蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

生贄の遺跡を攻略せよ!

リアクション公開中!

生贄の遺跡を攻略せよ!

リアクション



3野営

 アトラスの傷口の吹き出るマグマが肉眼でもわかるようになってきた。それまで岩やわずかな草があった大地は、完全に砂漠化している。
 日は傾き、夜は近い。
 ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)は、足を止めた。
 ルミーナが皆に告げる。
「先ほどのジャイアント・アントの戦闘で怪我をしているかたもおられます。夜の移動は危険でしょう。きょうはここに野営しましょう」
 ジャイアント・アントとの戦いで、知らず知らずのうちに手足に擦り傷や、蟻と接触したときにできた噛み傷や打撲があるものもいる。
 幸いなことに、食糧はシリウスが十分に用意しているし、各自で持ち込んだものも多い。
 金色の瞳を持つナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)はシャンバラ教導団に所属しているが、今回の遺跡調査団唯一のメイドである。
「わかりました、お掃除いたしましょう」
 ハウスキーパのスキルを活用して、テント設営地を綺麗に整えた。
 テントの設営が行われ、モンスターや蛮族の襲撃の備え、火が焚かれた。腕に覚えのあるものたちは、夜の間、交代に見張りにつくことになった。

 小型飛行隊【蒼き導き】の面々も合流している。遺跡に入り口を空から見つけるのは不可能との判断で、明日はルミーナと行動を共にする予定だ。

 シリウスが集まった一同を前に語る。
「きょうはお疲れ様でした。明日はいよいよ遺跡です。遺跡に行く前に確認しておきたいことがあります。古文書によると女王器を得るためには、大切な人を差し出す必要があるとのことです。皆さんの中には、大切な人を差し出す覚悟で参加してくれた人もいると思います。お願いがあります。その決意のある方は、怪我をしないで、最深部までたどりついていただきたいのです」
 傍らにいたルミーナが言葉を続ける。
「遺跡内には、どんな魔物がいるかわからないわ。侵入者よけのトラップも残っていると思うのよ。私とシリウスと一緒に最深部を目指す方は、敵に合ってもできるだけ戦わずに逃げてほしいの。」

「えっぇぇぇぇぇぇ、え?」
 ヒールを使って怪我人の手当てをしていた。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が同時に声を上げる。
「私、知らなかったですぅ〜。遺跡の調査団募集の知らせを聞いて駆けつけたのですが、大切な人を差し出すんですかぁ〜、え〜どうしようぅ」
「僕も。知らないよ、そんなこと。メイベル、どうしよう?」

「大丈夫だよ、皆が大切な人を差し出すわけじゃないしね。それに「大切な人を差し出す」という意味はまだ誰にもわかっていないんだ」
 近くにいた黒崎 天音(くろさき・あまね)がメイベルたちに話しかける。
「君にとって大切な人って誰だい?」
「僕にとって大切な人は、メイベルだよ」
 当然とばかりにセシリアが答える。
「そうか・・・僕はね・・・どんな人間にとっても、真に大切な人とは誰だろうかって考えたんだ。」
 天音の問いに、パートナーのドラゴニュートブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が起ったように答える。
「己の命を賭しても、守りたいと願う相手ではないのか?」
「おや、ロマンチックな答えだね。ただ、その答えでは僕には大切な人は存在しない事になるな」
 言葉につまるブルーズ。
「どうしてですかぁ、大切な人がいないなんて、寂しいですぅ〜」
 メイベルが口を挟む。
 ブルースがふくれっつらをしている。
「……そんな顔をされると、さすがに失言だったかと思うよ。まぁ君にとっての大切な人は僕なんだろうけど大抵の人間が無意識の内に一番大切に思うものは……自分なんじゃないかな?」
「そんなことないですぅ〜自分より大切なことってありますぅ」
 天音の言葉に反論するメイベル。このときメイベルは決意していた。自分が生贄になろうと。


 メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は顔を見合わせる。
「では、シリウスについて最深部を目指すことにするわ」
 明るいところが苦手なメニエスは、夜の方が生き生きする。少し俯きがちな目に意地悪く輝く。
「メニエス様、生贄として差し出されるのは私ですか」
「まさか、最深部の前での大切な人を差し出すっていうのは・・・正義感なんてくだらないものを持ってる輩が勝手にやってくれるんでしょう?その様を眺めさせていただこうかしら。でも、まあ、フリだけでもしましょう。差し出すね」

 ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)ロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)がメニエスたちのひそひそ話に聞き耳を立てている。
「同じようなことを考えている輩がいるね、ロージー、どうしようか」
 端正な顔立ちで育ちもよさそうだが、ブレイズには野心家の匂いがする。
「わたし達はわたし達です」
パートナーである機晶姫のロージーが無表情に答える。


 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は迷っていた。
 荷物として持ってきた古文書を再読しながら、
「い、遺跡の調査って言うから色んなことを知る事が出来るかなって・・・・・・思ったんですけど・・・・・・」
 気弱な睡蓮は、自らを生贄にする勇気はない。
「だけど・・・シリウスさんの力にもなりたい」
 傍らに腰掛ける機晶姫鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)は、静かに睡蓮の頭を撫ぜる。無言の九頭切丸、どんな状況になっても睡蓮を護るつもりだが・・・。

 樹月 刀真(きづき・とうま)は、魔物に両親を殺されその敵を討つことを目標に生きている。今回の調査団に応募したのも、遺跡にある女王器が魔物探しに使えるか確認するためだ。
 しかし、最深部に行くためには、「大切な人」漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を生贄としなければならない。
 考え込んでいる刀真に向かって、月夜が話しかける。
「私たちはあんなに調べたのに、別の方法はみつからなかったわ」
「他にも手段があるはずだ。まだ時間はある、遺跡の中にヒントがあるかもしれない。それに、もし最深部にある物が大切な人を犠牲にする物なら、そんな物はいらないよ」
 月夜は黙って目の前に広がる荒野の闇を見つめている。

 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)は、
 赤い半紙と日本人形をルミーナから受け取った。陰陽術では赤く染まった人の形をした半紙というものがある。よく「ヒトガタ」と呼ばれるものです。
 赤く染まった人形は、呪いや厄などを代わりに受けてくれる強い身代りの力を持っていることを神社で育てられたウィングは知っていた。
 もう一つの日本人形も身代わりのためだ。
 もし、人形で駄目だったら・・・ウィングは自分を差し出そうと決意していた。

 子どものようにも見える小柄なファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)は、遺跡に巣くうモンスターを見たくて参加した。
「フィーを生贄にしたくはないなぁ。もしフィーに何かあったら困るもん。」
 フィール・ルーイガー(ふぃーる・るーいがー)はホッと息をつく。
「いえ・・・私は生贄になってもかまいません。ただ・・・ファニーが・・・自分が行くと言わなくて・・・・良かったです・・・心配してたのです」
「明日はモンスター退治だよ!よ〜し!ファニーがんばるぞぉ!」


 クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)は、明日に備えて、銃の手入れをしている。2本の伝導体のレールを仕込みバレルの素材を特殊耐熱素材にした超ロングバレル(カービンの取り付け部分に絶縁体を取り付ける)と通常のロングバレルを用意している。


 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)は、蒼空学園に残るパートナーヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と携帯電話で話している。
「うん、いよいよ明日だよ」
 ヒメナがこれまで調べたことから推測する「大切な人」の定義を路々奈に話している。
「女王器のある可能性が高いという事は同年代に神殿が作られたという事です。建立目的は最深部に配する器を使った儀式だと思うのです。設計者の想定する「大切な人」とは女王かもしれません。種々の仕掛けは女王たる品格に適う人材をふるい分ける試練かも」
「ということは、生贄になった人から新しい女王がうまれるってこと??」

 「こんばんわっ」
 テント入り口にミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が立っている。服は砂嵐で汚れ、かなり埃っぽい。
「なあ、もし良かったら仲間に加えてくれよ」
 事前に用意した地図で近くまでいったものの、
「入り口が見つからないんだぜ!絶対近くにあったのにだぜ。灯が見えたからさ、来たんだ。あんたらと合流できてラッキーだったぜ」
 よほど疲れたのか、座り込むミューレリア。
 声を掛けられた桜井 雪華(さくらい・せつか)ヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)は、呆れて返事をする。
「ローグじゃないと、見つけられないんとちゃう?朝、シリウスさんから聞いやろ」
「セツカさんが言うの…やもん」
 ヘルゲイトの言葉は、どこか変な関西弁。
「まあ、いいやろ、明日は一緒に行動しよ。私らはあの団体さんに紛れ込もうと思っとる」
 雪華の視線の先には、【生贄が必要になるまで】のメンバーがいる。
「おおきにだぜ」
 ミューレリアは感謝をこめて、関西弁?で返答。


 翌朝
 レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)の元に、先行隊として遺跡入り口を探していたパートナー陽神 光(ひのかみ・ひかる)から電話が入る。
 「良かった、見つかったのね」
 早速シリウスに知らせるレティナ、
「光の情報だと、入り口にもトラップがあるそうです」
「ありがと。助かります」
 レティナの情報のおかげで、回り道せず、遺跡を目指すことができる。
 調査団は身支度を整え、早々に出発する。