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怪談夜話(第2回/全2回)

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怪談夜話(第2回/全2回)

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◆ 特殊講堂 4 ◆

「皆ー、クッキー焼いてきたから食べてよ」

 歩のその言葉に、座敷部屋の中で集まって緊張していた皆の顔が、少しだけ緩んだ。

(……うーん、やっぱり怖がってるなぁ)

 お嬢様たちの不安を取り除くのも一流のメイドのお仕事! 何とかしなきゃ!

「これ、真希ちゃんと一緒に作ったんだよー」

 クッキーを頬張る皆の顔を見ながら、歩が答える。

「え? あたし、お手伝いしただけだよ?」

「ううん、一緒に作ったんだよ」

 歩の優しい言葉に、真希はなんだか嬉しくなった。

「なにこれー? 本当、めっちゃめちゃ美味しいよ!」

 乃羽が満面の笑みを浮かべて、口を必死に動かす。

「止まらない〜美味しい〜……あっ、あたしも持ってきたんだ。、修学旅行で買ってきたお菓子!」

「うわ〜ありがとう!」

 真希が乃羽のお土産に目を輝かせた。

「あ、でも……いいの? せっかくのお土産……」

「いいのいいの! 和室でお茶会の開催だよっ」

「うん!」

 急に。
 二枚目のクッキーに手をつけていたエルシーが、笑い出した。

「ど、どうしたんですか? エルシー様」

「え? ううん。楽しいなぁと思って。皆さんと一緒に、お菓子やお茶を堪能できるなんて、幸せです。今日も素敵な1日です♪」

「…あ、あのぉ……エルシー様? 今日の主旨はご存知で?」

「もちろんです! ずっと一人で閉じ込められていたなんて…つらいです、可哀想です。あっ! 怪我の治療もしないと」

「…………」

 図書館へ行って「なる話」についてルミは調べてきた。
 もし新聞などに載っていたならば、情報を知った全員のもとに少年が訪れなければならない訳で──つまり、あの話は成り立たない。
 記録は見つからないし……真実であるなら、あれ程の事件が取り上げられないはずがない。
 少年の霊なんて出てくるわけがない。
 なのに──
 エルシーの言葉に、頭を痛めるルミだった。

「なんか……あの少年に対して優しく思えるって…いいね。確かにそう考えれば、ちょっとだけ、怖さも半減するような気がする」

 悠が、葵とエレンが準備してくれたお茶を飲みながら、感心した声を出した。

「ピアスさんに頼らなくて良い解決方法を考えよう!! 無駄な抵抗かもしれないけど……。だってあの人に聞いたら、また別の問題が起きそうな気がするんだもん」

 歩の言葉に、みんな大きく頷く。

「トランプしない? 遊んでいれば気も紛れるし、そのうちピアスさんから回避方法を聞いた皆がやって来て、何もかも無事解決されるはずだよ」

「そうですよ! ……でもボク、心霊現象だけはダメなんで、早く回避方法教えてもらいたくて、たまらないんですけど……」

 尻すぼみになりながら、翼が呟いた。

「翼? 何? 最初しか聞えない」

「い、いいえ。今日は女の子モードで可愛いですね」

「バっ……」

 翼の発言に耳まで赤くなりながら、悠は話をそらした。

「あ、え、ええっとぉ、あなた達もトランプやらない〜?」

 悠の視線の先には、何やら簡易コンロを設置して、今にも料理を作ろうとしているカレンとジュレールの姿があった。
 持参した食材は、イルミンスールの森で採ってきた食物。
 一見オーガニックっぽくて良い感じがするが、明らかに毒々しいキノコや正体不明の肉片など、食べられるかどうか謎な物ばかりが、畳の上に並べられていた。
 今からそれらを材料として、特製スープを作るらしい。
 ぶつ切りにしたそれらを、どこどこ鍋の中に投入していく。
 察しの通り、カレンは家庭の数値が低く、弱点もズバリ「料理が下手」だった。

「これはね、あの少年にあげようと思ってるんだ〜。お腹すいてると思うから。ねぇ〜ジュレ?」

「あ……あぁ、きっと…そうであろうな」

 なんだかひどく罰が悪そうに、ジュレールは答えた。どうやら他人のふりをしたいらしい。

「うわぁ、それはとっても素敵なことですねぇ」

 エルシーが側に駆け寄って、鍋の中を覗きこむ。

「……黒っぽくてドロッとして、濃厚そうですね。あれ? 少し酸っぱい匂いがします。赤ちゃんがミルクをリバース…」

「!!」

 慌てて、ルミがエルシーの口を塞いで、引き連れていった。

「濃厚? ……濃厚の域をはるかに超えている気がするが……」

 ジュレールの声は、カレンの耳には届いていなかった。
 鼻歌を歌いながらカレンは鍋をかき回す。

「余ったら皆にもあげるからね〜」

「…………」

 水を打ったような静けさ。
 そしてわざとらしい程の会話で聞えなかったふり。

「ふんふん〜♪」

 楽しそうだから……まぁいいか。
 ジュレールは小さく溜息をついた。

「──皆さーん、回避や撃退方法用意しましたー」

 襖戸が突然開いた。
 準備やら何やら徹夜状態でフラフラしている状態のロザリンドの顔は、一瞬お化けに見えた。

「お、遅かったね」

 ちょっとだけびくついた胸を押さえて、葵は言った。

「お茶、飲む?」

「いいえ〜。それより、さっき外で奇声を発している人達をみかけましたよ。あれ、なんなんですかね? けど、どうしちゃったんですか? この匂い。くっさいですよぉ? 皆さんも青い顔しているし、何があったんですか?」

「え…いや、えっと……」

 葵は目を泳がせて、視界に入ったエレンに救いを求める。
 エレンは葵の心の声を読み取って、首を横に何度も振る。

「?」

 ロザリンドは首を傾げたが、思い出したように手を叩いた。

「そうだ! 撃退方法ですよ! 身体に聖句を書いてゴーストから身を隠すやり方があったんです。手や足や額とかに聖句を皆さん書きましょう!」

 チョークに袋入りの塩に水性ペン、様々な国の魔除けの文字の見本を皆の前に出した。
 方角を調べて、床に巨大な五方星を描いて、扉とか出入り口には塩を盛る。

「後は、首にネギや額に梅干しとかもあるみたいですが、誰かやられますか? 出てきた時にはポマードと3回唱えると逃げるそうです」

 皆が真剣に聞き入っていたその時。

 ピシ!

「え!? い、今の音、なにっ!?」

 真希が悲鳴に似た声をあげた。

「あ、あんな話、本当のわけないよね……っ!」

 パシ!

「大丈夫! 所詮怪奇現象だよ」

 乃羽が、よくわからない内容で励ます。

「気のせい、気のせい……さっき教えてもらったポマードポマードポマード…効きますように!」

 平気なふりどころじゃない。
 悠と翼は手を取り合って神に祈った。

「エレン! ──大丈夫!? これは多分屋鳴りだよ。問題無いからね、ずっとそばにいるから安心して」

「あ、葵ちゃん〜〜〜」

 目に涙を浮かべながら葵にしがみつくエレン。

「あれはピアスさんが急遽作った作り話だよ〜。だから何も起きないって。気のせい気のせい」

 ぽんぽんと、優しくエレンの背中を叩く。

「そうだ、お茶でも飲む? ハーブティーもう一杯。落ち着くよ?」

「……っ!」

 ふいに。
 エレンの顔が固まった。

「え? 何?」

「葵ちゃん……」

「うん」

……きたい

「?」

「……に、行きたい」

「??」

「トイレに行きたいです! ついて来て下さい!!」

「わ……分かった…」

 エレンの激いに気圧されて、そう答えるしかない葵だった……