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晴れろ!

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晴れろ!

リアクション

 「よぉ、ナガン。調子はどーだ?」
 向こうから走ってきたのは、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)だ。勿論、パートナーのアリスミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)を連れている。
「面白そーじゃねーか!俺も!俺もやるぜ」
 ナガンが作り上げた椅子に、火術をうつ。
「何するんだぁ!」
 椅子を抱えて火を避けるナガン、手にした血煙爪をウィルネストに向ける。
「ウィルネスト・・何をする!!」
「何って、手伝いだよ。で、どこフッ飛ばせばいーんだ?」
 ウィルネストは、ナガンが何かを壊しにきたと勘違いしているらしい。
 取り囲んだ子ども達が、目をキラキラさせて、二人のやり取りを見ている。
「わー、ナガン、すごい」
 ミーツェは、ナガンが作った椅子を見ている。
 ウィルネストはここに居場所が無いことを悟ったようだ。
「なんだ、燃やすんじゃないのか。じゃ、俺、掃除でも。でも、掃除とか俺の性格に合わないよなぁ・・・」
 ナガンの無言の圧力に負けて、洞窟に向かうウィルネスト。

 洞窟内では、リリィとジョヴァンニイがリフォームをしている。
 といっても動いているのは、ジョヴァンニイだけ。リリィは大鋸の横で足を投げ出して、ときどきジョヴァンニイに指示を出すだけ。

「手伝いにきたぞー」
 ウィルネストが洞窟内にやってきた。
「掃除が似合わないといっても、俺とミーツェはメイドなんだよな」
 ハウスキーパーやランドリーなどのメイドスキルを使って、瞬く間に洞窟内を掃除してしまうウィルネスト。

 青空での絵画教室を終えたラスコーが子どもたちを引き連れて、洞窟に入ってきた。
「よし、かたくるしく考えなくていいぞ!」
 ラスコーが子どもたちに話しかける。
「じぶんの好きなこと、ほしいものやユメをどんどんかべにかいていこう。かくときはちいさくかいてはダメ、おおきくおおきく! せんもほそいより、ふとく力づよくかいたほうがいいぞ。そのほうがたのしい・・・」
 その言葉を全部聴いている子はいない。
 子どもたちは目を輝かせて、それぞれに、もう絵を描き始めている。

 リリィが叫ぶ。
「壁に落書きかぁ、楽しそうだぞ」
 ラスコーからクレヨンをもらうと、リリィも絵を描き始めた。
 大鋸の隣には、やっと一息ついたジョヴァンニイが座る。
「お前、大変だな」
 苦笑いするジョヴァンニイ。

 川沿いでは、石で囲まれたお風呂が出来上がっていた。川の水を火術を使って暖めたのだ。
 裸になった子ども達が次々とお湯に中に飛び込んでくる。
 温度が下がると、セツカが火術で暖めなおす。
「あいかわらずヴァーナーは人がいいですわね」
 セツカの独り言だ。
 子どもがお風呂から飛び出してくる。
「石鹸を使わないと綺麗にはなりませんよ」暴れる子どもを抱えて、「おとなしくしてほしいですわ(ごしごし)」と丁寧に体を洗っているセツカ。
 クレシダは、セツカの隣にいる。
「クレシダちゃん、そこのセッケンとって」
 セツカに言われて、手伝おうとするが。
「よいしょ、あっ(セッケンがつるりと転がってく)」
 まだ、生まれたばかりのクレシダは何も上手にはできない。
「いいわよ、あなたもお風呂に入りなさい」
 目を輝かせるクレシダ。
 ヴァーナーは・・・。
 子どもたちにせがまれて、クレシダより先に一緒にお風呂に入っていた。
 人目もあるので、タオルを体に巻いている。

「ここはよいとこ、いちどはオイデ、王ちぇーんそーがうなるぞ、やー。
 シーイーまほうも、ドババーン、ワルをたおして、孤児院つくるー。
 いけいけ、ぼくらの王園長ー♪」

 ヴァーナーが子どもたちと歌っている歌はオリジナルらしい。
 大鋸が聞いたら頭を抱えそうだ。
「園長?俺が?俺が??俺が園長だとぉ?」
 幸い、川は洞窟から離れている。可愛らしいヴァーナーと子どもたちの歌声は大鋸の耳には届かない。
 綺麗になった子どもたちは、ヴァーナーが持ってきたタオルを服代わりに巻きつけて、洞窟に向けて走ってゆく。
 その姿を見て、まだお風呂に入っていない子は、川に駆けてゆく。

「なんだ、きれいじゃん」
 百合園から集めてきたタオルを巻いて、簡易お風呂から戻ってきた子どもたちをみて、川村 まりあ(かわむら・ )は叫んだ。
「つか、これ、タオルじゃん」
 まりあがタオルを触ると、するするとタオルが落ちて、裸の子どもが現われた。
「何すんだよぉ」
 素っ裸の女の子が、まりあを睨みつける。
「何って・・・あんたたちの力になろうと・・・」
 タオルを拾い上げるまりあ。
「これは、リアの服だぜ、取んな!」
 リアと名乗った女の子がタオルを奪い取った。
「そっか、服かぁ・・・いいじゃん♪タオルの服、作って見よう、ね、うん、いいよ」

 天音とブルースが遊んでいた子どもたちも、少しずつ顔ぶれが変わっている。
 テアンは天音と夢中になっておはじきのオセロを遊んでいたが、風呂上りのピカピカの友達が気になる様子だ。
「テアン、君も行っておいで」
 小さく頷くと、テアンは川に向かって走っていった。
 天音の傍らでは、ブルースがせっせと子どもたちの髪を拭いている。
「・・・あぁ、ブルース。似合っているよ」
 からかう天音の言葉など耳に入らない様子で、ブルースは子どもの世話に掛かりきりだ。
 洞窟内は素晴らしく変貌していた。パントル・ラスコーの壁画制作はまだ続いている。
 室内は清められ・・・そして、なんといっても、ナガンの家具がアクセントになっている。
 イレブンが次々と、出来上がったナガンの家具を洞窟内に運んでいる。
 椅子のほかに、テーブル、タンスもある。荒削りだが、ちゃんと扉もついた実用品だ。

「ククク!ナガンの名を覚えておくがいい!」
 ハイテンションな叫び声が、外から聞こえてくる。
 ナガンの作業をずっと見ている男の子がいた。途中、お風呂に連れ出されたが、泡がついたまま、あっという間に戻ってきている。
「どうだガキンチョ!ヒャハァ!ナガン様の妙技とくと味わって酔いしれたか!」
 その子どもがあまりに大きく頷くので、普段は照れないナガンも少し決まりが悪い。
「ガキンチョ!、お前もナガン様のようになるか」
「おうっ!」
 それまで息を呑んで作業を見ていた子どもが始めて声を上げた。


3・古着のリメイク



 部屋が綺麗になって、子どもたちも風呂に入ったおかげで、洞窟はまるで別の空間のようになっている。
 さまざまな人が訪れる。
 洞窟の外では、ナガンが作ったテーブルを使って、子どもたちの服をフリマに出せる「品物」に直している。
 1つのテーブルではロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は子供たちの服を繕っている。
 百合園から持ってきた布を服にあいた穴にパッチワーク風に縫い付けてゆく。
 子どもたちに針の使い方を教えているのは、パートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)だ。
「ロザリー、ねえっ!」
 テレサが黙々と針を動かすロザリンドに声をかける。
「あの子、とっても面白いわ」
 テレサの視線の先には、小さな男の子。
 あまり布を集めて、縫い合わせている。縫い方はざくざくとして荒いが色彩のセンスが抜群だ。
「何作っているの?」
「帽子!」
 そう答えた男の子は、出来上がったばかりの帽子を目深に被った。
「名前を入れてあげましょう」
「名前?」
「そう、記念すべきあなたの第一作の作品です。あなたの名前は?」
「エナロ」
 ロザリンドは、帽子にタグをつけると男の子の名前を刺繍する。
「あなたにはものをつくる才能があると思います」
 ロザリンドはにこっと笑ってエナロを見た。
「布が残ったら、王さんとシーさんにも何か作ってあげましょう」
 頷くエナロ。
 ロザリンドとテレサの周りには、熱心に生地を切ったり、つたないながらも針で縫い仕事をしている子ども達がいる。

 蒼空学園で手芸部に所属している筑摩 彩(ちくま・いろどり)も針仕事はお手の物だ。大きな修復はロザリンドたちに任せて、可愛いアップリケを作っている。
 今縫っているのは、熊のアップリケ。布と布との間に細かな布の切れ端を押し込んで立体的に作る。
「くまさん、何を持ってると思う?」
「魚!」
 叫んだのはレッテだ。
「魚も素敵だけど、お花でもいいよね?」
 頷くレッテ。
 色とりどりの刺繍糸を使って、熊の手に大きな花束を持たせる。
「すげぇー」
 いつのまにか彩の周りには子どもたちが集まっている。
「手芸って面白いんだよ、今度ゆっくり教えるからね!」
 刺繍糸を不思議そうに手にとって見ている子どももいる。
「これは、そうだ、ここに付けようか」
 レッテの着ている服は膝までのワンピースで、右肩の生地が解けている。
「うごかないでね」
 チクチク、アップリケを縫いつける彩。
「この服、いくつのときから着てるの?」
 手を動かしながら聞く。
「ずっとだよ、ずっと。俺・・・今日は違うけどさ、いつもは寝るときに着るんだっ。これ着ると、いい夢見るんだよ」
「いい夢?」
「ああ・・・そうだよ、いい夢だよ」
 レッテの眼にじわっっと涙が浮かんでくる。
「ねえ、思い出の服は売らなくてもいいんだよ、あたしたちでいろいろ作るからね」
「いや、そんなに甘えるわけにはいかねーよ」
 傍らで聞いていたロザリンドの目にもうっすら涙がある。
「だいじょうぶよ、甘えても」
「おう」
 小さなレッテ、上を向いて答えた。

 別のテーブルでは、川村まりあが型紙を切っている。
 型紙を、体を拭いたタオルの上においている。イレブンが置いていったクレヨンで型を取るのは、子どもたちの仕事だ。
「タオルだしぃ、曲がっても気にしないよ」
 はさみを使い、クレヨンの沿ってタオルを切り取るのも子どもたちの仕事だ。
 まりあは、針と糸を持って、ざっくりとタイル生地のワンピースやTシャツを縫っていく。
 ロザリンドがマリアに話しかける。
「手伝いましょうか」
「うん、ありがと!」
「フリマで、この子たちにこの服着せない?カワイイしぃ、目立つじゃん」
 まりあは出来上がった服をリアに着せる。
「ちと地味?じぁあ、パッチワークつけちゃおう」
 まりあは器用にひまわりのパッチワークを作って、タオルのワンピースに縫い付けた。
「生地、たりないかもしれません」
 ロザリンドは、少しだけ残った生地を見ている。
「20人もいるんだしぃ、売るにしても、今着る服もいるしぃ」
 まりあも、タオルのワンピースの数を数えている。はやり人数分は無い。

「あら、遅れてしまったみたいだわ。もうはじまっていたのですね」
 バイクに乗った百合園の生徒神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が、やってきた。バイクの荷台には大きな箱がくくりつけられている。
「家庭科の生徒さんに掛け合って、いろいろ集めてきましたの。学校のものは上の方の許可が必要で、少し時間がかかりましたが、たくさん集まりましたわ」
 バイクの荷台から下ろした箱には、リネン類やシーツ、それに学校の授業で作ったエプロンなどが入っている。
「学校に寄付されたものや買換えが決まっている不用品なんです。百合園は贅沢ですわ」
 エレンは苦笑してる。
 箱の中には、手作りのぬいぐるみなども入っている。
 箱に群がっていた子どもたちは、そのぬいぐるみを手にとって抱きしめている。
 その姿を見ているエレン。
「フリマで売り出そうと思って、持ってきたのですけど・・・」
 一人の女の子が、ぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
「差し上げますわ、大切にしてくださいね」
 頷く女の子。
「かわりに、私と新しいぬいぐるみを作りましょう。縫い物などの技術は身につけておいて損はありませんわ。さあ、みんなでがんばって素敵なものを作りましょうね」
「それに・・・」
 ぬいぐるみを見つめる女の子に語りかけるエレン、
「ちゃんと自分たちで糧を得るために努力をすることは忘れてはダメですわ。まだあなたは小さいけど、いつか大人になるのですもの」
 女の子はエレンの隣に座り、こくんと頷く。
「名前を教えてくださらない?私、あなたたちとお友達になりたいわ」
「チエ」
「チエ、ではぬいぐるみを作りましょう。何がいいかしら・・・」
「リネン、生地足りないので、使っていいですかぁ?」
 ダンボールを覗いていたまりあが、エレンに話しかける。
「もちろんですわ」
 大多数の子どもたちは細かな針仕事に飽きてしまったようで、川辺に駆け出していった。
 テーブルには、数人の子どもが残って熱心に針を動かしている。
 皆、無言で作業している。
「こういう時間も素敵だわ」
テレサが独り言を呟く。
「本当に」
手を止めずにエレンが答えた。