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リアクション
「可哀想……」
岩壁が、えぐれたようになっている。巨大な魚が散らばり、倒れている空賊の姿も幾つか見えた。
痛々しい惨状に、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)は沈痛な表情で呟いた。
この岩壁に、白鯨の神経が通っているなら、体内のあちこちで、鯨は痛い思いをしているのだろう。
「レキに、”一寸法師”とかいう絵本を貰ったことがあったのう」
ミア・マハ(みあ・まは)が、自分の腹をさすりながら言う。
「想像しただけで、胃がちくちくするわ」
それを聞いていた七那 夏菜(ななな・なな)も、顔を顰めながら、自分の腹部を押さえた。
「それにしても、当たらずとも遠からず、ってところだったな」
ツァンダへの地震の原因を探っていた時、
『体当たりしているドラゴンに、自分で抜けないとげでも刺さっているんじゃないのか』
と嘯いていたななのパートナー、七那 禰子(ななな・ねね)は、間違いでもなかった真相に苦笑する。
「う……ん。
とげ……抜いてあげないとね。とげじゃ、ないけど……」
夏菜もそう言って頷いた。
「くじらさんの傷……治してあげられないかな……」
深くえぐれた岩壁に、ヒールを施してみる。
すると、じわりと岩壁が元に戻って、夏菜も禰子も驚いた。
「へーえ! やっぱり、こんなんでも、ちゃんと生き物なんだな!」
解っていても、やはりこの様を見ると、どこか、違うのではと思っていた部分もあったようで、2人だけではなく、一緒にいた者達も何となく感心してしまう。
「……よかった、治るんだ……、……それじゃ」
と、夏菜は、完全には治らなかった傷に、再びヒールを施した。
「ボクも」
と、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)も、”傷”の治療に加わる。
「……って、ここで力を使い切ってどーすんだ! ここからだろうが!」
禰子にぽかりと軽く叩かれて、
「だ、だって……」
しょぼんと夏菜は俯く。うぐっ、と禰子は怯み、溜め息を吐いた。
「あーもう! いいから俺について来い! 護ってやっから!」
どん! と禰子は自らの胸を叩く。
「ねーちゃん……!」
その頼り甲斐に、夏菜は頼もしく感じ入った。
「……息は、無いようですね」
ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)が、倒れている空賊の様子を調べて言った。
「あと、ちょっとこれを見てください」
「え?」
パートナーのオルフェリアは、ミリオンが示すものを見て驚く。
「このあざは……!」
「フェイの手の平のと、同じなんだよ」
横から覗き込んだ、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が言った。
太陽を象ったような形のあざ。
「……つまり、フェイとこの空賊どもは、出自が同じ、ということであるな」
ふむ、と首を傾げて、『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)が言った。
「そんなまさか……」
「疑問は、本人らに訊けばよかろう。
自分らは、連中に接触する為に、わざわざこんなところまで来ているのだからな」
信じられない面持ちのオルフェリアに、アンノーンは言い放つ。
「確かに、その通りなんだよ。
空賊に訊いてみれば、話は早いんだよ」
レキも頷く。
「でも、空賊と戦う時、火系の魔法は避けた方がいいと思うんだよ」
ちら、とパートナーのマハを見る。
「そうじゃな。
クロスファイアとかなら、敵が大勢いても一気にいけるのじゃが……。
今度は我等が、鯨の体内を傷つけかねん。
雷系も鯨に負担を与えそうな気がするのう」
ミアも同意した。
「中味がこんなんでも、一応生物なら、大体こうゆう感じの間取りになってるんちゃうかな」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、方向を提示する。
「間取りって……」
パートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がその表現に眉間を押さえた。
「あとは、多分」
と、深部の方を見る。
多分、プレッシャーをより強く感じる場所が、空賊の目的地だ。
「……オリハルコンは、白鯨の身体の一部やろから、えらい痛い目にあうことになるやろな」
想像するだけで痛い。
「ま、頑張って体内の異物退治と行きましょか」
空賊の罠などにかからないようにと、禰子は注意を怠らないようにしながら進む。
だが、その手の仕掛けはなさそうだ。
「まあ、空賊の連中も、自分達以外に誰か来るなんて、思いもしてないかもしれねえよな」
自分達の存在は、空賊にとってもフリッカ達にとっても、イレギュラーであったろう。
「……それにしても、でっけえなあ。
ドラゴンより、こっちの方がでかいんじゃないか?」
禰子は、周囲を見渡しながら独り言のように言う。
「あたしもこれくらいでかかったらなあ……」
「ね、ねーちゃん?」目を丸くする夏菜に、禰子はにかっと笑った。
「キミの姉ちゃんが、くじらかドラゴンだったらよかったのになっ」
「え、……ええっ……」
夏菜はうろたえて、返事に困る。
この場合、禰子の言う”姉ちゃん”は、禰子のことではない。
え、えーっと、ねーちゃんは冗談で言ってるんだよね。
でも本気で言ってるように見えるんだけど、この笑顔。
どうしよう、ボク、何て答えたら……
「いたようですよ」
レイチェルの言葉に、全員に緊張が走った。
気付いたのは、空賊の方が先らしかった。
気がつけばすっかり囲まれていて、レキは銃を手に取る。
「何だ、貴様等。上の街の腑抜け共じゃあねえなぁ?」
「そうですね。世間知らずなので、ひとつ教えて欲しいんですけど」
矢野 佑一(やの・ゆういち)が訊ねた。
「あなた達がこんな所へ来たのは、オリハルコンを狙ってのことですか?」
フリッカに聞いただけの情報だ。
念の為に本人達に確認してみる。
へっ! と空賊達は笑った。
「どこでその情報を手に入れたのか知らねえが……オリハルコンは俺達の物と、5千年も前から決まってんだ!
何処の馬の骨か知らねえが、横から割り込んで横取りしようとしてんじゃねえよ!」
「そんなつもりではないんですけど。
……でも、それって取ったり傷つけたりしたら、白鯨ごと僕らも落ちると思いますけど?」
予測にすぎないが、佑一はそうカマをかけてみる。
「は! 白鯨が死ぬんなら、結構じゃねえか。
てめえらは、鯨と心中すればいい。
俺等はさっさと脱出するって寸法だがな!」
鯨が落ちたとしても、彼等は脱出する術を持っているのだ。
そもそも、侵入した時点で、空からの突撃だったのである。
しかし佑一達は、ふと違和感を感じた。
そもそも彼等がオリハルコンのことを知っているのは何故だ。
それにあの、フェイと同じあざ。
「……どうして、皆さん、そんなにオリハルコンを欲しがるんです?
白鯨に対しても、特別な感情を持っているように見えるんですが……」
「知るか! 白鯨は滅べ。オリハルコンは俺らの物。そう1万年前から決まってんだ!
お喋りは終わりだ。くたばりな!」
周囲を囲む空賊達が、一斉に襲いかかる。
だが、その攻撃が届くより早く、レキが、周囲の空賊達に向けて、スプレーショットで先制した。
「それはこっちのセリフなんだよ!」
ミア・マハの氷術がそれに続く。
鯨の体内に攻撃が及ばないよう、慎重に狙った。
「……うわっ……」
戦闘が始まって、ななは、慌てて、後方に退く。
戦闘は、ねねや他の人達に任せるしかなかった。
回復を担当するということもあったが、ねねに着せられたミニスカートのすそが気になって仕方なかったからだ。
「あ、暴れたら、……パンツとか見えちゃう……」
今は、力を使い果たしてしまって、回復すらできない。
だからななは、足手まといにならないよう、大人しく後ろの方に下がっていた。
オルフェリアは、庇護者のスキルを使って仲間達をサポートしながら戦った。
体内に入った時から感じているプレッシャーのせいで、機敏に動けなかったが、そこは、同じ状態にありながらも、佑一やレキ達と互いにフォローしあう。
「あなたも少しは役に立ってください」
と、ミリオンに引っ張り出されたアンノーンは、
「……よかろう」
と『禁じられた言葉』を以って仲間達へのバックアップをした、後は、一目散に逃げ出した。
「あ! 全くもう」
ミリオンが呆れるが、オルフェリアは構わない。
「やられてしまうより、いいですわ。彼も辛いはずですし……」
「……我も辛いんですけどね」ミリオンはふう、と息をついた。
そうして、全くの楽勝、とは行かなかったものの、特に酷いダメージを受けることもなく、空賊達を倒すことができた。
物陰から、ひょこりとミシェルが現れる。
「……もう大丈夫?」
「ああ。ミシェルに出番を頼むまでもなかったみたいだね」
佑一が言った。
苦戦するようであれば、ミシェルに”子守歌”を歌ってもらい、連中を眠らせようと思っていたのだが。
「あ、そういう作戦だったんだ。
じゃ、次は最初からそれでいけば、被害が少なくて済むんだよ」
レキが、ミアや禰子達と、倒した空賊達を縛り上げながら言った。
「そうだね。この後どれくらい空賊が残っているか解らないけど……。次は頼むよ」
佑一に言われて、ミシェルは「うん」と頷いた。
でも、それよりも、と、レキには気になることがあった。
「さてと。こやつら、どうする」
ミアが、縛り上げた空賊達を前にして言う。
「ほっといたら、白鯨の生き物としての働きで、どうにでもなるんちゃうの」
「?」
訳が解らない顔をするオルフェリア達に、だから、と泰輔は言った。
「虫下しの薬と下剤を、散布用にぎょうさん持ってきてん」
「虫下し?」
ぽかんとする彼等に、泰輔のパートナー、レイチェルが肩を竦める。
「……思うのですけど。
泰輔さんも空賊さんに結構酷いです。
排泄物扱いなど……」
ははっと泰輔は笑った。
「どないや?」
そう泰輔は提案したものの、相談の結果、空賊は連れて帰ろうということになった。
白鯨の生き物としての働きが、この洞窟内のような体内でどのように作用されるのか不明だったし、拘束した状態で残して行けば、排泄されるよりも先に何らかの事象で死ぬ方が先だろうと思われたからだ。
「ま、しゃあないか」
とりあえず提案はしたが、多数決の結果に泰輔は従う。
内部に住んでいる魚などもいるようだし、通常の生き物の働きとは違うのかもしれない、とも思った。
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