蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

リアクション公開中!

タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

リアクション


第二章 ドラゴンロード −弐−

 ――そして、あっという間に時は流れて、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)による味審査の当日がやってきた。
 場所は蒼空学園内に作られた特設会議場。
 熱気に包まれるキッチンの前ではマイクを携えた神代 正義(かみしろ・まさよし)が立っていた。
「皆さんこんにちは。キッチン前レポーターを務めるのはこの俺、教導団のヒーロー【パラミタ刑事シャンバラン】こと、神代正義です! ところで料●の鉄人の太田レポーターって、実は特撮にも出演してるって知ってました?」
 ……と彼は小ネタを披露しながら自己紹介を行うとキッチンに入り込み、実況を始める。
 もちろん、その映像は特設会議場に作られた巨大なスクリーンに映し出されていた。
 すると、その中であるコンビが白熱したラーメン制作を行っているではないか?
「審査員席ー。コチラはシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)さんのキッチンですが……。えぇー、一応聞きますが……これは何でしょうかね?」
 目を丸くする正義の前でシルバはチョコレートソースを入れたパフェグラスを取り出していた。

「よし、夏希。俺のラーメン道を伝えてくれィッ!!」
 シルバがそれをパートナーの雨宮 夏希(あまみや・なつき)に投げると、夏希はその器に冷水で充分に冷やした麺を入れる。
 そして、間髪入れずにバニラアイスを乗せると、生クリームを入れていくのだ。
 黒髪が良く映える白い衣装の彼女は調理の苦手なパートナーの手となるが、途中でチラリとシルバの方を見た。
 【カンナ様の使用人】と呼ばれ、タベルトには興味がないが環菜の為にラーメンを作るという動機がとても気になるが、恩人の為ならと夏希はラーメン(!?)を完成させていく。
 そして、ついにそのラーメンは出来上がった。
 チョコソース、バナナ、カラーチョコスプレー、どこをどう見てもラーメンには見えない。
「やった、これが俺のラーメンパフェだ!! これをカンナ様に捧げるぜ!!!」
 シルバはとても喜んでいたが、夏希はとても気になっていた。
(ソレをあの女に食べさせるの? ……いや、なんでもないわ)
 しかし、話すことが苦手な夏希は黙っている。
 それとも、環菜に対する嫉妬心からなのだろうか?

「いっちょやったるでー」
 そんな掛け声をかけながらテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は中華鍋を動かしだす。
 玉葱が飴色になるまで炒め、それを野菜スープの中に入れる。
 豆板醤を黒くなるまで炒めて、それを濃縮したスープに入れる。
「セリナ、器を準備して!!」
「はい、これですね」
 こちらも料理が苦手なロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は徹底して、パートナーのサポートに回っていた。
 そんな彼女が取り出したのは、中央に仕切りの入ったどんぶりだった。
「はいはーい、これで終りね♪」
 そして、テレサは決め台詞を言うと、出来上がったラーメンを高々と掲げた。
「完成しましたわ。題して、陰陽ラーメン!」
 ロザリンドとテレサのラーメンの味は如何に!?

 トントントントン……ザクッ!!?
(イタタ……またやってしまった)
 影野 陽太(かげの・ようた)は血塗れになった手に包帯を巻くと、次なる調理作業に移る。
 ボウルの中には色々な山からかき集めてきた沢山のキノコが入っていた。
 料理はかなり苦手だが、何度も試行錯誤してきたラーメンには積み上げてきた努力が宿っていた。
「チラリ……チラリ……」
 だが、自信のなさが取り得の彼にとって、周りの料理は気になる、気になる!?
(あぁ〜、あっちではラーメンがパフェになってる。こっちではラーメンに麺が入ってないよ……勝てないよ……)
 自信のブレが料理に伝わっていく。
 いやいや、頑張るのだ、陽太。
 君にも明日はある(たぶん……)。

 そんな陽太の後ろで慣れた手つきで料理を行っているのは【お料理上手なメイド娘】として、名高い朝野 未沙(あさの・みさ)だ。
「レッツ☆クッキング♪ 頑張って美味しいラーメン作っちゃうよ♪」
「賛成ぃ〜、レッツ☆クッキングなのぉ♪」
「賛成ぃ〜、レッツ☆クッキングですぅ♪」
 まるで、歌劇のように未沙はパートナーの朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)らと共同作業をしていく。
「下ごしらえは重要よ♪ 鶏ガラ、豚ガラもキッチリ処理しないと、良いスープに出来ないんだよね♪」
 未沙は歌いながら、たっぷりと煮込んだスープの中から豚肉を取り出して未羅に渡す。
「大きな具は私の仕事♪ 私は豚の角煮をつくるのぉ♪ お砂糖、お塩、お醤油、みりん♪ それをお酒でじっくり煮ちゃうのぉ♪」
 豚肉の美味しそうな香り、同時にゴマ油を充分に引いた中華鍋に予め塩抜きしておいたメンマを入れる。
 強火の油がメンマとみじんにした薬味、野菜をジュウジュウと炒めあげ、その香りが辺りを包み込んでいく。
「姉さんも未羅ちゃんもぉ、本当に楽しそうにお料理してますぅ! でも、最後は私の仕事ですぅ♪」
 未那の仕事は食器の出し入れ、道具の後片付けだ。
 料理に熱中する未沙らの使いやすいように道具をチェック。
 要らない物は洗い、次に要る物を出しておく。
 未沙が自作した麺は水分まで均等化されており、切ると鍋の中でパラリと広がるほどだ。
 そして、時間内に手際よく未沙達はラーメンを完成させていく。
「朝野印のラーメン完成♪」
 果たして、三人娘の評価は如何に?

 その隣では青く長い髪でフリルの服を着た可愛らしい女の子姿の月島 悠(つきしま・ゆう)が一生懸命(?)料理を作っていた。
 普段はシャンバラ教導団で冷静沈着に任務を遂行する悠も、制服を脱げば普通の女の子だ。
 しかし、料理に関しては銃やバイクのようにはいかないようだ。
「ラーメンってさ、麺を茹でて、スープに入れて、煮込めばいいんだよね……えっ? スープって自分で作るの!?」
(ドキドキ……ハラハラ……)
 彼女はパートナーの麻上 翼(まがみ・つばさ)が見守る中、見よう見まねでラーメンを作っていく。
「えーっと確か……おしょうゆに油を加えればいいのかな? 油がないから半合成油(バイク用)で良いよね。う〜ん、何か味がカオスだよ。たぶん、砂糖が足りないんだよね。大さじ一杯って、ヘルメット一杯分かな?」
 ドサドサと鍋に砂糖を注ぎ込む悠。
(うわぁ……悠くん、一度も自分で味見てないし(汗)。典型的な料理の出来ない人のリミットを越してるよぉ……)
 しかし、悠は気にせずに料理を続けていく。
「さてと、具は黄色い物が乗ってたっけ? 黄色い、黄色い……さつまいも!? それを包丁で……使いにくいから『コンバットナイフ』で切ろうっと! それにしても、料理って楽しいね。コレを機に少しずつ挑戦しよっかな!」
 ……悠くんのラーメン食べる人は頑張ってね。

 ゴオオオオオォッーーー!!
 恐ろしいほど煮立った地獄の鍋の中で、肉片どもが唸り声をあげている。
 熱い……ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)の周囲は恐るべし熱気に包まれていた。
「煮えろ、煮えろ!! これが自分のチャーシュ! コッテリ濃厚トンコツベアラーメンの具だぁぁっ!!! よし、マナはラーメンを作ってくれ!!」
「………………」
「お、おい? どうしたんだよ、マナ?」
 だが、そんな熱気に包まれるベアとは裏腹に、いつもは超仲のいい兄妹みたいなはずのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は氷のように冷たかった。
「……ボトルシップ」
「えっ?」
「私のボトルシップに水を入れたでしょ!!」
「えええっ!!?」
 ボトルシップ……どうやら、それがパートナーの心を凍てつかせてしまったらしい。
 ベアはラーメンの具のようにマナの心を煮え立たす事は出来るのだろうか?


 ☆     ☆     ☆


 ――と、ここで……
「えー、審査員席! 審査員席! こちら六三郎サイドの冷蔵庫前です。おぉっと、これはぁ……何をとりだしたんだぁ!?」
 レポーターの神代 正義(かみしろ・まさよし)がいきなり吼えた。
 それはもちろん優勝候補ナンバーワンであろう珍 六三郎のラーメンであった。
「な、なんと、このラーメンわぁぁぁ!!? なんだぁぁぁ!?」
「みんなが頑張ってくれたおかげで俺のラーメンが新しくなったぜ。これが幸楽園の新名物『超野菜ラーメン』だ!」
 珍 六三郎の最新メニューはリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)が探し当ててきた産地直送の有機野菜を余す事無く使った『超野菜ラーメン』であった。
 ラーメン一筋に生きてきた珍 六三郎の歯ごたえ充分なのだが、口に入れると蕩ける絶妙麺。
 そして、七瀬 瑠菜(ななせ・るな)ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)という二人の合作スープは新鮮でシャキシャキとした野菜のイメージを残しつつも、しっかりとした和の味を醸し出していた。
「いしゅたんもこの味ならグゥーなのだ〜!」
 さらにイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)による試食は万全。
「自分の隠し味も忘れないでよね!」
 さらに、さらに、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)の持ってきた怪しい木の実の中で、『ツァンダ薬物法違反』に引っかからないような木の実を天日干しした物を料理のアクセントとして利用。
 口の中でプチプチ噛み砕くと、極度の喉の渇き、大量の発汗、湧き上がる陶酔感、皮膚の間に虫がはいまわるような感覚が巻き起こる最高の逸品であった。
 そして、ミルディアを中心に円になると、皆でハイタッチをかわし、健闘を称えあう。
 どうやら、珍 六三郎のラーメンは完成したらしい。