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リアクション
その8 想いは言葉を変えて
フィリッパ・アヴェーヌとセシリア・ライトが飲み物とクッキーを警備する二人に差し入れていたとき、庭園に招待状を持たない生徒がかけてきた。
「あら? どうされたんですの?」
「ルーノさんに荷物です」
「え? 今?」
「はい……ただ、差出人の名前がなくって……」
「……これ、差出人不明ってどういうことですの?」
「魔法で送られてきたので、詳細はわかりませんが……とにかく、お二人に渡していただけませんか?」
「わかった。安全が確認できれば、そうする」
百合園女学院の生徒が持ってきたのは、確かに差出人不明の小包だった。警護に当たっているナコト・オールドワンとシーマ・スプレイグは小包をできる限り外部から調べるが、特に爆発する様子はなかった。二人は顔を見合わせて、包みを開いた。中身を見て、すぐに主人である牛皮消 アルコリアの元へと駆け出していった。
「やれ、あさましや……そなたは貰うばかりかの? 返せるものが何もないにせよ、言葉だけというのはのぅ」
ロゼ・『薔薇の封印の書』断章は、退屈そうにあくびをしながらそう言い放った。凛とした声は会場内に響き渡り、むっとしたものもいたが、そこへ燦式鎮護機 ザイエンデ
とアイリス・零式が新しい歌詞を書いてルーノ・アレエに渡していた。それを見たユリ・アンジートレイニーがニフレディに耳打ちする。ノーン・クリスタリアも参加し、彼女がタンバリンを取り出すとリズムを刻み始める。
ニフレディはすうっと深く息を吸い込んだ。澄んだ歌声は、ルーノ・アレエよりも天空に響き渡りそうだった。
「〜〜♪♪
風と生きる空の下、天が優しくあなたを包む
川の流れをわたっていけば、海にたどり着く
日が落ちれば、星が流れる
光が差して、空に上ろう
愛しい人と、想いを護ろう
あなたとともに
皆と戦うことをきめた
あなたの歌は癒しの音色
私の詩が届くよう願う〜〜♪♪」
もう一度メロディを繰り返すと、次からはそのメロディを知る百合園女学院の生徒達や仲間が声を重ねていく。アイリス・零式や燦式鎮護機 ザイエンデもその澄んだ歌声を重ねて歌う。
「……そういえば、アルザスを一度倒したときにも、こうしてみんなで歌ってたな」
「でもあの時と、今ではこんなにも違う。ルーノさんが、とてもうれしそうです」
緋山 政敏の言葉に、カチュア・ニムロッドは言葉を返した。歌を終えると、拍手が沸き起こり、ロゼ・『薔薇の封印の書』断章はくす、と遙遠に口元を歪めた。
「まぁ、あの歌なら返すに値するであろう」
「素直じゃないんですから」
ユリ・アンジートレイニーがくすくすと笑っていると、ようやくまた、和やかな雰囲気でのお茶会が再会された。アイリス・零式とホワイト・カラーは大成功の様子に大喜びの声を上げていた。
「素敵な詩に仕上がってよかったですね」
「本当に良かったであります!」
「ええ。気に入ってもらえたようで、本当に良かった」
歌を作り、披露することができて満足そうに笑っている燦式鎮護機 ザイエンデに、神野 永太は新しく出てきたパスタ(大皿)を差し出す。
「お疲れ、ザイン」
「ありがとうございます、永太」
「ボクにも、歌……教えてほしい」
御薗井 響子は小さな声で燦式鎮護機 ザイエンデに声をかけると、彼女は無言で頷き、パスタをおいて美声を披露しながら、自らも教えてもらった声の出し方を御薗井 響子に伝授していた。食べること以外に熱中しているパートナーの後姿を、神野 永太は眩しそうに見つめていた。
「リンちゃん、大変そうだね」
七瀬 歩と桐生 円は浅葱 翡翠お手製のプリンを食べながら、パソコンに向かっているロザリンド・セリナに語りかけた。彼女は青い髪を耳にかけて、にっこりと微笑んだ。
「交流が目的ですが、情報整理もしておかなければいけませんから」
「今わかってる疑問点て何さ?」
「こんなところでしょうか?」
そういって、パソコンのディスプレイを二人に見せた。
・ニフレディル=アンナ・ネモ(ただし、アンナ・ネモと雰囲気が変わっている気がする。洗脳か?)
・ルーノの記憶の中から、なぜニフレディの記憶を抜いたのか?
・イシュベルタはなぜニフレディにルーノの存在を教えたのか?
「でも、先ほど明子さんが言っていたように……鏖殺寺院から二人を引き離せば、きっといい道が開かれると思っています」
「一つ目が本当なら、そうだね」
不安を煽るような言い方だが、その表情はとても柔らかだった。彼女なりの、励ましの言葉なのだと知っているロザリンド・セリナは微笑み返した。
「でも本当に、謎が多いよね。やる気があるのかないのかわかんないし」
「機晶エネルギーをニフレディに渡したのイシュベルタ・アルザスなのに、ニフレディルは知らなかったみたいだしねぇ。ニフレディル自身もルーノくんを捕まえる気がないみたいだったし」
「対話してみなければ、わからないのかもしれません。この二人が、意思疎通していない可能性もあります」
「それはあるかもね」
リーン・リリィーシアが3人の会話に割って入ってきた。
「前回のイシュベルタさんの話だと、ルーノさんを連れて行きたいのに、目の前にいる状態で連れて行かなかった。トライブさんがいたって言うのは言い訳にならないだろうし」
「ニフレディさんと引き合わせることが、目的だったのでしょうか?」
「今のところ、あの不可解な行動はそうじゃないかなって思ってるの。爆弾騒ぎは、計算に入ってないんだろうし」
苦笑する剣の花嫁に、ロザリンド・セリナは一つ頷いて、またパソコンに向かった。
そんな中緋桜 ケイは、ヴァーナー・ヴォネガットのことをこっそり陰から見つめている。すると、ソア・ウェンボリスと悠久ノ カナタから背中を押された。
「わわ、なにすんだよ」
「ヴァーナーさんに話しかけてこないんですか?」
「せっかくまた百合園にきたのじゃし、このお花見真っ盛り。女を誘わぬ手はないぞ?」
「だ、だって、俺約束してないし……」
「女ってのはなぁ。サプライズがすきなんだぜ? な、ご主人」
雪国 ベアが止めを刺すと、緋桜 ケイは意を決して歩き出した。丁度、六本木 優希がヴァーナー・ヴォネガットに語りかけていた。
「ヴァーナーさん、ケーキのお代わりいかがですか?」
「それじゃあ、メイベルおねえちゃんのクッキーを」
「ヴァーナー! い、一緒に来てくれ!」
なにやら無駄に緊張してしまい、顔を真っ赤にした緋桜 ケイの顔を見るなり、ヴァーナー・ヴォネガットは満面の笑みで二つ返事で承諾した。クッキーを紙那付近に包むと、緋桜 ケイの手をとって「どこにいくのですか?」と無邪気な微笑を向けた。特に考えていなかったので、思わず上を指差してしまう。
「あ! いいですね。お空から見てみたいです〜」
「そうか!? あ、そっか。おう、すぐにつれてってやるぜ!」
そういうが早いか、自前の箒を手にして二人でまたがり空へと舞い上がる。空は暖かな春風が流れ、赤い桜の花びらが踊っている。菜の花が風にたなびいているのがよく見える。
「うわぁ、綺麗です〜」
「ああ。でも、やっぱり……」
ヴァーナーのほうが、そういいかけて「ルーノおねえちゃんたちが笑ってくれているのが、一番きれいですね!」と言葉が返ってきた。少しだけ残念に思ったが、そういいながら満面の笑みを浮かべている恋人の手をとって、振り返れない代わりに指に口付けた。
「ヴァーナーの笑顔も、綺麗だよ」
「ケイ……」
空のデートを楽しむ二人を見て、銀髪の魔女は「世話が焼ける弟子じゃのう」と呟いた。
「それにしても、何ゆえ百合園に入学したんじゃ?」
エリシア・ボックがマカロンを口に放り込みながら問いかける。ルーノ・アレエはええと、と思い出しながら口を開く。
「確か、あの遺跡を出てすぐ、入学許可を貰ったのが百合園女学院だったのです」
「残念〜。イルミンスールもいい学校だよ? うちに転校して来ない?」
「ミレイユ、困らせることを言うな」
ミレイユ・グリシャムの言葉に、シェイド・クレインはため息交じりに制止する。ルーノ・アレエはうれしそうに微笑みながら「学校をこえても、お友達でいてくれればうれしい」と返事を返した。篠宮 悠はぎこちない様子で言葉を出そうとして、何度も言葉につまった様子で結局何も口にしないという時間が長かった。結果、小鳥遊 椛がばつなぎでニフレディにお菓子を勧める。
「ええと、あの……」
「気にしないでね、ニフレディくん。悠って、ちょっと人見知りするから」
「いいえ。沢山の人とお話ができて、本当にうれしいんです」
「遺跡に一人だったんだもんな、そういや……その割りに、遺跡の中に詳しかったみたいだな?」
その言葉に、ニフレディが手を叩いて口を開いた。
「ああ、思い出しました。私、昔……イシュベルタ兄さんに起こしてもらうより前に、おきていたことがあるんです」
「え、そうなのか?」
篠宮 悠が返事を返すと、ニフレディはにっこりと頷いた。
「はい、博士たちのことも思い出しました。でも、博士たちおかしいんです。私のことを、レーディと呼んだんです」
ニフレディが、そう呟いたときだった。リリ・スノーウォーカーがプレゼントしたネックレスのクリスタルが強い光を放ち始めたのだ。先ほどまで、何の反応も示さなかったのに。だが、その光はすぐに失われ、ニフレディは身体から煙を出して倒れてしまった。
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