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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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6-02 テング山とテント山

「鋼鉄の獅子か……動き始めたようだな」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)
 ティアとは離れちゃったわねぇ……。まあ、ロザにはしっかりと言ってあるし、問題ないだろう。そう思いながら今、彼女は単身、東の山にそびえるある山へと登る途上にあった。軍の指揮は、ミストラルに任せてある。
 この山が、テング山である。前回、李梅琳隊に奇襲をかけた黒羊側の部隊が陣取る山の一つだ。
 ここは東の谷における最も高い山で、東の谷を見下ろすいい位置にある。
「成る程ね……」
 山頂に達したメニエス。敵の動きが、手に取るように分かる、とはこのことか。
「メニエス・レイン様ですね。暫し、お待ちを」 
「ええ、早くしてね。風が、冷たいわ」
「あ、ス、スミマセヌ。どうぞこちらの幕舎に入ってお待ちください」
 ここを預かるのはカラス兵か……。メニエスは思った。あまり礼節も知らぬ野蛮な連中のようだ。あるいは下賎の種族であるから、こんな高い山の風も冷たく感じないのかも知れない。古くから、黒羊郷と結託してきた勢力だという。頭の程は、どうなのだろう?
「あなたが、ここの指揮官ね?」
「イカニモそうだ。よくぞ、お越しになったね、女魔法使いサン。このブラッディマッドモーラ(ぶらっでぃまっどもーら)が歓迎致そう」
「ああ、結構」カラスの歓迎なぞ、受けたくもない。メニエスは、ジャレイラからの指示でこの地に来たことを伝えると、手早く策を述べた。
 それは、カラス兵を使って敵兵の動向を監視の上、これから鋼鉄の獅子との交戦に入るであろう綺羅瑠璃(きら・るー)およびミストラルへの報告をお願いできないだろうか、ということであった。カラス兵にも、自ミストラル軍の強襲に合わせた敵軍の包囲しつつの進軍を、と。
「フフゥ。いいだろう」
 カラスは十分、好戦的なようで、すぐに承知した。
 それからメニエスは、敵軍が物資等を狙ってくる可能性についても示唆した。
「物資をなァ。フフゥ、カカカッ。大丈夫であろう? 物資のあるテント山は、我が妹{boldブラッディマッドモモ(ぶらっでぃまっどもも)が百の軍を率いて守っておるわ」モーラは、谷中に響くような笑い声を上げ、大声で自信満々にそう語った。めでたいカラスめ……それに、もう少し声を自重しろとメニエスは思う。とにかく、テント山ね……
「あなた達だけでは、心許ないわね。あたしが行こうか」
「ほう。女魔法使い殿がか。それは心強いわ。いいだろう」
 また、ここでも一つ、メニエスの気に入らないことがあった。この山は、もともと住んでいたテングを追っ払って奪い取ったということだ。黒羊側のやり口は、何処かに敗因を招く糸口を作っているように見える。ここにはろくな指揮官はいないのか。まあ、こんな下賎のカラスじゃ仕方あるまいか。メニエスは思いつつ、山を下りていった。



 テング山の下。
 レオンハルトの布陣しているところには、今、天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)が戻っていた。
「オルキスくん、豹華くんは? 大丈夫なのかなっ?」
 オルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)にはそれぞれ、生き残りの兵の捜索と情報収集およびに周辺地域の偵察を指示してある、と言う。
 天霊院はと言うと、その後単身、周辺地域を放浪し、付近の勢力を調べると共に、すでにその一部と接触を持っていたとのことであった。
 三日月湖〜草原地方間の宿場のあった谷間とは違い、山も険しく、気候も厳しい東の谷には、生息する生き物自体少なくここで暮らす者はそう多くはないものの存在し、自分達の住み処で戦闘が行われることを快くは思っていなかった。黒羊軍は、東の谷に先行して潜伏するにあたり、そういった者達を追い出してもいるようだ。テング山のテングは、そういった者達の中でもとくに数も多く、知能も高い一族であった。
 これら地の利を持つ土地の勢力と手を結べば、物資を集積させらる場所や補給経路も見えてくるだろうし、不和の種をばらまくことで黒羊軍の人の和を乱せば、弱小勢力の連合でも各個撃破出でそれぞれの陣地を一つずつ落とせるというのが、天霊院の考えである。勢力を急速に拡大したであろう黒羊軍は、一枚岩ではないのだ、と。
「まずテング山、でありましょうな。テング達と手を結べれば、我々の遊撃兵力でも落とすことは可能です。その後はテント山など周辺の陣を一つずつ落とすことと、敵の物資を見つけ奪うか焼くかしつつ少しずつ状況を優勢へ傾けることであるかと」
 レオンハルトも、これに頷いた。天霊院は、テング山に向かうことになる。
 ルインは、
「あ、あと鏡を持っていって欲しいんだよ。上から見て、何か危なそうなら鏡で日光反射してぴかぴかってしてくれたら、連絡繋がらなくても撤退の合図になるかな!」
「鏡、か……了解した。できる限りのことはしよう」
 このことは、自軍の各指揮官にも、伝えられた。



 オルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)は、負傷兵を見つけると自らの連れる梅琳兵隊(50)に組み込んでいった。中でも、著しい士気低下にある者については、戦渦に巻かれた民間人を装い戦闘区域から脱出するよう指示し、方角を教えた。
 そして彼らには、付近の住人に会ったら、流言飛語を行ってもらえるようというこれも天霊院からの策を渡した。オルキス自らも、相手がテングほどの知能を持った者相手でなくとも、生きものに出会えばまずは語りかけた。
「黒羊軍は、メニエスのような鏖殺寺院の者が密かに権力を握っているんだ!」
「メニエス……?」
「メニエス達は、邪魔なボテインを殺させるために、捕虜交換で人質と交渉人を攻撃したんだよ」
「コワイ……」
 黒羊側への不安感を煽るだけでも十分、効果はある。
「黒羊軍に参加している連中にしても、卑怯だよ、他の者を盾にして自分達の被害を減らしているんだからね。物資の着服だって日常茶飯事だってよ。
 ……フゥ。これでいいのかな、華嵐……オルキスちょっと疲れたよ」
 天霊院の指示に通り、五人分隊を二組で一小隊とし、三小隊が動くときには、一小隊は待機し休息、一小隊は食糧の調達、というパターンで行動した。食糧の調達は、難しかった。先ほどのような付近の住民が、負傷兵を気遣い幾らか恵んでくれるようなことはあったが。まとまった食糧を得なければ。
 豹華についても、天霊院の指示に従い同じくのパターンで、獣人兵(50)で偵察にあたった。しかし、テント山に近付くと、かなりの数のカラス兵がおりしばしば交戦状態になりそうになるのを、何とか回避しなければならなかった。ここの防備はいやに固いようであった。