蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

「ノルンちゃん〜、どこですか〜?」
 ノルニルは二度寝から目覚めると、これが夢じゃないということをやっと悟った。もしや昨日の果実では、と蒼空学園のHPを覗き確信を得て、今は明日香の身体を探している。
「――!」
 やがて彼女は、悲鳴じみた声を出した。明日香は、日光が柔らかく降り注ぐ世界樹の洞で日向ぼっこをしていた。そこは人口的に庭として整備されていて、敷き詰められた土に草花も植えられている。
 その上にぺたんと女の子座りをして、明日香は顔を赤らめていた。スカートはとても短く、下はピンクのひもパンだった。
「なんて格好してるの!」
 ノルニルは大慌てで明日香に駆け寄った。周囲には、日本酒入りチョコレートボンボンの紙包みの山が散らばっていた。未開封のものもまだまだある。
「明日香さんの体では酔っ払ってしまいますー」
 暑いらしいのか、明日香は服の前をはだけていた。シャツのボタンが4つ外れて、ささやかな胸の谷間が見えている。肩紐がずれ、薄地のキャミソールがだらりとしていてブラが半分程覗いていた。
「ノルンちゃん!」
 ボンボンを口に入れてゆっくりと味わうと、明日香はノルニルを見上げてぽやんとした様子で言った。
「ふわふわしてきもちいいれす」
 シャツは何とか直したが、他は、この小さな身体ではどうにかできる事ではなかった。急いでピノに電話する。
『もしもーし!』
 しかし返ってきた声はラスのもので、しかし喋り方はピノなので若干――いやかなり気持ち悪い。声と一緒に、街の雑踏が聞こえてくる。外に出ているようだった。
「ピノちゃんも入れ替わっちゃったんですかー? 元に戻る薬が欲しいんですけど〜」
 事情を説明すると、ラスは困ったようにう〜ん、と言った。
『明日香ちゃんのお願いだし、あたしも何とかしたいけど……今、ツァンダの街にいるんだよね。薬は持ってないし、学校に戻るのにも時間がかかるよ?』
「…………そんなぁ〜」
 ノルニルはがっくりとして明日香を見た。いつの間にか、またシャツのボタンが開いている。
「あ〜! しまってください〜!」
『うーん……だったら、おにいちゃんに訊いてみたら? 学校に居ると思うよ!』

 蒼空学園の事務受付にて面会を申請し、許可を取ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、校長室に向かっていた。教導団の制服という正装だ。
「黄金の実って神話的浪漫よね。なんでかなぁ」
「真実の解明は、智恵持つ存在の自然な欲求だ。解明すべき事柄を持つ黄金の実が多数存在する結果、相対的にそうなったのだろう」
「……夢がないなぁ」
 校長室に入ると、2人はルミーナに敬礼した。
「シャンバラ教導団機甲科のルカルカ・ルーと申します」
「同じく、教導団技術科のダリル・ガイザックだ」
「……御神楽環菜よ。こんな姿で悪いけど」
「いえ、事情は把握しております。本日は、この入れ替わりの件についての私共の見解を聞いて頂きたく、やってまいりました。説明の際は、室内を暗くする必要があり恐縮ですが……」
「どうぞ、構わないわ」
 ルミーナが言うと、ルカルカは室内の照明のスイッチを切り、カーテンを閉めた。そして、テーブルにノートパソコンを設置して画面を白壁に向ける。電源を入れると、暗い中に青白い光がぽうっと点った。
 投射器具を設置して必要な画面を呼び出すと、ダリルに頷きかける。
「俺達は、結実数日前からの気象データ、実、土壌や周辺植物等を分析した。数日前、パロマが太陽黒点の過去100年にない程の劇的な活発化を観測したのだが……」
 ダリルは、ルカルカの操作する光ポインターに合わせて説明する。
「それは、知らないわね」
 ルミーナは自分のパソコンのキーボードを叩き画面を見詰め、ややあってから顔を上げた。
「……それで?」
 どうやら、自分でも検索をかけたらしい。
「地球の専門家は、パラミタの一部に宇宙放射線が薄弱なオゾン層を破り強烈に降ると予測した。しかし――」

(……こ、こんなフリーダムな振る舞い、初めてですわ!)
 校内を歩きながら、ジェニファーはメイヴの腕にしがみついて、無邪気な少女を演じていた。どきどきするけれど、たまにはこういうのも悪くない。
「メイヴっ! どっかいこうよー」
 とか言ってみる。
「もう、ジェニファーったら仕方ないですわね」
 そう答えるメイヴの方は、この喋り方にすごい違和感を感じていた。
(ううぅ、なんだかむずがゆいよー……でも、頑張るもん)
「おなかすいたよー、なんか食べよっ」
 そのうち地に戻ってしまわないかと心配しつつ、元気に言うジェニファー。そんな彼女達に、他の生徒と話をしていた瀬島 壮太(せじま・そうた)ミミ・マリー(みみ・まりー)が近付いてきた。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど……昨日、果実狩りって参加したか?」
「え?」
 聞かれて、ジェニファーはどきりとした。
(やっぱり、わざとらしかったですのね。難しいものですわ……!)
「ええ、行きましたわ。それが何か……?」
 メイヴがジェニファーのふりを続けながら、聞き返す。
「いや、誰に誘われてそんなことになったのか、知りてえんだ。だって、なんかおかしいよな。品種もはっきりしてねえような実を、ふつう他の奴らに食わせようとするか?」
「…………」
 ジェニファー達は顔を見合わせる。そんな事は、考えたこともなかった。
「人が入れ替わっちゃうってすごいことだよね。自分の生活とか、環境とか、何もかも180度変わっちゃうんだもん。僕そんなの絶対嫌だよ。……でも、自分と誰かを入れ替えてまで、何かをやってみたいと思う人だっているのかも」
 真面目な顔のミミに、壮太ははっきりと言った。
「人が、他の誰かになったって意味ねえよ。てめえはてめえだろ」
「そうですわ。本当に身に染みて感じました」
 あっという間に地を出して、ジェニファーは言う。メイヴもいつも通りの口調に戻った。
「で、でも……わいわい集まって行ったんだよ。誰がってことも無かったような……お土産は、みんなで持って帰って配ったしね」
「食べたかったなあ……」
 残念そうなミミに、食うなよと釘を差してから壮太は言う。
「だけど、最初に言いだしっぺがいる筈だろ?」
「先生……」
「?」
「先生が居ましたわ。勿論、何人もいましたけど……さりげなく誘導していたのは1人だったように思いますわ」
「誰だったか覚えてるか?」
「化学の先生だと思いますわ。あの、頼りない感じの」
「化学……!?」

「実の成分ですが……おおまかに言うと塩分と糖分、アンモニア、それにこれ……、これが今回の件の要でしょう」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が合図をすると、名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)は皆に紙を配っていった。すっこけたり、誰に配ったか分からなくなったりときょろきょろしている。実験の最中も、試験管を割ったり台にぶつかって試薬をこぼしたりと色々失敗をしていた。周囲はそれを微笑ましく見ていたのだが、いつも活発な本人としては中々にもどかしい。
(うー。白の体だと身体能力も低いし、背も小さくて動きにくいわね。でも、真人の手伝いしたいから出来る限り頑張らないと)
 そんな彼女を『背の低い身体』の持ち主である現セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が適宜手伝う。
(なんと……セルファのドジはどうにもしのびないのう。しかし……わらわはこんなドジはしないというのに、なにゆえ……?)
 このままでも良い気がしていたが少々腹も立つし、しょうがないながらの行動である。こちらは、入れ替わった身体をうまく使っていた。
(真人の手伝いをして、元に戻る方法を模索するしかないのう)
「どうぞ。リラックスすると良い考えが浮かびますよ」
 紙を見て考えを巡らせる面々に、久途 侘助(くず・わびすけ)は玉露入りの緑茶を配ってまわる。その途中で、紙に見入る香住 火藍(かすみ・からん)に声を掛けた。その様子はパッと見、人格が変わっているようには思えない。自分が2人いるような――
「あんたが真面目だと、何だか調子が狂いますね」
 火藍は顔をあげると、心外だなというように笑った。
「俺だってたまには真面目になるさ」
 紙に印刷されているのは、クリーム色をした何かの写真だった。形は――
「四つ葉のクローバーに似ているこれが、果実の主成分のようです。入れ替わりは、十中八九この成分の作用でしょう」
「これは……」
 写真を眺めていた影野 陽太(かげの・ようた)が、博識を使って正体を割り出そうとする。
「カーナマヤという成分ですね」
「効能は分かるのか?」
 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)の問いに、陽太は首を振る。
「効能までは……分かりません。図書館に居る組に調べてもらいましょう」
 そう言って携帯電話を開くと、図書館組に連絡を入れる。彼は、和泉 真奈(いずみ・まな)から連絡先を聞いていた。ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と一緒に来た彼女は、実を食べてしまって入れ替わる前に何とかしたい、と言ってミルディアを置いて図書館へ行っていた。ミルディアは入れ替わる気満々だったが、薬があっても別に不都合は無いし、皆が困ってるようだからと実験室に残り――急に眠くなったと言って、台につっぷして眠っていた。