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16 線路を動かす

 教導団のプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)は、線路の切り替えに苦心していた。
 事前の調査の結果だと、この分岐を切り替えれば、列車は空京ではなく、オークスバレーに向かうはずだ。
「闇組織も、強盗団も、みんな運んじゃおうね」
 接取したお金は、教導団第4師団の温泉開発資金に使うのだ。
 なんとしても成功させなくては!

 長い年月使用されていなかった、線路の切り替えレバーは錆びて容易には動かない。
 プリモはメイドのスキルをフル利用して、レバーの錆を落としている。
「やったぁ〜!」
 ぎぎっと音がして、レバーが動く。
 線路が切り替わった。

 離れた場所で光る炎が移動している。
「列車が襲われているのは、あの場所であろう」
 時々、機械音が暗闇に響く。炎が空に打ち上げられる。
 ジョーカーが軍用バイクにまたがった。
「行ってくるぞ」
 列車に向かってバイクを走らせるジョーカー。
 運転室に潜入して、無事オークスバレーまで列車を運ぶためだ。

 しばらくして列車が近づいてくる。
 列車は、プリモの思惑通り、分岐で大きく曲がり、教導団に向かって走り出した。
 しかし、運転席にいるのは、血だらけの顔をした若い男で、ジョーカーではない。
 列車が通り過ぎると、ジョーカーがエンジンをかけたままのバイクでやってくる。
 プリモを後部座席に乗せると、列車を追走する。
「列車内はひどい有様であった。潜入は危険だ。しかし、切り替えに気がつくものもいないだろう。列車はこのままオークスバレーへ向かうであろう」
 二人は危険を避けるため、列車を先回りして、オークスバレーへと急ぐ。


 ところが、もう一組、線路と格闘しているものがいたのだ。青 野武(せい・やぶ)は、交換のために犬釘を引き抜いたり枕木を抜いたり、あるいは転轍機を分解清掃したりして、線路の点検業務に汗を流している。
「ぬぉわははははははは!線路にもロマンがあるなぁ」
 野武は、仕事に没頭している。
 黒 金烏(こく・きんう)は、線路などには興味はない。しかし、野武の勢いに押されて、仕事を手伝っている。
 17世紀フランスで生まれ育ったシラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)は、線路そのものに興味がある。
「なるほど、ここはこのような仕組みで・・・」
 野武が外した枕木を手に関心することしきりだ。
 盛り上がる野武とシラノは、次第に、より大掛かりな補修に着手するようになる。
「少し、休憩するかのう」

 三人は、線路を離れて、荒野でお茶を飲む。
 金烏が、光精の指輪で三人の手元を照らしている。

 作業中、三人は、枕木に電車の振動を感じなかった。
 当然である。
 三人が作業していたのは、幽霊電車が走る空京へ向かう線路ではなく、別の支線なのだ。
 暗闇で、地図を読み間違えたらしい。
 遠くから、明るく光る列車が見える。
 時折、爆音が響く。
「あれが幽霊電車かのう」
 野武がお茶をすすりながら、光のほうを見やる。
「この時代の幽霊は華やかで」
 シラノも感心している。


17 中のもの

最終車両(5両目)
 様子見を決めていた長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)は、静かになった最終車両に潜入する。
 中は破壊尽くされ、ひどい有様だ。
「なんでこんなに破壊する必要があるんだ」
 アトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)は合点がいかない。
 倒された椅子を元に戻したとき、小さな隠し扉を発見する。
 中には金庫があった。扉は衝撃で開いている。開けてみると手紙が入っている。
 ヴェルチェに宛てたアグゥーニンからの手紙らしい。
 触ってみると、小さな鉱物が手に触れる。
「闇組織の悪党は、悪ふざけが好きらしいな」
 その鉱物は、地球では良くあるものだ。虎徹が探しているものではなかった。

4両目
 一度は列車内に進入した黒霧 悠(くろぎり・ゆう)瑞月 メイ(みずき・めい)だったが、スキルの「隠れ身」が殆ど役に立たないことに気が付く。
 物陰や座席の影は殆どが破壊され、敵味方の区別なく、その先に人がいようがいまいがお構い無しに銃が撃ち込まれていた。
 そうそうに一時退却した二人は、再び列車内の潜り込む機会を待っていた。
 人気のなくなった、4両目に乗り込む二人。
 座席の殆どは、銃によって穴だらけだ。
 一つ一つ丹念に見ていく。
「えと、…・・んと・・・・・・・・・・ん?」
 メイが1つの座席に前で立ち止まる。
「どうした?」
 悠が尋ねる。
 覗き込むと、この座席だけ傷がない。銃を跳ね返しているのだ。
 鍵をみつけ、ピッキングしてみると、中には、大きな古代遺跡の鏡が入っていた。
 とても持ち帰れない大きさだ。
 悠は鏡の横にある小さな箱に気が付いた。
 手に取る。
 そのとき、外で人の声がした。
 大鋸たちらしい。
 慌てて、列車から去る二人。悠のポケットには先ほどの箱が入っている。


運転室
 列車は進んでいる。
 そのとき、運転室で気を失っていた北斗が起き上がった。
「列車ごと、連れてゆくぜ」
 大きくハンドルを切る。
 ガタガタガタガタ・・・
 列車は線路を外れた。
 北斗の運転のせいではない。

 列車の側には、お茶を手にした野武と金烏、シラノが呆然と立っている。

 車内に残ったものに、大きな振動が来る。
「ドタン!」
 列車が止まった。
 バラミタの大地は、線路無しに列車を走らせるほと優しい土地ではない。
 車両は、大きな岩に乗り上げている。


3両目
 一番無残な有様になっている。バカラの社交場として贅沢な調度品で飾られていた車内は、カーテンは炎で焼かれ、わざわざ日本から輸入してきた高級木材のバカラテーブルも無残に打ち砕かれている。
 残った手下は、全て外に縛り上げられている。
 戦った王の仲間もいまはいない。
 残っているのは、朱 全忠(しゅ・ぜんちゅう)だけだ。
 彼は、操られた人々の戦いが始まったとき、屋根に逃げた。
「カラン」
 落ちている灰皿を蹴飛ばしながら、朱 黎明(しゅ・れいめい)が入ってくる。
「もう少し早く呼んでくれても。これじゃあ、廃墟だ」
 二人は敵味方双方に潜入し、利益を得るつもりだった。
 しかし、あまりに無茶な戦いで、参入する機会を逸してしまった。
「まあ収穫はある。見つけたよ」
 全忠が割れたテーブルの下からノートを出す。
「顧客のリストだ。バカラで幾ら換金したかまで詳細に書いてある」
「まあ、金目のものは、王に分けてもらうか。おい、顔出せ!」
 朱が全忠の顔を殴る。
 醜いあざが出来る。
「気絶してたってことにしようぜ。王なら信じてくれるだろ」


1両目
 レベッカは、もともと興味のあった古代パラミタの列車を見ている。
 無残にタイヤはもげているが、正面の装飾に大きな被害はない。
「つよく造られたのネ。それにビューティフル」
 レベッカは、一番のお宝はこの列車ではないかと思っていた。
 実際に眼にすると、その気持ちは強くなるばかりだ。
「でも、無理ネ」
 列車は、もう動かない。

2両目
 列車強盗に加担したものは、入り口付近のコンテナを開けて、みながっかりしていた。
 入っていたのは、現地に置き去りだったシャベルやら食糧や水、衣類などだ。アグゥーニンは、この輸送方法を今回で止めるつもりだった。
 今回は、現地においてあった生活用品を足を付かないよう、持ち帰る列車だったのだ。
 勿論、お宝もある。
 遺跡で発掘された調度品や鉱物、それらは一番小さなコンテナの中に収められていた。
「みんなで分けると、たいした取り分じゃないな」
 誰かが呟いている。

 戦闘に参加せず様子見を決めていた神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が合流して、列車内に入ってくる。
 一番奥にある、鍵の開いたコンテナに目を留めるエレン、中を覗いて愕然とする。
 小さな子供たちが、何人も何人も、集まっている。みな膝を抱えて震えている。
「大変だわ、なんてこと」
 エレンはその中の一番小さな子を抱き上げた。