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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「誰か、七不思議のことを……」
「おーい、御主人、もしかして俺たち……」
 ソア・ウェンボリスたちは、未だに世界樹の中を徘徊していた。
「あーん、ここはどこなのじゃー」
「あ、ビュリさん、ねえ、七不思議のこと知りませんかあ」
 運よく前方から歩いてくるビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)を見つけて、ソア・ウェンボリスが訊ねた。彼女なら、何か知っていそうだ。
「それよりも、ここはどこなのじゃ?」
 ちょっぴりべそをかきながら、ビュリ・ピュリティアが聞き返した。そう言うビュリ・ピュリティアは、手に何かお財布のような物を持っている。
「それはどうしたの?」
 ビュリには似合わない大きなお財布だと思って、『空中庭園』ソラが訊ねた。
「拾ったのじゃ。地図が入っているかと思ったのじゃが、小銭しか入っていなかったのじゃ〜。これでは、脱出できないのじゃ〜」
「やっぱり、俺たち迷子になってないか……」
 雪国ベアが溜め息をつく。
「そうなのじゃー、また、迷子なのじゃー」
 ビュリ・ピュリティアが叫んだ。
「ま、まさか、これが七不思議の一つ、『悲観、開かずの通路』なんじゃ……」
 はたと、『空中庭園』ソラが現在の自分たちの状況に気づいた。
「えっとー……な、なんかえらいことになってますぅ!? まさか、ミイラ取りがミイラになっちゃったとか……」(V)
 ソア・ウェンボリスが愕然とする。
「誰かあ〜、助けて〜!」
 一同は大声で叫ぶのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「えーっと、次の試験の答案用紙は作りましたし、次の授業で使う資料も集めました。後は……何か残ってましたっけ?」
 職員室に一人休日出勤していたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)は、トントンと資料の端を机に叩きつけて揃えながら言った。
「……行方不明者の捜索願いの提出がまだだぞい」
「ああ、そういえばそうでしたね」
 一緒についてきたシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)に言われて、ラムズ・シュリュズベリィはいけませんねと軽く苦笑した。
 クトゥルフ学科では、よく生徒が行方不明になる。まあ、研究課題が研究課題なわけで、正気を失ってどこかへ行ってしまったり、異界の扉を開いてしまったりとか、理由は様々だ。だが、結局失踪そのものも、新たな研究の課題となるので、意外とみんな動じてはいない。
「我が止めねば、ぬしは死ぬまで働きそうじゃな」
「ふふっ、それはありえませんよ」
 シュリュズベリィ著『手記』に突っ込まれて、ラムズ・シュリュズベリィがちょっとやつれたような笑顔を返した。
「せいぜい校長に殺されぬようにな」
「また、口は災いの元ですよ。なんでも、自分の本体に、校長のことを『小さい』とか『本当に小さい』とか『えらいっ!!』とかいろいろ書き込んでいるそうじゃないですか」
「それは事実だが……」
 そう言ったとたん、突然床から蔓草がのびてきてシュリュズベリィ著『手記』の身体を締めあげた。
「きゅう……」
「ああ、だから言わんこっちゃない。世界樹の中で校長の悪口は厳禁なんですよ。まあ、外でも、人の悪口を言うのはよくありませんがね」
 ポイと放り出されたシュリュズベリィ著『手記』を空いている椅子に座らせながらラムズ・シュリュズベリィが言った。完全に気を失っている。
 そのとき、職員室の伝言版で、チョークが勝手に動きだし、「Hilfe!(助けて)」と文字を書いた。世界樹の中で遭難者が多いので、要救助者が出たときに自動的に知らせる魔法をエリザベート・ワルプルギスがかけておいた物だ。
「また迷子が出たようですね。しかたない、救助に行ってきますか」
 休む間もないと、シュリュズベリィ著『手記』を椅子に残したまま、ラムズ・シュリュズベリィは職員室を出ていった。
 
    ★    ★    ★
 
「さて、ではお願いする」
「分かったよ。まずは火術からだよね」
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)に頼まれてヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)が身構えた。
 現在、彼らは修練場にこもって魔法の検証中だった。こういった地味な修練が、実践での差となって現れる。日々の積み重ねは重要だ。
「ゆっけー!」
 ヴァレリア・ミスティアーノが手を前に突き出すと、火術で火炎放射をエリオット・グライアスにむけて放った。
 手の少し先から発生した炎が、さらに先にいるエリオット・グライアスめがけてのびていく。距離はさほどでもないが、そのままの状態をずっと維持するためには、ヴァレリア・ミスティアーノは火術に継続して集中しなければならなかった。連続してダメージを与えられはしそうだが、効率としては少し悪いというところか。
「そこだ!」(V)
 対するエリオット・グライアスは、同じ火術で炎の射線をねじ曲げて防御した。火術で、敵の炎を逆にコントロールしたのである。
「いけるな、火術の防御に火術は使えそうだ」
 エリオット・グライアスは満足そうだった。だが、魔法に対してはエリオット・グライアスの方が若干能力が高いせいで防げたとも言える。相手の方が能力が上であれば、曲げた炎をさらに曲げ返されてやられてしまうだろう。
 正確には、これは防御したのではなく、カウンター攻撃で敵の攻撃を弾いたに近い。
「無事終わりましたね」
 治療要員として待機していたクローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)が、ほっと安堵の息をついた。
「次は、指定した空間を爆発させられるかだな」
 エリオット・グライアスは、火球を特定の場所に呼び出して爆発させようとしたが、今度は失敗した。火術で炎を発生させられるのは自分の周囲だけだ。それを飛ばすことはできても、かなり離れた場所に火球を発生させることはできない。この場合は、ファイアストームでないと無理だろう。こちらは、帯域魔法なので、自分からある程度離れた場所を発現地点として魔法を発動させる。そうでないと自分も巻き込まれてしまうからだ。とはいえ、それもほぼ自分の視界内の一定距離までに限られるが。それに、その地点に火流を発生させるわけであるから、空間そのものを爆発させられるわけではない。
 離れた敵を攻撃する場合、通常の火術などでは発生させた魔法をその場所に移動させ、上位の魔法ではその場所に帯域魔法を発現させるというわけである。それゆえに、両者の射程には差が出ている。
「次は、温度の検証だな」
 温度計は用意してあったが、これはあっけなく失敗した。市販の温度計では、高温を測ることができない。あっけなく温度計は壊れてしまった。少なくとも、百度、二百度以上は確実だということだろう。
「よし、次は雷術の検証に入る」
 次は、雷術を操って、自身を避雷針にして敵の雷撃を地面に逃がして防げるかの検証だった。危険を伴うので、かなり術を弱めにして挑んでみる。
「ファイエル!」(V)
 頭上から、雷がエリオット・グライアスの上に落ちた。
「ぐあっ!」(V)
 一瞬にして感電したエリオット・グライアスが身を縮めて床の上に転がる。
「大丈夫ですか!」
 待機していたクローディア・アンダーソンがあわてて駆け寄ると、治療魔法を使った。
「電気をなめすぎていたか」
 理論上、自分に雷を起こして帯電させたり、避雷針とすることは可能のようだが、肝心の人間が耐えられないのでは使えない。出力を調整できれば可能かもしれないが、電気・電圧・電力をすべて正確にコントロールするのはほぼ不可能だ。
「魔法の出力は、修行次第のようだが、思い通りにするには細心の注意が必要だな」
 回復して起きあがると、エリオット・グライアスはつぶやいた。術者の能力で、発現するエネルギーはかなり変化するようだが、未熟な者が強力な出力を引き出すのが難しいように、ある程度の力を持つ者が低い出力に押さえ込むことも相当に難しいようだ。
「電流であれば、磁力は発生できるのか?」
 床に小さな鉄球をおくと、エリオット・グライアスは雷術でそれが動かせるか試してみた。
「わあ、動く動く」
 ころころと転がる鉄球を見て、メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)が喜んだ。
「だめだ。方向が定まらない。つまり、磁場は発生するが、それをコントロールするのはほとんど無理ということだな」
 コイルガンのような物を想定していたエリオット・グライアスが悔しそうに言った。もともと、コイルガンやレールガンのような物は、高出力の磁場を瞬間的に変化させて導体を移動させる物だ。実用化レベルのレールガンでは、導体が一瞬で蒸発してプラズマ化するほどのエネルギーを必要とする。そこまでまともではなくても、コイルガンでもかなりの出力を必要とするし、電流のオンオフをマイクロセコンドのレベルで制御しなくては移動はしても発射は夢のまた夢で、人間のコントロールではほぼ不可能だろう。いろいろと異なる方法や条件があるが、どの方法をとっても必ず違う不都合が生じるので、素人考えではまともな結果を得るのは難しい。
 また、磁場を発生できるにしても、雷術の発動はほぼ一瞬だ。金属を引き寄せたりする場合でも、連続して雷術を維持するのはかなりの力を必要とする。
 もともと、すべての魔法は発動が一瞬のため、それを維持するにはかなりの努力を必要とする。火球や光球や雷球や氷塊を生み出すことで、独立した存在となったそれを維持させつつコントロールすることは可能だが、連続して何かを発生させ続けて維持することは不可能なのだ。ほとんどの魔法の発現は一瞬である。実際には、魔法効果を維持させるということは、こまめに魔法を短時間でかけなおしているに等しい。一度の魔法では、その効果の持続時間は数十秒といったところだろうか。それすら不確定なので断言はできないが。
 だいたいにして、コントロールする時点でも術を継続してかけている状態なので、時間がかかればあっと言う間にSPが尽きてしまうだろう。
 もっとも、何ごとにも応用という抜け道は存在するわけだが……。
「なかなか便利とはいかないな。次の検証に移るぞ」
 気をとりなおすと、エリオット・グライアスは、今度はヴァレリア・ミスティアーノにアシッドミストを唱えさせた。氷術で酸の霧を凍らせて無効化しようというのである。
 これは成功した。
 だが、アシッドミストが誰かを押しつつんでいた場合、その人間ごと凍らせることになるし、氷結した酸が肌に貼りついてさらに酷いことになる可能性もある。使い所としては非常に難しいだろう。
「よし、次は光術だ」
 エリオット・グライアスが、光球を発生させた。
 光球は、火球と同じように、発現した後も一定時間持続して残る。魔法が完了した段階で、独立した存在となるようだ。もちろん、永久に続くわけではないし、コントロールするにはやはり魔力を別途必要とする。ただ、消費するエネルギーが少ないのか、照明としてであれば持続時間は長い。コントロールも、自分を起点とした位置に固定すれば、そのまま固定照明として移動させることも可能である。
「それって、敵にぶつけたり、レーザーみたいに使えるのかなあ」
 ヴァレリア・ミスティアーノが疑問を口にした。
「試してみるか?」
 エリオット・グライアスが命じると、光球がヒュンとヴァレリア・ミスティアーノの方へ飛んでいった。あわてて、ヴァレリア・ミスティアーノが避ける。
 命中すれば、それなりのダメージは与えられるだろう。
「こういう使い方はできるかな」
 ピカリと、フラッシュのような光が一瞬燦めいた。ごく近距離であれば、術者に近接してなくても光る。ただ、一瞬で消えてしまうので、明かりというよりは目くらましという使い方だ。
 同様に、ビームを試してみるが、こちらも一瞬なので光が出たかどうかも肉眼では確認しにくかった。集中して光術を維持し続ければなんとか連続照射はできそうだが、とても効率が悪そうだ。何か方法を考えなければ使えないだろう。もちろん、高出力レーザーなど望むべくもなく、普通に使えばせいぜいが会議で使うレーザーポインタ程度の威力だ。光に弱い敵でなければ、火術なみのダメージを与えるには相当術者の力量を必要とするだろう。
「光を曲げたり、映像は作れるかな」
 試してみるが、これはまったくだめだった。光球を移動させることはできても、自然光を曲げることはできない。つまり、光術とは、光を発生させる魔法なわけで、光を自在に操る魔法ではないらしい。当然、大まかな色は出るものの、ホログラフのような細かい色の画像を宙に結んだり投影するなどは夢のまた夢だった。せいぜい、大雑把に望む形に似せた光の塊をおぼろに作りだすぐらいしかではない。
「うーむ、魔法という物は、かなり癖があるな。それゆえ、工夫はできそうだが……」
 エリオット・グライアスがちょっと頭をかかえた。
「では、後はメリエルの技を見せてもらうとするか」
「うん、よく見ててよね」
 やっと出番だと、メリエル・ウェインレイドが張り切った。
 まずは、等活地獄を披露する。素早い乱舞が、彼女の周囲の大気を切り裂いた。接触しなければ効果はないが、接近戦では触れる物すべてを粉砕できるだろう。
 続いて、爆炎波と轟雷閃を試す。こちらは、技の発動と共に、持っている武器にのみ炎や雷光が発生した。武器がなければ発動はしないし、切った敵が後から時間差で爆発したり感電するということもない。あくまでも、武器の魔法強化技だ。ただし、いったん纏った魔法は、術者の意志で放出が可能だった。それによって、火術や雷術の火球や雷球のような使い方もできる。ただし、魔法と違ってコントロールすることは不可能なので、的にむかってまっすぐに飛ばすことしかできない。このへんは、魔法使いとのコンピネーションが必要ということなのだろう。
「最後、遠当ていくよー」
 的代わりにエリオット・グライアスがおいた蒼空学園生のメガネにむかって、メリエル・ウェインレイドが遠当てを放った。射程距離としては、火球や雷球、ドラゴンアーツなどとだいたい同じだ。白兵戦の場合は充分に遠い間合いとなるが、スナイパーライフルなどの長射程の武器で狙われたり、ファイアストームなどの帯域魔法で遠くから狙われたりしたら、一方的にやられてしまうだろう。
 メリエル・ウェインレイドの必殺の一撃をもろに食らったメガネが、粉々に砕け散る。
「よし、今日はこれぐらいにしよう」
 エリオット・グライアスは、そうパートナーたちに告げた。