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リアクション
★ ★ ★
「何か、外で凄い音が……」
塔の地下ダンジョンへの階段を下りながら、漆髪月夜がちょっと心配そうに言った。光術で作りだした光球が、衝撃を感じたかのようにゆらゆらと瞬く。
「別に塔が倒壊したわけではなさそうですね。急ぎましょう」
樹月刀真が、漆髪月夜をうながした。
塔の地下の終点は、お約束通りの地下牢になっていた。薄暗い地下にも、青白く霧がたゆたっている。
「おや、お客様ですか、珍しいですね」
鉄格子の手前から、聞き覚えのある声がした。百合園女学院の制服を着たペコ・フラワリーだ。いつもの大人びた黒いゴチックメイド服にくらべると、ちょっと似合っていない。
「無事だったんですね」
ほっとしたように、漆髪月夜が言った。
「それにしても、なんでそんな格好しているんです?」
怪訝そうに、樹月刀真が訊ねた。
「校則通りの制服ですか、やはり似合わないのでしょうか?」
ちょっと気にしているそぶりを見せて、ペコ・フラワリーが聞き返した。
「いや、そうではなくて……」
ゴチメイたちは、確か、全員パラ実送りになっていたんじゃないのかと樹月刀真は言いたかった。
「刀真……、あれ!」
ふいに、漆髪月夜が地下牢の奥の方の人影に気づいて叫んだ。霧に半ば隠れていて気づかなかったが、そこにもう一人誰かがいる。
「助けましょう。月夜」
樹月刀真がのばした手を、漆髪月夜は両手でつかんで自分の腹のあたりに押しあてた。
「ここだからね」
「分かってます」
なぜか念を押す漆髪月夜に答えると、樹月刀真は光条兵器を取り出した。
すっと、黒い刀身の剣を構えると、鉄格子の錠を斬り壊す。
「大丈夫ですか。えっ!?」
倒れていた人影に駆けよった樹月刀真は、思わず自分の目を疑った。そこに倒れていたのはペコ・フラワリーだったからだ。しかも、こちらは見慣れたメイド服を着ている。
「お前は誰だ?」
樹月刀真が振り返って問いただす。その間に、漆髪月夜が、キュアポイゾンとヒールをペコ・フラワリーにかけていった。
おぼろな光の中に、漆黒の鎧を着込んだペコ・フラワリーの姿が浮かびあがる。
そこへ、百合園女学院の制服を着たマサラ・アッサムが駆け下りてきた。
「ああ、いいところへ。ペコ、助けてくれよ」
「また何かしたのですか。すみません、私からよく言い聞かせますから、許してはいただけませんでしょうか」
ぺこりと、ペコ・フラワリーが頭を下げる。
「ええと、どうなっておりますの?」
単身追いかけてきた藍玉美海が、状況が呑み込めないで立ちすくむ。
「そうですか。どうしても許していただけないというのでしたらしかたありません」
ペコ・フラワリーが、勝手に話を自己完結させてナイトシールドとフランベルジュを構えた。
「下がれ!」
樹月刀真が藍玉美海にむかって叫んだ。防御には適さない光条兵器を素早く左手に持ち替えると、右手にバスタードソードを持つ。
「二刀流ですか?」
ペコ・フラワリーが、本来両手持ちの大剣を片手で軽々と振りあげた。
「あいにく、そんな器用なまねはできなくてね」
言うなり、樹月刀真は光条兵器をペコ・フラワリーにむかって投げつけた。避けようとしたペコ・フラワリーの直前で、光条兵器が消滅する。漆髪月夜が、自らの体内に呼び戻したのだ。その一瞬にペコ・フラワリーが気をとられた隙を突いて、樹月刀真はバスタードソードを突き入れた。
「小手先の技は、奇襲にもなりませんよ」
あっけなくナイトシールドで、ペコ・フラワリーが樹月刀真の攻撃を弾き返す。その直後に、ブンという唸りをあげてフランベルジュが襲いかかってきた。受け流そうとした樹月刀真であったが、逸らしきれずに吹き飛ばされる。ガシャンと大きな音をたてて、樹月刀真の身体が鉄格子に激突した。
「ははは、やるー」
そばにいたマサラ・アッサムが拍手して喜んだ。
「次で楽にしてあげます」
ペコ・フラワリーが大剣を振りあげた。刀身が、灼熱の炎につつまれる。そのとき、一本の短剣が彼女の顔をかすめた。
誰だと、ペコ・フラワリーが振り返る。その瞬間を、樹月刀真は逃さなかった。
「吹き飛べ!」
渾身の乱撃ソニックブレードが、文字通り偽のペコ・フラワリーとマサラ・アッサムを元の霧に変えて吹き飛ばした。
「甘いな。本物のペコなら、躊躇なく斬り下ろしてるさ」
久世沙幸に支えられた本物のマサラ・アッサムが、苦笑しながら言った。
「酷い言われようですね」
落ちているマサラ・アッサムの短剣を拾い上げながら、ペコ・フラワリーが言った。
「なんとか、間にあいましたわね」
マネット・エェルと一緒にマサラ・アッサムを回復させた藍玉美海が、ほっと安堵の息をついた。
「大丈夫? 刀真……」
「ええ。さあ、早くこんな所は出ましょう」
心配する漆髪月夜を安心させるように答えると、樹月刀真は一同をうながした。
一同が塔の外に出ると、ちょうど駆けつけたルイ・フリードとリア・リムが、倒れていたクロセル・ラインツァートと如月正悟を助け起こしているところだった。
「無事救出できたのですね。海賊たちも来ています、今のうちに撤退した方がいい」
「それは無理だな」
ルイ・フリードの提案を、マサラ・アッサムがあっさりと退ける。
「ええ。リーダーたちは、絶対に助け出します」
ペコ・フラワリーが、決意を込めて言った。
★ ★ ★
「うまく忍び込めましたね」
使用人たちのいる離れのそばで、ソア・ウェンボリスが雪国ベアに言った。
「後は、誰か一人を絞りあげて、ゴチメイたちの居場所を吐かせるだけだぜ。おっ、ちょうど誰か来たみたいだ。俺様に任せな。忍びよるゆる族のきょーふ」(V)
そう叫ぶと、雪国ベアは、ソア・ウェンボリスが止めるのも聞かずに、使用人らしき人影に飛びかかっていった。
「うわっ、待ち伏せかよ。汚いなあ。お礼参りなんか、間にあってるってんだよ」
ひょいと雪国ベアの攻撃を避けた蒼空学園の制服姿のココ・カンパーニュが、捨て台詞を吐いて逃げだした。
「なんでえ、無事じゃねえかよ」
「おかしいでしょ。追いかけるわよ、ベア」
★ ★ ★
「これじゃ、どこに下りればいいのかさっぱりですね」
箒の高度を落としながら、月詠司は霧の海に埋没して困り果てていた。
「おっと、ごめんよ」
「待ちなさーい」
「待ちやがれ!」
突然走ってきた一団に弾き飛ばされて、月詠司は箒から地面に投げ出された。
「ココ? なんで追いかけっこをしてるんです」
訳も分からず、とりあえず月詠司はココ・カンパーニュとソア・ウェンボリスたちの後を追いかけていった。
「なんか増えたぞ」
逃げながら、ココ・カンパーニュがつぶやいた。
「待てー」
「しつこいなあ。やっぱり、ぶっつぶしとくかあ」
いいかげん追いかけっこもあきたと、ココ・カンパーニュが立ち止まる。
「うるさいねえ。またドラゴンに喧嘩売ろうって馬鹿者どもかい。また集まったものだ」
ふいに頭上から声が響いて、ソア・ウェンボリスたちも立ち止まった。
目の前に、ジャワ・ディンブラが金の目をぎらつかせて、ココ・カンパーニュを含めた一同を睨みつけている。
「これは、まずいんじゃ……」
ジャワ・ディンブラの本気の迫力に気押されて、月詠司が思わず後退った。
「なんだ。売られた喧嘩なら買うぜ」
不敵に、ココ・カンパーニュがジャワ・ディンブラに対峙する。
「いったいどうなってるのかしら」
状況が呑み込めずに、ソア・ウェンボリスが安全そうな位置まで下がった。
「ふっ、帰れ帰れ。四人まとめて灰にしてやってもいいのだぞ。それとも、頭からむさぼり食ってやろうか」
ジャワ・ディンブラが、大音声で脅した。
「さすがに、星拳使わないとまずいんじゃねえか」
「それ以前に、なんで二人が喧嘩しなくちゃならないのよ」
どこか対決を楽しんでいるように雪国ベアに、ソア・ウェンボリスが突っ込んだ。
『星拳を使ってみるかね。力を貸すが』
ふいに声がした。
「誰だろう、今の男の声は」
月詠司が周囲を見回したが、霧のせいか、それらしい影は見当たらなかった。
「それもいいかもな。試してみるか」
両手首に填めた金色のブレスレットをなでながら、ココ・カンパーニュがつぶやいた。
「ええと、エレメント・ブレーカーだったっけか。来い、エレメント・ブレーカー!!」
ココ・カンパーニュが右手を前に突き出して叫んだ。その右手に、星拳エレメント・ブレーカーが現れる。
「ええと、ここじゃ携帯を接続するんだっけ」
思い出したように、ココ・カンパーニュが星拳に携帯電話を押しあてた。そのまま、携帯が光条のレンズに吸い込まれていく。
「ああ、後でちゃんと返してよ」
誰にともなく、ココ・カンパーニュが叫んだ。
「余裕だな。あまりふざけた奴は、好きではない」
大きく息を吸い込むと、ジャワ・ディンブラが火球を吐いた。
「きゃっ」
思わず本能的に、ココ・カンパーニュが防御姿勢をとる。
『アブソーブ!』
再び、男の声がした。ジャワ・ディンブラの放った炎が、星拳に吸収されていく。
「お返しだ!」
ココ・カンパーニュが右の拳を突き出した。衝撃波に転換された魔法力が、一撃でジャワ・ディンブラをひっくり返した。
「なんだ、その強さは……」
よろよろと立ちあがりながら、ジャワ・ディンブラが聞いた。
「私には、大切な誓いを交わしたパートナーがいるからね」
「パートナーになれば、強くなれるのか?」
「そうらしいよ」
「では、我と契約をせぬか」
「ああ、なんか気に入った。いいよ、契約しよう」
あっけらかんと、ココ・カンパーニュが言った。
「さて、契約後の初仕事って言ったらなんだけど、変な奴らに追いかけられててさあ」
そう言って、ココ・カンパーニュがソア・ウェンボリスたちの方を振り返った。
「軽く蹴散らしてみるか」
ジャワ・ディンブラが、雪国ベアを睨みつけて目を細めた。
「や、やべー。逃げるぞ、御主人!」
本能的に生命の危機を感じとった雪国ベアが、ひょいとソア・ウェンボリスをかかえて走りだした。
「ちょ、ちょっと、待って……」
あわてて、月詠司がその後を追いかけて逃げだした。
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