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リアクション
●第1章 犯人は私たちでーっすv 悪気は全然あります♪
「うん、美青年〜☆」
師王 アスカ(しおう・あすか)は言った。
片手にはフラスコ。
花の乙女がティータイムに使うには相応しくない物だが、ただいま、研究資材でティータイム中…などではなかった。確かにティータイムの準備をしていたのだが、そんなものはタシガンから来る友人には使えない。まあ、それを使った化学部の部活っぽいシチュエーションのお茶会も喜ぶかもしれないが。
ともかく。
今は性転換。コレに限る。
鏡に前に立ってその中に映る自分自身を満足げに眺める。
長い黒髪はそのままに、銀の瞳は大きめでクリッとしている。細い顎も変わらず、喉仏が少し出っ張ったぐらいだ。
控えめながら形のよい美乳は引っ込んで、ちょっと腰の辺りが、変だ。その辺はキニシナイでおこう。
で、何があったかと言えば。
薬を飲んだ。ただ、その一言に尽きる。
儚げな雰囲気とは裏腹に、アスカは超・好奇心旺盛な女の子。
さっき、パートナーのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が作った傷薬を飲んだところ、男の子に変身してしまった。それで、『鏡で再確認』というところだ。
(こ、これは面白い…よ? ふふっ……)
アスカは危険なことを考えた。
これからやってくるのは友人の久途 侘助(くず・わびすけ)だ。
元々、おっとりとした…というか、眠そうな、というか。草食系男子な侘助が女の子になったら、それはそれは楽しいだろう。考えれば、胸の奥でふつふつと笑いの泡が膨れ上がる。
と、丁度良いタイミングで侘助がやってきた。
「お邪魔するぞ〜」
「あっ、来た来たッ!」
「え? ど、どーした…ハイテンションだな」
「あったりまえよぉ〜☆ こーんな楽しいことがッ! 久途くんにも分けてあげないとネ♪」
「は?」
「んも〜〜! 気が付かない?」
アスカはくるりとターンして見せた。ふわりとイルミンのマントが翻る。
「なにが?」
侘助は小首を傾げた。
「だぁ〜からー、私を見て、何か変わったな〜とか思わない? ねえ?」
「ん〜〜〜」
侘助は悩んだ。
見た目は変わらない。ほとんど。
違うと言えば、ちょっと声がハスキーになったぐらいだろうか。
「声、とか? 風邪ひいたのか?」
「ちっがーうわよぉ☆ んー、声かぁ。喉仏出ると低くなるのね。うー…あそこ見せるのもなぁ」
「へ?」
「あぁ、気にしない気にしないっ」
アスカは苦笑した。
「とーにかくっ! 飲むべしよ、コレ」
アスカはフラスコの残りを差し出した。
「トレンドはこれ。旬よ(たぶん)」
「師王がそこまで言うなら…」
侘助はフラスコに口をつけた。
飲んでみたら、苺飴みたいと言うか、ベリー系フレーバーの味がした。アメリカの子供が食べそうな、安いお菓子の味。侘助はニッキ水を飲んでるみたいな気分がした。
「不味くはないなぁ」
「いや、論点はそこじゃないし」
「へ? 試飲じゃないのか?」
「試飲は試飲なんだけどね」
「苺ジュースみたいだけどな。これでお茶するのか? 入れるなら、紅茶より、ストロベリー・ラテみたいにしないと、キツイぞ」
「あ、確かに」
「…ん?」
侘助は何かの違和感を感じた。
何が変かはわからないが、何か変だ。
胸の奥で、なにかが変わっていくような。
たゆんっ。
「ああ!!?」
侘助は声を上げた。
ぽにゅんっ☆
「ふああああ?!!!」
ばっにゅーん☆
「な、な、な……何だ、これはぁ!!!!」
「あーっはっは! をーほほほっ☆」
アスカは笑った。
儚げな美少女(侘助)が、自分のたっゆんたゆんに揺れる胸を鷲掴みにして、表情を凍りつかせている。
これがおかしくなくて、何がおかしいと言うのだろう。
「すごいでしょ? イカスでしょーっ?」
「や、や、や…これは」
「うちのルーツが作ったのよ。いやぁー、時に薬学は役に立つねぇ〜。どれどれ、おねーさんに揉ませなさい」
アスカは着物の襟を開かせるほどに大きい胸を揉み始める。
柔らかくって、あったかい。直だ。
ぽにゅんと揺れるたびに、侘助は頬を染めつつ、でも逆らわない。逆に、ぺったんになったアスカの胸をさわさわしたりしている。
ドアの隙間からルーツが覗いているのも気が付いていないほどの、ナイス集中ぶりだ。
(体の変貌に面白がって、全然危機感がないし…って、こら。アスカ! 久途さんの胸を揉むな!! そして…嫌がれ、そこの美少女!)
「役に立ってるって言うのか…これは」
ぺたぺたぺた…
「でしょお? 夏休みももう終わるのに、楽しいことの一つや、二つや、三つ。どーんっ! と、ないとねぇ。人生枯れ果てるわ」
たゆん。たゆん。
「そうか……寝て、起きて、宿題して、遊んで…だけじゃ、楽しくないよな」
「ばーん!と弾けないと!」
言葉に合わせて、激しく揺らす。
ぶるるんっ☆
「あッ、だめ……っ」
「えぇ? 敏感だなぁ〜、久途くん」
「開発されてますから?」
「あー、はいはい。春ね。青春ねー、ゴチソウサマ。でもねぇ、外の世界の夏はもうすぐ終わっちゃうのよ。バカンスよ、バカンス☆」
ルーツは脱力感もそこそこに、ふと静かになった二人を見遣る。
危険信号、チカチカ。
「じゃぁ…」
「じゃぁ?」
二人は顔を見合わせた。
にやそ(笑)
「「…これ、皆にも使ったら、面白くね?」」
「「だよねー(なー)♪」」
二人は異口同音に言った。
結局は似たもの同志。
アスカの高笑いをドアの隙間から見ていたルーツは、この二人の側にいたら危険と背中を向けた。三十六計逃げるに如かず。
(さようなら、アスカ!!)
ルーツは走った。
勘が告げるシグナルを無視したら、そこには地獄が待っている。
「逃げたッ!」
「え?」
「ルーツが逃げたのよ! 待てや、コラぁ!!」
楽しみの前には、乙女らしい言い方など、どこかにうっちゃってしまっていた。
アスカは走り出した。続いて侘助も走り出す。
「助けてー! 女性化はイヤだぁ!!!」
ルーツは叫んだ。
走れ走れ走れ走れ、自分!
立ち止まっても地獄なら、逃げた方がなんぼかマシ。
だかしかし!
無実の罪を着せられた過去を持つ貴族のお坊ちゃんが、逃げ切れるほど人生は甘くない。呪うなら、我が身を呪え。
しかも、侘助は場数を踏んでる格闘家。
あっという間に追いつかれる。
侘助は容赦なく、ジャンピング膝カックンをかました。
「脳ぉぉぉぉぉぉ〜〜〜ッ!」
バランスを崩したルーツは力なくへたり込む。しかし、走った勢いは消えず、前のめりになり、思いっきり前頭葉を地面にぶつけた。
「ぐごっ!」
「おお、器用な。久途くんも、だけど」
アスカは無慈悲に言った。
「くぁ…ッ…い、一体、我に何をさせようと…」
「そんなの決まってるわよ。もっと作って頂戴」
「ええ!?」
「当然でしょ」
「だよな〜♪」
「あ、でも」
「でも?」
「まずはこれね」
そう言って、飛鳥はルーツの口にフラスコの口を突っ込んだ。
「ぐごげッ! うごごっ…」
鼻を抓まれれば息は出来ず、口に含んだ薬は最後には嚥下される運命にある。
「ごッ、ぐふッ…」
「ふぅ…飲んだわね」
「師王……鬼だ」
「何か言ったかしら?」
「いや、何でもない」
「さて、作るの? 作らないの?」
アスカはルーツに顔を近づけて言う。
「い、イヤだ! 冗談ではない!」
「あ、そう? じゃぁ……」
ルーツが断ると、アスカが何事かを耳元で呟いた。
「なっ!」
「イヤならいいのよ〜? 言っちゃおっかなぁ☆」
「ちょ、ちょっと待て! わかった。け、け、け、研究の続きをするのも、副産物を再利用してもらうのも…や、やっ、やぶさかではない…ぞ?」
「じゃぁ、決まったわね」
アスカはにやりと笑った。
ルーツは大量生産することを約束した。
しかし、今度は侘助がとんでもないことを言い出した。
「俺もちょっと手伝おうか」
「えぇ!」
「ん〜、なんだよ」
「あ、いや…その。て、手伝うとは何をかな? 我が作る薬に不満でも」
「んー、傷薬を性転換薬にする腕前を信用しろというのもなあ」
「なんと…ヒドイ言い様だ」
「事実だろう? ちょっと、新要素を増やすだけだしな」
「えぇ!? この状態でも難だというのに、まだ…」
「まだまだ。ぱっと散る悪戯なら、徹底的にやらないとな」
「あ、賛成! 久途くんイイこと言うね」
「だろう?」
「追加要素は……そうだなあ。(元)男には犬耳か猫耳。(元)女の子には…ござる口調なんてどうだ?」
「なんとっ…ヒドイ」
驚愕する、ルーツ。
しかし、彼に選択権など存在しない。
「さあ、やっちゃおうか」
「OK!」
アスカは笑った。
もう、ルーツはやるしかなかった。
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