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リアクション
7-03 南部諸国の複雑な事情
「青である」
「永谷だ。よろしく」
パラ実侵攻軍と教導団や南部王家の軍との戦いが終了し、侵攻軍を後方から攻めていた大岡隊が合流した。
青 野武(せい・やぶ)は財産管理を発揮し、大岡隊、パートナーの黒 金烏(こく・きんう)らと協力し兵站の管理にあたった。1,000近い軍勢が、オークスバレーに向かって移動することになるのだ。
可能な限り短時日でオークスバレーに向かう強行軍になるが、青はそのため常に残存物資と戦闘継続可能日数に目を光らせる。
黒は、兵の疲労度や栄養状態を観察しつつ、不足物資(とくに塩・水・食糧・医療品)を的確に指摘した。また、中継地点に仮設の野戦病院の設置を指示しその指揮を行った。
こうして王子軍は、オークスバレーへ向け、動き始めた。
南部諸国を抜けるまでには、反教導団派諸侯の国々も隣接しているし、また、青が心配する旗幟を鮮明にしない諸侯領すなわちデアデル国領やプリアラ国領も存在する。青は、親教導団派の諸侯とこれに対する対策をよく練った。とくに反教導団派諸侯による補給線の圧迫や妨害(青が予測するに国頭派への間接的サボタージュ)、また、デアデルなどが彼らの面従腹背に協調しないよう、各本国へ使者を飛ばし監視と外交圧力を怠らないことを促した。
青はこの中で、かの人物もしくはその一派を名指ししないよう厳重に念を押している。
使者がもし囚われとなったとき、彼に、ならばと反旗を翻す口実を与えないためだ。
「あの男。なかなかに食えない人物よ」
――「全ては地域との融和のため。美しいね♪ 美しいよなッ? けけけ」
あの男……この男だ。裸でピアノを弾く南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)。前回野に下ったが、その後このように薔薇属性を帯びた。
前回以降、すでに教導団との間に一波乱起こっていた。
南臣は情報撹乱・破壊工作装備の虫で教導団を混乱させると、宮中へ乱入。
「南部王家は独立国なので、頭越しに人事(内政)・婚姻(外交)・軍事と、国家の主権行為三つも侵害されると困ります」
マーゼンを教導団の意に反し暴走したとして処断し本営へ返品してしまったのであった。
「以降俺様の許可なく勅命を出すの禁止」
その後、南臣は執政位は鯉オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)へ譲渡、自らはドレナダへ進駐した。
教導団側は、外交使節団の内、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がパートナーと共に各国を回る役目を買って出、とくに南臣が寄った独立三国にも働きかけを行った。その際、皇甫は南部王家の正式な使臣としての旗旒・斧鉞を拝領し、それを掲げて各国を駆けた。使臣としての権威を背景に、各国の廷臣に根回し(スキル「根回し」使用)。独立国らへの公式会談をセッティングするところまでを成功させた。
「! しっぽ娘が……自らこの地へ来おったか」
南臣は、柱の影から様子を覗いた。
そんな皇甫はいつになく真剣な表情&口調であり、
「諸侯方。今、状況は、王子派/親教導団派に有利に展開しつつあります。
中立は尊重されるべきですが、そろそろ旗幟を鮮明にしないと、周辺諸侯との間に国力差が開き、侮られる結果を招きかねないことになりますよ?
パラ実は……」
皇甫の目がキラリと光り、南臣を見透かしているかのように、柱の影を見た。
「く、……!(しっぽたん、その目に痺れる……!)」
「……本質的に流寇集団であり」皇甫は、彼を気にする様子もなく続ける。「既存の権威を尊重するとは考えにくく、これに対抗するには、正統派を有する王子の旗の下に結束することが有効でありましょう」
独立国の諸侯らは考え込む。
「お、おのれ」
南臣の方は、三国に対し独立を維持したまま、南部王家の枠より大きな同盟・120万石へ、と勧誘を進めていたのだ。
更に皇甫は、親王子派としての立場を明らかにすることを勧めた。具体的には、出兵すること、になるだろう。
王子派に付くならその出遅れ挽回として、王子へ花嫁候補を出しては、とも付け加えた。前回出ていた政略結婚の件である。(実際には、正室は平和到来後に決定として、当面は貴人扱い。)
「婚姻なァ……」
南臣は、まだ柱の影から、しっぽ娘を見やった。「この地方は一夫多妻。後から俺様が本妻を紹介すれば問題なし」と呟き、更に「俺様脳内オルドも第一夫人がシェルダメルダ、第二にしっぽたん(俺様も"団長"なので)、第三にちゃ〜み〜、親分ローザ、影番ゆめみん(夏野さん……最強!)ウハウハ……」と妄想(拡大中)が流れた。
「結婚なんて、そんなのぼく……」
年端もいかない王子本人は、考えられもしない様子。
王子の傍につく漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、この話、政略結婚には反対を示している。
教導団メンツは……王子と月夜との関係を心配していたのだが、そのことはさて……
「ウハウハ。ウハウハ」場面は、南臣の舞台の方へ戻る。「おっと……」
「呼んだか? 光一郎よ」
「おお、オットー。頼んだぞ」
「それがし硬骨漢である、恍惚感ではござらぬ!
任せろ。ニヤリ」
「おい、南臣。どうする。王子の使臣とやらは、こうこうこんな感じで言ってきたぞ」
独立三国の諸侯らが来る。
「こんなものも貰っちゃった……フフフン」
諸侯の手にはダイアモンドが。
「く、……(しっぽ娘め! やりよる!)
お、おいおまえたち。そんなもんで騙されるなじゃん!?」
南臣が彼らに聞かせていたのは、教導団側の構想(クレア構想)が罷り通るとして、その与党は教導団がまとめさせた南部王家でいい。120万石は、元黒羊派や彼ら独立国を組み込み、新体制下の野党連合を目指そうというものであった。
比較的兵力もあり、国土もあり、野心家たる独立国にとっては、それも悪くないと思えるのであった。皇甫の言ったように、王家側に付くには出遅れ感もあるし、もとより彼らは、王家(中心)に対する鮮卑や匈奴的な位置付けを自覚してきた者たちである。
「婚姻の話にも、俺は乗りようがない。娘を差し出そうにもおらんし」
諸侯の年齢も、南臣に近いまだ年若い者たちであった。
「あたしはあたし自身がって手もあるな。そうしてしまおうかしら? そうすれば、あたしが南部の女王……フフフ」
一国(プリアラ)の主は女性である。
「ま、待て落ち着け」
「冗談よ」
「南臣。ともあれ、形だけ兵は出そうと思うんだが?
パラ実を攻めるのなら、俺たちにはまあ別に悪いこともないかなって。ああ、おまえ、パラ実だっけ?」
「バラだ。俺様は」
皇甫の手腕は細部にまで及び、一方その頃、同じように皇甫 嵩(こうほ・すう)が反教導団派の諸侯にあたっていた。
戦況は王子派(と教導団)が押していることを強調し、王子の傭兵である教導団は組織として既存秩序である王子を支援しているが、国頭、南臣らパラ実勢力には核となる組織的意志はなく、それぞれの個人的野心で動いていると説いた。
「寝首をかかれる慮もありますぞ」
反教導団派(というよりもともとは親黒羊派か)には、独立国ほどの国力・兵力も野心もない。黒羊郷に恐れをなし、各国が南部を平定し力を付けようとはしていたが……今や黒羊郷には敵対し、どこかの旗のもとに集うなら……彼らの今の立場はかなりわかりづらいものになっていた。
「このまま親パラ実立場に立っていてよいとお考えでござろうか。ご存念をお伺いたく存じまする」
皇甫嵩はあくまで低姿勢に礼節を重んじつつも揺さぶりをかけた。
いよいよ、南臣の恐れていた切り崩しもここへ来て本格化してきたことになるか。
うんちょう タン(うんちょう・たん)は、通りすがりの吟遊詩人に扮し、南部諸国を経巡っていた。彼は、「嫌悪の歌」で他地域でのパラ実略奪の様子を歌うことで民のパラ実嫌悪を引き出し、「怒りの歌」をもってそれを怒りへと昇華させ、また、「幸せの歌」で王国時代の平和への懐古と賛美を、歌って回った(各スキル使用)。更に、これらを元に「根回し」(スキル使用)することで、民衆世論を親王子、教導団へと誘導することに努めたのである。
また、青のもとからも、こちらは本物の詩人……すなわち、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)も行く先々で、教導団はかの気高き南部王家の協力者であり、民の辛苦を憂える南部諸侯と共に侵略する者らを駆逐しこの地に平和をもたらすためにやって来た……と民衆に朗々と訴えた。
これらは、パラ実が略奪を行ったこと、そのパラ実をかつて南部をまとめた王家の王子が実際に撃退したこと、それを教導団が助けたことと一緒になって伝わり、民の間では、王子への指示、南部諸国が再び王家のもとに一つになることへの願い、それに教導団が王家を支えることへの賛同が広まったのであった。
「ぬ、お、おれのぇ……!」
しかしオットーは、外征を行うことについて、戦費が高くつき儲からない旨を流布した。
「国内がまとまっていないのに、外征などバカらしいわ!」
オットーは、軍がいよいよ、南部諸国からオークスバレーへの河を渡る際に、王家、諸侯、教導団に船を分けて用意し、王家の船に教導団員は乗せなかった。
「貴様らは、王家に従っておるのだろう。一緒には乗るな!
それがしら、南部諸侯と並んで王家に従って付いていくのだな」
教導団の乗った船(泥船)は、河に沈んだ……
「王子の威光を前に、奴らは自沈して恭順の意を示してます」
河から身を乗り出し、ノリさんが鯉を睨み付ける。
「おい、鯉! どういうつもりや。もう許さんで!」
「どうしてもやりたいなら、教導団だけで河渡れ」
「く、おい。てめぇもちょっと船出ろや。鯉らしく、河に下りてこんかい」
ノリさんは刀を抜いた。
「それがしドラゴニュートでな。おう、やるのか? おうおう、おうおう」
ひょこひょこ。
青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)がやって来た。
「けんかはいけませんよ。お互い王子軍の一員ぢゃないですか」
十八号は、殴られた。
「今日はこれくらいで勘弁しといてあげやう」
王子の船では……
「……どうなるんだろ。そしてぼくは一体、どこへ?」
「王子」
そんな王子をしっかり気遣って、補佐する、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)。
王子の友としてやはり傍にいる劉 協(りゅう・きょう)。そんな二人を、見つめる。
「ふむ。一見、何事も心配なきようですが……」
教導団とめざせ南臣120万石とのあいだで諍いが収まらないまま、日が暮れる。
夜、人目のつかないところで、月夜は……
「むむ」
それを目撃した劉協。月夜は王子を抱きしめ、王子はしっかり月夜に甘えているようである。
「一緒の部屋に入っていった……」
翌朝。
「王子ともなれば」劉協は、切り出す。「恋愛すらも国の統治を考えて行わなければならないこと、です」
「え、え、恋愛……その……」
王子は確かに、月夜を慕い、恋し始めている……
劉協は、少し離れたところで、月夜に語る。
「そして二人添い遂げるつもりなら……
いずれ諸侯から持ち出される縁談よりも、愛情/国家への貢献の場面において、月夜殿がこれに勝ることを示さねば周囲が納得しないでしょう」
諄々と、彼は説く。が。
月夜は、しばらく押し黙ったあと、湿気のある南部の河上の風に髪をなびかせ、船縁にもたれ言った。
「私は刀真の剣でパートナー……私は刀真のものなの」
「そ、そうですか。なれば……」
劉協は、口をつぐんだ。
「!」
それを、そーと聴いていた王子。
「つ、月夜さん……」
そしてオットー。
「お、おうおぉぉうおぅおぅ……」
王子の肩を優しく抱き、二人で密やかに泣いた。
「お、おい! 鯉! 貴様何故、王家の船に乗っとるんや!」
隣の船から、起きてきたノリさんが叫ぶ。
オットーは、はっとした。
「……ほう。ノイエとの諍いを詫びに本営からクレアが来るだと?(ぽっ」
「なんやあの鯉。赤なったで。気色わるい鯉や」
「恋? ……ち、ち、違う! 決して、……違う(ぽっ(ぽっ」
オットーは照れた。