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オークスバレー解放戦役

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第11章 決戦

 倒れる、国頭。
 駆け寄るシーリル。
「武尊さん!」「近接しすぎたか……」
「国頭までやられるとは……! もう、戦える者が……」
 キングを囲む皆。だが、巧みな素早い槍術に間合いが掴めない。銃を持つ者が動くと確実に引き離されるか、ヘタに近付くと逆に一気に詰められ討たれてしまう。
 国頭が倒れ、進み出で数合打ち合う東條、しかし「なんてぇ一撃の重さ、しかもこの速さ。……やばすぎる。化けモンだ、って文字通りだけど、って言ってる余裕もねぇしぃぃぃ!!」
 すぐ加勢して切り込む村雨。
「焔、危ない!」
 アリシアを、キングの槍がかすめる。
「き、貴様、アリシアを……許せん、絶対に許せんぞ!」


11‐01 爺二人

 そのとき。
 何かが、近付いてくる……
 辺りが急に暗くなり、森の樹々がざわめき立つ。
 辺りを見回す、教導団、傭兵達一同。
 キングさえも、一時攻撃の手を止め、構えを崩さず注意深く周囲に目を遣る。
 風が急激に強くなり、はらはらと雨が降り出した。
 何かが近付いてくる。
 嵐が近付いてくる。
 禁猟区が振り切れた。
「く、来る……!!」
 凄まじい気をまとった何かが、目にもとまらぬ勢いで頭上を通り過ぎていく。
「ふはははははははははは!!」
「ひょっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………ぃ」
 通り過ぎていった……かに見えたが、
 風がとぐろを巻き、木の枝葉を巻き上げながら、竜巻となって降り立った者。
「執事(バトラー)とは、主の為に闘う者なりぃぃぃ……!!」
 朝野 凱(あさの・がい)!!!!(ジジイA)
 一糸乱れぬ執事服にオールバックの白髪。凛と腕組みして現れたのは、朝野凱こと風神翁!!! 高貴な微笑が零れる。
 聳える樹を引き裂いて降り注ぐ雷。そして燃え盛る炎の中から現出る者。
「バトラーとは、己の為に闘う者(すなわちバトラー)なりぃぃぃ……!!」
 水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)!!!!(ジジイB)
 上半身を肌蹴させ、ぱきぱきと拳を鳴らして近付いて来る。水洛邪道こと雷神翁!!! その目が、鋭く光った。
「邪堂ォォォォォォォォォォ!!! もとい、雷神翁」
「凱ーーーーーー!!! いや風神翁。好敵手(とも)よ!!」
 風神翁、すっと冷静になり、「……さて。行きますか」。
 雷神翁、ニヤリ。
 集まってきた雑兵オークに目を留めると、雷神翁、「でやぁ!」飛び蹴り! その反動で宙返りして着地してみせると、拳を構えた。
「ふぬ、此奴らがオークかね……どれどれ……!」
 オークの群れへ突っ込んで行く、雷神翁。
「そぉりゃそりゃそりゃーっ!! チェストォォオォウゥ!!」
 雷神翁の豪拳に、次々と薙ぎ払われていくオークども。「その一撃まさに雷神也ァァァァ!!!」
 一方、風神翁にも、オークの兵が迫る。
「……ほっほっほっ、それで背後を取ったつもりですか、甘いですぞぉ」
 風神翁、取り出したデリンジャー・ノールックでオークの命をアウトだ。
 ばっ。そしてオークの群れのど真ん中に飛び込む。
「当たらなければ、どうということはぬわぁぁぁい!」
 オークの斬撃をみるみる交わし、手刀を叩き込んでいく。風神翁のその動き、誰にも捕捉することはできない。
 風神翁を遠巻きに、弓矢で狙い射とうとするオークに、雷神翁、木を圧し折ってぶん投げる。
「フン!!」
「ギャァァ!!」
 たあっ たあっ 倒れ伏すオークにとどめを刺していく風神翁。
 もう、歯向かってくるオークは、いない。
 しゅうぅぅ、煙を噴きながら、佇む雷神翁、
「なぁかなかやるのぅ、風神の」
 懐からとり出した櫛で、優雅に頭髪を整え、風神翁、
「お主もやるではないか、雷神の」
 静かに称え合う、爺二人。
 幾千年の年月を隔てた、信頼がそこには満ちあふれていた。
「エヘ♪」
 雷神翁の背中にずっとぴったりくっついていた、ドラゴニュートのニト・ストークス(にと・すとーくす)
「邪堂ォォォォォォォォォォ!!!」
「凱ーーーーーー!!!」
 再び、嵐が巻き起こる。
「……行きますか」
「ニヤリ」
 爺二人は(あっけにとられる皆の)頭上高くに舞い上がると、高速で何処か(天)へ飛び去っていった。
「御爺さん速過ぎるよぉぉぉぉ…………ぉ」
 ハハハハハハハハハ!!
 その笑い声だけが、しばらくの間、森に木霊していた。



11‐02 涙のチェックメイト

 森の焼け跡。
 降り注ぐ雨の中に佇む、生徒達、そしてキング。
 村雨が向かい合う、一進一退の攻防。
 村雨にも、若干の疲れが見え始める。
 しかし、腕一本で戦うキング。息を切らしていない。

「はあ、はあ……ま、待て。貴様等!!」
「レーヂエ。もうすぐだ、見えたぞ!
 待たれい! その相手、俺達にまかせてくれ!」
「むっ。ベア……」
「レーヂエ殿! それに、風次郎ではないか、その格好は……?」
 そのまま、皆の前にせり出す、風次郎、ベア、レーヂエ、あーる華野。
 近くの木陰から、雨に濡れる段ボールロボ、あーる華野を見守る、アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)。こっそりと、華野に祈りのパワーブレス。「ワルキューレの騎行(テクノポップ調)」のボリュームを調整する。

「はあ、はあっ。さあ、キング……因縁の対決……!!」
 レーヂエが剣を抜き放つ。
「レーヂエサン……」
「マッゴゥさん。ここは、あの人達を見守りましょう……!」
 風次郎も、無言で剣を抜く。
「レーヂエ! 王の初撃は俺が引き受ける。その隙にレーヂエの十八番を見せ付けてやれ!」
 ベアが、いざ来いと立ち塞がる。
 雨に煙る森奥焼け跡。
 打ちかかってくる、キング。
 ベアが確かに受け止めた。
 振りかかるレーヂエ。キングを押している。「はあ、はあ、片腕ではなあ……はっはは!」
 再び、キングの鋭い一撃。
 風次郎、それを剣の側面で受け流すと、そのまま槍の下をくぐってキングに切り込んだ。
 一太刀。
 が、次の瞬間には、振るう槍で脇へ突き飛ばされる。
「次の攻撃を、俺が確実にとめる。レーヂエ、風次郎」
 来る。王の二撃目だ。
「!!」
 雨に足を滑らせたベア、キングの槍が貫かんとするのを危うくに受け流す。
 レーヂエの背後からあーる華野が、木陰から、アイリスが飛び出す。
「名付けて、ジェットストリーム・Wアタックですわ!」 
 キングの突きをがっちり挟んでキャッチ。
「風次郎!」
「……あぁ」 
 一方から、風次郎の電流を帯びた雷剣が、キングの右肩を襲う。
 同時に、氷の刃となったレーヂエの剣が、キングの足を絶つ。キングの足が固まり、ついにその場に釘付けになった。
 レーヂエ、舞う。
「終わりだ!」
「ガァァ!!」
 キングの投げた槍が、レーヂエを貫いた。
 どさり、と落ちるレーヂエ。
「!!」
 ベア、風次郎、駆け寄ろうとするが、キングはそのまま手を伸ばし、レーヂエの首をしめて息の根を止めにかかった。血を吐く、レーヂエ……。
 そこへ不意に飛んでくるランス。
 キングの体が、横向きに倒れた。すぐに、立ち上がれないでいる。
 村雨はひゅっ、と剣を振り、とどめを刺しにかかったが、森奥から出て来る者を見て、手をとめた。
 ランスを投げたのは、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)。ということは……
「お姉様!」
「ごきげんよう、キングさん」
 ナドセの兵を引き連れて、戦場から駆けつけてきた、宇都宮祥子。
 息を切らして、駆け寄る。
「……宇都宮殿、か。うむ。これは貴女が役目のようだな……」
 村雨はしゅっと剣を鞘に収めると、静かに下がった。
 レーヂエを抱え、しゃがみ込むベアと風次郎。息を飲み佇む、皆。
 うつ伏せのままも、宇都宮をぎっと睨みつける、キング。
 宇都宮の手には、抜き放たれたナドセの短剣が、雨に濡れて輝いていた。



11‐03 そして鎮魂歌

 ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が、機晶姫に向かい合う。
「貴公にも心はあるか」
 問いかける、傷だらけのローレンス。
「……」
 黙している、火の機晶姫。ローレンスは問い続ける、
「もし、貴公に心があるならば、貴公が何に仕えているか、……その心で考えてみよ!」
「……ワタシノアルジ、……」
 機晶姫の反応が、段々小さくなってきている。
 ガッ
 そこへ関節を狙ったイリーナの射撃。
 機晶姫の右腕がダラリと、傾く。
「……」
 黙したままの機晶姫。
 続けてクリスフォーリルの狙撃、左脚を撃ち抜く。
 敵と言え、その女性の形の破壊されていくことに、ためらいのルース、だが、止めることは……。右脚も撃たれ、ヒザをつく機晶姫。ルースは目を閉じる。
 更に、狙撃の手を緩めない、香取。
 次々と、体の部分が弾き飛んでいく。
「……」
 黙したままの機晶姫、だが、再び、火の印しが熱を帯び始める。……炎の一閃が来る、と、思われた瞬間、
 イリーナの一撃だった。装甲が弾け飛び、頭を撃ち抜いた。
 機晶姫は完全に、その動きを停止した。

「やった……!」戦い抜き、思わず力が抜けるイリーナ。
「前線部隊より司令部へ。
 <火の機晶姫>沈黙確認せり! 各員に一層奮励努力されたし!」
 香取が叫んだ。

 わあああ!!
 機晶姫は倒れた。守備隊長も討たれた。今や、何を恐れることがあろうか。
 教導団は、オークを滅せんと、本巣へ、周囲に逃げ散る者へ、一斉に攻めかかった。





「岩造さ〜〜ん!!」
 階上から、岩造を呼んでいるのは……
「おお!! 貴様はやはり草薙だったか!! 見事だ、やったな!!
 よし、今からそちらへ向かうぞ。龍雷連隊!! これより、オークの巣を破壊する! 私達が、オークを終わらすのだ、さあ、この岩造に続け!!」
 岩造は叫ぶと、オークの本巣めがけてなだれ込んでいった。
「フェイト!!」
「岩造様!!」
 その勢いや凄まじく本巣に波うつオークの群れをばっさばっさと、戦斧トマホークで切り崩し、本巣を上階へ駆け上がっていく、岩造。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」
 彼の後ろを離れずに付いていく、フェイト。岩造から渡されたアサルトライフルをしっかりと、手に握りしめている。
「岩造さん、あたしだって負けないよ!」
 草薙も、そのまま攻め上がる。
「覚悟しやがれ、オークども!!!!!」
 オークを蹴散らし、まだ、まだ上へと登っていく、岩造。
 頂上への階段の前に、一匹の大きなオークが立ちふさがった。
 手にしているのは、岩造と同じく、戦斧トマホークだ。
「元少尉の鬼の岩造が相手をしてくれるっ!!!!」
「ガラァァァァ!!」
 がっ。火花を散らす、戦斧トマホークvs戦斧トマホーク。
 捨て身のオークが、戦斧トマホークをぶん投げる。
「きゃぁ!」
「フェイト、あぶない! ええい、貴様許さん!」
 岩造の一撃が、オークを真っ二つに引き裂いた。
 もう、岩造に歯向かうオークは、いない。
 城の最上階に登りつめ、雄たけびを上げる、岩造。
「岩造様!」
 岩造と手を取り合う、フェイト。
「はあ、はあっ。岩造さん、……あたし達、やったんだね!」
 そこへ草薙も入ってくる。
 窓から、吹き抜けてくる、湿っ気を含んだ、緩やかな風。
 城の頂きで、勝敗の決した戦場を見渡す草薙。
 勝ち鬨をあげる、教導団。
 もちろん、オークの刃にかかった兵らも少なくはない。眼下では、傷ついた兵を運んだり、それに、遺体の前に手を合わせる者……。そして、累累たるは、オークの遺骸。中には、やむを得ず討たれたハーフオークもいるだろう。これだけの大きな戦いだったのだ。それは致し方なかろうが……
 草薙は、いつの間にか、鎮魂歌を口ずさんでいた。
 それに合わせたように、戦士達を慰めるように、雨が降ってくる。
 見る間に雨に濡れ、白く煙る戦場。
 あらゆる血が、雨に流されていく。……



11‐04 迷宮班の冒険

 一方、左の門から入り、オーク本巣の地下へと潜入した獅子小隊、迷宮探索班。
 城塞の造りの一階から、地下へ降りると、そこは鉱山からつながる洞窟のようで、岩肌が露呈し、薄暗かった。
 オークの姿がちらちらしているが、奥へ奥へと逃げるのみで、攻撃をしかけてくる様子もない。
 迷宮班を率いるレオンハルトは、容赦なく、言葉少なく、ただ淡々と周囲のオークを切り殺して進む。
「……手加減抜きだ。一兵たりと逃がさず残さず葬り尽くす」
 剣を振り回すその姿、悪鬼羅刹の如し。
 そんなレオンハルトの周りでは、光条兵器を光源に、あっちへうろうろこっちへうろうろ。
 レオンハルトから逃げてくるオークをメイスで殴り飛ばし、可愛い声で「きゃー、オークこわーい☆」
「……手加減抜きだ。一兵たりと逃がさず残さず葬り尽くす」
 剣を振り回すその姿、あっ、「……レオンさん、痛いです。……。僕ってほら、か弱いですし♪」(シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー) リタイア。頭から血を流すシルヴァ、「怪我による体温低下が心配です。ヒールを!」)
 ルカルカは、砦から持参した盾で、ときおり思い出したように攻撃に転じてくるオークを、防ぎ、イリーナに代わって、シルヴァに代わって、レオンハルトをサポートする。それからこれも砦から持ち出したチョークで、段々深まってくる洞窟に、目印を付けていく。
「こうすれば、すぐに出られるわ。埋められちゃうわけにはいかないもんね」
 と。隣で、チョークで落書きしてるのは、ウォーレン。
「なぁなぁ。このシャンバランとパラミアント結構似てねぇ?」
 冷たい目をするルカルカ。皆も、ウォーレンを睨んでいる。霧島は、完全無視。獅子小隊の仲間はとてもあたたかい。
「しーましぇん……」

 いちばん後ろですでにやる気をなくしかけている一ノ瀬。
「動いたらお腹がすいたわ。リズ、カロリーメイト持ってない?」
 やっぱりレオンさんにダースで箱投げしたのはまずかったかしら。
「ああ……強制送還とかされないのが奇跡としか思えないよ」
 いつもながらと、あきられた様子の、リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)
「って、いきなり寝ようとするなー!! 光条兵器抱えて寝るなー!!」
 ったく。それ目的でぬいぐるみ型にしたんじゃないの?!
 そう。一ノ瀬の光条兵器は"うさぎのぬいぐるみ"。
 剣の花嫁としても、こんな光条兵器を取り出さなきゃなんて、あーーほんとあきれる……
 ざくっ!
 突然、一ノ瀬が起きた。リズリットの背後からしのび寄ってきたオークを、突き刺す。うさぎの耳は刃になっているので。
「暴れないで暴れないで! 私も危ないからー!!」
 一ノ瀬はもう眠っていた。
 オークの本巣を行く、一ノ瀬。一応はオークの本巣だし、食べものくらいあるでしょ。あぁ、あったあった。お肉が上手に焼けましたー! 食べないの、リズ? 美味しいわよ。臭うけど。
 はふ、ふぅ。もうやだ、こんなのの相手ー。……肉あったって、それさっき倒したオークじゃないの!? って焼くなー! 食べられるのはあんたくらいよ、この変態! 
 えへ♪ 変態だって。ばれちゃった。
 ……あれ? 俺様(注:リズ)たち、今どこにいるの?? あぁ、空間が歪んで行く…………一ノ瀬とリズリットは、どこまでもいつまでも夢の回廊をくだっていったのでした。

 レオンハルト達の姿は……すでになかった。(一ノ瀬、リズリット リタイア)





 進むと、やがて温度が下がりひんやりとしてくる。
 いよいよ入り組んだ迷路状になり、オークの姿もあまり見かけなくなる。
 皆は、準備してきた作業靴に履き替える。
 この先に何があるのだろうか。オークどもを追い詰めるところまで追い詰めての殺戮が始まることになるのか。それとも、機晶石や機晶姫が見つかるか……。
 ルカルカのパートナー、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、組立式の簡易なソリとロープを担ぎ、深刻な面持ちでいる。彼も技術科、古王国技術の解読資料とする為、機晶姫が見つかれば、一体でも持ち帰るつもりだが、それが動かぬ機晶姫であれば、正視し辛い。自分もまた、古王国の産物であり、謂わば光条兵器の部品みたいな存在だとも言えるからか……。
 ルカルカは、宝物を見つけるぞ! とでもいう様子で少し楽しそうですらあるけど。
 が、そんなルカルカにも、一同に、緊張が走る。
「ちょっとヘタレ、ヘタレウォーレンアルベルタ」
 ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)の禁猟区が作動したのだ。
「敵さん、来ましたよ。
 と言っても、この先の影に隠れて、何か話でもしているようですけど」
 ジュノによると、敵が数匹程、かたまっている、という。
 岩の突起に隠れ、狙いを定める霧島。

 しかし、聞こえてくるささやきは、どうやらオーク語ではない。
 オークは護衛で、その奥でひそひそ話しているのは、魔道師、か。
「……何?! 東の抜け道に、ジエルタの死体があったと、それで……。……!そうか、すでになかったか。教導団のやつらめ、おのれ。
 何違う? 魔道師は感電死、ジエルタは吸血による失血死、だと……」
「……あのジエルタが同じウィザードに負けるとは……、いかほどの!」
「……となると、彼が掘り当てていたのは蛇の機晶石だから、それが何者かの手に渡ったわけか。むうう、これは厄介なことになった……」
「火の機晶石は、教導団の手に……だがそれは、取り戻す余地はある。教導団とわかっておれば。フフフ。
 ……しかし厄介なのは、どこの誰とわからん者に、蛇の機晶石が渡ったことだ。あれは、まずい……」
「しかし、すぐにも火の機晶姫を利用されるおそれはないか」
「何。あれは仮のボディ。先の戦いで、石の力は実験できたが、もともとボディがもつわけがないのはわかっていた。元型が敵の手に渡らぬうちは、まだ……」
「……ところで、夢の機晶石はハーフオークどもの……」
「……ふむ……それもやりようによっては、すぐに……」
「……で、闇の機晶石もまずいことになったな。砕け散ったというがその一部でも回収できたのだな?……」
「ここに」
「ほう、これか……」

「聞いたな」
 にやりと、冷たく笑うレオンハルト。
 一斉に、攻めかかる獅子小隊。
「な、何やつ!!」
 が、剣が届くより早く。
 ドン! 一匹のオークが突如、魔道師に体当たりした。
「!! 何する、下がれ汚らわしい……あっ」
 オークは魔道士のフロシキをあさると、それを掴んで逃げ出した。
「あいつを追え!」
 オークを魔道師が、魔道師を獅子小隊が、追う。

 銃を構え、ウォーレン、
「これでも喰らえ! ってスルメ(ウォーレンの好物で常に携帯)だったー!!」
「いて! 貴様」
 一応、スルメは魔道師の後頭部に命中はした。火の玉のお返しがくる。
 今回から参加した俺が足出まといになるのは絶対にダメだ! と、意気込んでいたウォーレンだが、ちょっと失敗だった。
「ウォーレン、無理はするな、その心意気だけはわかっているぞ」
 レオンハルトは、彼に言いつつ、魔道師を追って進んでいった。
「レ、レオンさん。しーましぇん……」
「だが、この次もスルメだったら……」
 最後に、レオンハルトの目がきらっと光った。
「え……?
 ああ、火の玉喰らっちまったいってぇ〜〜。ジュノ、すまねえ、頼む」
「ウォーレンにヒール? ツバつけときゃ直りますよ。問題無いですね」 (ウォーレン 一時リタイア)





 突如、魔道師達の護衛として前を走っていたオーク達、立ち止まると、魔道師に向かって切り付けてくる。
「馬鹿な! どうなってる!!」
 オークと交戦になる魔道師。一人が、それを抜け奥へ逃げて行く一匹を追う。
 他の魔道師達は、オークと、追ってきた獅子小隊に挟まれ、討たれた。オークはそのまま獅子小隊のレオンハルト、ルカルカと切り合う。
 最後の魔道師一人は、逃げ去るオークに追いすがる。
「逃がすか!」短刀でオークの背中をずぶりと突き刺す。
「やった……! ど、どこだ、石は……」
「フッ。石はここだ」
 魔道師の背後で声がしたと思うや、
 倒れ伏す魔道師。
 岩影から、朱 黎明が現れた。
「ちょうどいい。オークどもに私からくれてやるつもりだった褒美が省けましたね」
 オークの手から転がった石を、手に取る。
「フフフ……機晶石は私が頂きました。……ムッ」
 暗がりの中から、走ってきたその男。暗がりの中で、お互いの顔はよく見えないが、銃口をこちらに向けている。
「……寄越すんだ」
 朱を守るネアが、メイスを構えて男に立ちふさがる。
「ああ、こんなことになってしまうなんて……主人、その石、本当に要りますの?」
「ぬうぅ」
 そのとき、足もとにうつ伏していた魔道師がふいに起き上がり、朱の石を奪い取った。
 だ、っとそのまま壁際に背を貼り付ける魔道師。
 朱がすぐに銃を取り出す。
「はあ、はあ、この石はお前らには渡さんよ……!」
 銃を引く。しかし、魔道師がワンドを振るうのが速かった。魔道師は闇に溶け込むように消え去り、暗闇に銃弾が反響する音だけが残った。
 獅子小隊の皆が、駆けつけてくる。
 朱は、スプレーショットをばら撒き牽制すると、暗がりの奥へ走り去っていった。
「はあ、はあ……霧島、一体どうなった?」
「……もう少しだったがな」





 本巣から、レオンハルト達が無事戻ってくると、入り口が塞がれる。
 イリーナが、レオンハルトに駆け寄っている。
「じゃじゃじゃ じゃ〜ん! じゃじゃじゃ じゃ〜ん!
 戻ってきたね、レオン。ってレオン、イリーナ抱いちゃってるじゃんじゃん」
「ヒャーーーっ。いいネ」
 本巣のいちばん高い尖塔の頂きに座って地上を見下ろしているのは、ナガンとファストナハト。
 地上では、レオンハルトが、イリーナに何か語りかけている。
 もちろん何て言っているかは、聞き取れないけど……?
「……だがまあ、あの様子だと、どうも機晶石は持ち帰ってないな。火の機晶石の方もまた……」
 本巣の門前では、倒された機晶姫を前に、教導団の上層の者や、敵を倒した獅子小隊の者ら、それにアサノファクトリーの技術屋らがそこを訪れ、言い合っているのが見える。
 石を持ち帰るだの持ち帰るなだの、パーツを持ち帰るだの持ち帰るなだの……
 こちらは相当威勢がいいので、ここまで聞こえてくる。
 月島が何やら無言で銃を構えたようだが……こういう場合には、大抵上層のやつらが持ってってしまうんだろうな、とりあえずは。
「何にしても、少し来るのが遅かったじゃん。ナガン」
「だがまだチャンスはあるだろう……
 それにしても。なかなか良いメロディだな」
 戦場に流れる雨の鎮魂歌を聴いて、ナガン。
 ……
 いつの間にか、雨の中にJOKERの姿も消えて、教導団も本巣を封鎖すると、引き上げていった。