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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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7-02 作戦会議

 交流も程ほどに、新しく来た者が湖賊から砦の注意事項等簡単に説明を受けると、すぐに作戦会議が持たれた。
 今、水軍の士気は大変に高い。各将校こぞって、こちらから攻めるべしを主張・同調した。この風潮は無論、水軍の先陣に立って戦い緒戦の勝利を得たローザマリアや刀真の意気に皆が押されて(いい意味で感染してみたいな)のものであろう。兵達も怯む者はなかった。
 最初に、現状や、こちらの兵力等の説明、基本的な方針について話された。
 その後、東河に展開する教導団=湖賊の連合水軍にとって目下唯一の敵と言えるブトレバ水軍。これをいかに打ち破るか……数ではまだまだ、敵が勝っている。かつては東河の水蛇と言われた、その戦力も侮ることはできない。
 シェルダメルダ(しぇるだめるだ)ら湖賊も、もちろん、会議に参加しているが、今勢いに乗っている教導団にその進行を任せ、危ういところや外れそうなところに対し、助言を出している。この士気の高さを重視している。決定も、教導団側に委ねるつもりだ。
 具体的な攻め方に移ると……ミューレリアがまず、こう皆に提案した。
 夜襲はどうだろうか、と。「どっかで博打に出ないと、この戦力差はキッツイぞ」
「夜襲」
 ローザマリアも笑み、教導団としてもそのつもりよ、と応えた。「だけど、戦力差は問題じゃない。作戦が上手くいけば、勝てるわ」
 夜襲は決定された。
「そうだな。あとは作戦をどうするかだな」
 ローザマリアはその細かな時間帯についても、説明する。
「実際には、夜襲と言っても、明け方近い頃合になる。おそらく、敵水軍の船を動かす要員が最も少なくなる時刻よ」
 これについて、とくこのときには反対意見は出なかった。
 ローザマリアは黒板をばしばししながら事細かに作戦を述べていく。
 席のいちばん後ろで、ヴラドらと一緒にじっと拝聴するセオボルト。
 セオボルトは……軍議よりも前に、湖賊砦上階のローザ室で、ローザマリアが強気で奇襲案について語り、「どうかしら?」と言うのを、聞いていた。「ふ、ふむ。そうですな……とてもいいのでは?」
「とてもいい? 何か面白い表現ね。……聞いてた?」
「え、ええ。そうですな……自分には、ローザほどには水軍のことはわかりませんが、……」
 最初は、同じ任務を遂行することになった仲間として、ローザマリアの話を聞いて、意見を述べたりしていたセオボルト。でも、今は。
 現実的に冷静に状況を見て、必ず勝てると強気なローザ。ローザマリアのことは心配だが、自分はその案に乗り、ローザを支援し、作戦通りに戦うまで。そうセオボルトは思った。
「じゃあ、セオボルトは」
「……はっ。ええ」
 場所はセオボルトの回想から会議室に戻っていた。ぽむぽむ、と文治がセオボルトの肩を叩く。
「グロリアーナと一緒に、舟艇白兵隊(沼舟)に……
 この船には、新しく加わったエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァにも同船してもらうわ」
「基本的な作戦については了解であります。黒豹小隊には、初めに申した通り、二隻お貸し頂ければ十分」
 黒豹小隊は、敵の視界を遮る役割を演じる。
 ローザマリアの編成した隊列には入らずある程度別働になるが、黒豹小隊なりに今後のため水戦の動きを掴んでおくことも肝要かも知れない。
 ミューレリアもまた更に、独自の案を提出した。
「しびれ粉を……?」
「ああ。うまくいくかどうか、本当は練習時間があればと思ったんだけど」
「思い付かなかった。どうだろう?」
 教導団然としたのとはまた違うミューレリアなりの作戦だ。こういう要素も、通常の奇策より奇策になり得る場合もある。(すでに奇策として使われてきた奇策はすでに大して奇策でなかったりもする。)
「風向き次第かも……」
「そうなんだよな」
「ではミューレリアさんにはその策を準備してもらいましょう」
「よし!」
 後は各隊の配置や、動くタイミングについて綿密に指示が出された。
「じゃあ湖賊は、こっちの脇から、突っ込めばいいね」
「お願いします」
「船や人員の配備にかかろう。決行は、四日後の、明け方。か……」
 会議は終わりだ。
 シェルダメルダ(しぇるだめるだ)は、心配そうな面持ちで、辺りを見渡す。最初から最後まで、刀真らは姿を現さなかった。刀真は、今回船を指揮するのではないし乗り込む船は決まっており、あの剣を抜いて再び大暴れすることになるのだろうが……



7-03 刀真と玉藻

 緒戦後も、幾度かの小競り合いはあった。樹月 刀真(きづき・とうま)らはその度に先頭に立ち、敵を撃退してきた。
 すでに、敵に死神としてのその名が聞こえている。
 やつだ。銀髪赤目の、黒いコートを羽織った剣士……死神だ、死神が来た。と。
 深夜の湖賊砦酒場。灯りはついていない。
 もう、皆は眠りに就いている。
 酒を飲む、玉藻 前(たまもの・まえ)
 刀真は、壁際の席で壁にもたれて、じっと窓の方を見ている。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の姿は、ここにはない。湖賊砦にもいないのだ。月夜は、月夜の使命に従い、王子と一緒に最南の地へ向かっている筈だ。今頃……どうしているだろう。
 立てかけてある剣を少し鞘から抜くと、暗がりの中で刃が光る。また、人を斬った。
 最初は、湖賊や、協力する教導団らの為、必死で敵と戦ってきた。緒戦で、あれほど派手に敵を殺したのも、敵側の士気を削ぐ役割を担おうとしてのことだった。だが、今、月夜がいなくなっているせいで、刀真は殺戮に歯止めが効かなくなってきていた。自分でも、そのことがわかってはいたかも知れないが……
「刀真」
「……」
 刀真の前に、酒を差し出す玉藻。妖艶な笑みを浮かべている。
「俺は……」
「刀真、嬉しいぞ」
 玉藻にとっては、そのことが――月夜がいないことで刀真が自分好みになっていることが嬉しい。殺戮の中にある刀真。玉藻でもぞくっとするくらいだと思う。
 それが、いい。だけど、もっとだ。と、玉藻は思った。もっと大きな戦いになれば。そうすればもっと刀真は……フフフ、妖しく微笑し、また酒を仰ぐ玉藻。

 こうして、夜襲の日は近付いてきていた。