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 第2章 男と女のLOVEげーむ。

「しっかしお前さんなんか今日は様子が違うな〜。なんだ、今日はそういう気分なのか?」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)匿名 某(とくな・なにがし)の手を引っ張ってツァンダの市街を歩いていた。某はたまにつんのめりながら、戸惑ったように康之についていく。
「あ、あの、だから、私は某さんじゃなくて綾耶で……」
「おっ、ここ入ってみようぜ! ……ん? 何か言ったか?」
「えっ、だ、だから……」
「いらっしゃいませ〜!」
「あ、こんにちはっ!」
 入れ替わりについて説明する暇もなく、出掛ける約束をしていたらしい康之に意気揚々と連れ出されてしまった。説明しようとすると誰かに声を掛けられたり、何より康之に聞く気がないため、未だに伝えられていない。
 とはいえ。
(あ、あの服可愛いなあ……)
 ショッピングに来て、可愛い服を前にして心が浮つかないはずもなく。某の姿で女性服のコーナーにふらふらと近付く。そして、手に取って広げたところである事に思い至る。
(この身体でこういうの見てたら誤解されちゃう!?)
 男の娘とか男の娘とか男の娘とか!
「ん? 某、それ買うのか?」
 康之に言われてぴゃっ、と少し飛び上がる。某さんはノーマルなのに!
「ち、違いますよ! これは……!」
「ちみっこにやるんだろ〜? あいつ、そういうの似合うと思うぜ!」
「え、えと……」
 違ったようで安心するが、何か焦ってしまう。これを買うということは、普通に私が私のを買うということで、でも某さんからのプレゼントということに……、あれ?
 ――――
「ありがとうございました〜!」
 ご丁寧に包装までされた服を持って、店を出る。なんだかんだで楽しんでしまっている自分に、『綾耶』は気付いた。ついでにもう1つ気付く。
(わ、私さっき……『普通に』って……某さんの口癖が移っちゃってる……!?)
 ……用法は微妙に違うようだが。

「メイヴの身体になっちゃったねー、でも、身体は変わっても、あたしはあたし!」
 無邪気に振舞うメイヴ・セルリアン(めいう゛・せるりあん)を見て、ジェニファー・サックス(じぇにふぁー・さっくす)の姿になったメイヴは焦りを覚えた。
(ジェニファーが私で、私がジェニファー……? ま、まずいですわ! いつも優雅且つ流麗な私がこんな無遠慮に動いている所を見られたら……。なんとか誤魔化しませんと! どうすれば……)
 考えて出た答えは、とてもシンプルなものだった。
「ジェニファー」
「ん? 何?」
「私はジェニファーのフリをいたしますわ。だから今日は、私のフリをして頂きたいの」
「えーーーーーーっ」
 メイヴは、面倒くさそうな声を上げた。
「いつも私と一緒なんだから、1日くらい真似できますわね?」
「メイヴみたいにするの? なんだか疲れそうだけど……」
「お願いですから、皆様の前では優雅に振舞って頂戴っ!」
 切実な思いを込めてジェニファーが言うと、メイヴは困った顔をしつつも頷いた。
「ま! メイヴのお願いなら仕方ないよね。あたしは、あたしの外見のメイヴでも全然平気だけどな」
「そ、そうなのですか?」
 その言葉にうれしいような戸惑ってしまうような変な気分になりながら、ジェニファーは外へ出るべく扉を開けた。メイヴがその腕にくっついてくる。
「あっ……! だから、そのようなことも自重してくださいませね」
「えー……いいよ! じゃあメイヴがくっついてね!」

「わー、これが周くんの体なんだ。結構筋肉ついてるよね、これなら剣とかも軽々振れる訳だよねー……」
 鈴木 周(すずき・しゅう)が能天気にぺたぺたと身体を触っている脇で、 レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は愕然と座り込んでいた。非常にがさつな座り方である。
(なんでだ……なんでよりによってレミの体なんだ!? 正直、何にも面白くねぇ! 他の子だったら隅々まで観察するんだけどなぁ)
 心底落胆して肩を落とす。どのくらいそのままの姿勢でいただろうか。
(……待てよ)
 ぐるぐると色々考えていた折に、レミははたと光明を見出した。
(大変不本意ながら、これでも一応女に分類される体な訳だ。つまり、合法的に女子更衣室とか女湯とかに突撃するチャンスじゃねぇか! 世界の全てに絶望してる場合じゃねぇ、早速行動開始だぜ!)
 突然元気になると、レミは精力逞しく立ち上がった。
「いよぉぉし! この体で女湯に入浴してくるぜ!!」
 言うや否や、女湯目指して一直線に走り出す。
「周くん!?」
 驚いて手を止める周。
「不埒なことを叫んで行っちゃったよ!! こ、この男はホント……待ちなさーいっ!」
 周の声が追ってきて、レミは野望を思い切り声に出していたことに気が付いた。しかしそう気にすることでもない。
(へっ! 流石にレミも自分の体に手荒な真似して止めることはできねぇだろ!)
「あーばよーって……」
 余裕の捨て台詞でも残してやろうと振り返り――
 ブライトグラディウスから放たれた爆炎波にぎょっとした。
「あ、危ねぇぇっ!!」
 ぎりぎりで避けるも、制服の腹のあたりがじゅっ! と焦げる。
「…………」
 しばし見つめていたい気分だったが、次の攻撃に迫られ慌てて逃げ出す。
「お前、自分の体に向かって躊躇なく爆炎波とか正気か!?」
「もういいもん! 自分の体とかどうでもいいの。今はただそのスケベ心を粛清したいの!!」
 周囲の生徒が避難する中、周が剣を振り回す度に消火器だの窓だの自動販売機だのが被害に遭っていく。
 本気だ。一切手加減なしだ。殺気まで感じるような気がする。
「待て落ち着け、ソニックブレードとか、こう色々無事ですまねぇぞ!? って、聞いてねぇぇぇっ!!」
 対抗しようとするも、こちらの武器は転経杖しかない。
「ふ、ふふ。周くんの身体って最高だね。いつものあたしより動きやすいし、攻撃力も全然違うよ。装備もスキルも、何もかもあたしの自由! あはは……周くん、死んで反省しなさーいっ!!」
「へ、へへっ、上等じゃねぇか……学園中駆け回ってでも絶対逃げ切ってやる!」

「あれは……身体を利用しようとして失敗したのかな?」
 ルーク・クレイン(るーく・くれいん)は逃げるレミと追う周を見送りながら言った。いつもの男性的で黒い服装ではなく、フリルのたくさんついたロリータ服を着て、猫耳と尻尾を付けている。
「せっかく面白いことになってるんだから、楽しまなきゃ損だよ。さて、俺は誰にちょっかい出そうかな」
「シリウス……」
 呼ばれた方を見ると、俯いたシリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)が、全身から怒りのどす黒いオーラを出して歩み寄ってきていた。ルークは繰り出される氷術を華麗に避け、余裕を持って言う。
「あれ、もう見つかっちゃったか」
「あれだけ自室で待機してろって言ったのに! 大体、なんだその格好は! どんな羞恥プレイだよ!!」
「似合うだろう?」
 ウインクをしてみせると、シリウスは完全にプツンっといったようで無言でボディブローを叩き込んできた。身体が入れ替わっている以上、受ければそれなりのダメージのはずだが――
 するりっとかわしてルークは逃げ出した。どこまでもスマートだ。
 シリウスは、殺る気満々でルークを追う。戻れるかどうかも気になるけど、それより……(今、シリウスを放っておいたら……貞操の危機が……!)
 何せシリウス(中身)は老若男女誰にでも手を出す無節操なのだ。