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想い、電波に乗せて

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想い、電波に乗せて
想い、電波に乗せて 想い、電波に乗せて

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 彼が校長となって、早一月。
 以前より忙しくなった彼の傍で、仕事をしている姿を見ていると、前よりもっと彼のことを好きになっている。
 火村 加夜(ひむら・かや)は、そう自覚していた。
 好きな人に出会えた幸せ。
 守ってくれた優しさや手の温もり、笑顔。
 多くの言い表せない想いを込めて『ありがとう』の言葉を伝えたい。
 そう思い立った加夜は、彼――山葉 涼司(やまは・りょうじ)の仕事が終わった頃に電話をした。
『……もしもし?』
 何度かの呼び出し音の後、電話越しに彼の声が聞こえてくる。
「涼司くん、いつもありがとう。これからもよろしくね。
 私は一緒にいられるだけで幸せだよ。本当にありがとう」
 跳ねる鼓動を感じながら、加夜は感謝と愛情を込めて、言葉を紡ぐ。
「忙しいのは分かるけど一人で無理しちゃだめだよ。また様子見兼ねて手伝いに行くからその時は一緒にお弁当食べようね」
『気を遣わせちまって悪ぃな。
 自分でも気負っているのは分かるが、それでもあいつの遺した蒼空学園を守っていきたいんだ。
 加夜の優しさに甘える訳にはいかないが、弁当の差し入れは大歓迎だ。
 その時は美味いお茶を入れるからな』
「うん……もう遅いし今日ぐらいはゆっくり休んでね。おやすみ」
 涼司の言葉に一つ頷いて、加夜は優しく語り掛けるように告げた。
『ああ、おやすみ、加夜』
 応えた涼司が通話を切る。
 加夜は携帯電話を嬉しそうに眺めた後、それを仕舞った。



 夜、シャンバラ大荒野の何処かに立つ野戦病院で、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は一人、残った作業を片付けていた。
 連日の残業で、彼の顔には疲労の色が見える。
 そこへポケットに仕舞っていた携帯電話が鳴り響き、着信を告げてきた。
 ディスプレイに表示されているのは、パートナーのシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)の名前だ。
「……もしもし。どうかしたか?」
 何かあっただろうか、と思いながら出てみると『ロゼのこえだ!』と聞こえてきたのは、まだ幼いパートナー、九条 レオン(くじょう・れおん)の声だった。
「レオンか。電話の仕方はシンに聞いたのか?」
『うん!』
 訊ねてみれば、嬉しそうな声で返事があった。
「それで、どうかしたのかい?」
『あのな、とうちゃんとかあちゃんはしんじゃったけど、ガクトたちもロゼもみんなやさしくてだいすきだ! ……ありがとう!』
 明るい声で、レオンが告げる。
 彼の言葉を聞き、ジェライザ・ローズはふと、レオンとの出会いを思い出した。
 魔物を両親に殺され荒野で独りで居たレオンへと、ジェライザ・ローズは手を差し伸べたのだ。
「こちらこそ。レオンに出会えてよかったよ」
 口の端に笑みを零しながら、ジェライザ・ローズは応える。

「うん。あ、代わるね」
 ジェライザ・ローズの返答を聞いた後、レオンはシンへと携帯電話を渡した。
 シンが携帯電話を受け取った後、レオンは何処からか持って来たクレヨンで白い紙に、お絵かきを始める。
「ロゼ、帰りに買い物頼むぜ。食材が尽きそうだ」
『……シンか』
 受け取った電話を耳に当てるなり、そう告げたシンに、レオンの呆れたような声が届く。
『まあ、買い物は構わないが』
「そう来なくっちゃな。ああ、そうそ。メシをいつもの量で作っちまうんだよ! 早く帰って来いよな!」
 一度、野戦病院に出向くと、何日も連泊して帰ってこないジェライザ・ローズに対し、シンがそう告げた。
 彼なりのジェライザ・ローズに対する、感謝の言葉だ。
『分かった。今日の作業、区切りがついたら買い物しながら帰る』
 電話越しに頷く様子が見て取れて、シンは笑いながら「待ってるからな」と言って、通話を切った。
「シンー、ロゼのおかお、かいたー!」
 ジェライザ・ローズの似顔絵を手に、レオンが見せてくる。
「おお、上手に描けたな。ちょっと待ってろ」
 通話を終えたばかりの携帯電話をカメラモードにしたシンは、その絵を写真に撮った。
 メールに添付して、ジェライザ・ローズへとそれを送る。
「さ、あるだけの食材で、メシ作っちまうか」
 送信を確認すると携帯電話を仕舞って、シンはレオンをキッチンへと促した。



――最近、授業についていくのでやっとなんですよね。
 昼間、笹野 朔夜(ささの・さくや)がパートナーの笹野 冬月(ささの・ふゆつき)へとぼやいた言葉が、今日の勉強会のキッカケだった。

 寮の朔夜の部屋。夕食を終えてから冬月が訪れ、勉強会を始めて、かれこれ一時間くらいになるだろうか。
 熱心に問題を解く朔夜の向かい側で、冬月はそれを待ちながら、携帯電話を弄っていた。
 ふいに、朔夜の携帯電話がメールの受信を告げる。
「……?」
 何だろうと思いながら、受信ボックスを開いてみれば、向かいに座る冬月からのメールだと、表示されている。
 開いてみるとそこには、こう書かれていた。
『いつもそばにいてくれて、ありがとう。
 お前がパートナーで良かった』
 それは、つい先日、朔夜が冬月へと送ったメールをそっくりそのまま返したと言われても仕方ないほど、全く同じ文章であった。
「えっと、冬月さん。急にどうかしたんですか?」
 意味が分からず、困惑しながら、朔夜は向かいに座る彼へと問いかける。
「ん? ああ。この間、クラスメイトが『カラオケ屋とか五月蝿い所ってさ、直接話すよりメールで話した方が楽だよねー』と、話していたのを思い出したんで、傍にいるのにメールを打つ意味が分からなかったんで試してみた。近寄って大声で話した方が楽だよな?」
 途中のクラスメイトの言葉を真似るつもりもなく、棒読みで言葉にして、冬月はからりと笑う。
 敢えて同じ文章を送ったこと――遠回しに、冬月も朔夜と同じことを想っているのだと伝えたかったことについては触れない。
「確かに近くにいるのなら、直接話す方が楽かもしれませんが、賑やかなところであれば、耳にするより目で読む方が楽なのかもしれませんよ」
 笑う冬月とは対象的に、朔夜は真面目そうな顔をしてそう応えた。
「まぁ、得に深い意味は無いから気にするな。さすがにこの部屋に泊まるわけにはいかないし、さっさと続き終らせるぞ」
「ここに泊まったら教科書取りに行くので二度手間になっちゃいますもんね。こういう時、学科が違うと不便ですよね」
 話を変えることで冬月が誤魔化したことに気付かず、朔夜はまた、解きかけの問題へと取り掛かった。



 夜、20時ごろ。
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、自室で携帯電話の画面とにらめっこをしていた。正確には、文字を打つために、画面を見ていたのだが。
 送信先の欄には、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の名前が書かれている。
――愛してる。いつか、隣に立てる男として認めて欲しい。
 そう告げて、恋人に相応しい男になるため努力している日々の中、
(声が聞きたくなるほど恋しくなるとは……)
 そう思って、彼女へのメールを書いているのだ。
『セイニィへ
  元気にしているか?
  蒼学の学校入り口でフリューネとの微笑ましい会話を見て、
 新しい友達が出来てるようで安心しました。
  戦うキミも魅力的だが、ちょっと照れてる表情やひまわりのような笑顔も魅力的だ。
  ひまわりの花言葉は『光輝』
  光り輝いてる君に恋人として認めて貰いたいと思う。
  今は、愛している君の声が聞きたい……』
 書き上げて、そのメールを頭から読み返す。
「やり過ぎか……削除しておこう。あっ?」
 想いを文字にしてみれば、流石にやり過ぎた感を覚え、牙竜は削除しようと携帯電話を操作する。
 けれど、一つボタン操作を間違えたか、メールが送信され始めてしまった。
 慌ててキャンセルしようとするけれど、画像の添付も何もない文字だけのメール。
 携帯電話にとっては、送信するにも簡単なそのメールはあっという間に送信され、表示されたのはメール送信のキャンセルを告げる言葉ではなく、それを完了した旨を告げる言葉であった。
 メールを読んだ後の彼女がどんな顔をするか。
「うわー、セイニィのあきれ顔が目に浮かぶ!」
 それは想像するに容易く、牙竜は思わず声を上げた。
「って、ひまわりの花言葉、もう一つは『貴方だけを見つめてる』じゃないか!」
 何より、メールの中に出したひまわりの花言葉を思い出せば、ますます気持ちが焦った。
 それでも、心のどこかで、彼女がメールを見てくれることに期待を馳せ、携帯電話を持ったまま、彼女からの反応を待ってみることにした。

 暫くして、携帯電話が鳴り響く。
 着信ではなく、メール受信の音であるけれど。
 牙竜は持ったままの携帯電話の、メール画面を開いた。
 差出人はセイニィだ。
『ちょ、ちょっと、何メールで恥ずかしいこと送ってくるのよ!
 読んでるあたしまで恥ずかしくなるじゃない!
 でも、こうやって褒められるのは悪い気分じゃないわね……。
 か、勘違いしないでよね! あんたを恋人として認めた訳じゃないからね!!
 ……キライじゃないけどさ』
 彼女らしい文面だ。
 牙竜は笑みを零した。