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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪

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第3章 戦い人

 降り注ぐ波動の弾を避けてゆく。相変わらずに化け烏は宙を舞っているのだが、パッフェルの放った流星に完全に混乱し、正気を失っていた。それだけに余計に邪魔で仕方なかったが。
「… なぜだ」
 宙を駆けながら、空へ昇る小型飛空艇から身を乗り出して鬼崎 朔(きざき・さく)は叫んだ。
「止めろ! … 今すぐに!」
 パッフェルの乗る漆黒のグリフォンよりも上空へ飛びだした。
「止めるんだ! パッフェル!」
「…… パッフェルじゃない、私は…… シューティング・スコーピオン」
「シューティング…?」
 うまく聞き取れずに。それでも彼女に次弾の掃射を止める気配は見れなかった。ランチャーの射口が光り始めている。
「くっ、やむを得ないか」
 が機晶ロケットランチャーをパッフェルに向けた時、火術が襲いかかってきた。
「何っ?」
「邪魔しちゃダメだよー」
 火術に続いてブリザードを放ちながら、立川 るる(たちかわ・るる)が空飛ぶ箒ごと急降下してきた。
「くらえー、ブリザードぉ!」
「くっ」
 機体を操縦しているスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、パッフェルとの距離を大きく取った。
「あれは…」
 離れゆく中、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)パッフェルにSPリチャージを唱えているのが見えた。パッフェルが次から次へと拡散波動弾を撃てた理由はここにあったわけだ。
「垂直に射出、空中で拡散させている、となれば」
 ユニコーンが昇ってゆく。操する{ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、魔道銃を構えるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を乗せて。
「拡散後の撃墜は容易ではない、ならば、弾道頂点の制止地点を狙うまで」
 再びにランチャーから放たれた。巨大で光り輝く弾が天へ昇り、昇りきって制止して拡散しようとする刹那の瞬間を狙いてダリルが狙撃した。
 バランスを崩した光弾は一気に爆ぜ弾けた。星屑が落ちるように細かく、それでも殆どが空中で消え尽きてしまった。
「やった! さすがダリル」
「あぁ。単純な物理問題だ」
 …… 私の…… 流星が……
 散ってゆく流星。屑が宙で消えてゆく。
 狙われたのは拡散する直前。恐らく次も同じ手でくる。拡散するまで守り抜かなきゃ… 波動弾を放ってから直ぐに照準を定めて…。
 厳しいか…
 ダリルだけでなく、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も昇り来ていた。恐らく狙いは同じ…… 対象に散られると厄介だ……
「…… ソニア、グレン」
「了解です」
「援護しよう」
 パッフェルがランチャーを天へと向ける。思った通り、3者バラバラに散ってゆく。
「…… 私の名前は、シューティング・スコーピオン」
 彼女を乗せたグリフォンが空高くへと昇ってゆく。と、すぐに向きを変えると落下と共にランチャーの銃口が光りを放った。
「なっ!」
 一直線で向かってくる光柱、それが弾けて拡散し、加速したかのように襲いかかってきた。
「うおぉぉぉぉ! 何だこりゃあぁぁ!!」
 小型飛空艇を駆けさせて、匿名 某(とくな・なにがし)は叫んでいた。
 さっきまでと違う。落下してくるだけだった、それが今度は刺すように、矢のように、流星のように向かってくる。こっちの方が避けづらいってんだ。
「俺は、俺は… グズグズしてる暇は無ぇんだ!」
『君は気づかなかったかね? 何故集合場所が「黄島」なのか』
 ついさっきに電話があった。ミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)の言葉は、こう続いた。
『三つの島の中では「黄」は中立。即ち、「安全にも危険にも転がる可能性がある」という意味だ。愛しの彼女を守りたいなら… 頑張りたまえ! ハァーッハッハ!』
 黄島が危険に? 確かにこの海上も気付いたらワケのワカラナイ状態になっていた… 黄島も今頃…?
『ハァーッハッハ!』
 やかましい! 電話を切って綾耶にかけてみた………… 電源が入っていない、それともすでに?!
「くそっ! 退けぇ!」
 機体を海面近くへ持っていった。流星は空高くから降ってくる、少しでも距離を取らないと、これ以上は避けられない! 流星の数が、バカみてぇに増えているんだっ!
「パッフェル、止めろ!」
 旋回の後に後方からが叫んだ。
「…… 止めない…… シューティング・スコーピオンは愛の障害…… 流星の試練……」
「試練……?」
 2人がかりで即座にSPリチャージを施しているからか、パッフェルは流星波動弾を次々に撃ってくる。
 迎撃するにも、一撃の威力が強力で。しかもこのままだと逃げ場が−−−
「逃がさないよ」
 海面付近へと滑り飛び、立川 るる(たちかわ・るる)はファイアストームを放った。音井 博季(おとい・ひろき)ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は海中に潜ってこれを避けたが、このまま黄色まで潜り続けている事は到底できない。
「ほらほらー、どんどんイクよー」
「…… 看護所があるから、みんな仲良く……」
 流星を撃ちながら、サラッと怖いことを言っていた。
 ブリザードとかファイアストームとかを放っている娘も容赦が無い。
 輝波と爆煙と打ち上がる海水で、視界すらも奪われてゆく。黄島を目指す者たちの叫びも、飲み込まれてゆくようだった。



 青島から黄島への海路にはパッフェルが、いや、シューティング・スコーピオンが出撃しない。それ故に放ちた巨大クラーケンもシーワームも化け烏さえも、赤島から黄島に居るそれよりもずっとに凶暴性を高められていた………… まぁ、飢餓の苦しみを与えられていただけなのだが。
 よって、貪欲で凶暴なモンスターとの戦いは激しいものとなり、倒れゆく生徒の姿も見られ始めた。
 そんな空路をただ一人、朱宮 満夜(あけみや・まよ)が逆行していた。
ミハエル、どこに居るの! ミハエルっ!!」
 ミハエルには黄島で待つようにと言われていた。でも、待っているだけでは面白くない、こちらから出迎えて驚かせようと企み、箒に乗って飛び出したのだったが。
「ミハエル、ミハエルっ!」
 思ったよりもずっと戦況は激しく、モンスターの出現率が高い。低空を飛行しようものなら、あっと言う間に2体以上のクラーケンが飛び出してきて囲まれてしまう。
「邪魔ですぅ!」
 ファイアストームがクラーケンの囲いを切り裂いて、神代 明日香(かみしろ・あすか)が飛び出した。風に乗って箒を進めるのが好きなのに今は、モンスターたちの間を縫って抜けきるしかないようだった。
 大きく口を開けて跳び出してきたシーワームを避けた時、眼前で悲鳴があがった。
 高度から落下していた小型飛空艇に、化け烏が束になって突進したためだった。
 機体から放り出された緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)を、海面直前で明日香は抱き止めた。
「しっかり… しっかりするですぅっ!」
「あ… ありがとう… ございます」
 海面を叩きつける音がした。陽子の飛空艇が入水した音だった。
「そん… な… 黄島には透乃ちゃんが…」
 疲労が目に見えて分かる、全身に力が入らないようだった。それでも待ち人の居る黄島に辿り着こうと必死に願って−−−
「大丈夫ですぅ、このまま私が連れて行くですぅ、心配いらないですぅ」
 再びに前方を見渡せば、小型飛空挺を左右に跳ねさせられながら影野 陽太(かげの・ようた)がシーワームを狙撃していた。こちらは化け烏の突進に加え、海中からの跳弾を受けながら何とか機体を推し進めているようで。機体を揺らされる度に苦悶の呻声を漏らしていた。
「どうして… どうしてこんな…」
 みんなパートナーたちに、愛する人に会いたいだけなのに。
 傷つき倒れてゆく、絶望を覚える人が居る、辿り着けない人が居る。
「こんなの… こんなの絶対におかしいですぅ!!」
 明日香が荒れる海宙に叫んだ時、満夜のイライラも限界に達していた。
「いいかげんに… なさい!!」
 力の限りに、眉間に魔力を高め集めて、本来は対象に向けて放つものだが。
「道を開けるので−−−」
「満夜っ!! 待っ−−−」
「ミハエルっ−−−」
 箒に跨り、宙を滑り降りてくるミハエルの姿を見つけた、のだが、発を始めていた魔法は、既にどうにも止まらないまま−−−
 サンダーブラストが放たれた。それも普段以上に広範囲に、普段以上に強い魔力の雷撃が、海と空に放たれた。
 宙を舞う飛沫にも伝電しては繋電してゆき、果ては海宙一帯に瞬時に広がり、そしてモンスターにも生徒にも雷撃が襲いかかったのだった。