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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

リアクション


第四章 演説

「聞きなさい、皆の者! 私の名前は一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)!! ドイツ出身、技術科所属、好きな言葉は『大義名分』!!」
 巨大スクリーンに映されたアリーセはシャンバラ教導団ばりの演説を行った。
「これはラーメンの審査でしたが、見たところラーメンは乱入者によって食べられてしまった様子……では……」
 しかし、生徒達はこの状況に困惑してヤジを飛ばす。
「お前は関係ないだろ!」
「そうだ! そうだ!! ちゃんと俺たちにわかるように説明しろ!」
 だが、シャンバラ教導団の生徒はこんな状況にも慣れたものだ。

「Ver●iss Dich! 撃ち殺すわよッ!!」

 シィーーーーンッ……
 もちろん、普段はこんな言い方はしないであろうアリーセだが、とんでもない言葉でこの場を制したのだ。

 そして、ついに壇上に御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が上がった。
 長く美しい金髪をかきあげて、サングラスの奥に潜む、鋭い瞳をさらに鋭くして生徒達に語る。
「状況がこうなったら仕方がないわね。【ラーメンの達人】は後日決めるとして、皆でタベルト・ボナパルトに挑戦しましょう」
「!!!?」
 生徒達に緊張が走った。
「私も気になっていたのよ。コレが……」
 それはタベルトに挑戦する意気込みを書いてもらった【用紙】だった。
 そこにはタベルトへの挑戦する数々の想いが書かれている。
「ここで審査をしたら、一部しか彼に挑戦出来ないわよね。それで貴方達は満足できるの?」
 挑発的な環菜の言葉……
 確かに一部のメンバーを除けば、目的は環菜でなく、タベルト・ボナパルトの討伐である。
「まぁ、私にとっては雑魚(ザコ)だけど、あなた達にとってはどうかしら? あの『太邊流斗倶楽部(たべるとくらぶ)』のオーナーに料理で挑戦する勇気はある?」
 環菜は生徒達を煽り続ける。
 そして、さらに言い放つのだ。

「私は『タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!』と言ったのよ! 出来ないのならここから帰りなさいッ!! これは私たちの味戦争よッ!!」

 一番後ろの席まで気迫が突き抜けた。
「や、やってやるぜ!!」
「オオオオオッ!!!!」
 辺りから歓声が上がる。
「私より目立つなんて許さないけど……まぁ、校長らしいわよね」
「フッ、茶番だな」
「標的は決まったようですね」
 鼻からそのつもりだった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)瓜生 コウ(うりゅう・こう)セシル・グランド(せしる・ぐらんど)らにとってはなんでもない事だった。
 しかし、そのシャンバラ教導団が舌を巻くほどの演説は、蒼空学園のトップに相応しい重々しい言葉であったようだ――


 ☆     ☆     ☆


「なかなか、蒼空の校長さんも気合が入ってるじゃねーか」
 【全日本番長連合総番長】のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は自慢の黄金のオールバックを整えながら言った。
 彼の目の前ではグツグツと煮立った鍋が置かれており、そこから豚骨ベースの濃厚なスープが吹き零れ、直火で焦げた良い香りが漂う。
「なかなか、美味そうじゃねーか。唐辛子と豆板醤とニンニクはまだ入れねーのか? おっ、美味いな、このハム」
 ラルクは冷蔵庫の中の食材を摘み食いしながらニンニクを探す。
 その間にも鍋からの吹き零れたスープが煙を吐き、その場はとんでもない事になっていく。
「おい!! 鍋の見張りもできねぇのか!!」
 そのとんでもない状況に気づいた彼のパートナーのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が怒鳴り声をあげた。
 気が付くと、鍋の周りに火柱が巻き上がっている。
「うおー! 何か火柱が……これ、やばくね? アチッ、アチチッ!!? うおおっ、消火器で消すぜ!!!」
「ちょっと待てィッ!!」
 ラルクの暴走には【肝っ玉】のアインもタジタジと言ったところだろう。

「みんな燃えてるな。じゃあ、メイも気合を入れて作るか!!」
「……えと、いっぱい食べた相手の人を笑顔にできるラーメンを作りたいよね」
 気合の入った黒霧 悠(くろぎり・ゆう)と共にノロノロと瑞月 メイ(みずき・めい)は動き出す。
「……んと、どんなラーメンが美味しいのかよくわからないけど、綺麗な物を入れたら美味しくなるよね。悠?」
「あ、あぁ……」
 前世は黒猫と云われた事のある悠は基本的なラーメンである『魚風味の醤油ラーメン』を作り始めた。
 調理の能力はあまりないが、ラーメンの本を読みながら作れば簡単だ。
「よし、大体原型が出来てきたぞ。じゃあ、味付けはメイに任せてと……」
「……ん、私、一生懸命頑張るね。チョコ、チョコ……チョコって美味しいよね」
 萌え少女のごとき仕草でメイは自分の好きなチョコと卵とマヨネーズを鍋に入れていく。
「……んと、甘くなるといけないからわさびとからしもね」
(ううぅ。こんなモノ食えるのか?)
 味見をするつもりはなかった悠だが、この怪しげな茶色い物体を食べる人間の健康も気になった。
 逆にもしかすると突然変異で美味しくなっているかもしれない。
 そこにたまたま赤月 速人(あかつき・はやと)が通りがかる。
 悠は彼を呼ぶと試食を依頼した。
「料理の真髄とは、半分は相手を思いやる優しさで作ることであるに違いない! ジャスティスッ!!!」
 速人はその怪しげな物体の試食を引き受けると箸を伸ばして食べたらしい。
「ぐえええええええェェェッツ!!!?」
 もちろん、突然変異など起こるわけがないのだが。

 タベルト・ボナパルトに美味いと言わせるには……
 そして、【古文科発掘部】の陽神 光(ひのかみ・ひかる)が選んだラーメンが、遺跡の中で発掘してきた器具を使ったラーメンである。
「私が通った跡に道が出来る! ……ってね♪」
 光は歪な形のわりに喉越しの良い麺を作れる製麺機に、とんこつなどのエキスを抽出するために骨を砕く粉砕機を取り出すと調理を開始する。
 もちろん、本当にソレらの道具がそのような使い方をするのかは不明である。
 考古学は奥が深い。
「……ひ、光。それちゃんと使えるのかしら?」
「えっ?」
 そんな光をパートナーのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)は心配そうに眺めていた。
 何事もそつなくこなすレティナの弱点はなんと料理。
 今回の彼女の出番はないと思われるようなプロフィールの持ち主であった。
 だから、レティナはフォローにまわるしかない。
「そのよくわからない緑の玉ねぎは……人間に害を与えないのかしら?」
「えーと、わかんない♪」
「その胡椒っぽい木の実は……本当に胡椒なのかしら?」
「大丈夫♪ 大丈夫♪」
 不安である。


 ☆     ☆     ☆


 対決に向けての暫しのインターバル。
 環菜はタベルトに電話をかけると、ルールの改正を申し出た。
 そして……とあるルール。
 『タベルトが美味いと言わない限り敗北はない』
 と念押しされ、彼は了承したという。