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【学校紹介】新校長、赴任

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第五章


・タンカー防衛戦 前


『ち、たかがガキ相手にやられちまうとはな。にしても、お前の不安、まさか当たるなんてよ』
 仲間のシュメッターリングの状況を通信で聞きつつ、若い男は呟く。
『油断してるからだ。向こうは弱いなりに、戦い方を知ってると見える。それに俺の予想はまだ当たったわけじゃない。肝心のタンカーの積荷はまだ分からないのだからな』
 既に、自分達の機体は一体やられている。加えて、まだタンカーに近付けてすらいない。
『だが、あの程度ではまだまだだ。カミロ様の手を煩わせるまでもない』
『んじゃ、あのだらしねー連中の分も働くとするか、っと。さっさと沈めて帰りてーもんだぜ』
 
            * * *

 C―03のビームキャノンによる砲撃が、敵機のうちの一機を撃ち抜いた。機関銃ごと片腕を失ったその機体は、これ以上の戦闘の続行は不可能だろう。
「よし、まずは一機!」
 その機体は、無理をすることなく戦線から離脱していった。
 だが、敵は二方向から、しかもまだ5機残っている。左舷側からの連絡も受けてはいるが、それで全戦力が来ているとは限らない。
 指揮官機らしき機体は見当たらないのだ。
「いける……これなら!」
 E―07とE―06が連なるようにして、敵機に向かっていく。一機やられたことにより、動揺しているようだった。
 ビームライフルを放ち、残った二機を別方向へ誘導しようとする。後ろからはコームラントの砲撃支援がある。
『E―06、敵は連携を乱した。今ならいける』
 孝明が通信を飛ばす。このままこちらは連携して、一機を止める。接近戦で止められなくても、後方からの援護だってある。
『了解! あと二機、確実にいくわよ』
 雪香が応じる。コームラントの機体に敵の注意がいかないように、二機が連なって飛んでいく。
 ビームライフルによる牽制。だが、狙えるものならそのまま敵機にダメージを与えておきたい。
(孝明、低空からさらに数機……上昇してきた!)
 敵の増援の存在に、椿が気付いた。精神感応で即座に孝明に伝える。
(さすがに分が悪い、か)
 牽制を行いつつ、今相手をしている敵機から距離を取る。
(お姉ちゃん……一旦下がった方がいいよ)
 E―06の機体も、引くつもりだ。が雪香に進言する。
(分かってるわよ。でも、あと少しだけ……)
 わずかに集中が切れ、焦りが見え始めている。
(今度は数が多い……って、まずいよ、さっきの機体がこっちに来てる!) 
 一度分断したはずのもう片方の機体が、こちらに向かっていた。
(ああ、もう。仕方ないわね)
 ライフルを撃ちながら、下がっていく。
 その間も、後方からビームキャノンの砲撃は飛んでいく。
「増援が来ます。出来る限り、今のうちに敵の連携を崩さないと……」
 交戦中の敵機は、まだ連携を取り戻していない。このまま時間稼ぎでもいいからバラバラにしておきたい。
 C―02の機体に乗る、秋穂がビームキャノンのトリガーを握りしめる。
「ここは、通しません!」
 照準を合わせ、発射。だが、敵の回避速度を考えれば、直撃させるのは難しい。
(陽動班、一機を誘導中。照準を右に30度、下に10度の位置に合わせておいて、だってー)
 次の予測座標に合わせて、砲撃準備を行う。
(エネルギー残量、50%。フルパワーで撃てるのはあと3発が限界だよー)
 ユメミが機体のコンディションを知らせる。
「ニーバー、敵機が射程に到達するまでの時間分かるかぁ?」
「15秒後です、景勝さん」
「なら、こっちから近づいた方が狙った方が早ぇな。連中、イーグリットが先に動くと思ってるだろうからよ」
 C―04の景勝は状況から、増援の方を少しでも崩した方がいいと判断したらしい。連携してようやく一機とやりあえるのが学院のレベルだ。敵にまで連携されたら防ぐのは難しい。
 増援部隊の方向へ、照準を合わせ、砲撃を行う。
「いくぜぇ!」
 連隊のど真ん中に向かって、ビームキャノンの光条が飛んでいく。射程に合わせて、前へ躍り出たが、敵機は彼の攻撃を予測していなかったらしく、連携が乱れた。
「増援も乱れてきたね。あとは、後ろのみんなに任せても大丈夫そうだけど……」
 E―08のリュートが、ビームライフルの引鉄を引く。
「道は確保しておかないとね」
「リュート君、敵機は大体分散してるよ。なんとかこっちの狙い通りになってるみたい」
 どうやら、敵は学院の予想外のチームワークに、逆に乱されているようだ。
 しかし、それでも射撃班の防衛ラインを突破しそうな機体が現れてくる。
『落ち着いて。複数で当たれば勝てない相手ではないですよ』
 射撃班のコームラントに接近する敵機に対し、エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が乗るE―09がビームライフルで迎え撃つ。
 砲撃を行うコームラントを護衛するためだ。その火力は、この守る戦いにはかなり重要である。
 冷静に、迫り来る敵機に狙いを定める。
「4機か。せめて半分は止めておきてぇところだ」
 射撃班のラインに迫ってるのは、増援と第一陣合わせてその数だった。他は、足止めがうまくいってるようだ。
「イーグリットの数が少なくなってしまいましたが、火力なら負けません」
 彼女のビームライフルの軌道上に、さらに一筋の光が走る。射撃班のコームラントによるものだ。
 敵機は迫り来る弾幕を回避せねばならず、容易に近付けない。
 が、その中でも二機、接近してくる機体があった。
『ビームキャノンねー、でも、これだけ近づくとかえって撃ち辛いだろ!?』
 旋回しながら、機関銃を乱射してくる機体があった。他の同型の機体よりも、動きが早い。
『でも、この数を避けられますか?』
 敵からの通信を受け、さらに弾幕を強める。
『360度、どこにでも動けるということを忘れてもらっては困るな』
 時間差による砲撃をするも、わずかな隙間を潜り抜けながら、二機の敵機は自分達に近づいてくる。
 
(あの二機、突破してきそうだ)
(リオ、あれを止めるよ)
 最終防衛ラインの機体が動き出す。十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が駆るE―05が、E―04とともに迫り来る二機を抑えるつもりだ。
(フェル、タンカーとの距離に気をつけて。あまり近いと、衝撃波が伝わっちゃう)
(ん、了解)
 タンカーからある程度距離を取った場所で防衛に入る。
(任務はあくまでも護衛! 深追い厳禁! 敵機の撃墜よりも、近付けさせないことが主目的だよ!)
 敵機との距離を確認する、リオ。武器のトリガーを握っているのはフェルクレートだ。間もなく、敵がライフルの射程に入る。
「あの二機は他の敵機よりも密に連携が取れてます。まずはそれを崩さないことには始まらないでしょう」
「だな。噂に聞く黒い機体とは違うみたいだが……楽にはいかなそうだ」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)のE―04も、E―05に合わせて動く。
「だが、オレ達も連携は取れてる。初出撃でここまで敵と渡り合えてるんだ。このまま協力していれば、大丈夫だよ」
 イーグリットが牽制を行い、コームラントの射程に誘導する。その逆も然りで、コームラントが砲撃を行い、回避させたところをイーグリットが攻撃する。
 事前にシミュレーター訓練を行っていたのもあるが、それでも実戦でここまで戦えれば、今後もいいチームとしてやっていけるかもしれない。
「今後もこうやって戦えれば、いいんだけど……」
「まだ始まったばかりです。イコンも仲間も、時間をかけて打ち解けていけばいいですよ」
「そうだね……」
 そして、二機のイーグリットが、敵のシュメッターリング二機と対峙した。
(敵機を捕捉、トリガーは預けるよ)
(ん、了解。一人でやるよりもずっと簡単)
 リオがレーダーを見ながら、フォローをする。
 ビームライフルを放ち、相手の出方を見る。
『今度は牽制ではないようだな。ならば……』
 敵機のうちの一体が、距離を詰めてくる。そのまま、機銃を乱射する。
『こちらの射程に合わせるまでだ』
 ビームライフルをかわしながら、E―05を敵機が捕捉する。
(被弾! ダメージ軽微、損傷率5%! 出力、火気管制異常なし! 気にせずいくよ!)
(リオ、このまま隙を作って相手を誘うから、E―04にも伝えて)
(はいよ!)
 即座にリオが通信を送る。
『E―04、了解!』
 ビームサーベルを引き抜き、敵機接近に備える。
(一機ずつ、落ち着いて)
 敵機は、片方が接近し、もう一方が後方から弾幕援護を行っている。
『よし、今だよ!』
 合図とともに、E―04が急接近し、ビームサーベルで一閃する。だが、それをあっさりと敵機がかわす。そして、機関銃を装甲に撃ち込む。
『やはり、囮か』
 今度は、敵のもう一機の方が、加速してくる。
『二機で固まって、いい的になってるぜ!」
 上だ。
 加速しながらその敵機は上昇し、二機のイーグリットを高い位置から狙い撃とうとしている。
『さあ、避けてみろよ!』
 機関銃による乱射、それも高高度からだ。しかも、照準を上に向けた瞬間に、もう一機に隙を見せることになる。
(く……損傷率20%。このままだと、ヤバイかも)
 今、二機のイーグリットはほぼ蜂の巣状態になりつつある。
(だけど、やり遂げなきゃ! アタシもリオも、こんな所で立ち止まってられないんだから!)
 ブースターを一気に噴射し、敵機よりも高い高度まで上昇する。
『ったく、そんで優位なったつもりかぁ!?』
 それでも、敵からの銃撃は止まらない。
(リオ、このままだと埒があかない。ちょっと機体に負担がかかるけど、いい?)
(分かった。後で修理する! 気にせずやっちゃいな、フェル!)
 今度は急下降する、E―05。さらに、機体を勢いよく回転させることで、装甲への弾丸を弾くつもりだ。
『速いな。だが、俺を忘れてもらっては困る』
 敵のもう一機が、E―05に狙いを定める。が、そこへ、
『それは、こっちもだよ!』
 E―04が、ビームサーベルで敵機の関節部を斬りつける。
『おっと、それほどダメージは受けてなかったか』
 先程至近距離で機関銃の弾丸を撃ち込んだが、まだ動けたらしい。
(機体損傷率、40%。被弾の影響で、マニピュレーターへの信号伝達が遅くなってます)
(ビームサーベルでの攻撃は厳しいかな?)
(おそらく。こちらでの操縦から、機体が実際に攻撃するまでのタイムラグが発生するでしょう。距離を取った方が無難です)
 すぐに、敵機から後退する。
『あくまでも、ここから先へは行かせないつもりか。だが、あとどれだけもつかな?』
 機関銃の照準がE―04から、E―05に移る。すぐにでも落とせるE―04よりも、動けるE―05を削るつもりのようだ。
『さっきの機体を落とすのは容易い。削るべきは、こっちだ』
『はん、オレ達だけでも十分だってのに。心配性なヤツだ』
 二機のシュメッターリングが、E―05を狙う。
(さすがに二機相手は……近くの機体は……)
 リオがレーダーで近くにあるコームラントを確認し、通信を送る。
『今から指定する座標に、砲撃をお願い!』
 敵機は二機でリオ達の乗る機体を追い詰める気で動いている。それ以外の機体にはそれほどの警戒はしていない。おそらく、レーダーの状況からコームラントが交戦中で身動きが取れないと思っているのだろう。
 だが、コームラントの機体を守っている者がいる。一瞬だけなら、彼女の指示を実行することも不可能ではない。
 ――二本の光条が、E―05と対峙する二機の敵に差し迫る。
(よし、今のうちに!)
 それを確認すると、すぐに退避した。コームラントのビームキャノンに巻き込まれないようにするためというのもあるが、この間に敵機の射程から離れる必要があったからだ。
『ち、オレ達の足止めをしてたんじゃねーのかよ』
『あの機体を助けるために、一瞬だけチャンスを作ったのだろう。大したものだ』

            * * *

 一方、増援部隊が来る頃、前線では。
「ようやく敵がバラけてきましたわね」
「三機で一機ずつ、落としていこう」
 アンジェラグラナートの乗るE―11と、ナギサ静留の乗るE―10が、ビームライフルを放つ。敵機を捕捉出来る射程ギリギリから、である。
 敵機の中の一機が、編隊から離れた。そこで、前衛の二機のうち一機がビームサーベルに持ち代える。
『敵機増援、分断されました。現在、そのうちの二機がタンカーへの接近を図ってます』
 状況を、C―05のやませが報告する。
 右舷の射撃班による砲撃により分断された敵の増援部隊の動きを、彼女はしっかりと追っていた。
「あの二機は、後方に任せよう。俺達はこの場の敵を減らすことに専念しねえとな」
「じゃあ、射程範囲まで移動するよ〜」
「ああ、照準はこっちで合わせるぜ」
 東風谷 白虎(こちや・びゃっこ)が、ビームキャノンのトリガーを握る。
「手柄を上げたって死んじまったら意味がないんだ。それだけは忘れずに……派手にいこうぜ!!」
 あとは、前衛の状況を見て、引鉄を引くだけだ。
「C―05、間もなく敵機を射程圏内に捉えます」
「では、そこまでの誘導もしないといけませんわね。E―10に連絡を」
『C―05、準備完了です。敵を誘い込みましょう』
『E―10、了解。よし、いくよ』
 E―10の機体が、ビームライフルを敵機のうちの一体に放つ。当然、回避行動に移る。
『接近戦は、お願い!』
『はい。確実に逝きます!』
「ちょっと、逝ってはダメですわよ!」
 E―11が、敵機に向かってビームサーベルを振り下ろす。敵は近接攻撃と、中距離から来るビームライフルの両方への対処に負われることになる。
 だが、機関銃を撃つことで、アンジェラが駆るE―11を必要以上に近づけないようにしている。
 ビームサーベルを持たない以上、あまり近いと困るからだ。
 もっとも、ここで距離を取らせることが彼女達の狙いだった。機関銃の銃撃を避けながら、彼女は接近していく。敵は自分の射程を維持するために、後退していく。さらに、反対側からはビームライフルの光弾が迫り来る。
 ならば、どこへ動けばいいか。前後を挟まれたなら、上下のどちらかだ。ならば、より状況を見渡せ、優位に立てる方――高度を上げることを選択する。
 だが、それは長距離砲撃からすれば、格好の標的となる。
「さあ、ぴったりだぜ!」
 C―05のビームキャノンの砲撃が、一直線に向かってくる。二機に気を取られていた敵機は、それに対する回避行動に移れない。
 しかも、白虎はシャープシューターで、狙いを定めていた。生身で目標を捉える時に比べ、やや精度は劣るが、普通にレーダーと目視で撃つよりは遥かにマシだ。
 その一撃は、敵のコックピットを撃ち抜いた。
 操縦者を失った機体は、海へ向かって落下していく。
『まずは、一機撃破だね』
『この調子で、いきましょう!』
 三対一ならば、勝てる。
 もし同じ手が通用しなくても、短、中、長距離全てに機関銃だけで対応するのは、難しいようだ。
 あとは、敵の数を減らして、この戦法が他でも使える状況に持っていくのが理想だ。練度の高い敵を相手にするには、それが正攻法というものである。
 右舷前線は、着実に天御柱学院が流れを掴もうとしていた。

 左舷側に例の機体が出現したのは、その時のことだった。