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●偽光を放つ薔薇

「さぁ、この薔薇に相応しい方は誰でしょうか」
 ヨハン・サンアンジュ(よはん・さんあんじゅ)は言った。
 それに答えるものはいない。
 パートナーも家に置いて来ている。
 彼のパートナーの笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)は言葉を正せば、自宅待機。悪く言えば放置であった。どちらが主人だかわからない。
 本日の彼の目的は、オペラ鑑賞の後、一番美しかったものに花束を贈ること。
(途中、変なのがありましたけど。それ以外は全て良かったですね)
 クリスティーの柔らかな歌声は天使のようだし、クリストファーの歌はオーガニック(有機的)で素晴らしい。南臣の勧進帳は良くできたと思うが、美しい感じではなかった。
 ヨハンは美形な大人の男性または女性がタイプで、筋肉質な人は好きではなく、また、未成年は普段はパスという徹底ぶり。
 となると、クリストファーたちが花束を渡す対象になる。
 残念ながら、その場にクリスティーもクリストファーも居なかった。
「おや?」
 周囲を見渡せば、通りすぎていく人影は観世院校長ご一行。
 ヨハンは花からカードを外すと、校長の方へと歩いていく。
 だが、近付いてきた人影に気が付いたメサイアは、そっと校長から離れ、ヨハンの方へと歩いてくる。
 ヨハンは美形ではあるが胡散臭い感じがする。さっきから遠くで見ていたメサイアはヨハンを校長の元へ行かせる気がなかった。
 ヨハンは校長に直接渡そうと思っていたのではなく、誰かを介して渡そうとしていたのだが、この混雑した状況ではスタッフも忙しく相手に出来ない。
「しかたないですね…」
 呟くと、ヨハンはメサイアに近付いていく。
「この花束を渡して欲しいのです、先程の方に」
「そうですか…一応、お届けいたします」
「では…」
 目的は達したと、ヨハンは去って行ってしまった。
 メサイアは観世院校長に花束を見せた。
「ほう…その花は、私の身を飾るに相応しい花かね?」
 その問いに答えるのも躊躇われて、メサイアは首を横に振った。
「今は…まだ」
「では、次回に期待しよう」
 観世院校長は言い、メサイアに花束を持っていくようにと言った。