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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚

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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚
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「そうですか、千歳とは、ずいぶんとお若い」
 ストゥ伯爵は、そう言ってパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)に微笑んだ。
 確かに、二十代前後に見える伯爵よりも、十代前半に見えるパビェーダ・フィヴラーリの方が外見上は若い。だが、実年齢も、伯爵は六千歳を超えるのだという。彼から見れば、パビェーダ・フィヴラーリはまだ生まれたてとでも言えるものなのだろう。
 それにしても、吸血鬼や魔女などの年齢ほどあてにならないものはない。充分に美形と呼べるストゥ伯爵は、古めかしい気品と、今風の若者が好む容姿を兼ね備えていた。
「それで、私のコレクションを見てみたいと。そうですね、館のあちこちに飾ってはいるのですが」
 襟元の白髪を軽くかきあげながら、伯爵がちょっと考えるそぶりを見せた。赤い瞳を輝かせた目が、すっと細められる。
「そうですね、階段の踊り場で見た女王像。あれなど、燃えるような髪を翻して翼を広げた姿がすばらしかったですわ。伯爵は、女王像もコレクションしていらっしゃるのですか?」
 今いる広間をぐるりと見回して、パビェーダ・フィヴラーリは訊ねた。彼女のすぐ後ろには、茅野 菫(ちの・すみれ)が一言も発せずに立っている。今の二人は、好事家の吸血鬼と、戯れに僕(しもべ)にされた少女という役どころだ。
「もちろんですとも。アムリアナ・シュヴァーラ陛下は、私が永遠の忠誠を誓ったお方です。あの方のお姿でこの館を飾るのは、この上もない喜びです。あなたもそうだとは思いませんか」
「ええ、もちろんですわ」
 うまく話に乗ってきたかと、パビェーダ・フィヴラーリは話を合わせた。
「先日も、ヒラニプラの市場で女王像を手に入れたのですが、残念なことに不完全な物でして、現在修復を急がせています」
「まあ、それはぜひ見せていただきたいものですわ」
「よろしいでしょう。では、宝物庫への入出を許可いたしましょう」
 伯爵の命令で、使用人の一人がパビェーダ・フィヴラーリたちを案内していった。
 
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「なんかさあ、下の濠に変なのが見えないか?」
 橋の上から下を見下ろしながら、ララ サーズデイ(らら・さーずでい)が言った。
「どれどれ……。ああ、あれは黒蓮の花……。散々探しても売ってなかったのに、こんな所に咲いていようとは……」
「本当であるな。灯台下暗しとは、このことであろうか」
 悔しがるロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)の横で、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が言った。
 本来、黒蓮の花を手に入れるのは簡単ではない。実際、ここにくるまでに用意しようとしたロゼ・『薔薇の封印書』断章も、結局手に入れることはできなかった。それが、これほど大量に咲いているというのは、確実に異常だった。
「どうする、摘んでいく?」
 ララ・サーズデイが訊ねた。
「おや、お客様ですか?」
 突然声をかけられて、リリ・スノーウォーカーたちはびっくりして振り返った。
 いつの間にか、家令が彼女たちの背後に立っていた。
「ええと、私たちは……」
 打ち合わせ通りに、ララ・サーズデイが探偵を自称して、宝物庫を調べさせてほしいと申し出た。
「闇市に出た盗品が、私の買った物の中にあるというのですか。それは心外でありますな。よろしいでしょう、お確かめください」
 そう言うと、家令はリリ・スノーウォーカーたちを案内していった。
 
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「ふむ、うまく忍び込めたものの、この中からゴチメイを探しだすのは難しそうではあるな」
 首尾よく宝物庫らしき大部屋に入り込めたものの、あまりに雑多に突っ込まれた収集物を前にして、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)はちょっと溜め息をついた。
「しかたないであろう。もしも、ゴチメイたちがコレクションとして捕まってしまったのであれば、人としてよりも物として宝物庫に入れられているのではないかと考えたのだからな」
 ちょっと早計であったかと、イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)が周囲を見回して言った。他の者たちが屋敷の他の部分や、直接伯爵にコンタクトをとっているらしいと分かったため、同じ行動は意味がないと思ってのことだ。少なくとも、手がかりはつかめるかもしれないし、思いもかけない収穫があるかもしれない。
「まあ、目のつけどころは、他の者とは違うと思っていたのだが、そうでもなかったようだしな」
 高級そうなティーセットを思わず手にとりながら、道明寺玲はすぐチラリと視線を走らせた。
「まあ、単独行動よりは安全だと思いますよ」
 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が、隠し部屋でもないかと壁のあたりを調べながら答えた。そのそばでは、パートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)も、慎重に何かないかと探している。
「教導団の方が来ているのであれば、いざというときはここを強制的に捜索してもらうことも可能であるのかな?」
 イングリッド・スウィーニーが、グロリア・クレインに訊ねた。
「簡単ではないですね。何か、ちゃんとした証拠がないと」
 その証拠を探そうと一同があちこちを物色していると、何物かが宝物庫に近づいてくる気配を感じた。
「まずいな。身を隠そう」
 道明寺玲にうながされて、一同は物陰に隠れた。幸いなことに、乱雑な分、身を隠す所は随所にある。
「本当に今日は千客万来ですな」
「では、ごゆっくりとどうぞ」
 家令たちに案内されてきたリリ・スノーウォーカーたちとパビェーダ・フィヴラーリたちが、宝物庫の入り口ででくわしたらしい。彼女たちを宝物庫に入れると、不用心なことに、家令たちはさっさと行ってしまった。
「ぷふぁー。黙ってるのも疲れるってものだよ。それにしても、奴ら、コレクションを持ってかれるってこと、考えもしないのかねえ。なんだかとっても最悪ね」(V)
 ずっと黙っていた茅野菫が、やっとしゃべれるとばかりにまくしたてた。
「どうやら、お仲間のようであるな」
 安全そうなことを確かめて、イングリッド・スウィーニーたちが姿を現した。
「先客がいるってことは、ここはどうも外れのようなのだな。しかたない、何か金目の物だけでももらっていくと……」
 残念そうにリリ・スノーウォーカーが言いかけた。
「ねえねえ、みんな何をしてるの。あたしも仲間に入れてよ」
 突然一同の会話に首を突っ込んできたのは、誰あろう、リン・ダージであった。
「よかった、無事であったのだな」
 ほっとしたのも束の間、道明寺玲は少しおかしいことに気づいた。
「なぜ、イルミンスールの制服を着ているのだ?」
「えっ、だって、あたし、イルミンスールの生徒だよ」
 リン・ダージの答えに、一同は顔を見合わせた。確か、ゴチメイは全員パラ実生のはずだ。
「いいじゃない。魔法がへただって、あたしはあたしなんだから。もう、みんな意地悪。あんたたちなんか、みんなチャイの魔法で黒こげになっちゃえばいいんだ!」
 いきなりそう叫ぶと、リン・ダージが雑多におかれたコレクションの山をちょんと押した。すると、床に溜まっていた霧に押されるようにしてコレクションたちが持ちあげられ、物の津波となって学生たちに襲いかかってきた。
 とっさにガードラインを敷いた道明寺玲の後ろで、各人が飛んでくる物たちをそれぞれの得意技で弾き飛ばした。
「あれは、操られているのか?」
 まだ生き物のように蠢くコレクションの山を見据えて、茅野菫が言った。
「分からないが、イルミンスールの制服を着る意味がまったく分からん。何かが化けているということもありえるだろう」
「それこそ、訳が分からないぜ」
 道明寺玲の言葉に、ララ・サーズデイが叫んだ。
「またガラクタが襲ってきますわよ!」
 油断するなと、ロゼ・『薔薇の封印書』断章が叫んだ。
 
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「誰かいらっしゃいますか……。留守だと勝手に入りますよ」
 せっかく身構えてやってきたのに、誰も出てこないので、千石朱鷺はちょっと拍子抜けしていた。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に連絡をとるのに手間取っていたうちに、先に突入した者たちがもう騒ぎを起こしたのかもしれない。
 しかたないので、勝手に中へと入っていく。
 どのみち、クイーン・ヴァンガードとして強制捜査をするという名目で家探しするつもりだったのだ。騒ぎが起きているのであれば、それに乗じるだけである。
 
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「これは呼び鈴でしょうか?」
 門の横にあった鐘を見つけて、ジーナ・ユキノシタは困ったふうにガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)に救いを求めた。
「おそらくそうであろう。堂々と正面から中に入るのだ、鳴らしても問題はあるまい」
 パワードスーツに全身をかためたガイアス・ミスファーンに言われて、ジーナ・ユキノシタは鐘を鳴らしてみた。
 新装備のパワードスーツによって、ガイアス・ミスファーンはゴーレムのビスマルクに近い大きさになっている。
 鐘を鳴らすと、すぐにスチュワードが飛んできた。
「ほほう、遺跡で見つけた古代の絵画ですか」
「ええ。ぜひ、伯爵様に見てもらって、その価値を確かめたいと思ってやって参りました」
 ジーナ・ユキノシタが、用意しておいた台詞を言った。
「では、御案内いたしますので、おいでくださいませ。ですが、そのストーンゴーレムとアイアンゴーレムはここに残していただけますか」
 ジーナ・ユキノシタは了解すると、ガイアスとゴーレムを残して、城の中へと入っていった。
 踊り場にある手をさしのべる女王像の前を通りすぎて客間に行くと、ジーナ・ユキノシタはその一つで待たされることとなった。
「無事に、入れましたわ」
 外で待っているガイアス・ミスファーンに連絡を入れる。
「分かった。何かあったら、すぐに連絡を」
 ガイアス・ミスファーンは、そう短く告げた。
 
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「ううっ、よく見えないけれど、大丈夫ですかねえ」
 パラソルチョコを使ってふわふわと降下しながら、影野 陽太(かげの・ようた)はちょっと心配になった。なにしろ、霧で着地地点の屋根がよく見えない。
「よし、見えました……あっ」
 突然現れた屋根に、影野陽太は足をかけようとしてすべった。どうやら、端っこだったらしい。そのまま、少し加速して地面へむかう。
「きゃっ」
「わっ」
 霧の中から突然落ちてきた影野陽太とぶつかって、千石朱鷺は思わず尻餅をついた。霧に方向感覚を惑わされて中庭をさ迷っていたら、突然の落下物だ。
「す、すいません」
 あわてて、影野陽太が謝る。
「ちょっと、何者です?」
 千石朱鷺が影野陽太の胸倉をつかんで問いただした。
「いえ、ただのクイーン・ヴァンガードです」
「はあっ?」
 一応のお仲間と知って、二人は呆れたように顔を見合わせた。
「よければ、一緒に女王像の右手を探しませんか? こっそりと動けば、見つかると思うんです」
「何を言ってるんです。ここは、堂々と正面から行くべきです」
 そうやって伯爵たちの注意を引きつければ、トライブ・ロックスターたちが動きやすいというのが、千石朱鷺の本来の目的だ。それには、利用できる者は多い方がよかった。
「で、でも……」
「いいから来なさい」
 千石朱鷺は影野陽太を引きずると、館を探して歩きだした。