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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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鳥居前 〜スタート前〜

 京都の外れ、古びた神社の前に、八十人を超える生徒たちがひしめいていた。
 彼らの前には、ところどころ塗装の禿げた血色の鳥居が、夜闇に浮かび上がるようにそびえている。
 周囲は暗闇。光源は夜空に輝く満月が一つきりだ。洛中からこぼれてくる暖かな光は、濃く立ちこめた霧の壁に阻まれて届かない。
 寒さだろうか、霧の中に身を浸し、鳥居を見上げる彼らの肌に、ぷつぷつと鳥肌が浮き上がっていた。

 ちり―――ん。

 鈴の音が、ふいに響いた。
 鳥居の向こうの暗闇から、二つ、橙色の光が浮かび上がってくる。
「よォ―――こそ、六校合同肝試し大会へ……」
 ちりーん。手に持った鈴をもうひと振り鳴らして、浴衣姿の本郷 涼介が生徒たちの前に姿を現した。
「今宵は肌寒い中、よく集まってくれました。涼しい風の中、身も凍るような幾多の恐怖を……各々の暖かな体温を頼りに切り抜けられますように」
 ごうわっ! と霧が逆巻いた。生徒たちがびくりと身を縮める。
「みなさーんっ! 今日はスキルや武器の使用は一切禁止です―っ。わぷっ」
 襲い来る霧を小さな手でぱたぱた払いつつ、ぼんやり光る提灯片手にクレア・ワイズマンが歩み出てきた。
「もう、お兄ちゃん! スキルは禁止なんだから! お兄ちゃんもアシッドミストをさっさと止めて!」
 クレアが叫んだ瞬間、集まった生徒たちが一斉に口元を覆った。
「演出だって、演出。わかんないかなぁ」
 ふうと涼介がため息をつくと、立ちこめていた霧が一挙に消え去る。
「おーし、んじゃ簡単にルールを説明します。まず、私とクレアが渡す提灯を一人一つ、受け取ってください。中のろうそくは、まあ普通に回ればゴールまでは余裕で持ちますけど、あんましのんびりしてると切れるので注意」
「はーい。提灯こっちで配りまーす」
「コースは鎮護の守、大池、拝殿まで行って絵馬をとって帰ってくる。それだけ。一番最初に帰ってきたチームにはいいことがあるらしいんで、トップを狙ってみるのもいいんじゃないかな」
 はいはーい、と、遠野歌菜が手を上げて、ぴょこぴょこと飛び跳ねた。
「具体的に、トップになるとどんなイイコトがあるんですかー?」
「うーん、事前に調べてみたところでは、恋愛に関するご利益が多いかな。一説には、お万の方が将軍の側室になれたのは、この肝試しでトップをぶっちぎったからだとも……」
「本当!? それは大したモテご利益だね!」
 らんらんと目を輝かせ始めた歌菜とは対照的に、あははと乾いた笑いが夜闇にざわめいた。

 無数の明かりが、人の背丈ほども伸びた茂みの向こうへ消えていく。
 茂みには、数十ものけもの道が伸びていたため、あれだけいた参加者たちはあっという間にバラけてしまった。
「下見に来た時……こんなにけもの道があったかな……?」
 涼介は、クレアの頭を撫でてやりつつ首をかしげた。
 茂みに消えて行った参加者たちに手を振っていたクレアは、輝くような笑顔のままふと振り返る。
「ところで、みなさんはいかないんですか?」
 森の前に居並んだまま、牽制し合うように足を止め数人が、びくっと肩を跳ねさせた。
「ま……まあ、なんだ、焦っても仕方無いからな……なあ、レオン?」
 イリーナ・セルベリアが、クレアからふいと視線をそらした。
「む……まあ、そう言うことだ。まずは相手の出方を窺う。兵法の基本だろう」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフも生返事を返して、赤い隻眼をそむけた。
「おまえら、先に行ったらどうだ? そろそろいい頃合いだぞ」
「いや、我らは最後でいい。トップは狙っておらんからな」
 水を向けられた藍澤 黎が、端正な細面を横に振った。
「そうそうっ! オレたちは最後尾からみんなを助けるんだ! えっと、30センチの水たまりでおぼれた人とかっ!」
 エディラント・アッシュワースが、尻尾があれば振っているだろう陽気さで言って、
「いやいやいや、もう少し手広く助けへん? それやったら九割がたの参加者が見殺しやんか、なあ?」
 フィルラント・アッシュワースが背伸びして、エディラントの金髪を小突いた。
 眉根を寄せたレオンハルトは、最後にひとり残ったヴァルフレード・イズルノシアに目をやって、
「……先に行け」
 こめかみを押さえながらため息をついた。