鉱山の敵は浮き足立っていた。
「虚報じゃ! 虚報じゃ! ええい、者ども、鎮まらんかァ!」
 眼下にハーフオークや魔道士のいるのを確認できる開けた空間に達したところで、うんちょうは、青龍偃月刀っぽい何かで、鉱内を反響させ、更に敵の心理をかき乱す。
「良いですぅ、良いですぅ。ふふふっ、何もかもこちらの目論見どーり! ですぅ」
 白羽扇を仰ぎ、まさに軍師気取りの皇甫。
 逃げ惑う敵を眼下に、笑いがこみあげるのをとめられない。

 そんな中、逃げ惑う敵に紛れ、ばたばたと、動き回っている教導団の軍服らしい姿一つ。
「むぅ。あれなるは……たしか、草薙殿?
 昴、うんちょう、あれへ! でありますぅ!」
「お任せあれ!」
「おう義姉者! 草薙殿、加勢致す!」
 敵陣へ突入していく、昴、うんちょう、ライラプスも主に続く。
 さあ戦闘となれば、昴の表情も道中とは違う。
 彼も、歩兵として徐々に実戦経験を積み上げつつある。その行動は、早い。
 うんちょうの追い込みと連携し、敵を追い詰めていく。
 ハーフオークが、来る。ハーフオークは決して傷付けない、それも事前の作戦で全員が確認済みだ。そして、これを操る魔道師がいる……ということも、騎凛教官から聞いている通りだ。
 ハーフオーク勢を、威嚇射撃で散らす、昴。
 だが、操られている彼らは、なかなか怯む様子も見せない。
「くっ……ライラ、魔道師を早くっ」
「主……!」
 威嚇射撃しかしてこないようだとわかると、打ちかかってくるハーフオーク達。銃身で、何とか振り払おうとする。
 混戦状態となり、魔道師の姿がなかなか見つからない。
「魔道師二体発見!
 あたしは逃げる方を追う! ハーフオークを操る方を倒されたし!」
 草薙の声だ。
「ライラ、あちらだ!」
「了解(コピー)。追撃機動に入ります」
 ライラプスは、素早くハーフオークらをかき分け、魔道師の前に迫った。
「ライラプスは即ちLailaps。
 夜空の猟犬です。逃れられぬ物と知りなさい」
 ライラプスの剣が魔道師を捉えた。剣は、逃げる獲物に食いかかる牙のごとく、深くに突き立った。
「あぅ〜〜草薙殿は何処行っちゃったですぅぅ??
 とりあえず、ハーフオークさん方。あなた方に危害は加えないですぅ。
 さあ、お茶でもいかが?」





 牢屋の沙鈴、ウィング。
 急に、外が慌しくなってきた。喚声に混じって、剣を打ち合う音も聞こえてくる。
「一体何が起こっているのでしょう?」
「どうも、戦っているですわね。仲間割れでも起きたのか、それとも……。!!」
 ばだん! 牢屋の前に、突如飛び込んでくる、魔道師。
「ド、ドウシタデスォォク?」
「は、早く捕虜を出せ! 教導団が来た! ひ、人質に使うのだ、鍵を貸せっ、ギ、ギャ!!」
 魔道師の頭を、飛んできた剣がかすめる。
「あっ、あなたは?!」
 教導団の服を着た女性だ。新しく見る顔。
「オーク! はあ、はあ、鍵を寄越しなさいっ。こ、こいつを傷つけてもいいの?」
 草薙は、剣を魔道師の首に突き当てる。
「ま、ま待て! おい牢番、か鍵を渡せ。お俺を死なせたら、お前が責任問われるぞ!」
「ウッ。仕方ネェダォォク」
 草薙は、魔道師をしっかりと掴んだまま、牢の鍵を開けた。
「ありがとう。教導団の人? 味方の軍が来ているのですね?」
「はあ、はあ……来ている。来ているけど、数は多くない……」
 沙鈴らと話し、少しずつ戦闘モードから落ち着いていく草薙。
「キミ、大丈夫? ここまで切り抜けてくるのは大変なことだったでしょう。ゆっくり、息をして」
「ア、アノ……俺、モウ行ッテイイォォク??」
 取り上げられて牢の前に置かれていた剣をとるウィング。
「ま、待って、」と草薙。「他人が死ぬのが怖い、……でも、戦わなきゃ……」
「お、落ち着いて?」
「チッ。何ダコイツラォォク」
 牢番は、駆け去っていった。
「あ、ま、待て! 俺を置いていくな!!」
「っと、逃がさないですわ。貴方は大事な捕虜。ジエルタと言った? 貴方達の、さっきの大将格、おびき出してわたくしが討ってから、ラクにしてさしあげましょう」
「ら、ラクに……放してくれるってこと?」
 沙鈴も、立てかけてあった自分のランスを手にとって、にっこり微笑んだ。
「さて、行きましょうか」
「ええ」
「……」草薙も落ち着きつつあった。だが、まだ戦いはこれから……





 皇甫達は、一部のハーフオークを確保し虚報の計によって相手を撹乱し続けたが、敵の数のが格段と多い。魔道師の大将格らしい男が来てからは、敵も事態を収拾しつつある。
 鉱山の奥にまでは達することができず、入り込んだ草薙らと連絡を取ることもできず、別の策を練りつつ一旦入り口付近で待機する他はなかった。

 だが、鉱山に向けて、軍狼の音が近付きつつある。





「退きなさい! 退きなさい! 本気ですわ。もし手向かってくるようでしたら、すぐにこの者を傷つけます」
 ランスを振るって、寄せてくる敵を牽制しつつ、奥へ奥へ進む、沙鈴達三人。
 今は冷静に、魔道師に剣を突きつける草薙。
 オーク兵が近付こうものなら、また魔道師連中がおかしな素振りを見せるようなら、すぐに魔術師を傷つける姿勢を見せる。
 耳、鼻、腕、……などと切り刻んでいくのがいいだろうか。
 今ここで、少しは本気だということを見せた方が、敵もあきらめてくれるのでは。
 でも……死なせるのは、嫌だ。
「だ、大丈夫でしょうか、沙鈴さん……。敵ももの凄い剣幕で続々付けてきてますけど……」
「ウィングさん、地図によると、この先に機晶石があるかも知れないという、格納庫らしきしるしがあるのですよね? うまくすればそこを制圧して立て篭もることもできるかも知れないし、それから、北へ抜ける抜け道が……」
「え?! そ、それは本当?!」
 草薙が反応する。
「あ、キミ、そいつを放してはいけませんよ。……抜け道が何か? まあ、逃げるのが得策でしょうが、不運にもこの北の抜け道は非常に長く暗い迷路になっており、且つ間違えればオークの本巣に辿り付いてしまう可能性も」
「ほ、本当!」
 草薙は、魔道師をぐいとウィングに渡した。
「い痛い! て、て丁重に扱え下郎!!」
 沙鈴が魔道師を睨んだ。それから、草薙に、
「何か策が?」
「約束があるんだ。あたしは、そこへ行かなければならない……」





「な、何?! 捕虜が逃げたと?? それに格納庫が乗っ取られた……、こ、この馬鹿もん!!」
 メニエスは、指示を出しながら右往左往するジエルタのところへ、ミストラルを引き連れ、ゆっくりと現れる。
「あらあら、やられましたね。ジエルタ殿、さて?」
「ぬぅ、メニエス。のんびりしている暇はないぞ。
 致し方ない。ここにはハーフオークを操れる魔道士の半分を残し、我々だけでも、抜け道へ向かうぞ!
 メニエス、方角は西だな? それから貴様の魔の力、頼みにしているぞ」
「ククク。機晶石は?」
「無論、我々が運び出す。
 おい、他の石ころは皆、捨てていけ!
 ダルテ。もはや人質作戦は使えなくなった。貴様らは、我々が脱出できるよう、最後の一人まで戦いここを死守致せ。いいな!」
「はっ。ジエルタ様、しかしその女魔法使いめは……」
「私は教導団の陣取りを知っているわ。私に残れと? それともあなた方だけで、教導団の網の目をくぐり抜けられるならね。
 私がここで指揮を執ってあげてもいいけれど?」
「……いや、メニエス貴様は連れて行く」
 ふん、とメニエスは、傍らの魔道士に一瞥をくれると、ミストラルを伴い先へ歩いて行った。「坑道がふさがってしまいますよ、教導団の兵どもで」
「ジエルタ様。しかしあの女、わたくしは信用できるとは」
「ダルテ、もう言うな。
 さあお前も撲殺寺院に誓いを立てた者ならば、それを果たしてみせよ」
「はっ。……」



8‐04 鉱山の戦い(4)

 その日の夕刻には、比島率いる軍勢が、皇甫らと合流し、坑道内へ殺到した。
「ハーフオークを操っている魔道師を狙うであります!
 それから、機晶姫を発見したなら、最優先で確保を行うであります!」
 にゃーにゃー!!
  にゃああー!
 突撃していく、ミャオリ兵。
 半分は、命令通り、魔道師らしき姿を探し出し、それに立ち向かっていく。
 ヤァァァァ!!
 半分は、其処此処に転がっている石を、われ先にと確保にかかる。
 コレ、オリガ見ッケタニャ! オリノニャ! オリノニャ!

 やがて比島を見とめた魔道師が、ハーフオークを展開させてくる。
「こちらとて取るべき戦法は同じだ。ハーフオークども、指揮を執っているあの女を殺せ、殺せぃ!!」
 どんどんどんどん 魔道師の妖しいリズムに踊るように取り囲んでくるハーフオーク達。
「おっと。俺の前には何人たりとも立ちはだかることはできないぜ」
 比島の前には、彼女のドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)がいる。
「はぁっ」ドラゴンアーツで、打ちかかる。
「サイモン! ハーフオークは倒さないでありますよ」
「わかってるよ! ちゃんと加減しているからね」
 だが、立ち向かってくるハーフオークの数はそう多くない。にゃんこ達が、今にも敵の魔道師を仕留めていっている。

 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)に守られつつ、ハーフオークの合い間を縫って、敵陣深くに入り込んでいく高月。
 魔道師も歯向かってくる者あれど、機晶石等を持って逃げ出す様子の者はない。
 全員がここを死守する構えと見える。
「芳樹は私の命に代えても守る」
 アメリアの必死の攻撃の前に、魔道師達も、地に伏していく。
 だが、確実に付き纏ってくるハーフオークの一団があり、動きが速く厄介だ。
 高い位置で、杖を振るいハーフオークを操っている者がいる。
「あの者か……? アメリア、行こう!」
 駆け出す高月。アメリアが、剣を振るって追いすがるハーフオークを牽制する。
「無駄よ、退きなさい!」
 高月、鉱山の壁を伝い、駆け上る。有翼のアメリアがそれを援助する。
「ムッ。何やつ?」
「僕は、イルミンスールの魔法使い、高月 芳樹だ!
 君も魔法の使い手と見受けた。もしかして、裏切り者とは君のことか? 同じイルミンスールの生徒として……いや、その制服は? 違うか」
「我はダルテ。撲殺寺院のしもべ也。
 イルミンスールの者だと? さてはあの女の仲間だな。裏切り者? どっちのことだ、魔法に仕える身であり、教導団の手先に成り下がったか?!」
 魔道士の手から、暗黒の炎が撃ち込まれる。
「くっ。待て、君達、機晶石はどこへやった?」
「問答無用! 機晶石? 貴様らの預かり知れぬところよ」
 再び、迫り来る炎。
 アメリアが、高月の前に立つ。
「アメリア、ここは任せて!」
 下では、すでに比島が、操りの解けたハーフオークを傷つけないように包囲。勝敗は決した。
 他の魔道師は、すべてミャオレ兵によって討たれた。
「ええい、ここはもう終しまいだ! ジエルタ様、後は頼みましたぞ!」
 炎を抱えて、高月に突進してくる魔道師。
「君は死ぬ気だな!?」
 高月はそれを交わすと、ワンドで魔道師を打ちつけた。
「ぐゎ!」
 気を失った魔道師をかかえ、下り立つ高月。
「勝負は時の運というが、今回は女神は僕に微笑んでくれたようだ」





 鉱山はこうして、比島・皇甫率いる連合軍と、魔法使いの高月によって制圧された。
 鉱山奥部の格納庫と呼ばれるところは、沙鈴とウィングがすでに占拠し、立て篭もっていた。
 ここでは、古代の戦いで戦死したものだろう機晶姫のボディや、壊れた石等が見つかった。
 皇甫の目を逃れることはできないと思いつつも、石を懐に入れようとするのは……
「こ、これは……あっ、皇甫氏。いえ、団有資料になり得るかと!」
 げしっ 「きゃん!!」
「うむ、お宝を独り占めとはいきませんでしたが、目的のものを得ましたか。とは言え、あまり綺麗なものとは言えませんね。磨かないといけないのでしょうかな?」
 小粒な石をこぶしの上に跳ねさせながら、ウィング。
 きらっと睨む、皇甫と沙鈴。
「え、……一個くらいは貰っていっても……?」
 打ち捨てられた宝石や財宝の中には、機晶石も見つかったが、あらかたは破片や、小さなもので、ここには伝承の機晶姫や、それに関わる石は見つからなかった。

 そして、ここには草薙の姿は見えない。
 今、彼女は……



8‐05 壊れた機晶石

 さて、メニエスや沙鈴達の入ったルートとは別のところから、鉱山の中心に近付きつつあった朝野未沙。
 さっきまで隣にいたはずの、未羅がいない……
「ねえねえ。フロシキのおじさんー? おじさんはいったいだれなの?」
 ってちょっと!
 ようやく、教導団からの話に聞いていた、鉱山にたむろする怪しい仮面の魔道師を見つけ、計画どおり後を付けサクッ、……と考えていた未沙。
 いつの間にか魔道師と一緒に並んで歩いている未羅。
「未羅ちゃん!
 そこは怪しい人発見なの、追いかけてって、やっつけるの! だよっ」
「あっ思い出したの!」
 えいっ
「ぎゃ!!」
 ツインスラッシュなの!
「き、貴様ら、何者だっ、てぎゃ!!」
 ソニックブレードなの!!
 サクサクとカルスノウトを敵のお尻に突きたてる未羅。
「おのれ貴様ら、覚えておれ、ぎゃっ!!」
「逃がさないの!」
 追う、未羅、未沙。
 坑内が緩い勾配に差しかかるところまできて、魔道師はくるりと向きを変え、呪文を唱え始める。
「はっ。未羅ちゃん、気を付けて!」
 未羅、魔道師に切りかかってゆくところ、魔道師の後ろから、ぞろぞろと姿を現した……体に模様を付けたハーフオークの戦士達だ!
「フハハハ!」
 すぐに、魔道師の前面に展開してくる。魔道師の妖しい調べに、剣槍を振って踊るように向かってくる、ハーフオーク達。
「ツインスラッシュなの! ソニックブレードなの!」
「未羅ちゃん、待って! く、機晶石は惜しいけど、ここは少し下がらないと……」
 そのとき。
 ダンッ
 何処から、射撃の音。
「!?」
 とっさそれに警戒する魔道師。詠唱が途切れた。ハーフオークの動きが鈍くなる。
 ダンッ
 もう一発。
 それが魔道師の頭を撃ち抜いた。
 のけぞって、勾配を転がり落ちていく魔道師。カランカラン、仮面も下の方へ落下していった。
「機晶石は……!」
 魔道師の操りが解け、周囲にうなだれるハーフオーク達を避けて、身を乗り出す未沙。勾配の下の方は暗くて、ところどころ灯かりがちらちらしているが、はっきり見えない。
 この付近は開けた空間になっており、鉱山の天井も高い。その上の方から、ひゅっと飛び下りてきたのは、教導団ソルジャーのジャック・フリート。イルミナス・ルビーも、とん、と彼の背後に降り立つ。
 銃を携えており、もちろん、魔道師を狙撃で討ち取ったのは彼だ。
「大丈夫だったかな? 私はジャックという。君は?」
「あたしは朝野未沙。アサノファクトリーはご存知? 今日は機晶石を探しに来てて」
 蒼学の女子生徒らしいが、彼女はそう言って工具を手にしてみせる。
「何、機晶石。アサノファクトリー、確か教導団の誰かの機晶姫もそこで」
「そう、そう!」
 お互いの機晶姫、未羅とイルミナスも、お互い顔を見合わせる。
「わあ。カッコイイ機晶姫さんなの(おっぱいがおっきいなの)」
「可愛いね。学生さんみたいに見えるけど、でもどこかワタシと同じ感じ」
 二人は、魔道師の術が解けて、戸惑っているハーフオークにも、声をかけたり手を差し伸べたり、している。
 微笑ましい機晶姫たちを見てつい気を緩めていたジャック、気配を察知する。
 勾配の端から、這いずって登ってきていた血塗れの魔道師。ワンドを、機晶姫ふたりに向けている。
「し、しまった!」
 すぐに銃を放つジャック。ワンドから鋭い閃光が放たれたのも同時だった。
 魔道師はシャープシューターの銃弾に倒れる。が、
「あぶないっ」
 未羅をかばって、閃光を浴びるイルミナス。
「ちっ! 私とした事がっ!」
「だ、だいじょうぶなのっ!?」
「イ、イルミナスさん!? ちょっと、見せて……」
 イルミナスは、完全に意識を失っていた。
 機晶姫の修理屋の名にかけて。未沙は、様々の工具を取り出す。
 未沙がイルミナスを診ている間、ハーフオーク達と話す未羅。話が通じているのかどうかは……わからない。
 ジャックは、イルミナスのことを心配そうに、うろうろうろうろハーフオーク達の合い間を歩き回っている。「……私とした事がっ私とした事がっ……」
 真剣そのものな表情で作業を続ける未沙。すでにそれは職人の面持ちだ。
「うーーん……ジャックさん。どうやら体内の機晶石に、ダメージがあるみたい。
 今のあたしにできることは……」
 そこへ、とことこやって来る未羅、
「お姉ちゃん。おじさんなにか持ってたの」
 差し出したそれは……石、深い闇のような……機晶石? だけど……先ほどの戦いで、それは割れてしまっていた!
 だけど今はとにかく……やむを得ない。それにこの石の性質もわからないけど、他に方法がない。
 再び、時間が経つ。
「……ふう。ジャックさん。応急処置は何とか……。
 だけど、きちんとした設備がないと、今の私じゃ治しきることはできないから……。
 体力も減っているし、すぐに修理できるところに行かないと、危ないよ。
 あたしにはわからないけど、ヒラニプラの教導団本校へ行けば、……でも遠いよね」
「いや。いいんだ。それよりこんなにしてもらってすまない。
 あちらから鉱山を出れば、すぐ近くに村がある。そこに機晶石に詳しい老人がいたんだ。何とかなるかもしれない」
 未沙殿は、この先どうする?」
「あたしは、もう少し鉱山を調べてみようと思ってるんだ。
 あと……ジャックさん、できたら、この砕けた機晶石の欠けら、頂いてっちゃだめかな? 教導団が探していたとかじゃなければ……」
「ああ。残りは、自由だ」
「ありがとう、ね!
 だけど、こんな真っ黒な機晶石……あたしも見たことがない。
 じゃあ、いつかアサノファクトリーにも寄ってね!」
「ああ。ではまた、な!」






 暗い鉱山の抜け道を一人行く、女……草薙真矢。
 彼女はまた、笑顔が消え、深刻な面持ちになっている。暗闇の中でうずくまり……
 彼女はたどり着けるのか。暗い道を北へ……