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少年探偵と蒼空の密室 Q編

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少年探偵と蒼空の密室 Q編

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「ショタ探。遅かったじゃない」
面会室のドアの前には、くるとくんをショタ探呼ばわりする、頭の回転は早いけど、意地の悪そうなメガネ少女、茅野菫(ちの・すみれ)さんと、
「おぬしら、かわい維新を知らぬか。待ち合わせの場所にあらわれぬし、携帯もつながらんのじゃ。もしかして、ニコの犠牲者にでもなっておらぬかと、わしはここまできたのじゃ」
 自分の見た目もロリータ少女なのに、老人口調で少女大好きの赤い悪魔、ファタ・オルガナさんでした。
 いつもは、自由奔放、豪放磊落、御意見無用な人なのに、こんなに焦った感じのファタさんは、はじめてみる気がします。
「維新は、生まれながらにトラブルに引き寄られる体質じゃ、大きな事件に巻き込まれて、身動きがとれなくなっておるかもしれんのう。ここで、なにか情報が得られればよいのじゃが」
「維新ちゃん。マジェスティックにきてたんだ。ファタさん、彼女のお友達なんですね。面倒みがいいんだあ」
「ボクも維新ちゃんとは、知り合いです。ファタちゃん。元気だすですよ」
 暗い雰囲気のファタさんをあたしとヴァーナーちゃんが、励ましていると、菫さんはすごく優しい口調で、
「こんな状況下でしょう。あの子も、性格はひどかったけど、見た目はそれなりにかわいかったから、ここよりも、死体置き場にいる確率が高いんじゃないかしら。せっかく、おつとめを終えたのに、残念ね」
「そんな言葉でわしがヘコむと思ったら、大間違いじゃ。維新が帰ってきたら、倍返しでいじめてやるから、待っておれ」
 口では、ファタさんも負けません。
「おや。マドモワゼル。きみは、髪型をかえたばかりでは、ないのかね。ショートが、とても似合っているよ。こんな、場所だが、きみに出会えた幸福に感謝する」
 それこそ場違いがことを言って、菫さんに微笑みかけたのは、やはり、ラウールさんでした。
「おじさん。わかってるじゃない。あたしと会うのは、はじめてなのに、すごいわね。あんた、かなりの女たらしでしょ。ショタ探、あんた生活能力に乏しそうだから、こういう人から、テクを学んで、あまねに捨てられても、食いぱぐれないようにするのよ」
 菫さんは、今日も性格がかわいくありません。
「年数ルールで、切り裂き魔が英霊じゃありえないってのは、もう誰かが指摘してるわよね。だから、あたしは、切り裂き魔を模倣してるやつの黒幕に会いたいのよ。こんな悪趣味なやつなんて、やっぱり、あの人よね。ニコの犯行の動機も、切り裂き魔の模倣をして、あの人に会いたい、なんてところじゃ、ないのかしら。似たような考えを持つ者として、仲間の惨めな姿をみにきたってわけ」
「わしは、ノーマンはどうでもよいわ。ニコが、維新に手をだしておったら……わしは、どうなるかわからぬぞ」
「ラウールさん、ニコさんを誰とでも会わせていいんですか」
 菫さんも、ファタさんも、容疑者の面会人としては、ふさわしくない気がします。
「くるとくんさえいれば、後は、誰が一緒にきてもかまわないらしい」
「彼は、くるとくんとなにを話したいんでしょうか」

拘束衣を着せられたニコさんとナインさんは、手足の自由を奪われた状態で、さらに椅子に縛りつけられ、並んで座っていました。
「キシャシャシャシャシャ。ニコ。お待ちかねの王子様が、家来を引き連れ、やってきたぜ」
 ユル族の黒猫ナインさんは、いつもの耳障りな笑いをたてて、元気そうです。顔と声は。
 銀髪の少年ニコさんは、ナインさんの言葉に、顔をあげ、エメラルド・グリーンの目で、くるとくんをにらみつけました。
「僕は、まだ、負けてないんだ! 弓月。おまえの仲間のあいつら、数を頼りにいい気になりやがって、僕は、おまえになんか負けないからな。先生に、おまえよりも優秀だって証明してみせて、僕に夢中にしてやる! 
これで、終わったと思うなよ。おまえなんか、一人じゃなにもできないだろ。僕は、僕の仲間は、おまえらには見えないけど、この部屋にもたくさんいるんだ。こんなところ、すぐに飛びだしてやるぞ。ハハハハハ」
「ニコ。頭がイカレちまっても、俺は、おまえのパートナーだぜ。心配すんなよ」
 切り裂き魔の仕業を装って、数件の傷害事件を引き起こしたこの人たちは、まるで、懲りてないようです。
 幸い死者は、でていないようですが、この精神状態では、ここからだすのは、危険すぎるわ。
「ニコさん。落ち着いて、もしも、ノーマン・ゲインがこの事件にからんでいて、あなたが彼に認められたとしても、なにもいいことはないのよ。あんな人の側にいたら、あなた自身がどんどん不幸になるだけだわ」
「おばさん。うるさいよ。僕はね、冴えわたる悪才、未知なるすべてを手に入れる者なんだ。おばさんの物差しじゃ、僕を計れないよ。先生の知識も、経験もみんな僕が手に入れるんだよ。弓月。おまえが、僕や先生の敵なら、僕は、おまえを殺す」
 おばさん。と、言われてしまいました。十代なのに、悲しいです。
 殺す、とスゴまれても、くるとくんは黙っています。まあ、言い返しても、ムダな気がするもんね。
「ヤング・アインシュタイン。ヤッホー・シリアスが監督、主演もした若き日のアインシュタイン博士が主人公のコメディー映画。天才は世の中がその価値に気づくまでは、孤独で、滑稽にみえる。ボクは、きみと会って、あの映画を連想した。いまも、そう思う。きみに似合うのは、レクター博士のコスプレじゃないよ」
 くるとくんは、ニコさんにそう言うと、あたしの背中に隠れました。
 よし。よし。きみにしては、よく頑張って、言いたいことを言えたじゃない。
「フン。頭がおかしいのは、どっちだ」
 肩透かしされた感じなのか、ニコさんの口調が弱まりました。
「あたしは、あんたの気持ちがわかるな。ようするに、ノーマン・ゲインを超えたいんでしょ。ロマンがあるわあ。協力してあげたいな。あたしと手を組まない?」
「くるとを殺すのも、新犯罪王を目指すのも、わしの質問にこたえてからじゃ。ニコ。おぬし、かわい維新を知らぬか。ほら、こんな子じゃ」
 ファタさんは、携帯を開き、ニコさんに画像をみせました。
「おーやおや。そいつなら、知ってるぜィ」
「なんじゃと。その子に、おぬしらが、なにをしたか、言うがよい」
「なーんにも、してねぇぜ。俺は、そいつが連れ去られるのをみただけだ。キシャシャ。ガキと他の女たちと、ヤバそうな馬車に、詰め込まれてたぜィ」
「ウソをつくではないぞ! それは、いつ、どこでじゃ」
 ファタさんが、ナインさんにつかみかからんばかりに、身を乗りだします。
「あまねさん、退出しましょう」
 あたしの耳元で、ラウールさんがささやきました。
「あなたとくるとくんにきていただきたいのです。たったいま、切り裂き魔を模倣した第三の殺人事件が発生しました。報道規制はしいてありますが、公になるのは、時間の問題です。私と現場へむかいましょう」
「菫さんと、ファタさんは」
「彼らは、このままでいいでしょう。急ぎましょう」
 あたし、くるとくん、ヴァーナーちゃんは、ラウールさんとホワイトチャペル地区の第三の現場へ急行しました。