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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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10-04 ヒャ、ヒャッハー!

 オークスバレー、黒羊占領軍の駐屯する砦。
「な、何だ貴様は!」
 門前で騒動が起きており、黒羊兵が集まり始めている。騒動の中心にいるのは……
「ヒャ、ヒャッハー」「おらおらぁッ! 女だと思ってなめてんじゃねぇぞ、こらぁッ!」
 ……
 最上の階、指揮官のもとへ兵が駆け入ってくる。
「マディキチ様! パラ実の野郎どもが、喧嘩仕掛けてきました」
「何だと?」
「門兵の前に現れて、突然しばき倒したそうです」
「く、どういうことだ? やつら、裏切ったというのか。数は?」
「二人です」
「二人だと?」
「モヒカンと、スケ番のいかにもパラ実って感じの二人でして。
 マディキチ殿。辺境から遠征してきたかいがありましたな。パラ実を見ることができて」
「馬鹿野郎。冗談にならん!」
 指揮官が下りてくると、もうパラ実は逃げ去ったあとで数名の兵が倒されていた。
「お、おのれ。どういうつもりだ?」
 こうして黒羊側指揮官マディキチ(までぃきち)はすぐさま、オークスバレーにいるパラ実側指揮官・又吉のところへ兵を従えて向かった。
「気の荒いのはわかるが、共に教導を攻めようというのだ。きちんと部下を掌握しておいて頂かねば、士気にかかわる。よいか又吉殿?」
「ああ、すまない」
 ちっ。どいつだ? しめてやらねえと。又吉も怒りをあらわにした。
 又吉は、パラ実の野郎どもを集めると、パラ実の進出がかかっているのだと充分に言って聞かせた。
 しかしその後も、パラ実による被害はおさまらなかった。
 器物損壊など悪戯は度を越し、放火、略奪にまで発展、更に黒羊軍を怒らせたのは、黒羊の神を冒涜したことだった。
「又吉殿、これをご覧あれ!」
 砦の壁にはこう書いてある。
 ?オークスバレーは近いうちに全てパラ実のものになるんだよッ! これからは、黒羊の神なんかを拝むより、ドージェ様を信仰しろよ!?
 黒羊兵達は、その汚い字で描かれた落書きを見てわなわなと震えている。
「又吉殿、いい加減にしてくれぬか? このままでは兵の怒りを抑えきれんようになる。これは、そちらの責任だぞ!」
「くっ。なんだと、なめんじゃねーぞ! 勝手に決めつけるな」
「モヒカンとスケ番だぞ? パラ実以外の何だと言うのだ!
 貴殿こそ、我々黒羊軍の力を甘く見るでないぞ? パラ実など、その気になればすぐにもここから追い出せるのだ」
「なんだぁと?」「やるってぇのか、この野郎」「ヒャッハー!」
「ま、待ておまえ等」
 その頃、オークスバレーの林の木陰では……
「ヒャ、ヒャッハー(ううっ、こんな格好を皆に見られたら、恥ずかしくてもう外を歩けないよぉ)」
 モヒカンのパラ実男だ。よく見ると、顔立ちはどこかのお坊ちゃん風で、あまり強そうには見えない。
 もう一人は、アフロヘアーに、スカート丈の長いセーラー服に竹刀。
「あああ、何だかクセになっちゃいそうだわ」
「(あううっ、任務のためとは言え、こんな悪事に手を染めるなんて、神様仏様、お父さんお母さん、本っ当にごめんなさいッ!)」

 もちろん……ノイエ・シュテルンのゴットリープレナであった。



10-05 進撃

 香取翔子(かとり・しょうこ)は、プリモ温泉付近に到着。
「香取隊長、この先に、敵勢が陣を張っております。宇喜多は籠城戦に入って久しい様子」
「ふむ、どれどれ。包囲しているのは、せいぜい200というところかしら。
 よく持ちこたえているわね。
 よし、ではそのまま宇喜多には囮になってもらいましょう。
 今、温泉の守備は手薄らしいと、敵勢に偽情報を流すのよ」
 香取の手の者が、駆けていく。この辺りのことは香取の得意分野と言えよう。
「ではその間に、私の隊と戦部の隊は、あの左右の森に。クレーメックの隊は後方に待機するように。
 これより作戦に入るわ。ふふ、黒羊もパラ実も、この香取が討ち滅ぼしてあげましょう」
 香取は各隊に指示を送り、作戦を開始した。
 敵勢は今、温泉の守りが手薄になっていると聞くと、城攻めを再開。そこへ、左右から、後方から、伏せていた教導団の部隊が打ちかかったのだ。その数は500。
「囲師は欠く」
 孫子だ。香取は、左右から攻め立てる自らの隊とクレーメックの隊の間に逃げ道を作って逃げる敵を背後から一斉に追撃した。
「統制を失い落伍する敵を背後から追撃することは、一方的な殺戮を意味する」
 香取の攻めは容赦がなかった。

 街道に駐屯していた南部勢力ドレナダの隊は、水原ゆかりの交渉と南部での事件のこともあって本国へ撤退、温泉付近の敵は香取翔子のこの奇襲によって駆逐され、教導団はオークスバレー東端のプリモ温泉までを奪回した。
「さて。ではひとまずは、温泉に入りましょうか」
「やったぁぁ」
「ち、違うわよ。入城しようって意味。温泉に浸ってくつろぐのは、オークスバレーを完全に奪回し……」
 500の兵が温泉に殺到。我先にと温泉に浸っていった。
 プリモ温泉は、オークスバレーの関所の役割を果たすほどの、立派な砦として機能していた。
 守将の宇喜多直家(うきた・なおいえ)が、恭しく香取を迎える。
「これは香取将軍。よくおいで下さいました。まずは、敵の包囲を解いて頂いたお礼を申し上げます。救援がなければ、敵の手に落ちるところでした。
 すでに宴の準備はできておりますぞ。どう致しますかな? まずは温泉に浸りますかな。さ、水原殿も。大岡殿も、わしと一緒に温泉でゆっくり疲れを癒しましょうぞ。ささ、どうぞこちらへ」
「……」
 香取が温泉に浸っているところへ、パラ実の使者が(国頭の書状を携えて)やって来たという。
 香取と宇喜多はこれを丁重に迎えた。
「ヒャッハー、いい湯だなァ。おら、武尊さんからの手紙だぁよ。よく嫁や、こらぁ」
「何……温泉は共用の湯治場であるべきなので、こちら(パラ実側)からはこれ以上手は出さない、か。
 感心なことね。で……但し、温泉からこちらへ攻めてくるなら、! …………ナパーム弾」
 ナパーム弾を使用する。
 国頭はそう言って、香取を脅してきた。
 南西分校ナパーム弾には、砦一個破壊するほどの威力がある。
「ど、どうする香取殿?」
 宇喜多は汗った。
「……まぁ、いいわ」
 香取も一瞬汗が噴出しそうになったがすぐに余裕の表情に戻り、これで考え通り、ひとまずは膠着状態にまで持ち込むことができた、と思った。
 あとは……あの男が動いている。
「宇喜多さん。お酒でも持ってきて頂ける? 水原さん、飲みましょう。
 任務完了、余裕でした」
「ちょ、香取さん……。
 ……あの男、か。ほんと、大丈夫なのでしょうね?」