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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

リアクション

 
 9、そうそう、天使は呼んじゃダメだよ!
 
 
「えー……重症になった場合どうなるかも判ったところで、試合再開です! 現在、東が19人、西が21人、人数差は2人です。タイムの間に、西チームの間で作戦会議が行われたようです。歌の影響も薄れてきているようですね。さて、どんな手を打ってくるのか……」
『普通に考えて、手は1つしか無いですネ。東チームも陣形を変えたようだヨ』
 試合は西チームのボールで再開された。厳密に言えば先の試合中、朔が5秒以上ボールを所持していたのでそれだけで西ボールではあったのだが、その後にアシャンテがキャッチしているのでどちらにしろ西ボールである。ちなみに聡は悲惨な末路を辿ったが、美海は外野にまわってサポートをすることになっている。
 東は唯乃を守るように陣形を組んでいた。彼女は歌だけではなく、超感覚と財産管理を持ち、大地と共にコート内の情報役も兼任している。現在の彼女からは、狼の耳と尻尾が生えていた。
 月美 芽美(つきみ・めいみ)が、西コートの中央に立っている。ボールは、まだ地面の上だ。それを取り上げた瞬間。
「芽美ちゃん!」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が芽美の足元に氷術で氷を張った。その上で、彼女はフィギュアスケートの選手のようにスピンを始めた。東チームでも唯乃が歌を開始する。しかし、心頭滅却をしている芽美には効かず、勢いは止まらなかった。
「じゃあ、いくわよ!」
 アイナのパワーブレスを受けて攻撃力を上げ、自身でもヒロイックアサルトを発動する。
 1……2……3……4……
 5!
 ぴったり5秒目に、芽美はボールを投げた。横回転で得た遠心力と、轟雷閃が上乗せされた必殺シュートが東コートを襲う。
「私としては死人が出るくらいの方が……おもしろいのよねー」
 ファランクスで防御耐性をとった美央が、迫り来るボールを受け止めた。圧力に押される。防具として、マクシミリアンと怪力の籠手を装備している。攻撃は一瞬。SPを気にしてはいられない。しかし守りに関しては、彼女は恒常性を重視していた。
「うう……!」
(どんな威力のあるボールでも……受け止めます!)
 轟雷閃の電撃が体に痛みを与える。それでも、瞳に強い覚悟を称え、美央は踏ん張った。腕に力を込める。必殺シュートは、必殺防御じゃないと止められない。逆に言えば、必殺防御であれば『止められる』のだ。
「絶対に……止めます!」
 後退させられているが、まだコートの中。ボールの回転は、徐々に勢いを落としていく。それでも完全には止まらない。普通の人間であれば即吹っ飛ばされる力があることに変わりはない。
「美央ちゃん!」
 唯乃の声を聞きながら、美央は意識が飛びかけるのを感じた。しかし、そこで彼女は無意識にグレーターヒールを使っていた。ダメージが軽減されるのと同時に手にも力が込もる。ボールの回転速度が、また少し落ちた。
「赤羽さん! こっちです!」
 クライスの呼びかけに応じ、美央は瞬時の判断でボールを受け流すことにした。マクシミリアンの形状が、それを可能にさせる。
 上空にこぼれたボールを、クライスはバーストダッシュで取りにいった。威力は、もう殆ど残っていない。
(よし、引き寄せられる前にキャッチしたぞ!)
「ジィーン!」
 外野のジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)に向けて投げる。パスは無事に通った。ジィーンはボールを片手で持ち直すと、スマートな笑みを浮かべて言った。
「さってと、ちょいと軽いが……まあ、やってやれないことはないか」
 ボールを大上段に振りかぶり、そのままジャンプシュートの体勢に入る。その動作は、彼がヒロイックアサルトを使う時のものだ。普段は巨大な武器を使っているのだが、今日は変わりにボールである。力任せに、エヴァルトの頭目掛けて――
「……!」
 しかし、ボールはその直前で方向を変える。
「……天使は呼べないからな!」
 直球に見せかけたドロップボールは、芽美の足にヒットした。ターゲットとして認識されていると思っていなかった芽美に、軽身功を使う時間は無かった。
「アウト!」
「いたたた……」
 芽美は腫れた腿を押さえてうずくまった。骨をやられたらしい。
「あんたの必殺技は強力だからな。悪いけど退場してもらうぜ。……歩けるか?」
 騎士たるもの、怪我した女性を放っておくものではない。ジィーンは彼女に肩を貸して救護所へ連れて行く。そして、彼が外野に戻ってくる間にも、試合は進んでいた。
 芽美の足から跳ねてバウンドしたボールをアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が取る。
「む、取っちゃった……」
 取ってしまったものの、自分は非力だし、あまり相手を傷つけるのも好きじゃないし、どうしようか。
(……そうだ!)
「それ!」
 アリアはコートの前方に出ると、ボールを投げた。特にスキル等を乗せていない、ふつーのへなちょこボールである。でも高さは意外にあった。何となくほのぼのとしたボールの流れに、東チームの面々もその行方を見守り、動かなかった。皆で上を向いている。
「ほえ?」
 しかし、狙われたくさいヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、そのボールを見てキャッチの構えを取った。
「むむむ、これは……実は、すごいパスですか? でも、ボクはとりますよ!」
 ボールは、ちゃんと目の前で受けるほうがいい。正面に見えるように目を離さず、向きを変えて待ち受ける。必殺防御を発動した。
「その名も、ハグハグキャッチです!」
(たくさんのハグをしてきたボクにはボールもおともだちでハグ相手なのです!
 すごいボールもやさしくハグでキャッチしちゃうです!)
 パワーブレスとフォーティテュード、オートガードにオートバリアでパワーアップである。名称の愛らしさとはうって変わり、本格的なキャッチ技だ。
 だが。
 キャッチしようと後退っていくヴァーナーの頭上を、ボールはすっ、と通過した。
「あれ?」
 突然、速度が変わったような……。
 そう、アリアがサイコキネシスを使ったのだ。1度は早く、そして次にふわっと動いたボールは、優しくヴァーナーの肩を撫でた。その途端、急な力を加えられたようにボールは地面に急降下する。
 ばん! と背後で起きた音に、ヴァーナーはびっくりした。
 てんてんてん……、とボールが転がった。
「あ、アウト……」
 綺人が少し目を丸くして、アウトを告げる。

 ジィーンの肩を借りて、芽美がやってくる。
「ここに座ってください。はい、ここに……大丈夫ですか? すぐにヒールかけますね。えっと、某さんのギャザリングヘクスを飲んで、魔力を上げて……七日さんも、飲みますか?」
「遠慮しておきます」
 即答だ。
「……そ、そうですか?」
 脚の状態を見て、綾耶と七日がヒールをかけていく。望が微笑を浮かべて言った。
「あまり怪我をせぬ様にお気をつけ下さいませ」
「闘いは好きなんだけどねー」
 割とのんびりした口調で、芽美は答える。そんな救護所の様子を――彼女の怪我の具合をちらりと見て、ラスは顔を顰めて席を立った。
「……なんか、自分がミイラになった時のことを思い出すな……」
 救護所の奥では、聡が絶賛ミイラ男になりかけである。うんざりした気分で外に出て――
「あっ!」
 ちょうど東の攻撃ターン。ボールを持っていた春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)がそれに目をつけた。密かに彼女は、ラスに堂々とボールをぶつけられることを楽しみにしていた。にも関わらず、どうやら奴は試合に参加しないらしい。しかしボールはぶつけたい。
 そんなジレンマを感じていた真菜華にとって、これは絶好のチャンスである。
「いっくよー、マナカ☆シュートっっ!!」
 シャープシューターを使って、たまたま投げたら方向音痴でボールがすっぽ抜けた、という体を装って思いっきり本気で投げる。結構な威力だ。本気だ。
 ぎゅるるるるるるっ!
「…………!?」
 そして、その接近にラスは直前まで気付かなかった。しかし避けた。ぎりぎりで避けた。腐ってもローグである。いつも食らうばかりではない。ボールが、グランドの仕切りに当たって跳ね返る。仕切りにはボールの痕が出来ていた。
「…………な、なんだ……?」
 吃驚して身動き出来なくなっている彼に、真菜華が近付いてくる。ボールを取りにきているようだ。
「すいませえん場外の人ー、手が滑りましたーっ!」
「…………」
 一気に身の硬直が解けた。ラスからしてみれば、ま た お ま え か、という所である。
「こういうことって、あるよねー」
 ボールを拾って、コートへ戻っていく。まあ、ろくりんピックみたいな大きな舞台でそんな何度も不自然なことはしないだろう――1回こっきりの悪戯だ、と気を緩めて見ていると、彼女はくるっ、と振り返ってすかさず、「マナカ☆シュートっっ!!」と至近距離からシャープシューターシュートをしてきた。
「……!?」
 どげんっ!
 という擬音が似合いそうなほどばっちりボールがヒットする。転がったボールを拾って、また、どげんっ! 避けた。どげんっ! ……当たった。何度でも狙う。本気だ。
「ちょ、ちょっと待て! 待てって!」
 既に近い将来、半ミイラ男になりそうな状態で制止をかける。涙目だ。次に攻撃してきたら隠れ身使ってやる。いやでも隠れる所が無い。
「泣いても、攻撃は、止めないよっ!」
 楽しそうに、しかし今度は『本気だ』と断言は出来ない調子で、真菜華は言う。
「お前なあ……。ふざけてるとメンバーに袋叩きにされるぞ!」
「え? そう?」
 真菜華はボールを持って振り返ると、うーん、と考える素振りを見せてからコートに戻っていく。気のせいか、足をひきずっているような。
「審判さーん! マナカ、なんか足くじいちゃったみたいですー。みんなにメーワクかけたくないし、リタイアしていいですかー?」
「あ、はい……お大事に……」
 綺人は状況が掴めないような(そりゃそうだろう)顔でボールを受け取った。一方、誰も助けてくれないので自力で救護所まで戻ったラスは、翔一郎のお出迎えを受けていた。びたーん! と突然平手を食らい、目を丸くする。
「人間っつーのは、すっげぇ痛みを感じると他の痛みはどうでも良くなるもんじゃ! ビンタの痛みが引いたらあんたの怪我も治っちょるけぇ!」
「はあ!?」
 そう言いつつ、翔一郎はヒールをかけてくれた。精神論だということは分かっているらしい。