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オークスバレー解放戦役

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 ハーフオークに娯楽を提供することでの交流を目指す、ゲルデラー博士率いる【ヤック・サブカルチャー】一行。
 外れの村への道中。
「キンチョーして、おしっこいきたくなってきちゃう〜」
 この任務を任せられるのは彼女しかいない、と博士をして言わしめた少女……
「教導団とハーフオークの架け橋になる任務だから、絶対に失敗のないよう」
 そして、その少女にプレッシャーをかけ続ける博士。
 だが、博士のかけたプレッシャーが、後に思わぬ事態を呼ぶことになろうとは……


第12章 後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)歌謡ショー
主催:シャンバラ教導団 プロデューサー:ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)

 さて外れの村では、(前日は準備に手間取り、今日は樹理の緊張のため出発に遅れ)日も暮れかかる頃、ようやく到着したゲルデラー博士たちによる、娯楽の提供が始まった。ヤック・サブカルチャー。これは博士による一大計画でもある。
 まず村の中心に、ステージが仮設されることになった。
 一方ビラ配りなどで、集客に務める。
 もちろんこれらは、それまでの朝霧、林田&ジーナらによるハーフオークとの交流がなされていたから可能になったことであるが。
 それでもハーフオークたちは一体自分たちの村で何が始まるのか、不安そうな面持ちでそれを見ていた。
 中には、仮面フロシキに代わって、あの博士が新たに村をのっとろうとしているのではないか、というハーフオークもいた。
 しかしそこは博士、「私の強面は異文化交流にはマイナスになる」という自覚から、この企画ではあくまでプロデューサーに徹した。私の顔が見えるようではいけない。私はあくまで裏に徹するぞ。あとは樹理、君にまかせた。君にすべてがかかっている……!!
 そうして博士がステージの裏に引き下がると、素直な少女樹理が前面に引き立ち、ハーフオークたちの懸念もひとまず抑えられるかたちになった。

 ハーフオークたちと客席に座り、ステージを見つめる朝霧、林田。
「だ、大丈夫かな……」
 朝霧はちょっと心配そう。
「……」
 林田も無口になっている。
 これで、使者として私が果たした役割がだいなしとならなければいいのだが……
「林田様ー、とても楽しみですね」
 その隣では、ジーナがわくわくしてショーの始まりを待っている。

 いよいよ、ショーが始まる。
 もう辺りも暗くなり始めた頃、ステージに明かりがともされる。
「ようこそ皆さん。私たちのステージへ。本日司会進行を務めさせて頂きます、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)です」
 アマーリエは軽くあいさつをすると、
「私の姿に驚かれたかもしれませんが、私はご覧の通り吸血鬼です。
 しかし、私たちの中には差別はありません!
 それが"シャンバラ教導団"なのです!」
 ハーフオークたちは、アマーリエの身をもって前説を、真剣に聞いたようだ。
「では皆さん。今からは、ショーをお楽しみください。
 歌い手は、新人アイドル歌手の後鳥羽 樹理さんです」


第一部 教導団提供:後鳥羽樹理 歌謡ショー

 スポットライトを浴び、ピンクのミニスカート衣装(アイドルのコスプレ)を身にまとい、登場した後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)
 よーし、樹理ちゃん、うたうよ〜
 おぼえたての、超かっこいいS-POP(シャンバラ=ポップ)を歌っちゃう〜〜

「峡谷を吹き抜ける風 〜The Wind knows Gelderer's passion〜」 作詞:ミヒャエル・ゲルデラー博士 作曲:今唯ケンタロウ

INTRO ドンッタッッドッドンシャラララ(Fill in) B.P.M=110位で
 Fmaj7−GonF−Em7−Am 二回繰り返す
 F−FonG
 ラーララララァアー
※以下、歌詞は12月発売予定のシングル盤を参照ください。販売価格は1,000Gを予定。





 あ、あれ?? もりあがらない……
 そのまま曲は一番と二番の間奏に入ったが、お客の反応がまるでない。しーーんとしている。

 し、しまった。樹理の歌が思った以上にヘタだ。これはあまりに酷い出来だぞ。予想外だ、くっ。
 ステージの影から覗く博士。汗が噴出している。
 じゅ、樹理。やばいぞ……!!

 樹理、ちらっと後ろを見ると、機材の合い間に、こちらを窺う博士のこわい面があった。
 ゲっ、ゲリピーのプレッシャーが重いよう〜〜!!
 
 それに、選曲もまずかった。この気どった歌詞と曲は、この場を盛り上げるには合わない。一曲目に歌う曲ではなかった。(来年の3月にリリースするファーストアルバムでは最後を飾る曲として収録することにしよう、と博士はメモった。)

「お、おいおいー樹理、どうしたんだ。二番が始まっているのに、なんかこわばったまま動かなくなったぞ……」
 はらはらして見守る朝霧。
「歌詞忘れてちゃったのかなあ」
 その横で、ライゼ。
 ジーナは林田を見やる。
「林田様?」
「……」ふるふるとふるえる林田。「……メイド娘。これで私たちの交渉が台無しに……」

 深刻な顔で立ち尽くす、樹理。
「……これじゃみんなの期待にこたえられないよ……。
 樹理ちゃん、いつも馬鹿だって言われて友達できなくて、教導団で仲間ができたと思ってたのに、やっぱり役立たずなの……?
 いつでも仲よくできればいいと〜思ってるのにぃ〜」
 ……頬を涙が、こぼれていく。





 オケだけがむなしく流れていく。
 アマーリエがやがて、演奏中止を押した。「……」
 ステージのライトが落ちる。
 ざわつき始める、客席……
 ……
 ふと、暗がりの客席から、
「♪あの雲の下の街 あの子の街さ」
「えっ……惨状パンダ先生、いえ、マ、マノファ」
 古いラブソングを口ずさむ、マノファ・タウレトア(まのふぁ・たうれとあ)
「♪プラタナス通り へこんだアスファルト」
 マノファは、樹理に、目で続くように合図をする。

♪あの雲の下の街 あの子の街さ
 プラタナス通り へこんだアスファルト
 田舎の空を 見上げれば
 今もあの日の 笑顔が輝くよ
 All the colors in rainbow 濡れた服なんか脱いで
 All the colors in rainbow 口笛吹いて 歩いていこう

「みんなと一緒に歌うじゃん!」
 マノファは、樹理に手を伸ばした。
 樹理は涙をふいて、ステージから客席へ走る。

 All the colors in rainbow 濡れた服なんか脱いで
 All the colors in rainbow 口笛吹いて 歩いていこう

「ああ、ハーフオークと私たちとが今、一体になって感動している。皆が歌によって一つとなった」
 博士も、涙がとまらない。
 忘れられない夜となった。





「見たまえ、大成功だ。君の歌があったからこそあれほどに盛り上がったのだ」
「ゲリピー……」
 ぐすん、もう涙は見せない樹理。
 うむ。何かもかも、私の計画どおりなのだ。と言いながらまた涙が止まらない博士。
 ……
 それから、第二部として「地元のみなさん のど自慢大会」(優劣・賞品は付けないですぞ)をプロデューサーこと博士は企画していたが、ダンス大会に変更した。
 ハーフオークは意外と、ダンスが得意らしいのだ。
 ガーデァやシャンバランらと一緒になったハーフオークたちも、やって来た。
 多くの教導団の者も、訪れた。
 さあ、もう魔道師の呪いのリズムで踊らされる必要は無い。好きに踊ればいいのだ。
 自由に踊れ、ハーフオーク。自由に舞え、教導団。自由に歌え、パラミタへやって来た生徒達。
 彼らのリズムが一つになり、この夜、峡谷に新しい歌が生まれた。



 その後もショーは続き、交流は更に深まることになるのである。

 第三部 臨時特別企画 シャンバランのヒーローショー(協賛:獅子小隊、ノイエ・シュテルン、騎狼部隊、黒炎、龍雷連隊)
 祭りは続く。……