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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第4章 ガガ山へ

「くっそー、倒しても倒してもわいてきやがるぜ!」
「ガガ山だ! まずはガガ山に向かおう!」
 ガートルードたちの編隊が上空からすさまじい援護攻撃を仕掛けてくる中、バトルロイヤルの参加者たちは、パラ実生たちの相手をいつまでもすべきではないと悟り始めていた。
 森の中を早足で駆け抜け、ガガ山の登り口への到着を優先する生徒たち。
「おい、お前ら、逃げるんじゃねーよ!」
 パラ実生たちは、獲物が逃げるのを快く思わない。
 どこまでも獲物を追って狩ろうとする。
 そこに。
「おい、お前ら。何をやってるんだ?」
 夢野久(ゆめの・ひさし)が現れ、走るパラ実生たちの前に立ちふさがったのだ。
「ああ、うるせえな、邪魔すんな! って、ゆ、夢野さんじゃないですか! し、失礼しました。夢野さんも超能力者を狩りにきたんですか?」
 夢野に牙を剥き出しかかったパラ実生は、相手が誰だかわかるや否や、泡を食ったようになった。
「バカ、夢野さんじゃないだろ。総長だよ、総長と呼べ」
 夢野に話しかけられたパラ実生を、他のパラ実生がたしなめる。
 夢野久。
 あのドージェ・カイラスの後を継いで、波羅蜜多実業高等学校の二代目総長に就任した男であった。
「あっ、こ、これは重ね重ね失礼を! 総長、ご命令とあらば、俺は総長についてどんな狩りにでも行く覚悟です! いや、本当に!」
 パラ実生の顔がどんどん青くなっていく。
「そんなにへりくだるな。かえって気持ち悪いじゃねえか。あと、俺の名前は夢野だから、夢野と呼んでくれても、全く問題はないぜ」
「ハッ、ハイ、ありがとうございます!」
 緊張のあまり夢野の言葉を半分も理解しない状態で、青い顔のパラ実生はひたすら感謝の言葉を述べた。
 まるで、感謝さえしていれば、まずブッ飛ばされることはないと思い込んでいるかのようだ。
 夢野は肩をすくめて、
「かたくならなくていいから、まあ、聞けよ。俺がここに来たのは、狩りをするためといえばそうだが、超能力者たちを狩るつもりはない」
「えっ、というと、何を狩るんですか?」
 パラ実生はきょとんとした顔で尋ねる。
「ああ、お前らときたら! 地元のくせに全く知らないんだな。それでも、ガガ山の怪龍岩の下に、深紅の龍とやらが眠っていやがるって伝説ぐらいは聞いたことがあるだろ。その龍が、500年に1度の眠りから目覚めようとしている、いや、もう目覚めたかもしれないって噂だ」
「ほ、本当っすか! そういや、深紅の龍って、聞いたことがあるな。けど、本当に目覚めるんですか?」
「怪龍岩の近くに、『紅の帽子の男』が目撃されたという情報があちこちから入っている。その男は、龍の復活と関係があるんだそうだ。どうだい、噂を確かめるためにも、行ってみねえか? 500年に1回しか会えねえ激レアの強敵だぜ? 強さの高みを目指すもんとして、これにひきつけられねえ訳がねえ! 少なくとも俺は、龍と闘ってみてえぜ!」
 夢野の説明を聞いたパラ実生は、みな一様に静まりかえる。
 夢野のいうように、深紅の龍と闘うというのは実に魅力的だ。
 超能力者の略奪などしている場合ではないように思えた。
「私も久君に同感だよ。だって、超能力者を襲ったって、噂に聞いた金の指輪はなかなか出てこないし、何か得られてもたいしたもんじゃないし、それどころか、下手すりゃ、バトルロイヤルの参加者たちへのかませ犬にされてバカをみるのがオチだよ。君たちは超能力者と闘うのは慣れてないし、拳で殴りあうならともかく、念じて勝負、なんて柄じゃないよね? 龍と闘う方が、ずっと、らしくていいと思うけどな」
 佐野豊実(さの・とよみ)が、夢野の隣に顔を出していう。
 かませ犬にされてる、というのが、実に的確な指摘だったが、下級のパラ実生たちはきょとんとしている。
「あの、バトルロイヤル、って何ですか? 超能力者の連中は、観光目的で来ている、って聞いたんですけど」
 パラ実生たちの率直な問いに、佐野はあちゃーと頭を抱える。
「そんな不自然な噂を信じているのかい? それに、ネットには、その噂とは別に、バトルロイヤルのことだって話題になってたじゃないか」
 佐野の指摘に、パラ実生たちは「そういえば!」と拳を掌に打ちつける。
「確かに、バトルロイヤルがどうの、って掲示板にあったけど、難しい言葉が並んでいてよくわからなかったので流してました、俺たち」
「そんなに難しい内容だったっけ?」
「そもそも、バトルロイヤルって言葉の意味がわからないんですよ。どこか、外国の食べ物のことをいってるんじゃないかとは、思ったんですが」
「…………」
 パラ実生たちは大マジメにしゃべっているが、佐野は言葉をなくした。
「まあ、俺も、難しいことをいうのはやめよう。俺と一緒に龍と闘うに行くか、行かないかだ。一緒に行くという奴は、ついてこい! 命がけのバトルで、漢をみせてやろうじゃねえか!」
 夢野は、パラ実生たちに背を向けて、ガガ山への道を歩み出した。
「ああ、待って。私も行くよ」
 佐野が慌てて後を追う。
「どうする? みんな?」
 残されたパラ実生たちは、顔を見合わせる。
「どうって、確かに超能力者と闘っても、成果はなさそうだしな」
「そうか? でも、レアな下着があるって噂も聞いただろう」
「あっ! そ、それはそうだが、しかし、夢野さんにああいわれて、ついていかないわけには」
 パラ実生たちが眉根に皺を寄せて考えこんだとき。
「なーに、迷ってんの?」
 ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が色っぽく身をくねらせながら現れた。
「ルルールさん! ルルールさんも、夢野さんと一緒にきたんですね」
 パラ実生たちは、ルルールの色気たっぷりの外見に思わずみとれていた。
 何しろ、ルルールときたら、歩くたびに胸の膨らみが揺れているのである。
 わざと揺らしているようにも思えたが、パラ実生たちにとってはたまらない誘惑だった。
「そう! ごちゃごちゃ考えてないで、とりあえず興味が動いた方に行けば? 龍と闘うのって、もしかしたら死ぬかもだけど、肉体的な力はあまりない超能力者たちの相手をしているよりはかっこいいと、私は思うけどね」
 近くにいるパラ実生たちの肩を叩いてニッコリ微笑みながら、ルルールは夢野の後を追うように歩いていく。
 歩くごとに、胸が揺れるとともに、スカートの裾が微妙にまくれあがっているようにも思えた。
 太ももがまぶしい光を放って、パラ実生たちの脳天を射抜いていく。
 とりあえず、興味が動いた方に。
 まさに、多くのパラ実生たちの興味は、眼前に現れた誘惑に向かっていた。
「ル、ルルールさん、かわいいっす! ま、待って、行かないで下さいー!」
 ルルールの匂いをかぐだけでも意味があると思われたため、パラ実生たちは次々にルルールの後を追い始めた。
「あらら、私しか目に入らなくなっちゃったようね。まーったく、みんなして、おバカさんなんだからーっ」
 ルルールは笑って、夢野に追いつこうと足を早めた。

「おお、みんな、ついてきたか。おや?」
 しばらく歩いて後ろを振り返った夢野は、多数のパラ実生たちの姿を確認して感慨を覚えるとともに、ふと、視界の端にうつったものが気になった。
 車椅子に乗った男性が、他学の生徒たちに押されて森の中を移動していたのだ。
 その男性の姿は、森の木々に隠れてすぐにみえなくなったが、夢野には強い印象を与えた。
「何だ? あいつ、どこかでみたことがあるような気もするが、思い出せないな」
 夢野は、記憶のひっかかりを探ったが、その男性が誰なのか、はっきりしたことは全く思い出せない。
 ドージェに会ったら、聞いてみようか。
 ふとそんな考えが浮かび、夢野はさらに首をかしげる。
 なぜかはわからないが、自分の前の総長だったドージェなら、あの男性を知っているような気がしたのだ。
 だが、夢野はそれ以上の詮索は行わず、車椅子の男性のことを、すぐに忘れてしまった。


「あれ? パラ実生たちの襲撃が減ってきたぞ」
「本当だ。お腹が空いて倒れたのかな?」
 バトルロイヤルの参加者たちは、森の中の脅威が目にみえて薄くなってきたことに、首をかしげていた。
 幸いといえば幸いだが、なぜ急にそうなったのか、気になるところである。
 だが、なぜ襲撃が減ったのかなど、考えてもわかるはずがなく、とりあえずこれ幸いと進んでゆく参加者たちであった。
 森の中には、レアな下着の奪取にこだわるパラ実生がまだ若干潜んではいるものの、さっきまでの悲惨な状況に比べれば、だいぶましだ。
 障害がなくなった隙に、参加者たちは足を早めて、何人かがガガ山のふもとの登り口にたどりつき、急峻な岩山を颯爽と登り始める。
 だが。
 パラ実生たちの襲撃を切り抜け、ガガ山に全員が集まり始めているということは、バトルロイヤルが本格的に始まろうとしていることを意味していた。
 そう。
 参加者同士が鉢合わせになる機会が多くなり、互いに殺し合い、潰し合っていく段階に入っていくのである!
「どけー! 私の道を塞ぐなー!」
「何をー! 勝利者になるのは俺だー!」
 登山道のあちこちで、参加者同士の血で血を洗う超能力バトルが始まっていた。
 ある者は宙を舞い、ある者は剣を飛ばした。
 超能力者同士の闘いとは、肉弾戦であると同時に、戦闘中にひたすら念じ続け、イメージをし続けなければならないという、頭脳戦の要素も非常に強いものであった。

「炎よ踊れ!」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は火術で発生させた炎をサイコキネシスで操り、自由自在に動く炎の帯で周囲の参加者を牽制しながら、ダッシュで進んでいた。
「さあ、みんな、どいて! 黒焦げになりたくなかったらね!」
 いまのところ、アリアと出会った参加者はみな、炎の熱に驚いて、本能的に道を開けてくれたため、たいした抵抗にもあわずに進んでいくことができていた。
 だが。
 先を歩いていたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)に炎の塊を投げつけようとしたとき、それまでとは違った展開になってきた。
「おっと。危ないところだったぜ!」
 ミューレリアは炎を避けて、アリアに向き合う。
「道の端っこに行って! 炎は手加減を知らないわ!」
 アリアがミューレリアの側を走って通り過ぎようとしたとき。
「へー。力押しで全部通ると思ってたら、脇からの力に転ばされるよ?」
 ミューレリアが、サイコキネシスでアリアの靴に力をかける。
「あっ! わー」
 アリアは急な坂道で転倒し、慌てて近くの岩にしがみつく。
 気をつけないと、そのまま下に転がっていってしまうところだ。
「何をするの!」
「だって、バトルロイヤルだろ!」
 アリアに睨まれ、ミューレリアは笑ってみせた。
「くらいな!」
 アリアが立ち上がらないうちに、ミューレリアが、追い打ちのサイコキネシスをかける。
 アリアの真上に、念によって目にみえない力場が形成され、アリアの全身にずしりとのしかかってくる。
「ああっ!」
 頭部に締めつけられるような痛みを感じて、アリアは悲鳴をあげた。
「バトルロイヤルなのに、殺気がなさすぎるぜ、炎のお姉さん!」
 ミューレリアはさらに念じて、アリアを気絶させようとする。
「くっ! あなたもね!」
 アリアは悲鳴をあげながら道をごろごろと転がり、力場から逃れようとしながら、ミューレリアの身体の一部に念を集中させた。
 ぼわあっ
 ミューレリアの背中から、炎が吹き上がる。
「あちっ! なんだ、これ? そうか、さっき、服の一部に火がついたけど、その炎を燃え上がらせたのか!」
 ミューレリアは悲鳴をあげながら、アリアと同様に道を転がって、背中の炎を石に押しつけて消そうと躍起になった。
「私は、殺し合いをするつもりはないわ。でも、向かってくる敵には、全力で立ち向かうわ! 私はコリマに会って聞きたいことがあるの!」
 ようやく立ち上がったアリアは、強い口調でいった。
「なるほど。私も、コリマ校長に会いたいんだ。だから、本気を出すぜ!」
 背中の炎がようやく消えたミューレリアは、うずくまったまま、指を銃のかたちにして、アリアに向ける。
「バーン!」
 ミューレリアの指から、目にみえない力場の塊が、弾丸のように撃ち出される。
「炎よ、刃向かう力を押しのけろ!」
 アリアは炎の帯をミューレリアに向けて一直線に放つ。
 炎と念の弾丸がぶつかる。
「連射だぜ!」
 ミューレリアは指の銃から次々に念の弾丸を撃ち出した。
 アリアの炎は念の弾丸を包み込んで消し去ろうとするが、次々に撃ち込まれる弾の嵐に、若干押されているように思えた。
「くううう!」
「うおおお!」
 アリアとミューレリアはひたすら念じ続け、相手を圧倒しようと叫びをあげる。