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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第9章 闘いの果てに

「信念なく、だって!? 俺は確かに難しいことはわからないが、朔姉ちゃんのいったことは『正義』だと信じてきたんだ!」
「私が『正義』を伝えただと? そのまま鵜呑みにして? ダメだ、ダメだダメだ! 望、せめて私の手でお前を斬ろう!」
 月夜見望の言葉は、鬼崎朔を逆上させるばかりだ。
 鬼崎が光条兵器を構えるのをみて、月夜見は戸惑う。
「朔姉ちゃん……俺たちと闘うのか? なぜだ?」
 月夜見は、鬼崎の内面をつかみきれない。
「くらえ! 月光蝶!」
 鬼崎が光条兵器を投擲したとき。
「望くんに何をするの! やらせないわ!」
 天原神無が叫び、投擲された光条兵器をサイコキネシスではね飛ばす。
「神無、離れろ!」
 月夜見が天原に怒鳴るが、天原は拒否した。
「嫌よ! だってあたしは、この人にうち勝って望くんにみてもらうために闘う決心をしたんだから!」
 天原は鬼崎を睨み、銃撃を放つ。
「何だ、その攻撃は? そんなもので!」」
 鬼崎はいっきに間合いを詰めると、ドラゴンアーツで天原を圧倒する。
「望にみてもらいたいだと? 本当にそれだけで殺し合いに参加したか!」
 鬼崎の拳が、足が、天原の身体にヒットし、うずくまらせる。
「そうよ! それだけよ! それが悪いっていうの?」
 天原は叫んで、立ち上がり、唇の血を拭った。
「……む」
 それだけだと言い放った天原に、鬼崎は自分の感情が動くのを感じた。
「よし、隙ありじゃ! 神無、援護するぞ!」
 須佐之櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)が、動きを一瞬止めた鬼崎に轟雷閃と爆炎波を仕掛ける。
 どごーん!
 雷撃と炎の双方をくらった鬼崎の全身が、激しく燃えあがる。
「どうじゃ、やったか?」
 須佐之は期待を込めて、鬼崎の様子をみつめる。
「こざかしい!」
 全身を包む炎の中で鬼崎は歯ぎしりし、須佐之にサイコキネシスを放つ。
「はわっ!?」
 須佐之は身体を宙に浮かされ、山道の彼方へと飛ばされてゆく。
「くらいなさい!」
 須佐之が消えた後、天原は鬼崎に対してサイコキネシスによる石つぶてを放つ。
「そのような攻撃は無意味だ! 望! 死ね!」
 鬼崎は天原の攻撃を無視して、月夜見に襲いかかる。
「朔姉ちゃん! 俺は、朔姉ちゃんを受け止める!」
 月夜見は目を閉じて、攻撃に耐える覚悟を固めた。
 鬼崎の斬撃が、月夜見の血をしぶかせるかに思えた。
「望くん!」
 だが、このときも、天原が月夜見を突き飛ばして、自らが斬撃を受けたのだ!
「む。なぜ!? 愚かな」
 鬼崎は盾となった天原の姿の何かに衝撃を受け、後じさる。
「わかったでしょう……私は、それだけ、だと……」
 天原は血を吹きながら、膝を折る。
「神無!」
 月夜見は、天原の身体を抱きしめた。
「しっかりしろ!」
 天原の反応はなく、月夜見は、我を忘れて介抱に努める。
 鬼崎の攻撃をくらって自分も倒れる可能性など、忘れていた。
「わかった。いいだろう」
 鬼崎はうなずくと、月夜見たちに背を向け、山頂を目指して登り始める。
「朔。朔を怒らせたあの人たちを、生かしておいていいの?」
 アテフェフが尋ねる。
「構わん。神無になら望を任せられる。そんな気がしたのだ」
 いって、鬼崎はバーストダッシュに移行し、他の参加者を倒しに行くのだった。
「望くん?」
 意識が回復した天原は、涙でぐしゃぐしゃになった月夜見の顔をみて、何が起きたのかと思う。
「神無! よかった!」
 月夜見は天原をきつく抱きしめる。
「い、痛い痛い! ……はあ」
 傷が痛んで悲鳴をあげる天原だが、伝わってくる月夜見のぬくもりに、知らず知らず身体を任せている自分に気づいていた。

「はあはあ。もうどのくらい登ったんでしょう?」
 橘早苗(たちばな・さなえ)は自分の後の山道を振り返り、ここまでの遥かな道のりに感慨を覚えた。
 こんなに高くまで登ってきたのに、自分の心はちっとも晴れない。
 橘が目をつぶって駆けてきた道のりは、このバトルロイヤルの行程よりもさらに長い。
 ずっと不安に追われ、逃げるように駆けてきた橘。
 たどりついた先には、闘いがあった。
「みなさん、どいて下さい。私は山頂に行くんです! この心のモヤモヤを打ち払うために!」
 橘はサイコキネシスで岩を持ち上げると、行く先々で出会う参加者たちに投げつける。
 参加者たちの悲鳴は、橘に聞こえない。
 聞こえるのは、自分の心がきしむ音だけである。
(早苗! ちょっと、待ちなさい! わけのわからないことばかりいってないで、ちゃんと話して!)
 精神感応でずっと呼びかけている葛葉杏(くずのは・あん)を無視して、橘は登り続けた。
「さあ、あなたもどいて下さい!」
 橘は、前方をゆくユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)に声をかける。
 だが、ユメミの反応はない。
「はあ、イライラするー」
 ユメミはポケットに詰めたお菓子を少しずつかじりながら、なかなか進まない行程に、そして少なくなりつつあるお菓子の量に、異様なもどかしさを覚えていた。
「ユメミの存在意義なんて、あるのに! 秋穂ちゃんがいる。秋穂ちゃんがいるんだから!」
 ビスケットを1枚口にくわえて、ユメミは重い足を引きずる。
 疲労のせいか、移動のスピードは徐々に落ちてきていた。
「あと少し、あと少しで山頂だよー」
 ユメミには、後ろから呼びかける橘に気づく余裕はなかった。
「仕方ないですね。罪ではありません、バトルロイヤルですから。いきますよ!」
 橘は、ユメミが脇にどこうとしないので、決断した。
 橘がサイコキネシスで放り投げた岩が、ユメミを押しつぶさんと落下してゆく。
 そのとき、ちょうど、ユメミのイライラは絶頂に達しようとしていた。
「ビスケットは、もうないの? ああ、嫌だー!」
 ポケットを半狂乱になって探りながら、ユメミが絶叫したとき。
 どごーん!
 ユメミの全身から、みえない力が放射状に放たれ、周囲のものを次々に打ち砕いた。
 ぐわーん!
 ユメミの頭上に落下してきた岩も、ユメミの力の暴発にもろに巻き込まれ、粉々に砕け散ってしまう。
「ああ、これはー。誰かがユメミを狙っているのー?」
 岩の破片が無数に降り注ぐのをみて、ユメミはやっと、橘の存在に気づいた。
「なかなかやりますね」
 橘は、ユメミに近づきながらいった。
「……」
 ユメミは無言のまま、橘をみている。
 ユメミの手は、ビスケットを求めてポケットの中を探り続けていた。
「通ってもいいですか? 行きますよ」
 ユメミが攻撃を仕掛ける気配もないので、橘はそのまま先に行こうとした。
 橘が通り過ぎ、その背中が、ユメミに向いたとき。
「ああ、ない! やっぱりない!」
 ユメミは、ビスケットが本当にないのだとはっきりわかって、再びイライラしてきた。
「何なのよ、もうー! みんなで邪魔してー!」
 ユメミの視線が殺気をおびて、橘の背中に突き刺さる。
「えっ?」
 不吉な予感がして、橘はユメミを振り返った。
 いまや鬼のような形相になったユメミが、銀のナイフを橘に投げつけるところだった。
「わー!」
 サイコキネシスで操られたナイフが、予測不可能な動きを示しながら、猛スピードで橘の周囲を旋回し、その衣を切り裂き始める。
「あはははは! 邪魔するから、こうなるんだよー!」
 ユメミは怖い笑いを浮かべた。
 いつまでも笑い続けるユメミの背後から、もう1人の参加者が近づいてくる。
 ユメミを探して山道を登ってきた、端守秋穂(はなもり・あいお)だった。
「はあはあ。ユメミ、そこにいたんですね! うん? 何をしてるんですか?」
 端守は、やっとユメミをみつけられたものの、その精神がまた不安定になっていることに気づいた。
 そして、誰かを傷つけていることにも。
「秋穂ちゃん! みてみて、面白いよ。この人、ユメミの邪魔するからこうなったんだー!」
 浮遊する刃から必死で逃れようとしている橘を指して、ユメミは笑い続ける。
「ユメミ、そんなことをしちゃダメです! ビスケットがなくなったんですか? じゃあ、代わりにこれを舐めればいいでしょう!」
 端守はユメミのポケットに手を突っ込んで、柄のついた飴玉を取り出すと、ユメミの口に突っ込んだ。
「ふがふが。甘いー」
 飴玉をしゃぶるユメミは、徐々に落ち着きを取り戻す。
「あれ? ユメミはどうしてここに? そうだ、秋穂ちゃんのために!」
「僕のために?」
 聞き返す端守に、ユメミはうなずく。
「うん。ユメミは、秋穂ちゃんのために、存在意義があるから。だから、秋穂ちゃんを『勝利者』にするのー」
「ユメミ。僕のためにバトルロイヤルに参加していたんですか。そして、こんなところまで一人で? ごめんなさい。あなたがそこまで思いつめていたとは、知りませんでした!」
 端守は、思わずユメミを抱きしめていた。
 端守の目から、熱いものがこぼれ落ちてくる。
「秋穂ちゃん、痛いー」
 端守に抱きしめられ、飴玉をしゃぶりながら、ユメミは呟く。
「ユメミ、僕は、いまのままの僕じゃダメですね。よくわかりました。何が何でもユメミを守る、そのためにも強くなります!」
 端守はユメミの手を引いて、山道を登り始めた。
 もう、ユメミが自分の代わりに闘う必要はない。
 今後は、ユメミを守る力を得るため、自分が闘う。
 そして、勝利者を目指す。
 端守は、覚悟を決めた。
「わー。高いですねー」
 端守の脇で、急におとなしくなったユメミが、これまでの行路を振り返って、やってきた山道の向こうにガガ山の周囲の景色が見渡せることに気づき、ちょっとした感動にひたるのだった。

「うううー」
 端守とユメミが去った後、踊る刃の攻撃から解放された橘早苗は、血まみれのまま山道の端に倒れこみ、苦痛に唸り声をあげていた。
「早苗! しっかりして!」
 ようやく橘に追いついた葛葉が、慌てて橘の身体を抱き起こし、傷の手当を行う。
「あ、杏さん。なぜ来たんですか?」
「あなたこそ、どうしてこんなに危険なイベントに参加したの?」
 葛葉は、橘の質問に質問で返す。
「どうしてって、杏さんにはわからないんですよ。あたしのことなんて!」
 橘は口をとがらせた。
 その目に、自己の存在意義に苦悩する強化人間の哀しみを、葛葉はみた。
「わかるわけないでしょ! バカじゃないの!」
 葛葉はいった。
「バカですって?」
「そう。私はあなたじゃないんだから、あなたのことなんてわからないわよ。わかって欲しかったら、ちゃんと説明しなさい!」
「いいです。私は、一人で行きます。大丈夫です!」
 橘は葛葉の手から抜け出して、山道をなおも進もうとする。
 葛葉はそんな橘の手をつかんで、引き止める。
 そして、きっと葛葉を睨んできた橘の頬を、平手で打った。
 バシッ!
「いい加減にしなさいよ! こんなに心配かけて! そんなに傷だらけで! 大丈夫なわけないでしょう?」
 葛葉は、橘に向かって思いきり怒鳴っていた。
「くう」
 橘は呻いて、肩を落とす。
「さあ、教えてもらうわよ。何が、あなたを悩ませているの?」
 葛葉は質問の後、じっと橘をみつめる。
 橘も、しばらく無言のまま、葛葉をみつめた。
 そして。
「私の記憶は、つくられたものかもしれないんです」
 橘は、ついに心の闇を吐き出した。
「記憶が? どうしてそう思ったの?」
「私は家族が多いから、少しでも楽をさせてあげたいから、強化人間に志願しました。でも、その家族の記憶が偽物だとしたら、私はどうすればいいんですか? 私は、学院の上層部にいいように操られる、ただの戦闘マシーンに過ぎないんじゃないですか?」
「だから、どうして、家族の記憶が偽物だと思ったのよ」
 葛葉の問いに、橘は首を振った。
「わかりません! わからないんです!」
「……そう」
 葛葉は、腕組みをして、橘をみつめた。
 いまや、橘はがっくりと膝をついて、地面をみつめている。
「早苗、携帯を出しなさい」
「携帯、ですか?」
「いいから!」
 葛葉は、橘に携帯を握らせる。
「この携帯を使って、あなたの家族を念写してみなさい。家族の記憶が偽物なら、画像がぼやけるから、すぐにわかるわ」
「……はい」
 橘は目を閉じて、家族のことを想い浮かべ、携帯を額に押し当てて、撮影ボタンを押す。
「みせて。ほら、細かいところまで全部写ってるじゃない。記憶が偽造されたものなら、こんなにはっきり写ることはないわ」
 葛葉は、橘に携帯の写真をみせた。
「これが、私の家族……」
「そうよ。いつも話していたでしょう?」
 葛葉の言葉に橘はうなずき、ふーっと安心したように深い息をついた。
 そして、携帯を胸に抱きしめると、大粒の涙をボロボロこぼし始める。
「う、うわああああああああ!」
 橘は、葛葉の胸に顔をうずめ、ただただむせび泣いた。
「一人で悩みを抱えこまないで。何かあったら、いつでも相談してね」
 葛葉は橘を抱きしめて、優しく声をかける。
(さて、これでもう引き返すべきかしら? でも、どうやって?)
 葛葉はガガ山の上空を仰いで、ため息をついた。