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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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6.イルミンスールの不思議

 
 
「あー、セルマお兄ちゃんたち来たよー」
 イルミンスールの森の小径を歩いてくるセルマ・アリス(せるま・ありす)を見つけた夕夜 御影(ゆうや・みかげ)がダッシュで走りだした。
「そんなに走ると危ないですよ」
 注意するオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)の声も耳に入らず、夕夜御影がタックルするようにセルマ・アリスに飛びついていった。
「うぐわっ……」
 避けるわけにもいかず、受けとめようとしたセルマ・アリスが、もろにボディブローを食らって後ろにのけぞった。そのままもんどり打って二人とも倒れるかと思われたが、ガツンと後頭部に強い衝撃を受けてセルマ・アリスの身体が止まった。
「気をつけてほしいものじゃのう」
「た、助かったぜ……」
 くらくらしながら、セルマ・アリスは後ろからの一撃で倒れるのを止めてくれたウィルメルド・リシュリー(うぃるめるど・りしゅりー)に礼を言った。でも、できれば優しく受けとめてほしかったところだ。
「さあ、いこー」
 よじよじとセルマ・アリスの背中をよじ登って、彼の頭に自分の頭を載せながら夕夜御影が言った、
「しかたないなあ」
 ここでは何をしても無駄だと、おとなしくセルマ・アリスは歩きだした。
「御招待、ありがたく感じておりますじゃ」
 ウィルメルド・リシュリーが、オルフェリア・クインレイナーに言った。
「いいえ、言いだしたのは御影ちゃんですから。セルマさんと一緒にピクニックに行きたいと言って聞かなかったんですよ」
 お弁当の入ったバスケットを腕に提げながらオルフェリア・クインレイナーが答えた。言ってから、なぜかじーっと、ウィルメルド・リシュリーの身体を被っているふわふわの羽根毛を見つめている。
「それで、そのお花畑っていうのは、どの辺にあるんだ?」
 セルマ・アリスが、あらためて頭の上の夕夜御影に訊ねた。
「え? 地図はないよー。勘で進みながら行くしかないね♪」
 耳をぴょこんと動かして、夕夜御影が超感覚で、以前見つけた花畑の匂いを頼りに道を示した。
「やれやれ。まあ、たまにはこんな散歩もいいか」
 別にどこにも辿り着けなくても、こうやってみんなでイルミンスールの森を歩くだけだって充分に楽しい。
「うーんと、こっちの方……。あ、あっちに曲がって……。こっちかな……。ああ、あそこだよ!」
 くねくねと木立の間を進んだ末に、夕夜御影が森の一画を指さした。
「本当だ。こんな所にこんな花畑があったなんて……」
 目の前に広がる花畑を見て、セルマ・アリスが言った。少し開けた日あたりのいい場所に、数種類の花が仲良く咲きほこっている。丈の低いそれらの花々は、綺麗に混ざりあって、まるで淡いパステル画のようだった。
「ほーう、これはすばらしい」
 オルフェリア・クインレイナーに身体の羽根毛をなでなでされながら、ウィルメルド・リシュリーが言った。
「じゃあ、お昼の用意をしますね」
 オルフェリア・クインレイナーが、ウィルメルド・リシュリーをなでるのをやめてビニールシートを広げ始めた。
 バスケットの中には、おむすびがたくさん詰まっていたのだが、明らかに二種類に分けることができる。それほど、見た目からして違っていたのだ。
「うん美味しいよ♪」
 形のいい方のおむすびを食べて、セルマ・アリスが言った。
「わあ、ありがとー。それ、御影が作ったんだよ」
「やっぱりね……」
 それを聞いて、セルマ・アリスはなんだかすごく納得した。
「ええと、こちらも個性的でいいんじゃないかな」
「うむ、みごとにアルデンテですばらしいのう」
 オルフェリア・クインレイナーの視線を感じたセルマ・アリスとウィルメルド・リシュリーが、頑張って彼女の作ったおむすびらしき物を口に運んだ。
 二人が厳しい試練を戦い抜いたころ、夕夜御影が花冠を作ってセルマ・アリスの所に持ってきた。
「かわいいなあ、それ」
 花冠を見て、セルマ・アリスが思わず顔をほころばせた。この花畑に咲いている花々を組み合わせて、実にかわいらしく作られている。
「セルマお兄ちゃんへのプレゼントだよ」
 そう言うと、夕夜御影が、セルマ・アリスの頭に小さな花冠をちょこんと載せた。自分の頭にあわせたせいか、セルマ・アリスにとってはちょっと小さい。でも、それが、彼にとってはとてもかわいく思えてしょうがなかった。
「それじゃ、こっちからはゆる鈴をあげよう。かわいいだろ?」
「うん、ありがとー」
 セルマ・アリスにゆる鈴をもらった夕夜御影が、喜んでピョンピョンと跳び跳ね回った。
「その花冠、ちっちゃくてかわいいですね」
 オルフェリア・クインレイナーが、セルマ・アリスの頭にちょこんと載った花冠を見て言った。
「ええ。かわいい物はいいですよねー。たとえば、小ババ様とか、ティーカップパンダとか……」
「ペットとか飼いたいんですか?」
「いや、かわいいのがほしくて……」
 うっかり顔をにやつかせて話し込んでいたことに気づいて、セルマ・アリスがきりっとした顔をあわてて取り戻した。それに気づいて、オルフェリア・クインレイナーが楽しげに笑う。
 秋の陽射しは、彼らを暖かくつつみ込んでいた。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、始めましょうか」
 木刀を構えて、鬼崎 朔(きざき・さく)が言った。
「おう。よろしく頼む」
 一礼して、椎堂 紗月(しどう・さつき)が格闘の構えをとった。
 イルミンスールの森の奥で、二人は互いの力量を計るために手合わせを設定したのだ。
 パラミタに来てからの時は、二人に大切なものをたくさん増やしてくれた。恋人同士である二人にとって、その最大のものはお互いであるわけだが、その他にも数多くの守りたいものがある。だが、はたして、本当にそれを守れるのだろうか。
 そう考えたときに、椎堂紗月に、鬼崎朔と手合わせしてみて、自分の力量を計ってもらおうという考えが生まれたのだった。とはいえ、力量としては、ほとんど倍以上の差があると言っていいだろう。いや、もっと開いているかもしれない。だから、椎堂紗月としては、鬼崎朔の胸を借りるぐらいのつもりだ。
「戦う以上、全力で行かせてもらいます」
「もちろんだぜ……」
 椎堂紗月がそう答えた次の瞬間、煙幕ファンデーションが爆発し、鬼崎朔の姿が消えた。
「来る!」
 超感覚を全開にした椎堂紗月が、素早く身を翻した。すぐそばを、パチンコから放たれた石が飛びすぎる。次は後ろからだと読んだ椎堂紗月が拳を振り上げたが、それよりも早く鬼崎朔の木刀が彼の首筋にピタリと押しあてられていた。
「奇襲には、対処できていないですね」
 すっと木刀を引いて、鬼崎朔が言った。
「ううっ……」
 実際には、鬼崎朔の動きを読めていないわけではなかった。だが、分かったからと言って、身体が対応できるとは限らない。
「では、今度は正々堂々、正面から行きます」
 正眼に木刀を構えて、鬼崎朔が言った。
「おう」
 両の拳を打ち合わせて気合いを入れると、椎堂紗月が神速の拳を突き出した。素早く体を躱した鬼崎朔が、死角に回り込んで距離をとり、パチンコで攻撃しようとする。遠近の攻撃を混ぜられては対処しにくいと、椎堂紗月は怯むことなく鬼崎朔にむかっていって間合いが開かないようにした。
「やりますね」
 巧みなステップで間合いを計ると、鬼崎朔がライトニングランスを応用した突きを打ち込んできた。さすがに避けつつ、椎堂紗月が大きくジャンプした。
「いくぜー。スーパーさつきーっく!」(V)
 軽身功を使って木々を蹴って三角飛びをすると、鬼崎朔の背後から必殺の一撃を放つ。決まるかと思われた瞬間、木刀を投げ捨てた鬼崎朔が、椎堂紗月の拳をつかんでその勢いのまま地面に転がり、彼を投げ飛ばした。
「うわっ!」
 受け身もとれずに、椎堂紗月が大の字に地面に投げ飛ばされる。素早く木刀を拾った鬼崎朔が、椎堂紗月の上に立って木刀の切っ先を胸にむけた。
「もう、だめ、疲れた〜。やっぱり、まだかなわないなあ」(V)
 地面に倒れたまま、椎堂紗月が潔く負けを認める。
「でも、私に全力を出させたわよ。少しでも気を抜いていたらやられたかも」
 本当にそうだったかは分からないが、鬼崎朔のその言葉に椎堂紗月は満足した。
「本当にそうなれるようにもっと頑張るよ」
「もう。素直じゃないわね」
 ぺたんと腰を落とすと、鬼崎朔が椎堂紗月に覆い被さるようにして寝転んだ。
「おいおい」
「少し疲れた」
 あわてる椎堂紗月に、鬼崎朔はそう言ってぴったりと身体をつけた。