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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

リアクション

 
「シェリル」
「ええ、ココ」
 ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナは、静かに目と目を交わしあった。
「行っけえー、すべてを貫く光よ!!」
 星拳を填めた手を思い切り後ろに引くと、二人は息もぴったりにその拳を突き出した。双星拳スター・ブレイカーに蓄えられた光が、星剣をも砕くエネルギーの奔流となって一気に迸った。
 幸運にもヴァッサーフォーゲルから遠ざけられていたジャワ・ディンブラたちの眼前を光が通りすぎた。ヴァッサーフォーゲルを呑み込み、空の彼方へと一条の光が長くのびていく。
 やがて、それは唐突に消えていった。
 ヴァッサーフォーゲルの姿はなく、後にはパニックになった生き残りの海賊船団が残るだけであった。
『撤退だ。撤退しろ』
 海賊たちの無線に、日比谷皐月の声が響いた。
 
    ★    ★    ★
 
「リーダー、大丈夫ですか」
 二人を心配したゴチメイたちが、一目散に海岸に戻ってくる。
 ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが、折り重なるようにして海岸に倒れている。
「寝ちゃったみたい」
 アルディミアク・ミトゥナのそばに座り込んだノア・セイブレムが言った。
「あらあら、のんきさんですねえ」
 呆れたチャイ・セイロンがクスクスと笑う。
「また変なのにビデオとか撮られないうちに、ちゃんとした所で寝かせてあげよー」
 リン・ダージに言われて、狭山珠樹たちが担架を持ってきてココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナを避難所に運んでいった。
「ちっ、先を越されちゃったか」
 W乳揉みを狙っていた葛葉明が、実に悔しそうに両手をわきわきした。
「そんなに揉みたけりゃ、おっさんの筋肉揉めばいいじゃないか」
 マサラ・アッサムが、まだ気を失って倒れているラルク・クローディスをさして言った。
「それは絶対に却下するんだもん!」
 葛葉明は、思いっきり身体の前で腕を交差させてバッテンを作りながら叫んだ。
 
 
 5.帰結(きけつ)
 
 
 海賊たちの残党は、逃げるがままにしたため、一同はゆっくりと避難所で傷の手当てをしていた。重傷者はいなかったものの、結構みんな満身創痍であった。戦いの緊張で、ほとんど怪我をしていることすら気づいていなかったらしい。気が抜けた今は、テントのあちこちで薬がしみるという悲鳴があがっている。
「失礼な。しみる薬こそ、良薬なのだ」
 意味もない自信を込めて、土方歳三が言った。
「傷を癒すんだったら、温泉が一番だぜー。リンやココたちも、アルと一緒にまたイルミンスールの大浴場に入りに来いよ。ミーが、背中ぐらい流してやるぜ」
 新田実が、道明寺玲のお茶で疲れを癒しているチャイ・セイロンとリン・ダージに、世界樹の温泉を勧めた。
「背中流してもらうかはあ、おいといてえ……」
「いや、はっきり言って背中流しは却下だよ。マッサージのおっちゃんもスケベだったし」
「あれは事故だ!!」
 リン・ダージの言葉を耳ざとく聞きつけて、ラルク・クローディスが叫んだ。
「温泉はいいですね」
「よし、次の行き先はそこにしようよ」
 何とはなしに、ペコ・フラワリーとマサラ・アッサムも賛成する。
「なんだかあ、出戻りみたいですけれどお。まあ、いっかあ」
 そう言って、チャイ・セイロンは微笑んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「それで、私に言いたかったことってなんでしたの」
 道明寺玲の淹れてくれた紅茶を優雅に楽しみながら、アルディミアク・ミトゥナがココ・カンパーニュに訊ねた。
「ええっと、それは……」
 ちょっと、ココ・カンパーニュが言いよどむ。
「ごめんなさい」
 一瞬の間をおいて、ココ・カンパーニュが深々とアルディミアク・ミトゥナに頭を下げた。まだ下ろしたままの長い漆黒の髪が、むかいに座るアルディミアク・ミトゥナの膝の上にさらさらと零れ落ちる。
「えっ、どういうことなの、お姉ちゃん?」
 予想外のできごとに、アルディミアク・ミトゥナが戸惑う。
「ほら、私って馬鹿だからさあ。シェリルを守るって誓ったのに、結局、地球に残して来ちゃったでしょ。だから、ごめんなさい」
 再び、ココ・カンパーニュが頭を下げた。
「殴りたかったら、殴ってもいいぞ」
 軽く、目を閉じてココ・カンパーニュが言った。
「まあ、それはおいといて。なぜ、私を連れていってくれなかったのよ。一緒に連れていってくれれば、こんなことになんかならなかったかもしれないのに」
「それは……」
 またまたココ・カンパーニュが言いよどんだ。
 近くで、噂好きな者たちが何人も耳をそばだてている。
「シェリルを、パラミタに連れてきたくなかったんだ。ほら、シェリルは、昔、十二星華として、いろいろとつらい目に遭っただろう。またパラミタにやってきたら、きっと嫌な思いをすると思って。そういう思いをさせたくなかったんだ。それはそれでよかったんだけど、今度は私がねえ、パラミタ送りになっちゃったから……」
 契約者の多くは、一般の人間よりも身体能力が格段に発達してしまう。パラミタに行くということは、ある意味、地球の一般社会から隔離するという意味もあったのだ。結局、元から力の制御ができていたアルディミアク・ミトゥナとは違い、ココ・カンパーニュは何度も問題を起こして、強制的にパラミタ送りになってしまったのである。だが、当時、そういう少年少女は少なくはなかった。
「ほんと、お姉ちゃんは馬鹿だったわ。私は、ずっと一緒にいたかったのに」
「うん。だから、反省してるじゃない。結局、私がしたことは、シェリルに逃げることをさせただけだったんだね」
「うん。だから、馬鹿だったと思う。でも、もう過去形よ」
 結局、お互いに相手を守るという誓いをたてたにもかかわらず、ココ・カンパーニュはアルディミアク・ミトゥナを守りたいがために、彼女にパラミタというものから逃げることを強要してしまった。たちむかう強さそのものを最初から奪い取ってしまったのである。
 それこそが、ココ・カンパーニュ自身が、アルディミアク・ミトゥナから逃げていたということと同意であったのだ。
 時として、人が人を思いやるのは、自分のためだったりする。でも、それでは真のパートナーとはなり得ない。人を守るということは、人に守られることだと気づき、それを受け入れることができてこそ、人は真のパートナーを得ることができるのかもしれない。いずれにしろ、ココ・カンパーニュがその本当の意味を知るのはまだ先のことかもしれないが……。
「それで、お願いがあるんだけどさあ」
 唐突に、ココ・カンパーニュがアルディミアク・ミトゥナに切り出した。
「なあに、お姉ちゃん?」
「今日から、シェリルはゴチメイホワイトね。で、これよろしく」
 そう言って、ココ・カンパーニュは真っ白なミニシルクハットをさし出した。
「ええーーーーーー!」
 
    ★    ★    ★
 
 パラミタ内海を、一隻の送葬船が音もなく水面をすべっていく。
 その舳先近くに、雷霆リナリエッタは静かに腰をおろしていた。
「ベファ、手を出したらだめだからね」
「えー、いけないのかい?」
 不服そうに、ベファーナ・ディ・カルボーネが、雷霆リナリエッタに聞き返す。
「後で彼女に殺されたいなら止めはしないけど。やめといた方がいいんじゃない?」
 そう言うと、雷霆リナリエッタは、まだ花につつまれたまま眠っている二人を静かに見下ろした。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 双拳の誓い、全巻の終了でございます。
 時系列的には、グランドシナリオ「決戦! マ・メール・ロア!!」の数日前の話ということになります。
 まあ、前に言っていたように、お話自体は実にシンプルでお約束通りの展開だったわけですが。
 最終回の展開も、ほぼ予定通りの骨組みだったわけです、危惧していたアルディミアクは普通に生き残ったので安堵しています。どうなるかなあと思っていたシニストラとデクステラもなんとか生きのびたみたいですねえ。実にぎりぎりのラインでしたが。さすがに、ゾブラクさんとヴァイスハイトさんは本文のようになりましたが。意外といいキャラだったのに……。
 なお、各キャラの後日譚用として、「学生たちの休日4」を使って、みなさんでその後を楽しんでもらおうかと思いましたので、参加回数の多い順に可能な範囲で御招待を発行しています。さすがに全員を招待するわけにはいきませんので、人数は限定となってしまいましたが、気がむきましたら有効に活用していただければと思っています。
 一応、ゴチメイたちはまたイルミンスールでお茶したりお風呂入ったりしていると思います。アルディミアクつきで。絡みたい場合は適当に絡んでやってください。
 全体的に1話から読み返すと、かなりの隠された話が浮き彫りになるとは思いますので、暇がありましたら、お楽しみください。
 なお、後日、ゴチメイキャンペーンの方はタイミングを見て再開しますが、こちらはもっと肩の力を抜いて楽しめる展開の予定です。