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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!! 大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

リアクション


第2章 ヒャッハー!

 バリバリバリバリ
 ガガ山周辺に現れた別のヘリから、もうひとつのコンテナが投下された。
 ひゅううううううううう
 どさっ
「本当に大丈夫かな?」
 コンテナが森の木々の中に埋まっていくのを見守りながら、パイロットは首をかしげる。
 コンテナの中身が、これからどうするつもりなのか、見当もつかなかった。
 ヘリが旋回して去って行った後、森の中に残されたコンテナは自動的に解体され、中から車椅子が走り出てきて、止まった。
「…………」
 車椅子には、うつろな瞳で宙をみつめる、放心したような外見の男性が乗っていた。
「みつけたわ。まさか、本当に参加するなんてね。びっくりしたわ」
 森の中にバイクのエンジン音が鳴り響いたかと思うと、スパイクバイクに乗った真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)が茂みの中から現れる。
「久しぶりね。私のこと、覚えてるかしら?」
 真里亜は男性に話しかけるが、相手は全く違う何かをみつめていて、口からよだれをたらしながら、言葉にならない声を発するのみだった。
「あ……う………」
「やっぱり、話せないみたいね。こんな状態でどうしてバトルロイヤルに参加しようと思ったのかしら?」
 真里亜は呆れたように肩をすくめるが、車椅子の男性の想いは何となく想像がつくので、好感は抱いていた。
「無理して来なくても、いいのにね」
 真里亜が呟いたとき。
「まったくだな」
 西城陽(さいじょう・よう)が、木々の中から姿をみせる。
「西城さん! あなたも来ていたのね」
「ああ。久しぶりだな。まっ、俺も、海人が参加すると聞いてびっくりしたクチでな」
 西城は車椅子の男性を指していう。
 強化人間X。
 それが学院上層部における彼の呼称だったが、一部の生徒は彼を「海人」(かいと)と呼ぶようになっていた。
 上層部はいまだにその呼び名を認めていないが、ふとしたきっかけで彼が本当の名前を思い出したというのが、生徒の間での定説だった。
「まあ、俺たちがいなくても自分でどうにかできるんだろうが、つい、心配になってな。この外見は変わってないしな」
 西城は車椅子のグリップを握る。
「ふふふ。そうだよ。西城くん、私たちがいなくても彼は大丈夫なんだよ」
 ガサガサッ
 横島沙羅(よこしま・さら)が、真里亜の背後からいきなり現れた。
「えっ!? ああ、横島さん。相変わらずね」
 真里亜は思わずドキッとしたが、横島だとわかって苦笑を浮かべる。
「やっぱりそうか。でも、それならどうしておまえは来たんだ?」
 西城が尋ねる。
 もとはといえば、横島がバトルロイヤルに参加したいと言い出したのだ。
「ふふふ。私は、彼に興味があるからね。それに、面白そうだし」
 横島は邪悪な笑みを浮かべながら、海人の顔を覗き込む。
「面白そう?」
 真里亜は一瞬顔を曇らせた。
 西城が、そこには注目するなといいたげに口を挟む。
「俺たちは、海人と一緒に行動したいと思ってるんだ。目的はどうあれ、海人はまっすぐな奴だからな。俺もサイオニックだし、登山用ザイルとか、いろいろ装備もある。一緒に頂上を目指そうと思ってな」
「目的は、わかるよ。彼、殺し合いをやめさせようと思ってるんだ」
 横島がいった。
「あら? どうしてわかるの?」
 真里亜が驚いた口調でいう。
「昨日、強化人間の人たちに、『闘い以外にも、自分を確認する方法はあるはずだ』って、精神感応で呼びかけがあったからね。大半の人は、無視したみたいだけど。ふふふ」
 横島は、なぜか笑っている。
「私も、彼に同感だわ。校長の考えもわかるけど、こういう強硬策は逆効果だと思うのよ。あなたも、殺し合いはしたくないでしょう?」
「えっ? まあ、それは。うふふふふ!」
 横島は吹き出した。
「どうしたの?」
 真里亜は怪訝そうに尋ねる。
「まあ、海人くんが望んでいないなら、殺しはしないけどね。今回はね。ふふふ」
「今回は、って?」
 真里亜は、横島のいいように穏やかならぬものを感じた。
「さあ、行くぜ!」
 西城が、大きな声を張り上げて車椅子を押し始めた。
「ところで、おまえ、その頭はどうしたんだ?」
 話題を変えようという西城の狙いは、効を奏した。
「ああ、これ? 蛮族の擬装をしようと思ってね。どうかしら?」
 真里亜は、デラックスモヒカンに手をやる。
「ああ、バッチリだぜ。そのバイクといい、外見だけで危険を弾けるな」
 西城は、真里亜のスパイクバイクにも感心したような視線を投げる。
「ふふふ。似合ってるよ」
 横島は、邪悪な笑みをずっと浮かべていた。
 強化人間「海人」の乗る車椅子を押して、3人は森の中を動き始めていた。
 このとき、海人が何を考えていたかは、横島にさえもわからなかったという。

(ここが、シャンバラ大荒野か。不思議だ。ひどくなつかしい。なぜだ? 蛮族を恐れる気持ちも起きないが、なぜなんだ?)

 設楽カノン、強化人間X(海人)のほかにも、ガガ山周辺には多数の生徒たちが集まり始めていた。
 天御柱学院の生徒たちは学院のヘリで順次輸送されたが、他学の生徒は主に徒歩で移動してきた模様である。
 学院の生徒はヘリによってランダムに配置され、他学の生徒も基本はバラバラにやってきており、何人かグループになっていることも多かったが、バトルロイヤル開始時は、ガガ山周辺に各生徒、あるいは各グループが散在するかたちになる見込みだ。
 いずれの生徒も、バトルロイヤル参加・非参加を問わず、それぞれの目的を胸に、待ち受ける死闘の激しさを想って、緊張の面持ちであった。
(生徒諸君、準備は整ったかな?)
 生徒たちがだいたい揃ったのをみて、天御柱学院校長コリマ・ユカギールは、全員に精神感応でメッセージを送る。
(本日、ここにお集まり頂いた生徒諸君は、運命を自分で切り開くべく、実に勇敢な心がけとお見受けする)
(いよいよ、これから、バトルロイヤルを開催する。まずは、私の手で、ガガ山周辺に特殊な結界を張り巡らせる)
(今後、外から結界に入るのは自由だが、内側から外に出ることはできなくなる。また、結界内部の行いは全て私が監視していると思いたまえ)
 天御柱学院の校長室でコリマが念じると同時に、ガガ山周辺に強力かつ特殊な結界が張り巡らされていく。
 バトルロイヤルのフィールド全体を包み込む、実に巨大な結界である。
 一見すると結界は透明で目にみえないように思えるが、みる角度によっては七色の光を放つこともあるようだ。
(もちろん、よほどのことがない限り介入はしない。生徒諸君の思うがままに、命がけで闘うのだ)
(一部の、バトルロイヤルの趣旨を理解しない生徒たちについては、行き過ぎがあれば指導を行わせて頂こう)
(それでは、生徒諸君。自分の持てる力の全てを発揮して闘うのだ!)
 コリマの感応が切れた。
 同時に、大地が鳴動し、ガガ山の山頂から轟音とともに煙が吹き上がる。
 ゴゴゴゴゴゴ
 ドゴーン!
 噴火により噴き上がったマグマが、ガガ山の周囲に雨あられと降り注いだ。
「おわー!」
「あちー!」
 マグマの落下地点近くにいた生徒たちは、慌てて右往左往する。
 噴火は一時的なものだったのか、すぐにおさまったが、生徒たちは活火山の脅威をまじまじと感じさせられ、一層緊張を深くした。

「まずは、ガガ山のふもとまで行って、登っていかないとな」
「そうだな! 森の中には蛮族もいるだろう。そろそろと行こうぜ」
 生徒たちは、まずガガ山のふもとに行き着くため、森の中を慎重に進むことになった。
 だが。
「ヒャッハー! 死ねやー!」
「ぎゃー! 出たー!」
「殺される! 助けてー!」
 バトルロイヤルが開始してまもなく、ガガ山を取り巻く森林のあちこちから、蛮族の雄叫びと、生徒たちの悲鳴がわきあがったのである。
 パラ実生を含む蛮族たちの大半は、獲物の気配を察してあらかじめ潜んでいたのか、用意周到な動きで獲物を襲い始めた。
「おらー! 噂に聞いた金の指輪を出せー! って、誰も持ってないようにみえるけど、気のせいか?」
「きっと、どこかに隠してるんだぜ。とりあえずぶっ殺して身ぐるみ剥がなきゃわからねえよ」
「そうだな。それに、珍しい下着もしてるって話だ! 何もかも剥ぎ取ってみてやるぜ、オラー!」
 ちゅどーん!
 いくつかの生徒は反撃に出たのか、あちこちで激しい闘いの音がわきあがり、何かが爆発するような音もひっきりなしに巻き起こる。
「おわー! 身体が浮く! 俺って天才かもな、ひゃはははは! って、これ、超能力で飛ばされてるだけじゃーん!」
 パラ実生たちの多くは、超能力による攻撃を受けるのがはじめてなのか、驚きの声をあげていた。
「ぎゃー! ナイフ飛ばして自由に操るなよ! 俺たちが予想できる攻撃をしてくれー!」
 超能力が苦手なパラ実生もいたが、哀願も虚しく、生徒たちは情け容赦なく障害を打ち払い、先へと進んでいくのだった。

 そんな中。
「おいっ、みろよ! マブイ姉ちゃんが無防備で歩いてやがるぜ!」
 パラ実生たちは、森の中を軽やかな足取りで進む少女をみかけて、歓声をあげた。
「あまり金はなさそうだけどよ、やっちゃうか!?」
「んだな!」
 パラ実生たちは金銭とは別のものを目当てに、濁った光を瞳に宿しながら、少女の前後から、挟み撃ちの構えで迫っていった。
「うおお、白いお肌が匂ってきそうだぜー!」
「ハロー、姉ちゃん、ハロー?」
 パラ実生たちの呼びかけに、少女は全く無反応だ。
 表情を変えずに、先へと進んでいこうとする。
「おい、シカトすんなよ!」
 パラ実生たちはムッとして、少女の腕をつかもうとするが、少女の足取りは非常に軽く、捕獲しようという手をすりぬけて、包囲網を突破しかねない勢いだ。
「ワリャ、ナメんなよー!」
 パラ実生たちは少々焦りながら少女を入念に取り囲み、リーダー格のモヒカンの兄貴が、少女の正面に立って、両手をまっすぐ前方に突き出した。
「こうされても、まだ、澄ました顔でいられるかなー? へっへっ」
 モヒカンの兄貴は、ニヤニヤ笑いながら、突き出した両手を少女の胸の膨らみにかぶせた。
 その瞬間。
「はい、そこまで。あまり調子に乗らないで下さいねー!」
 離れたところから声が上がり、同時に、モヒカンの兄貴の真上から大きな岩が降ってきた!
 ひゅるるるるる
 すこーん!
 岩は、兄貴の頭部にヒットした。
「は、はわー☆」
 兄貴は、目をまわして倒れこんでしまう。
「あ、兄貴!! くそ、やっちまえ!」
 周囲のパラ実生たちは、何が起きたか理解できないまま、下手人と思われる目の前の少女に飛びかかっていった。
 すると。
 ひゅる、ひゅるるるる
 どご、どご
 天空から次々に岩が降ってきて、パラ実生たちを打ちすえていく。
「ひ、ひえー」
「ぷしゅー」
 目をまわし、泡を吹きながら倒れていくパラ実生たち。
 倒れた瞬間、一人のパラ実生は、みた。
「あれ? この女、幽霊みたいに浮かんでやがる、ぜ……」
 軽やかな足取りで進んでいるかにみえた少女の足は、大地を踏んでいなかった。
 生い茂る草の葉に隠れてみえなかったが、少女の足は、大地から微妙な距離をとって浮かんでいたのである。
 浮遊しながら、少女は進んでいたことになる。
「本当に、野蛮な人たちですわね。びっくりしましたわ」
 全てのパラ実生が気絶したのを確認してから、オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が森の木々の合間から姿を現す。
 みれば、浮遊する少女とオリガは、うりふたつの姿をしている。
「性欲には、人を狂わせる力が確かにあるようですわね。でも、わたくしがKAORIさんへの想いをこめてつくりだした幻影を、汚させるようなことは絶対許しませんわ!」
 オリガは、再び身を潜め、先を行く自分の幻影を見守りながら進んでいく。
 幻影を襲う者があれば、容赦なく撃退するつもりだった。
 コリマ校長に、細部まで見事に再現されたこの幻影をみてもらいたい。
 そして、自分のKAORIさんへの想いを理解してもらいたい。
 それが、オリガの願いだった。
(ふむ。前回観測時のデータと比べると、ずいぶん成長しているな)
 学院の校長室から結界内部の状況を監視していたコリマは、オリガのつくりだした幻影の素晴らしさを評価していた。
(既に幹部たちは彼女に目をつけているようだが、なるほど、逸材だ。あの幻影は、再現性・安定性が著しく、囮の役割を見事に果たしている)
(しかし、あの生徒の意識に強く浮かぶKAORIとは、何だ? ああ、プリンセス計画のあれか。まだ進んでいなかったな)
 学院幹部にオリガの詳細なデータを送るよう指示しながら、コリマはオリガの今後の扱いについて、深い思索を巡らすのだった。

「ふふ。楽しそうなイベントですね」
 天津のどか(あまつ・のどか)はほくそ笑みながら、森の中を歩いていた。
「でも、貞操帯だなんて、ずいぶんと野暮な発想だと思いますけど」
 天津は、森の中をきょろきょろとみまわす。
「あら、さっそく誰かきましたね。ふふ」
 蛮族の足音を耳にし、胸の奥からゾクゾクするような刺激にうち震えながら、天津は森の草葉の中にばったりと倒れ伏した。
「うん? いい女の匂いがするぞ」
 天津の近くを通りかかったパラ実生は、鼻をぴくぴくさせる。
 野性の勘が、獲物の在処を教えてくれた。
「いたぞ! これは上玉だ!」
 倒れて苦しそうにうめいている天津をみつけたパラ実生は、この発見を天に感謝したい気分だった。
「ど、どうかしたのかい、姉ちゃん? 足を微妙に開いてるから、スカートの中身がみえそうだぜ」
 パラ実生は、誘うような天津の姿勢に、思わずかぶりつきたくなるのをこらえながら話しかける。
「はあはあ。すみません。苦しいんです。さすってくれませんか? ふう」
 天津は瞳をうるうるさせてパラ実生を見上げ、熱い息を吐いた。
 パラ実生の心臓がドクンと撥ね上がる。
「さ、さするって、どこを? こことか、こことか?」
 割れものでも触るように慎重に天津を抱え上げて、パラ実生は背中や、胸や、太ももを撫でさすった。
「あっ、そこは!」
 ときおり、ビクッと反応する天津。
「ど、どうしたんだ? ここが痛いのか?」
「ううん。痛いんじゃないんです。こそばゆいっていうか、とろけるようで」
「お、おう。そうか」
 天津の言葉にわかったようなわからないような心情を覚えながら、パラ実生は興奮ばかりが膨れ上がってゆく。
「ありがとうございます。あの、お話したいことがあるんですが」
 天津はパラ実生をじっとみつめて、いった。
「な、何だ!?」
 男同士のガンつけには動じないパラ実生も、天津の視線にはまいってしまう。
「その……、私は、貞操帯つけてないんです。だから、恥ずかしくって」
 天津は、スカートの裾が微妙に開くように腰をひねりながら、いった。
「て、貞操帯って、噂の下着のことか。で、でも、それをつけてないって、つまり、その下は……」
 パラ実生の視線は、天津のスカートの裾と太ももの間にできている暗黒の空間に釘づけになった。
「そう。スースーするんです。きゃー!」
 天津は思わず悲鳴をあげた。
 我慢できなくなったパラ実生が、鼻息を荒くしながら天津のスカートに顔を突っ込もうとしたからだ。
「あらあら、もう。性急なんですね」
 パラ実生の顔をスカートから引き剥がすと、天津は両手を高く掲げ、念じた。
 ゴゴゴゴゴゴ
 近くにあった大きな岩が宙に浮き上がって、欲望に顔をほてらせているパラ実生の顔面に落下する。
「ぎゃ、ぎゃああああ」
 パラ実生はブーと鼻血を吹き出しながら倒れた。
 その鼻血が、岩の打撃によるものか、スカートの中の空気を嗅いだ興奮によるものかは不明だった。
「いけませんね。もうちょっと、じらしながらやってくれませんと」
 天津は立ち上がって、衣服の汚れを払う。
「でも、何も穿いてないというのは、本当ですよ。ふふ」
 天津は、なぜか心からの笑顔を浮かべていた。
「あっ、次の人がきましたね。試験開始です」
 別の人の足音を聞きつけ、天津は再び倒れ込む。
 何の「試験」かはわからないが、学校で教えてくれない勉強に属することは明らかだった。
 何人にも同じ手を試しているために、天津はなかなか先に行けなかったが、にも関わらず、非常に充実した時間を過ごしていたのである。