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ざんすかの森、じゃたの森 【前編】

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ざんすかの森、じゃたの森 【前編】

リアクション

 10歳くらいの女の子の姿になって実体化した、ザンスカールの森の精は、イルミンスール魔法学校校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に、「ざんすか」と名付けられる。

 ヴァルキリーが多く住むザンスカールは、イルミンスールの森の中にある町で、町の中にも高い木がたくさん生えている。
 ザンスカールの森の精、ざんすかは、この「森の町」の精なのである。
 
 濃緑色のストレートロングの髪の少女、ざんすかは、不敵に笑った
 「エリザベートと遊ぶのもいいけど、ミーが実体化した真の目的は他にあるざんす!
 イルミンスールの森の隣にあるジャタの森にパラ実蛮族が住んでるのはみんな知ってるざんすね?

 ジャタの森のパラ実蛮族が信仰する、邪悪な「ジャタの魔大樹」に除草剤を撒きに行こうざんす!
 ジャタの森には魔物も多く、それは「ジャタの魔大樹」が瘴気をまきちらしているからざんす!
 一刻も早く、「ジャタの魔大樹」を枯らし、ミーたちの森とジャタの森をつなげてしまうざんす!

 いきなり物騒なことを言い出す、ざんすかを、エリザベートのパートナーの魔女、
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)がたしなめるように言う。
 「シャンバラの国境のジャタの森に住む、ジャタ族とは友好的な関係を築いておくべきじゃ。
 除草剤を撒くなどという乱暴な方法ではなく、もっと慎重になるべき……ゴフッ!?」

 「ごちゃごちゃうるさいざんす!」

 アーデルハイトは、ざんすかのラリアットでぶっ飛ばされた。

 「ミーだけでも除草剤を撒きにいくざんすよ!!」
 ざんすかはジャタの森に走っていってしまった。

 「ゲホッ、あ、あいつ、許さんぞ……どうなっても知らんからな!!」
 「大ババ様あ!! ……これじゃ、わたしが追いかけるわけにいかないですぅ。
  誰か、ざんすかを追いかけてきてくださぁい!!
 アーデルハイトの手前、どちらにも味方できなくなったエリザベートは、
 学生達にざんすかを追ってくれるように言うのだった。


 一方、そのころ、イルミンスールの森とジャタの森の境では。
 「腹減った、じゃた……。この森の空気は、きれいすぎるじゃた……」
 ざんすかに似た雰囲気の、白髪ショートの少女じゃたが、ふらふらと歩いていた。


 第1章 謎の少女じゃたとカオスなごはんのこと

 イルミンスールの森とジャタの森の境で発見された少女、じゃたを助けるため、学生達が大勢、集まっていた。
 イルミンスール生のモヒカンシスター、狭山 珠樹(さやま・たまき)は、くさやを焼いて、その「瘴気」でじゃたをおびき寄せようとしてた。
 イルミンスールの森の清浄な空気に、くさやのにおいが満ちる。
 「じゃたちゃんは、食生活が我らとは異なる気がいたしますわ。黒焦げ大失敗料理とか、むしろ大好物かも? くさやでおびき寄せた後は、みんなで闇鍋をいたしましょう!」
 珠樹が、謎の食材の入った鍋も持ってきていた。
 七輪でくさやを焼きながらうちわであおいでいると、予想通り、くさやのにおいにおびき寄せられた、白髪ショートの少女がふらふら歩いてきた。
 「……うまそうなにおいじゃた」
 実際、くさやのにおいや味には好き嫌いがかなり分かれるが、じゃたにとってはかなりお気に入りのようであった。
 「じゃた、くさやをおかずに、僕の田舎から送られてきた米で作ったおむすびを食べてよ。こっちのポットには日本茶が入ってるよ」
 如月 陽平(きさらぎ・ようへい)は、赤ん坊の頃に祖母に背負われ田んぼデビューを果たした生粋の農民で婆ちゃん子である。お腹をすかせた女の子をほうってはおけないと、かけつけた1人だ。
 「日本の米……食べたことないじゃた」
 じゃたは、陽平のおむすびを頬張る。大きめの塩むすびは、陽平の祖母はじめ、田舎の家族の愛情もたっぷり詰まっていた。
 「いっぱい食べてね……って、もう全部食べちゃったよ!」
 育ち盛りの陽平が充分満腹になる大きさの上、皆で食べられるよう多めに持ってきたつもりだったのに、じゃたは、大きなおむすびを一口で食べ、あっというまにすべてたいらげてしまった。
 ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)も、コンビニで買ったおにぎりやサンドイッチを用意していた。
 「持っていくのはいいとして……私たちと同じものを食べるのかしらねぇ?」
 そう言って、心配していたターラだったが、杞憂だったらしいと安心していた。
 「防腐剤とか保存料が入っていてうまいじゃた」
 「あらー、なんだか、やっぱり微妙に私たちと異なる食生活みたいね」
 「じゃた、僕のおむすびより喜んで食べてない……?」
 「気にしない、気にしない。きっとさっきはお腹が空きすぎて、味がわからなかったのよ」
 ターラが、微妙に落ち込む陽平の肩をポンポンと叩く。
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、手作りの大量のサンドイッチとコーンスープを用意していた。
 「サンドイッチの中身はハムとレタスとトマトのサンドイッチ、野いちごジャムのサンドイッチ、オムレツを挟んだサンドイッチ、ホットドッグの4種類だ。毒じゃないことを証明するために、まず、私が食べてみせよう……って、もう食べはじめてるな」
 涼介は、サンドイッチを無心に頬張るじゃたの様子を見て、目を細める。
 ぼさぼさの髪型でぶっきらぼうに見えるが根は優しく情に厚い性格の涼介は、渋い趣味から年相応に見られないことが多いのだが、食事をするじゃたを見守る様子は優しいお兄さん然としていた。
 「て、いうか。空気が綺麗なのと、腹が減ってるのは関係してるんじゃないの? もしかして、ざんすかが言ってた瘴気ってのがじゃたのご飯代わりなんじゃないの? もしそうだったら、元の森に連れて行ってあげるよ」
 「えへへ、おにいちゃんの作ったサンドイッチ、おいしいでしょ? 私たちはじゃた殿の味方だからね。よければ、じゃた殿のこと、あと、何がしたいのか、教えてほしいな」 
 ターラのパートナーの吸血鬼ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)と、涼介のパートナーのヴァルキリークレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は、一緒に食事しながら、優しく、じゃたに問いかける。
 「もぐもぐ、ジェイクのいうとおり、瘴気はワタシのごはんじゃた。ワタシは、ジャタの森の精なのじゃた。ぱくぱく、ワタシは、ジャタの森の瘴気を吸って栄養にしていたけど、なんだか最近様子がおかしいので、協力してほしいのじゃた」
 「様子がおかしいって?」
 涼介の問いに、じゃたは、コーンスープを飲みながら答える。
 「ごくごく、最近、瘴気の量がすごく増えているのじゃた。最初はたくさん食べられると思ってうれしかったけど、だんだん吸収しきれなくなってしまったじゃた。魔大樹の周りは特に、吸収しきれない瘴気でいっぱいじゃた」
 じゃたは、無表情で淡々と語る。
 というより、食事に夢中なようにしか見えないが、話の内容はかなり物騒であった。
 涼介は、クレアやターラ、ジェイク、陽平と顔を見合わせる。

 「俺達は、じゃたの力になりたいじゃた! マナの作ったお弁当を食べるじゃた! じゃたの一番大切な存在を守りたいじゃた! じゃた! 守ってみるぜじゃた!」
 「ベア、その口調はどうなの……」
 ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は、親近感を持つために語尾を「〜じゃた」にしていた。
 しかし、パートナーの剣の花嫁マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は、ちょっと引き気味である。
 「こら、マナも『じゃた』ってつけるじゃた!」
 マナに、ベアが目を光らせる。
 かなりの迫力に、いつもベアのツッコミ役をしているマナも、思わずひるむ。
 「……し、しかたないなあ、じゃた。お弁当、食べてね、じゃた」
 「オマエたち、いいやつだな、じゃた」
 じゃたも、無表情ながら、喜んでいるようであった。
 ……特にお弁当に対して。
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、「謎肉親方」として、パラミタ内海で謎の魚を捕獲していたが、ちょうど通りかかったところにお腹をすかせている少女がいたので、謎の魚を焼いて食べさせてあげることにした。
 「せっかくの幼女……じゃなかった、こんな所でこんな小さい子が腹を空かせて歩いているという状況、見過ごすわけにはいかないからねぇ。ほら、魚をお食べ?」
 「す、すごい魚だぜじゃた。トゲがいっぱい生えてるじゃた」
 「こんなの、食べて大丈夫なの……? え、えーと、大丈夫じゃた?」
 ベアとマナが突っ込むが、じゃたはむしろ、生でもバリバリ魚を食べている。
 「小さい女の子なのに、余裕で食えるなんてすごいぜ、じゃた。……俺はロリコンじゃないぜ? じゃた」
 「ほらこの辺何がいるか分からないしお兄さんが守ってあげるよ。ってロロロロリコンちゃうわ」
 ベアとカガチは、お互い、「ロリコン」について牽制しあう。

 和原 樹(なぎはら・いつき)は、パートナーの吸血鬼フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)とともに、空飛ぶ箒で、ジャタの森に向かっていたが、その途中、白い髪の少女を囲む一団を発見し、地上に降りてきた。
 「そこの君、緑の髪の活発そうな女の子見なかった? ちょうど君と同じくらいの外見年齢なんだけど……」
 「ん? 何じゃた?」
 謎魚を頬張りながら答えるじゃたを、樹は見つめ、言う。
 「あれ? この雰囲気にその語尾。もしかして……。……緑ストレートロングより、白髪ショートの方が好みだ。俺……この子の味方になるよ!」
 「なっ……樹、お前まさか……。なかなか我を受け入れぬと思ったら、そういう性癖、『ロリコン』、だったのか!?」
 樹の「好み」発言に、フォルクスが驚きの声をあげ、ちょうどロリコンの話をしていたベアとカガチも、硬直する。
 「誰がロリコンだー!?」
 樹は、フォルクスにアッパーをかまし、まくしたてる。
 「これは単に犬派か猫派かっていう感じで、どうせなら好みの方につきたいって話だ!」
 「つまりその少女をペットにしたいと……? ぐふっ!」
 「俺を変態発想に巻き込むな!!」
 「ペット」発言に、樹は再びアッパーでフォルクスをぶっ飛ばす。

 「ロリコンでしかもペットらしいぞ、じゃた……」
 「俺も、じゃたちゃんかわいいと思ったのは事実だけど、その発想はなかったわぁ……」
 「そこっ! 哀れむような目でひそひそするなー!」
 ベアとカガチに向かって、樹は両手をぶんぶん振り回す。

 そこへ、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、ムシバトルに出場したイルミンクロカミキリのスパーキングとボールを投げて遊んでいたところ、騒ぎを聞いて通りかかった。
 スパーキングは、カミキリ虫なせいか鋭い口にボールがあたって、もう3つほどパンクさせている。
 「喉乾いてるなら飲む?」
 ミレイユは、いきなりじゃたに輸血パックを差し出した。
 なんとなく、まだふらふらしているし、心配しての行動だった。
 「……ミレイユ。いきなり血を勧めたりしないで下さい」
 ミレイユのパートナーの吸血鬼、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が突っ込むが、シェイドの予想に反して、じゃたは輸血パックを開封すると、美味しそうに飲み始めた。
 ミレイユは、納得したように、うんうん、とうなずいている。
 「大丈夫なんでしょうか……」
 シェイドは、まだ少し心配そうにしていた。

 「予想外になんでも食べるんだな……」
 涼介はつぶやき、その場の一同も驚きを隠せない。

 そこへ、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が現れ、いきなりじゃたに後ろから抱きつく。
 「如何なる事情か良く分かりませんが、このままでは長くはないでしょう。弱肉強食は世の習い。死んで風味が落ちる前に、私が美味しく頂いて差し上げるのが功徳というものですねー。今楽にして差し上げますからねー」
 優梨子のパートナーの吸血鬼亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)は、黙って見守っているが、
 (……アレを餌食にするのか? 二人で分けたら、大した量になりそうにないな。今はもっと活力のあるタイプを食いたい気分であるし、私は遠慮しておこう。優梨子、お前が食うが良い)というスタンスであった。

 「なっ、なんてことをするじゃた!」
 「さすがに放っておけないなぁ」
 「じゃたを食べるって……そんなことはさせない!」
 ベアとカガチ、樹が、じゃたをかばおうと飛び出すと、亡霊は杖を使って立ちふさがる。
 しかし、その瞬間。
 「ゲホッ、へ、変な感覚が流れこんできました……!!」
 吸精幻夜で、じゃたから吸血行為を行おうとした優梨子が、悲鳴を上げる。
 「あー、ワタシの身体、普通の人間には毒の、瘴気がたくさん入ってるじゃた……」
 じゃたは、むしろ、咳き込んでうずくまる優梨子を心配そうに見ている。
 水橋 エリス(みずばし・えりす)と、パートナーのシャンバラ人リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)は、じゃたを心配して駆け寄る。
 「だ、大丈夫ですか?」
 「あんた、今、怪我しなかったか?」
 エリスとリッシュは、じゃたの首筋の傷跡を見つめたが、本人の様子どおり、たいしたことはなさそうであった。
 「平気だ、じゃた。むしろ、この人、大丈夫かじゃた?」
 そう言われて、エリスは、優梨子に水筒の水を差し出す。
 優梨子はしばらく咳き込んでいたが、やがて、にやりと笑った。
 「……面白いですね」
 (考えてみれば、逸脱した存在には騒動が付き物。暴力沙汰が寄ってくるのを、付きまとって待つ方向にシフトします。食い殺すのは暫く棚上げにして、むしろ守らせて頂くことにしましょう)
 そんな、優梨子の野望とは裏腹に、いきなり異臭が漂った。

 「みなさーん、闇鍋ができましたわよー!!」
 珠樹が、謎の具材の浮いた闇鍋を前に、笑顔でお玉を振っている。
 闇鍋の中身は、なんだかとてもカラフルであった。
 「なんですか、この、赤と青の色の具……ガファッ!?」
 エリスがおそるおそる闇鍋の具を口にすると、いきなり爆発した。
 「うわー、エリスー!?」
 リッシュが、口から煙を吹いて倒れるエリスを慌てて助け起こす。
 「パラミタマジック粘菌ですわ。赤いのと青いのを一緒に食べると爆発するんですのよ」
 「無茶苦茶だー!」
 織機 誠(おりはた・まこと)は叫び、薬箱や胃腸薬を用意して、闇鍋の被害者の救護にあたっていた。
 「うまいじゃた……」
 しかし、じゃたは、闇鍋を喜んで食べていた。
 爆発しても、特にダメージを受けている様子はない。
 「やはり、じゃたさんには普通でない食べ物の方が口に合うようですね……」
 誠の持参した「肉じゃがだった液体」「炊飯器がキムチ臭くなった炊き込みキムチご飯」「普通のジャンクフードのハンバーガー」「水筒いっぱいのカレールー」も、じゃたには好評であった。

 シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)は、大量の缶詰を持ってきていた。
 「皆、口直しに缶詰パーティーをしないか? カニの缶詰、果物の缶詰から、ラーメンの缶詰やパンの缶詰などの少し変わった缶詰まで、なんでも揃ってるぞ」
 「メロン美味しいです」
 シルバのパートナーの剣の花嫁雨宮 夏希(あまみや・なつき)は、ひたすらメロンの缶詰を食べていた。
 そこへ、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が現れ、言う。
 「ここは俺が大人の「知識」で料理を用意しよう。俺が子どもの頃に覚えた料理レシピがあるんだ。それは手近にある食材で簡単に作れる料理の数々……」
 レンは、チョコボールを野外調理用のカップにいれ、牛乳をそそいで温めると、じゃたに差し出した。
 「これはチョコボールホットミルク。俺たちが子どものころ熱狂した伝説の料理さ……」
 「って、20代後半以上じゃないとわかりにくいネタじゃないですかっ!」
 誠が突っ込む。

 そこへ、佐倉 留美(さくら・るみ)がやってきて、じゃたに言う。
 「ザンスカールの森の精のざんすかさんが、ジャタの魔大樹を除草剤で枯らすために向かっていますわ。じゃたさん、あなたの力で止めて差し上げて!」
 「除草剤で魔大樹を枯らすじゃた? ……よくわからないじゃた」
 「ジャタの森の危機ですわよ! 何もしなくていいんですの?」
 「よくわからないじゃた。 そのビスケット食べていいかじゃた」
 「……あ。どうぞどうぞ」
 大量に持ってきていた携帯食料のビスケットには感謝されたものの、留美とじゃたは会話がかみ合わず、ざんすかにけしかけるのは難しいようであった。
 留美のパートナーの魔女ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)は、離れた場所で留美の様子を見守っていた。
 「なにやら留美がよからぬことを企んでおるように見えるのう……。しかし、わしとしても「ジャタの魔大樹」を枯らしてしまうのは本意じゃないしのう……」
 そう独りごちながら、ラムールは留美がとんでもない行為に及ばないうちは協力しようと考えていた。

 一同が、シルバの缶詰で少し落ち着いてほっとしたのもつかの間、夏希は少し変わった缶詰を発見していた。
 「……なんでしょう、少し膨らんでます、この缶」
 「あ、夏希、それは……!」
 シルバの声とともに、夏希は皆の真ん中で缶詰を開封してしまう。
 あっというまに、辺りに臭気が立ち込めた。
 「シュールストレミング開封のときは危険が伴うから俺がやろうと思っていたんだが……」
 「ああ、シュールストレミングね……って、なんでそんなん持ってきてるんですかっ!!」
 シルバの言葉に、誠が全力で突っ込みを入れる。
 「く、臭い! バイオテロ兵器ですわー!!」
 自分の闇鍋は棚に上げて、珠樹が大騒ぎする。
 そんな混乱の中、巨大な皇帝ペンギンが燕尾服の上着とシルクハット、ステッキを持った姿のゆる族ドン・カイザー(どん・かいざー)に肩車されたラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)が、じゃたのために汚い空気を用意してあげようと、荷物を開封した。
 「イルミンスールの運動部から頼まれた洗濯物、もちろんまだ洗ってないよ! 汗臭い……。あと、4日ほど熟成された、今朝出し忘れた生ゴミ! ……森に捨てていっちゃダメかなあ。持っていたくないんだけど……。それでもダメならっ!」
 「……くぇ〜……」
 ドンが低く渋い声で鳴いてとめようとしたが、ラーフィンはすでに行動していた。
 「しょうがないね、最終兵器を出すしか……! 水筒に入れて持ってきた牛乳、そして掃除で何時も使ってる雑巾、二つを合成して……定番「牛乳雑巾」! ……ノーコメントで」
 「そんなん知りませんよー!!」
 誠は四番バッターよろしくランスで「牛乳雑巾」をかっとばし、バイオテロの猛威を遠ざけた。
 「ああっ、せっかく用意したのに!」
 「……くぇ〜……」
 ラーフィンの嘆きに、ドンが渋い声で鳴いてかぶりを振ってみせた。
 「いいにおいがするじゃた……」
 しかし、じゃたは、深呼吸して喜んでいるのだった。