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9・美味しいお粥



 とうもろこし粥の販売ブースは、ステージの左側にある。
 調理道具を揃えるのは一苦労だった。メイベルたちはあちこちに頼んで、やっと実現できたブースだ。
 ブースの上には、「味の競演!バラミタ名物とうもろこし粥!」の横断幕が掲げられている。
 バラミタとうもろこしは、地球のとうもろこしとは異なる。
 トウモロコシによく似た植物だが、トウモロコシ以上に豊富な油脂を取り出すことができるうえに、繊維からはプラスチックのようなものを作ることも出来る。
 食用としてより、燃料として注目されている植物だ。
 味は、美味しくない。しかし、どんな食材でも工夫次第で美味になるはずだ。

 「味の競演」とあるように、ブースには様々な味付けのとうもろこし粥が並んでいる。
 それまで興味があるものの素通りしていた観光客は、ショーを見て「とうもろこし」に関心を持ったようだ。
 それに、この会場には、ミルディアの作るマドレーヌ以外には、この粥以外食べ物がないのだ!
 お昼を回ってお腹が空いてきたのだろう、ブース前には列が出来るようになっている。

 シー・イーが昨夜から夜を徹して仕込みをしたとうもろこし粥は、大なべに作ってある。

 「上質なメイド服」を着用して、粥を売っているのは、軍用バイクに料理器具一式を持ってやってきた教導団の夏野 夢見(なつの・ゆめみ)だ。
 てきぱきと作業をこなしている。
 基本はシー・イー特製のとうもろこし粥だが、塩抜きしたザーサイや刻んだ葱、ラー油などを混ぜた具などを添えて中華風にアレンジしている。

 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、『腕の良い料理人』と呼ばれている、心やさしい料理人だ。
 ベアトリーチェが作るのは『牛乳とうもろこし粥』だ。とうもろこし粥に牛乳・塩・コショウを加えてコーンクリーム仕立てにしている。
「これなら安く簡単に作れますし、温かいコーンクリーム仕立てなら、寒い季節にはピッタリだと思うのです」

 料理はド下手で、食べられるのはよほどの味音痴な人だけというパラ実の泉 椿(いずみ・つばき)も、粥ブースを手伝っている。
 作るのは、勿論、上質なメイド服をきたアリスミナ・エロマ(みな・えろま)だ。昆布だしに焦がした種モミで香りをつけるなど、パラ実らしい工夫している。野菜くずを使ってサイドメニューも、くずとは思えない出来栄えだ。

 夢見は教導団、ベアトリーチェは蒼空学園、ミナはパラ実とそれぞれ所属は違うが、すぐに意気投合した。準備の段階から、それぞれの粥を味見したり、作業を手伝ったり、仲がよい。

「俺はよ、ベアトリーチェの粥がいい!すっげーうまい!」
 レッテは味見のときから、牛乳粥に夢中だ。
「また作りにきてれよ、絶対だぞ!」
 ミナと夢見のお粥は、どちらかといえば大人向きの味付けで、レッテに言わせると、
 夢見の料理は、「口から火が出るッ!」ミナのは、「俺はいくら旨くても、野菜が嫌いだッ!」とぶつぶつ言っている。
 しかし、大人には評判が良い。
 味の無い粥と中華食材を組み合わせた夢見の粥は、地球人に大人気だ。
「塩分と油分のバランスが絶妙」なんだそうだ。
 ミナの料理も「懐かしい優しい味」と評判がいい。
 実は、ミナはもう1つのメニューを用意している
「すっぽんスープは高価ですし、子供には早いですが、裏メニューとして用意してありますの」
 接客要因の泉が、それっぽい客の耳元でそっとささやくと、殆どの客は「すっぽん粥」を注文する。これの売り上げが馬鹿にならない。
 先ほどまで手伝っていた子どもたちはステージを見に行ったきり戻ってこない。
「子どもだよ、遊ばせてやろうぜ。接客はあたしたちで十分だろ」
 椿がいう。
「安くてあったまるお粥、美味しいよ!」
 牛をイメージした白黒まだら模様のミニワンピを着て接客中の美羽が、夢見に話しかける。
「夢見さん、手際いいですね」
「そおかな?」
 夢見はお客さんの注文に合わせて、サルサソースやパプリカなどを使ったメキシコ風の裏メニューも出している。
「夏野家の家訓は、商売人は、お客様の前ではノンポリシーであれ、なのよ。あれこれ主張するよりもお客さんに喜んでもらいたいの、それに・・・あたしメイドだし」
 お客さんが、やってくる。
「あ、いらっしゃいませ!」
 はっきりとした声と笑顔で接客する夢見。
「それにしても、ダーくん、どこにいるんだろ?」
 美羽はまだ、王大鋸にあっていない。
「変装しているだろ?よっぽどうまく化けたんだなっ」
 客の要望を聞いて、粥にケチャップで絵を描いていた椿が感心したようにいう。
「うしのきぐるみなんだよ、目立つと思うんだけど・・・」
 美羽は周りを気にしている。
「あたしちょっと、出てもいいかぁ?姫宮和希に土産買う約束してるんだ。ついでに王も探してやるよ、すぐ戻ってくるよ」
 椿は、メイド服のまま、人ごみの中に消えていく。

 シー・イーが作った特製とうもろこし粥を工夫して売ろうとしている三人とは別に、もうそのまま売ってしまおうとあれこれ画策しているのは、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)だ。
ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)と共に少し遅れてきたジュリエットは、「口八丁手八丁で「トウモロコシ粥」そのものを売り物にしてみせますわ!」と意気揚々だ。
 搬入出に使っていた台車付のワゴンを使用して、移動しながら粥を販売することにした。
 まず会場中ほどにワゴンを設置する。
 ワゴンには、
 「低カロリーでカロリー当たりのミネラル豊富!ダイエットに最適」
 「あっさりした味付け、高血圧の方でも大丈夫」
 「完全有機栽培!農薬等はいっさい使用しておりません」
 「遺伝子組み換え作物は使用しておりません」
 などのPOPが貼られている。
 三人とも百合園女学院の制服を着用している。身なりは小奇麗だし、容姿も魅力的だ。どこぞの有名店スイーツが売ってそうなブースが出来上がっているが、実際には、薄い塩味の「とうもろこし粥」のみの販売だ。

 ジュリエットは道行く人の中からいかにも金持ちな紳士にめぼしを付ける。
「とても体によいお粥ですの。今日は特別価格ですのよ」
 そっと腕をとると、そのままブースに連れてゆく。
 言われるまま、ついてくる紳士。粥を一口食べるが、「まずい」吐き出してしまう。
「不味いものこそ、真に体に良いものなのですわ」
「そうか・・・」
 言われるまま、再度食べ始める紳士、しかし、不味い。

 パラ実の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が、あちこちのブースを冷やかしながら歩いてくる。
 アンドレがワゴンの前で、「天然でーす」「素朴でーす」「大地の味でーす」と道行く人にセールスしている。

「食ってみる?」
「んー」
 悠司の問いかけにレティシアは気乗りしない返事をする。
 いつのまにか、悠司の腕をジュリエットが掴んでいる。
「どうぞ、とても体にいいお粥ですの」
 そのまま、ワゴンまで引きずられてゆく悠司。
 一口、食べるなり「不味くはねえけど、なんか、俺、これ、いつも食ってるし・・」
 パラ実の悠司は、シー・イーの料理になじんている。
「それもそうですわね、あちらに味付け組もおりますわ。ジュスティーヌ、案内して」
「いいよ、俺たちだけでいける」
 そうそうにワゴンを後にする悠司。
 悠司が食べている姿に興味をもったのか、次々と観光客がワゴンに押し寄せる。
「これは、米のとぎ汁か?」
「喉につかえる」
 などのネガティブな意見ばかりが続くが、ジュリエットは全く気にしない。
 面倒な客は、ジュスティーヌに押し付け、客引きに向かう。
「こんなものに金を払えない!」
 ぶつぶつ文句をいう客がいる。その客の頬を優しく両手で包むジュスティーヌ。
「ええ、子供たちが普段どんなものを食べているか知っていただきたかったのですわ、だって、チャリティの催しなのですわ。」
 客の波が引く。
「移動しましょう」
 ジュリエットは、通りに異変が起こるのを見ていた。
 道行く人が、左右に割れてゆく。真ん中を歩いてくるのは、変熊仮面だ。
「いい殿方を見つけましたわ」
 ジュリエットの一言で、アンドレが、変熊の腕を引っ張ってくる。
「なんだぁ、なんだぁ」
 暴れる変熊に、
「あなたが歩くと、まるで王様が通るように道が開きますのね。お願いがありますの。このワゴンの移動を手伝ってくださらない?」
「お、お、おっ、わかった!わたしにまかせなさいっ!」
 ワゴンを引いて歩き出す変熊。
 人々が、ワゴンを見ている。
 少し離れて歩くジュリエットたち。
「貧困を見世物にするようで辛いですわ・・・」
 ジュスティーヌが呟く。
「偽善も善ですわ」
 ワゴンには金持ち然とした客が寄ってきている。
「普段は美食にこだわる殿方も、健康の一言で、貧しい粥を有難がるのですわ」
 ワゴン運びから開放された変熊は、再び、人々を分けながら彼方に消えてゆく。


10・再びステージにて



 ステージから音楽が流れてきた。
 マイクを持って立っているのは、はるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)だ。
「デビューシングルを歌います。聞いてくださいっ!」
 ショートカットで、細身のらいむは男の子のようにも見える。
「歌手なんだ・・・」
 まだ最前列に居座っていたレッテが驚いたように声を上げる。
「歌手って見るの初めてだっ!」
 らいむの歌声に合わせて、リズムをとる子どもたち。
 いつもらいむをサポートしているパートナーのみなつき みんと(みなつき・みんと)は少し離れた場所から、らいむを見ている。
 徐々に増えてくる観客にほっと一息つく。
 すぐ側にある、孤児たちの展示ブースへ足を向けるみんと。
 そこには、孤児たちが手作りしたぬいぐるみやバッグが並んでいる。
 綺麗な色の帽子を手に取るみんと。鮮やかな配色はステージでも映えそうだ。
「これ、下さい!」
 その声を聞いて、ステージに夢中になっていた子どもたちから、男の子が一人走ってきた。
 この帽子を作ったエナロだ。
「ありがと!俺が作った!」
 エナロは、帽子が気になって、どこにいても売り場から目を離さずにいた。
「買ってくれて、ありがと!」
 搾り出すような小さな声で、お礼をいう。
「こちらこそ、らいむの歌を聴いてくれてありがとう」
 ステージでは歌が終わって、らいむの握手会が行われている。CDを売っているのだ。
「俺も握手してくる!」
 エナロはステージに駆けていった。