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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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序章


 リヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)は回想していた。
 十一年前からこれまでのことを。

 ――君にはまだやるべき事がある。

 家族全員が殺されたその日、犯人と思しき人物はそう彼に告げた。言葉は覚えている。だが、どんな声だったかまでは覚えていない。
 その声が司城 征のもので再生される。考えれば考えるほど、思い出そうとすればするほど、それは深く脳裏に焼き付いて離れなくなる。
(先生……あなたは、全てを知っているのか? その上で――)
 自分を何食わぬ顔で世話してきていたのか。
 殺した一家の唯一の生き残りを。
 そして、今この時のために利用してきたというのだろうか。
 静かに拳を握り、歯を噛み締める。家族を殺した事に対する憤り、それだけではない。十年以上に渡り、真実を黙秘していたことが許せなかったのだ。
 それでも、家族と過ごした十二年間よりも、その後の十一年間の方が彼にとっては印象深い。
 パラミタの出現。
 エミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)との出会い、契約者となった事。
 蒼空学園設立と同時に、パラミタに渡った。それを機に口調を今のように改めた事。
(エミカにはしばらく気もち悪がられたな。そんな喋り方は似合わないって)
 ふっ、と口元が緩む。だが、すぐに元の表情に戻る。
 どれだけ過去を思い出そうと、現在は変わらない。郷愁に浸っても、ただ虚しいだけだ。
 雑念を振り払い、リヴァルトは歩き出す。手元にはPASDのデータベースから得た地図がある。まだ完全に未調査な、内海の施設の座標もそこに記されていた。
 時間が経てばPASDも調査に乗り出す事だろう。そうなる前に、自分の手で真実を確かめたい。
(先生……)
 全ての鍵はおそらく行方不明になっている司城が握っている。死んだとは思えない。それに、ジェネシス・ワーズワースだと告げた以上、何食わぬ顔でPASDに戻る事はないだろう。
 師は必ずやって来る。そう確信し、リヴァルトは眼前に見えた地下へと至る道を進んでいった。

            * * *

 パラミタ内海付近。
(あれは、リヴァルト?)
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、神妙な面持ちでどこかへ向かっているリヴァルトの姿を偶然発見した。
 かつて旧調査団の一員として共に行動したことがあったため、さらには彼が蒼空学園にいた時の学友でもあるため、見間違いだとは思えない。
(どうしてこんな場所に?)
 遠目から見えただけなので、なぜ彼がいるのかは定かではない。もう一度彼の姿を熟視する。
 長身に眼鏡をかけた姿は、やはりリヴァルトであった。彼は、地下道のような場所の中へ消えていくところだった。
(あんなところに、地下道……いえ、遺跡でしょうか。彼がいるということは――)
『研究所』やツァンダの遺跡と関係した施設だと考えざるを得ない。そうなると、彼一人ではあまりにも危険だ。
 リヴァルトに声を掛け、直接事情を聞ければいいのだが、話し掛けられる雰囲気ではない。遠目からでもそう感じられるほどだ。
 ウィングはリヴァルトの姿を見失わないようにしつつ、静かに彼の後をつけて内海の施設へと足を踏み入れていった。

            * * *

 しばらく経った頃、リヴァルト失踪の報せが伝えられる事になった。
「リヴァルトが……」
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、すぐに彼を探しに行こうと飛び出そうとした。
「尋人」
 それをパートナーの西条 霧神(さいじょう・きりがみ)が一旦引き止める。
「美味しい紅茶でも飲めば、焦る気持ちも落ち着きますよ」
 尋人とは対照的に、冷静な霧神。焦るとかえって思わぬ落とし穴に嵌る、そう伝えようとしているのだろう。
 二人は準備が出来ると、すぐにそれぞれ白馬に乗って内海の施設へと駆け出した。道中、リヴァルトの手掛かりを探しながら。
「仲間だと思っていた人が、もしもそうじゃなかったとしたら……辛いよね」
 尋人が呟く。
 彼の脳裏には薔薇学の仲間達の姿がある。信頼している彼らが、実は自分の仲間ではなかったとしたら……
 それを考えると、リヴァルトの辛さが分かるような気がした。

『私がジェネシス・ワーズワースだ』
『私が殺した。リヴァルトの祖父と姉を』
 
 イルミンスールでの出来事を思い出す。一連の事件の発端とされる人物が、リヴァルトにとって最も信頼のおける師であったという事。しかも、家族の仇であるという事実。
「だけど、いや、だからオレはリヴァルトを守りたい――仲間だから」
 これ以上、彼が傷つくのを見たくない、そういう思いが込められていた。そんな彼の様子を、霧神は静かに見守っていた。
(あの方なら大丈夫だとは思いますが……そういう理屈じゃないのでしょうね、尋人は。例え自分よりずっと強い相手でも、傷ついてるとあらば守りたいんですよね)
 霧神はリヴァルトが決して弱くないと見ていた。今は精神的に追い詰められているとはいえ、傀儡師を撃退した実力者でもある。
 ただ、尋人の力不足を悟りながらも懸命に行動を起こす様を見れば、そんな事を言い出すのは野暮な事だろう。
「でしたら、足りない分は何とか私が……うーん、まだ足りないですかねえ。とはいえ、出来る限りの事はさせて頂きますよ」
 霧神がそう言って、尋人と共に目的地を目指して手綱を握り締める。

 道中で発見した足跡を頼りに、彼らは施設へと辿り着いた。それはPASD本隊到着の僅かに前の事であった。

            * * *

 空京大学。
 エミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)の呼びかけによって、PASDのメンバーが集まっていた。本部にいない人でも、内海で合流しようと連絡して来た者もいるほどだ。
 それとは別に、彼女達よりも先に施設へ向かった者もいる。エメラルド・アインを助け出すために先行した、ルイ・フリード(るい・ふりーど)達であった。
 司城が製作した高性能通信機を二台借りる旨の連絡が残されていたため、知ったのである。
 連絡そのものは取れるので、エミカはその通信機を持てるだけ持っていこうと、取りに向かう。
 その時、どん、っとエミカの前に探索機器が置かれた。その中には当然のように無線機も入っている。
「リヴァルトを張り倒す役は譲ってやるよ」
 黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が言う。それ以上は特に何も語らず、ただエミカに向けて目配せをする。
 エミカは紫電槍・改を手に取り、周囲を見渡す。
 準備は整っていた。

「集まってくれてありがとう――行くよ、みんな!」
 

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