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リアクション
1、マイク準備OK!
ツァンダ近くのカラオケパーティー会場では、有志によるカラオケパーティーが開催されていた。地下への階段をトン、トン、と降りていくと南国風な装飾が施され、ドリンクバーとステージが完備された会場にたどりつくことができる。暦の上では秋ではあるが、クーラーの風が心地よかった。
今回は各コミュニティでの活動紹介がステージ上で披露されることになっている。その1番手はピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)が中心となっている「マジック☆倶楽部」による手品ショーだった。霧島 春美(きりしま・はるみ)とピクシコラはお揃いの網タイツのバニーガール衣装に身を包み、春美は白ウサギの耳をはやしていた。
「なあ、よかったらあたいらが演奏手伝ってやろうか?」
伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)がギターをカリギュラに見せて笑いかけている。手品に使う大道具は重くて女性では運ぶのが難しい。そのため裏方の閃崎 静麻(せんざき・しずま)と、演奏担当のカリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)が2人で人間が入れるほどの巨大な箱を動かしているところだった。
「お、わるいなあ。オリーブの首飾り頼むわ〜」
「演奏は得意だぜ。任せときな!」
藤乃は春美に自分が演奏を手伝うと伝え、パートナーのアルク・ドラクリア(あるく・どらくりあ)はビラ配りを引き受けてくれた。
「ねえ、お2人さん。手伝ってくれるお礼に占ってあげる♪」
「え、ワタシ……?」
「そう! いい、このカードよく切るわよ……」
ビラを持ったアルクに向かってピクシコラは陽気にウィンクをし、藤乃も呼び寄せてお互いのことをよく考えるように言った。そうしないとカードに気持ちが伝わらないらしい。
「ドキドキするぜ……」
藤乃とアルクは好きなところから2枚ずつカードを引き、一斉に表を向けた。ファンタスティック☆ 4枚すべてがえーすのもようだ! アルクはよかったぁ〜と無邪気に喜び、藤乃を牛っと抱き締めている。
「なあ、あんたら。そろそろステージに向かった方がいいぜ。次は推理研が入っているからな……1番手は派手な方がいいが、片付けもあるだろ」
静麻がディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)に持っていたスナック菓子をやりながら、ピクシコラに急ぐように呼びかけた。まあ、5分前行動の方がいいだろう。序盤なのだし。
「もぐもぐ。静麻さん、ありがとー」
「ほんまに助かるわぁ。片づけもよろしゅう頼むで!」
「わぁったから。ほら、行ってこい」
ディオネアがカーテンからそっと外をのぞくと、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と一緒にドリンクを飲みながら開始を待っているのが見えた。
「結構、人が集まってるわねぇ……。バニーガールさんのショーってもうすぐかしら?」
可愛い女の子が大好きなアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は、女の子の手品ショーがあると聞いてステージまでやってきていた。長いおさげを猫の尻尾のように揺らしながら少し背伸びをしている。
「お、おい。見るんならアッチの椅子が空いてるぜ」
「失礼ね。私にはアルメリアって名前がちゃんとあるのよ?」
ツン、と澄ました表情をすると静麻は頭をかきながら『そいつは悪かったな』と苦笑しながら謝った。アルメリアもそう怒っていた訳ではないので、ショーが始まるまでの暇な時間を雑談して過ごす。
「レディース&ジェントルメン!! これよりマジック☆倶楽部のイリュージョンが始まるわよっ」
「あら、結構本格的なのね」
ピクシコラがシルクハットからハトを出しながら挨拶すると、周囲からパチパチ! と拍手が沸き起こった。カリギュラや藤乃の演奏が始まるとディオネアが蝶ネクタイを付けてアシスタントとして、右手に木工用ボンドを持って登場した。春美による魔法のエフェクトで、ステージ上は光の粒がワルツを踊っている。
「皆さんこんにちはー!! 胴体切断手伝ってくれる人いませんかー?」
「……随分、ライトなノリだな」
「そうね。でも可愛いわ♪」
ディオネアは誰かいないかなぁ? とステージ上をきょろきょろと見回している。困った顔をしてアルクの方を見ると、担当がいなかった照明係を引き受けた彼女はにっこりと笑ってライトを女の子の方へ向けた。
「あっ。そこのお姉さん!!」
「えっ、ワタシ……?」
「ぜんぜん怖くないよ〜。ちょきんって切っちゃうんだけど、ちゃーんとひっつくからねっ」
さあ、前にゴーゴー!
背中を押されて戸惑う顔のアルメリアだが、静麻はニヤニヤするだけで止めることはなかった。
「ボンドがあるから失敗してもだいじょうブイッ! ……って、ピクピクなにするのさー。はいはい、ヒールで……って、いたたた」
失敗なんてしないわよっ。と、コツンとピクシコラに小突かれてしまった。ピクシコラはアルメリアに名前や学校を聞いたのち、巨大な箱の中に入るよう頼む。アルメリアが入った箱に大きな布をかぶせ、不思議な呪文を叫んでいた。
「さあさ、お立ち会い! これからこのノコギリで、ここの可愛いお嬢さんを真っ二つにするわよっ☆」
「こ、これ大丈夫なのかしら……?」
実は、今回上半身はアルメリアだが下半身は春美が担当している。アルメリアが入った箱は2つに割れたがもちろん彼女は無傷だった。
「はいっ。アルメリアさんの体の半分だよっ♪」
ディオネアが春美が入った箱をアルメリアの元に近づける。彼女は何となく仕掛けの予想がついていたので、いたずら心で春美の足をツンツンと突いてみた。
「キャッ」
……小さく、女性の声がしたようである。
「ははは。あんまり意地悪せんといてや〜♪」
カリギュラがバイオリンを弾きながら陽気に笑いかける。ディオネアも笑いをこらえて頬のあたりをぴくつかせていた。手品ショーは大成功のうちに幕を閉じ、アルメリアと藤乃、アルクは春美やピクシコラにお礼を言われた後いっしょに記念撮影をしていた。
「な、姉ちゃんたち。ちょっとええか?」
「なんだー? 次の団体始まっちまうぜ?」
「もふもふ〜」
「あはは、お姉さんくすぐったいよ〜っ」
撮影の後、藤乃・アルクと……ディオネアをもふもふしているアルメリアはカリギュラにちょいちょいと手招きされた。
「あんなぁ……良かったら春美と仲良くしてやってくれると嬉しいんや。あの子、仲良かった友達としばらく会えへんねん。なっ、頼むわ」
パン! と両手で目をつぶって拝むカリギュラを見て、藤乃とアルメリアはびっくりしたように視線を合わせた。やがて2人はにっこり笑って頷いて見せる。
「可愛い子なら大歓迎よ♪ ……そうね、片付けが終わったらお話ししてみようかしら」
「あたいも歓迎だぜ! あんた、そんな顔するなよ。せっかくのパーティーだぜ?」
お。邪魔できない雰囲気だな。
気を利かせて飲み物を持ってきた裏方の静麻は、しょうがなく春美たちに先にその飲み物を届けることにした。……後ろから、バイオリンとギター演奏でろくりんピックのテーマソングが聞こえてくる。女の子の歌声も交じっていた。
「お疲れ。よかったら、これ飲んでくれ。ここに置いとくな」
「わーっ。ありがとうございます! ごくごく」
「ここは裏方がやっとくよ。あっちで休んでいてくれ」
春美にそう話しかけると、立てた親指で藤乃達の方向をさした。……もうすぐ如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)も来るしな。男では充分だろ。
ま、こういう調整が裏方の特権ってとこかな。
「グルービーな曲、いっちょやったるでぇ!」
「なー、他に演奏できる奴いたら皆でやんねぇか?」
振り向くと、女の子たちが仲良くお喋りしているのが見えた。ディオネアはアルクに抱っこされて写真を撮られている。アルメリアは春美と一緒にろくりんピックのテーマソングを歌っていた。
手品ショーが終わった際、客席から春美たちの様子を見ていた橘 舞(たちばな・まい)は上品に拍手を送っていた。一方、彼女の隣に座っているブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は『バニーガールとは……やるじゃないの』と不敵な笑みを浮かべながら腕を組んでいる。次は彼女の「百合園女学院推理研究会」の発表なのだ。
「あれじゃ、推理研は個性的な者が集まり過ぎているように見えるんじゃないかのう」
「別に名推理できなくてもいいのよ。名探偵は私1人いればいいんだから!」
金 仙姫(きむ・そに)はその言葉を聞くと、やれやれ、と頭を左右に振って目を閉じた。舞も……そろそろ、アホブリがアホなのが1番の問題と気付くべきじゃ。
「さ、ステージが始まる前に少し時間があるわ。その間にスカウトするのよ!」
「あ、でも、無理やり入部させちゃ駄目ですよ。ブリジット?」
タイタニック号に乗った気でいなさい! と無茶苦茶な気合を入れる彼女を見て、舞は困った顔で笑っていた。しばらく歩いていると身長2メートルを超える大きな生徒に目が行った。制服からしてイルミンスールの学生だろうか。
「結和、珍しく張り切ってるなぁ。……僕も、新しい友達欲しいなぁ」
そう呟いていたのは高峰 結和(たかみね・ゆうわ)のパートナーであるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)だ。結和は給仕をしているクロス・クロノス(くろす・くろのす)と会話を楽しんでいる。
「こういったイベントは初めてですか?」
結和はクロスにオレンジジュースをもらい、それを飲みながら自分がパラミタに来て日が浅いことを伝えた。本当は自分も新人さんをフォローしてあげようと思ったのだが、どうも緊張してしまって上手くいかなかったようだ。
「あ、あのっ。高峰 結和と申しますー……もし大丈夫なら少しお話しませんか?」
今回の趣旨は交流のため、スタッフと言っても客と店員の関係ではない。クロスはエメリヤンにも飲み物を進めて自分たちの学校のことやステージの出し物について言葉を交わす。
「あの、あなたがもし良ければステージの出し物も見ていきませんか? これから推理研の発表があるんです。私は読書が好きなので、これから見てみようと思っていて……」
「面白そうだね、結和。……ほらほら、行ってみようよ」
推理は彼らにとってあまり縁がないものかもしれないが、それゆえに興味を持ったのかもしれない。ステージを見る前にクロスは裏方の佑也にも挨拶をし、飲み物を届けた。
「お疲れ様です。如月さん」
「あ、どうも。……こういうイベントは初めてなので緊張しますね。疲れた人がいたら座る場所を用意したので教えてください」
「はい。……そうだ、さっきイルミンスールの方と知り合いになったんです。紹介してもいいでしょうか?」
戻ってくると結和が場所を確保してくれていた。先輩と知り合いに……と思って佑也を連れてきたが、2人は知り合いだったようだ。まあ、それはそれでいいだろう。クロスは佑也に結和と仲良くなってもらうのもいいかと思い、自分は林田 樹(はやしだ・いつき)に挨拶しようと席をはずした。
「あ、エメリヤンくん。始まったよ」
ステージでは腰に手を当てたブリジットがスタンドマイクの前で大きな声を出していた。推理研に入れば3時には高級お茶菓子付きで、可愛いお嬢様と紅茶の時間を楽しめる! とのことだ。
「今なら、自称鶯の君の歌声つきよ。ちょっと五月蝿いけどね」
「……大船というより、泥船じゃな」
「そこのマフラーをしたあなた! 今、お試し入部期間中だけど、どうかしら?」
ブリジットの人差し指の先にはエメリヤンがいた。どうやら彼はロックオンされてしまったらしい。ど、どうしよう。そう結和に目で問いかけると、彼女は『話だけでも聞いてみたらどうかな?』と目で答えてきた。
「……ええと」
「せっかくですから、一緒にお茶を飲みながらおしゃべりしませんか?」
ブリジットは入部届けと朱肉を握りしめながら『この書類に名前をかいて拇印を押すだけの簡単なお仕事を……』といいかけて、仙姫に口をふさがれてしまった。その間に舞がおっとりと推理研のビラを渡してきたので、エメリヤンは小さくこくりと頷いた。
「ぷっはぁ!! ちょっと、何すんのよ仙姫!」
「わらわや舞まで変な人枠になるのは防ぎたいのでな」
「なんですってぇ!?」
「まあまあ、2人とも。ほら、心理学とか推理を強調すると小難しそうですし……」
ステージ上でトリオ漫才を始めた3人を見て、佑也はくすくすと笑い始めた。この団体が終わるころに自分は裏方に戻らなくてはいけないが、客の目線からステージを見るのも楽しかった。
「ここはわらわの雅で華麗な歌と踊りで失点を挽回するのじゃっ。マイマイクのスイッチオンッ!!」
「あ。音響手が足りなそうだから戻るね。2人とも楽しんでって」
「は、はい。ありがとうございますー……!」
佑也は静麻と一緒に仙姫の舞台を盛り上げてやった。舞台から戻ってきた舞が佑也に迷惑をかけて済まなそうにしていたので、問題ないと返事をしてやる。
「ごめんなさい……悪気はないんですけど、ノリで頑張ってしまうところがあって」
「時間に余裕はあるし大丈夫だよ。ここ、カラオケパーティー会場だし歌ってもらえると場も盛り上がるから」
「そう言っていただけると嬉しいです♪ そうだ。次にステージを使用するのはどなたですか? ご挨拶に行かないと」
確認してみるね。と、佑也はスタッフ用の予定表を取り出した。次はジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)のコミュニティ紹介か……。
「……魔王軍」
「……うちより濃そうね」
いつの間にか戻ってきたブリジットが佑也からひょいっと紙を取り上げ、紹介文に目を通し始めた。なになに、魔王学を学び、魔王道を共に歩む仲間募集中……大丈夫なのかしら、これ。
「魔王って、軍隊制だったんですねぇ」
横では舞がほわわんとした笑顔で背後に花を飛ばしている。お嬢様の彼女にとっては魔王は100円ショップとと同じ程度に遠い存在なのかもしれない。聞いたことはあるけど、よく知らないという点で。
「そ、そうだわ。舞!」
「はい?」
「さっきのマフラーの子を勧誘に行くわよ! 駆け足っ!!」
ブリジットはスカートの裾をつまんで、風のように去って行った。あまりの素早い動きに反応が追い付かなかった舞と裕也……ブリジットは本当にエネルギッシュだ。
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