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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

リアクション

「さっきは恐かった……」
 陽はしみじみと言った。
「サラ・リリはねぇ…怒ると恐いから。ごめんね、陽君。あとで言っとくから」
 ルシェールは申し訳無さそうな声で言う。
(怒らなくても恐いよぅ〜)
 陽は心の中でルシェールの言葉に異論を唱えた。
 カラオケが終わり、皆は陽の部屋に集まっていた。
 そこには陽、テディ、椿、凛、ハールイン、紅月、レオン、ルシェールの八人がいた。
 貰ったお菓子や買出しに行ったものを一緒に広げている。
「なあなあ、ルシェ。好きな子っているか?」
 いきなりテディは言った。
 そんなことを言われてルシェールは目を瞬いた。
「ルシェの好きな子は誰なのかな? 好きな子がいるなら、誰かにとられる前にヨメにするんだっ!」
「え? え? ええええええ?」
「どうなんだよー。いるのか?」
「い、いないもん……だって、学舎には男の子しかいないし」
「ま、まあな……」
 椿は横から顔を出して言った。
 まだまだ、薔薇の学舎の奇妙な常識に気が付いていないルシェールは、至極真っ当な答えを言った。
 お泊りが楽しくて仕方がないのか、テディの自慢は止まらない。
「僕はね、陽だよ。俺のヨメ! 最高さ♪」
 テディはここぞとばかりにアピールし始めた。
「お嫁さんなの!?」
 ルシェールはびっくりして聞き返す。
「そう!」
「またそんなこと言って……異世界の人は変わった冗談を言うよね」
「え…えっとお」
 ルシェールは陽とテディを交互に見た。
「ヨメは絶対いたほうが良いぞ! なんてゆーか、毎日が楽しいっていうか、ココロがうきうきする!」
「楽しそうだなぁって思うけど。学舎にいたら、出会いとかそういうのなさそうじゃない?」
 ルシェールは、どこでそんな恋人なんて探すのだろうと頭を悩ませる。
 今のところ恋愛感情かどうかは別として、気になる人間はソルヴェーグと椿ちゃんぐらい。
 他は出会いがなさ過ぎてトキメク暇もない。
 ルシェールは他の人間に同じ質問をしてみた。
「陽くんはどうなの?」
「えっ? ボクなんかを好きになってくれる人なんて、どーせどーせいるワケないじゃないですか」
「そんなことないよ!」
 ルシェールは言った。テディよりも早く。
「そうだっ! うちのヨメはだれよりも可愛いんだ!」
「陽くんはおとなしくって、可愛くっていい人だよっ」
「そうかなぁ…でも、可愛いってなに?」
「そのままのことだよ?」
「それって、女の子にいうことなんじゃないかなあ」
「うーん」
「ルシェール君の方が……可愛い」
「陽が僕にとって一番だよ!」
 テディはめちゃめちゃアピールしはじめた。
「そうだよぅ〜、俺はね。いいの。みんなは大事にしてくれるし、嬉しいけど。顔の話じゃないと思うんだ」
「うーん……」
「テオドアが陽くんのこと大事ってしてくれるんだから、他の人なんかどーでもいいと思うんだけどなあ。陽くん、うらやましいよ」
 ルシェールは言った。
「ルシェールくんもいろんな人がいてくれるじゃない」
「俺はね……どうなのかな。サラ・リリはソルヴェーグの友達だし。俺に何もなくても側に居てくれる人がいるか、俺にはわからない。いつも…」
「いつも?」
「なんでもない」

(だれもいない)

 ルシェールは微笑んだ。
 苦いものが落ちていく。
 底なし沼に落ちていく言葉は秘密の毒。
 彼が闇に侵されないように、ルシェールは微笑んだまま。

「だから、陽くんは彼と幸せにね」
「……ありがと」
 陽は納得していないようだが、ルシェールの気持ちにお礼を言った。