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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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その7 思い出すのは思い出と絆





「ザインさん!?」
「む、アイン様ですね」
「今日は制服姿なんですね」

 燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)はラグナ アインから声をかけられても食べる手を休めることなく、一つの大皿をからにした。神野 永太(じんの・えいた)は周りに頭を下げながら、自らのスキルを使用してアリア・セレスティと共に飲み物や食事の補充を行っていた。

「……ルーノ様が、歌を知っていると聞いたので、足を運びました」
「歌? ああ、あの歌ですか」
「ええ。可能なら、あの歌について聞きたいと思いまして」

 燦式鎮護機 ザイエンデの言葉に、如月 佑也の所から戻ってきたルーノ・アレエが「あの歌の話ですか?」と話に入ってきた。

「あれ? 佑也さんは?」
「御礼を伝えておきました。ばらしたのではないということもちゃんと」
「それで、歌の話とは?」
「皆さんにお話しておこうと思いました。せっかくのお茶会の席ですが、私に残っている記憶についてお話しようと思います……いいでしょうか? ロザリンド・セリナ」

 紅茶をすすっていたロザリンド・セリナに促すと、彼女は一つ返事でテーブルを一つ空けて話し合う場所を用意してくれた。

「実は、あの歌……本当は歌詞はないんです」
「どういうことですか?」
「あの詩は、エレアノールの部屋で見つけた詩集に書かれていました。メロディーと韻があうので、勝手に歌詞にして歌っていました」

 気がつけば、誰もが談笑をやめてその輪の中に入っていた。長い話を語りだしても、どれもが彼女が百合園女学院にて発見されたその日以前は、ほとんどおぼろげにしか覚えていないようだった。

「分からない方のためにも、コレにまとめてみました。今のお話も、こんな感じで間違いないでしょうか?」

 ロザリンド・セリナの言葉に、ルーノ・アレエは頷いた。


 ・砕けた記憶の眠る晶石
(ルーノがはじめて百合園に現れた。彼女は気がついたら百合園にいたこと、記憶が混乱しており、かつ言語機能にも障害が生じており、会話が困難だった。そして鏖殺寺院の非道な行為を欠けた記憶の中で思い出し、遺跡の中を破壊して回ったことを伝える。そのときの逆さ言葉がきっかけで今の名前である。エレアノールとはアーティフィサーのヴァルキリーで、一から機晶姫を作り上げることができたのだという)

「とても優秀なアーティフィサーだったと聞きます。一から作る技術は既に失われていますが、鏖殺寺院として働かされていなければ、きっと良い技師として名を残したでしょう」
「そうかぁ。いいなぁ。そのときに逢いたかった」

 朝野 未沙は残念そうに呟いて紅茶に口をつける。

「ルーノちゃんと始めてあったときのお話だね」
「なつかしいなぁ。あたしは救護班やってて戦ってなかったけど」

 秋月 葵とミルディア・ディスティンは感慨深げに呟いた。アリア・セレスティも飲み物を新たに配りながら「魔獣はこのときも、この後もずっと徘徊してるんだよね」とため息混じりに言い放つ。


 ・目指すは最高級! 金葡萄杯!
(ルーノが自分にかかわりがあるかもしれないと思い参加した武術大会。金色に光る物質、という安直な考えでこの大会を知り、それが結果機晶エネルギーが凝縮したからかもしれないという仮説が成り立ち、自分とかかわりがあるかもしれないと思うわけなのだが、結果その金葡萄が生まれたきっかけにまでは行き着かなかったということを伝える)


「ふふ、私が夜なべして例の物を作って披露した時の話ですね」
「恥を晒した日の間違いだ」

 リア・ヴェリーは帯で縛り上げた明智 珠輝を見ないようにしながら言葉を返した。



 ・空に轟く声なき悲鳴
(消えた機晶姫たちと、自分への脅迫状をすなおに受け取って結果、友人達の大切さを学んだということをまず伝える。あのオルゴールは破壊されてしまったが、逆さに歌うことであの歌にそんな機能があるとは知らなくて驚いていた。そのついでに、歌の由来はエレアノールが口ずさんでいたメロディーに彼女の部屋で見つけた刺繍に書いてあった詩を重ねた。なので、厳密にはあのメロディーはあの歌詞がついているわけではない)


「なら、私たちで新しい歌詞をつけませんか?」
「……いいと思います。アイリス様」

 アイリス・零式の言葉に、燦式鎮護機 ザイエンデは表情には出さないが嬉々とした発音で答える。さっそく、と何人かで集まって紙とペンに歌詞の案を書き出していく。


 ・絶望を運ぶ乙女
(人形が歩き回るだけで連れて行かれたが、友人達のおかげで心強かったことを語る。ニフレディが遺跡の中で見つかった。イシュベルタ・アルザスも生きていることがわかる)



 ぼさぼさの黒髪をかきむしりながら、篠宮 悠(しのみや・ゆう)は話を整理しながら渡された時系列や相関図をみて唸っていた。口を開こうにも、自分は今までこの事件に参加したことないし、と悶々としていると、ピンク色のセミロングをかきあげながら、小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)が問いかけた。

「この、ニフレディル、さんでいいのでしょうか。彼女は悪い方ではなさそうですが、引き合わせてみるというのはいかがでしょうか? この推測が正しければ、エレアノールという彼女たちの親御さんにあたる方なのでしょう?」
「うん。取り戻したいってのは、わかるのよ。確かに親みたいなもんだし、事実イシュベルタ・アルザスってのは兄みたいなものでしょ? でも、それが他の目的とごっちゃになってるのが問題なの。私たちの意向としては、鏖殺寺院を名乗ってる爺さん達を引き離した上で、話し合いがしたいのよね」

 伏見 明子が「合ってる?」と問いたげにロザリンド・セリナに視線を向けると、彼女はゆっくりと頷いた。

「イシュベルタ兄さんが『想いを込めるとかなう』といって、あのエネルギーの結晶をおいていったんです。だから、姉さんに逢いたいって想いを込めて、お人形さんにつめたんですよ」
 
 ニフレディの言葉に、影野 陽太は驚いたように口を開いた。

「では、もしかしてあの機晶エネルギーを加工したのはイシュベルタさん?」
「そうかもしれないな、アルザスは魔法を使う」

 緋山 政敏は小さいながらもはっきりと呟いた。長い話を終えてか、ルーノ・アレエは深く息を吐き出した。比島 真紀は彼女に紅茶を差し出しながら、「お疲れ様」と声をかける。

「ありがとうございます」
「知らぬ間に、そんなに沢山の事件に巻き込まれていたとは」
「いえ、私としては……皆を巻き込んでいる。そう思う」

 そう呟いたルーノ・アレエの額を小突いたものがいた。影野 陽太のパートナーで魔女のエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)だった。緑色の瞳は強い光が宿っていた。

「だめですわ。せっかくコレだけ沢山の人があなたのことを心配して、想って、大事にしてくださってるんです。返せとはいいませんが、関わったことを否定してはいけませんわ」
「わたしたちも、おにーちゃんからお話しか聞いていないけれど、あなたを護った人たちの想いはわかる気がするよ」

 青い綺麗な髪を耳にかけながら、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)も微笑みかけた。その言葉を聞いて、ルーノ・アレエは大粒の涙を赤い瞳からこぼした。まるでパートナーたちがなかせたみたいに見えた影野 陽太はあわててハンカチを差し出した。受け取ったルーノ・アレエの顔は、くしゃくしゃになりながらも口元は微笑んでいた。

「私、こんなに沢山の友人に囲まれて、幸せです」
「もっともっと、これから幸せになるよ」

 声をかけたのは、五月葉 終夏だった。そして、ディオネア・マスキプラがにっこりと笑ってルーノ・アレエのそばに駆け寄る。

「四葉のクローバーって知ってる?」
「四葉?」
「地球に生えている植物だ。テーブルにも少しその花を置いてあるんだが」
「こんな葉っぱだよ」

 ニコラ・フラメル、霧島 春美がそれぞれそのクローバーを樹皮で固めたペンダントを持って現れた。4つのペンダントのうち、二つはルーノ・アレエとニフレディの首にかけられた。それといっしょに、三人で作ったシロツメクサで作られた花冠も二人に贈られた。

「四つ葉のクローバーの花言葉は、「Be Mine」(私のものになって、私を想ってください)なんだ。でも、これ、葉っぱにそれぞれ意味があるんだよ。一枚はFame(名声)、一枚はWealth(富)、一枚はFaithful Lover(満ち足りた愛)、一枚はGlorious Health(素晴らしい健康)……」
「それぞれの葉に願いがかけられ、四枚そろってTrue Love(真実の愛)を表すんだ」

 自慢げに解説をするディオネア・マスキプラと五月葉 終夏の言葉に、ルーノ・アレエは首をかしげた。それを見てくすっと笑ったのは伏見 明子だ。

「名声とか、富って難しい言い方しているけど、友達って何よりの宝って言うのよ。貴方にとって、それがいつも満ち足りていますように……そんな意味よね?」
「そう! だから、そんな風に泣いたりしないで、もっと笑って?」

 霧島 春美が笑顔を向けて冷えたお絞りでルーノ・アレエの腫れてしまった目をぬぐう。

「今日だって、皆……ニフレディちゃんのためでもあるけど、ルーノさん自身に笑ってほしくって集まったんだよ?」
「おう。俺様は雪国ベアだ。おまえら、何か困ったことがあれば俺に相談しろよ。俺様が3秒で解決してやるぜ!」

 かわいらしい声でそんな台詞が聞こえたのに驚いて、ルーノ・アレエが振り返ると、そこには金色のマフラーを巻いた雪国ベア人形がいた。動かしていたのは、ソア・ウェンボリスだった。緋桜 ケイが持っているのは、目つきが少しきつめの銀色のマフラーを巻いた雪国ベア人形だった。

「これ、この間の人形の友達にしてやってくれよ。ルーノたちみたいに、もっと友達が増えていくように、さ」
「わらわはあの人形用のドレスじゃ。着せ替えを楽しむような年齢ではないかも知れぬが、此度のイベントで貰ったように、あやつらにも服がほしかろう?」

 悠久ノ カナタがラッピングした紙袋を差し出した。金色のリボンがついた袋の中には赤いドレス、銀色のリボンがついた袋の中には黒いパーティドレスがあった。さらにもう一つの袋を差し出しながら、自慢げに鼻を鳴らした。

「時間が合ったので、各学校の制服も作っておいたぞ。百合園はもうあるじゃろうから、他のをな」
「ちなみに、クマのほうのマフラーは俺様のお手製だ。大事にしろよ」

 本物の雪国 ベアは胸を張って自慢げに言い放つ。そうすると、リリ・スノーウォーカーが細長い箱を二人に差し出した。中には彼女お手製のネックレスが入っていた。金のプレートにクリスタルがはめられたものと、銀のプレートに同じくクリスタルがはめ込まれたもので、それぞれルーンが刻まれていた。少々いびつな風がぬぐえないが、手作りであるというだけでルーノ・アレの胸には篤いものがこみ上げてくる。

「一つは【麗しき】、一つは【清らかな】と刻んであるのだ。御伽噺と同じ二つ名を刻んでみた。このクリスタルは機晶エネルギーを探知するようになっているのだ」

 その説明を受けると、確かにルーノ・アレエが手にするとクリスタルが金色の輝きを放った。小さな光ではあるが、他の機晶姫が触れても何の反応も見せないことから、彼女の機晶エネルギーの強さを今一度思い知らされる。

(機晶エネルギーが強ければ強いほど光り輝く。もし、暴走すれば――――)

 心の中の自身の呟きに、黒髪の少女は長い睫を伏せた。その哀しい表情を払拭するように、ユリ・アンジートレイニーは春物の手編みのショールを二人にプレゼントする。そして、ララ ザーズデイは自身が持ってきた白い箱をあけ、中から赤いサドルシューズを取り出してニフレディの前においた。サドル部分は黒になっている。であったときと同じように、ニフレディの前にひざまずくと靴を片方ずつ履かせる。立ち上がらせると、ニフレディはくるっとターンをして一同にお辞儀をした。

「うむ、レディはそうやって優雅出なくてはならないよ」

 照れくさそうに微笑むニフレディは、あ、と言葉を漏らすが、何かを考え込んでだまってしまう。
 今度はエメ・シェンノートが二つの箱を用意してルーノ・アレエの前に立つ。

「皆さんにはマドレーヌを焼いて、そちらに並べてあるのですが、これは、遅ればせながらのホワイトデーの贈り物です」

 そういって、真っ白な箱を差し出す。ルーノ・アレエが箱を開けると、中には兎の形をしたチョコレートケーキがあった。渡したチョコレートはこんなに手の込んだものではなかったので、ルーノ・アレエは困ったような表情をエメ・シェンノートに向ける。

「エメ、これでは私はいただきすぎです。私が差し上げたのは」
「ホワイトデーは三倍返し、といいますし……ルーノさんからのプレゼント、とてもおいしくいただきました。本当ですよ? とてもおいしかったです」

 その言葉に、ルーノ・アレエは箱を丁寧にテーブルにおいてから、エメ・シェンノートにハグをした。耳まで赤い紳士、エメ・シェンノートは思わず固まってしまった。

「え、え、あの」
「なんだか、胸がたまらなく苦しい……でも、それ以上にうれしい。ありがとう、エメ」

 胸の高鳴りが鳴り止まない中、なんとか声を絞り出してもう一つの箱をニフレディに差し出した。「あ、あ、ええと、ニフレディさんにはコレを……」といって差し出した箱の中には、菜の花を模したイヤリングがあった。

「耳を飾るものは、まだなかったですよね」
「ありがとうございます!」

 夜霧 朔はすっかり気に入ったらしいコーヒーのお代わりをニフレディに勧めていると、辺りを改めて見回した。彼女たちが機晶姫だからと言うのもあるが、こんなにも同胞が集まる機会はそうないかもしれない。そう思って、口を開いた。

「交流のない教導団と百合園で、お会いする機会は少ないかもしれませんが、私たちは同族です。いつか、機晶姫だけのお茶会というのも楽しいかもしれませんね」
「ああ! それいいかも。それだったらアーティフィサーも交流して、機晶姫の修理について語り合うとかいいかも」

 青い巫女服を着た夜霧 朔の言葉に、朝野 未沙は食いついて学校にこだわらず楽しめるお茶会を話し合っていた。ララ ザースズデイは感慨深げに呟いた。

「我々は作られたものだが、こうして話しをして、時を同じく楽しむというのは、いつも貴重なものだな」
「ララさん……はい。これからも、いろんなことを教えてくださいね」

 にっこりと微笑みかけてきたまだまだ幼いレディの言葉に、白の姫騎士と称される機晶姫は柔らかに微笑んだ。