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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

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第4章 軍団を操る者

 光る箒に乗って跡地までやって来た神代 明日香(かみしろ・あすか)は上空から状況を見極めようと、跡地全体を眺めた。
 逃げるマウロや村人たちの姿も見えたが、先行隊や他の学生たちが彼らの元に向かっており、そちらは任せることにする。
 ただの群れにしては統率が取れているため、何処かに指示を出している者が居るはずだと考え、ベルフラマントを纏い気配を薄くしながら上空から探す。

「猪は結構知能が高いのだけども、どうも誰かが操っているような感じだね」
 状況を知るべく、物陰から観察していた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、パートナーの熊谷 直実(くまがや・なおざね)へとそう告げた。
「そのようだな。こう言うやり方をやる指揮官というのは、異様に高い所にいることが多い。屋根の上やそれと同じような高さのところを探すと良いだろう」
 直実は頷きながら、弥十郎へとそう助言する。
「高いところか……」
 弥十郎は納得し、跡地の中を探し始めた。

「話によれば、ネルガルとやらはモンスターも放ったという……あれが自然のものとは思えないな。それに、しつこく狙っているようだが、誰かが操っているのではないか?」
 魔鎧であるパートナーのベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)を纏ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はイノシシたちの周辺を探索して、指揮者を探した。
「国を救うだなんて、でっかい話じゃねーか! そういうの好きだぜオレ! 多勢に無勢なんてメじゃないね! ……なんて気合い入れてきたのによ」
 探しながら、ベルトラムが呟く。
「そうぼやくな」
 苦笑しながら、エヴァルトは彼にそう答えて、歩を進めた。
 イノシシの群れの最後尾、他のイノシシより一際身体の大きいイノシシの背に、エヴァルトは人影を見つけた。
「あいつだな」
 見つけた人影の視界に入らないよう気をつけながら、ブラックコートを纏って気配を消すと、飛行状態になって接近する。
 ブロウガンの射程範囲に捉えると、エヴァルトはそれを放った。
 ゆるスターの死骸から取られた屍毒が塗られた矢がイノシシの背の男の腕を貫く。
「っく。……何者だっ!?」
 痛みを受けた男は矢が刺さった向きから、放たれたであろう方向を振り向いた。
 エヴァルトを見つけると、イノシシを彼の方向へと向ける。エヴァルトは、突進を誘うように、後ろに下がった。
 誘われるままつられていくほど、男は無能ではない。
 イノシシに火炎弾を吐き出させながら、己は矢の刺さった腕を蝕む毒を見つけると治療する。
 エヴァルトは吐き出された火炎弾を避けた。

 イノシシの背に男を見つけた明日香は、箒から空飛ぶ魔法での飛行に切り替えて、その男より高く、上昇してから近付いていった。
 光でばれてしまわないよう、極力光を抑えて、小型の投擲槍形状の光条兵器を呼び出す。
 男の注意がエヴァルトへと向けられているのを確認すると、その槍を手加減なく投げつけた。
 重力による落下速度も上乗せされて、槍は一条の光のように男に向かう。
 近付く殺気に、流石に男も気付き見上げるが、槍は眼前に迫っており、咄嗟に身体をずらすことくらいしか出来ない。
 槍は男の肩口を傷付けながら落ちていき、イノシシの背へと突き刺さる。
「避けてしまいましたか、残念ですぅ」
 そう口にする明日香へと、男はイノシシに指示を出し、火炎弾を放った。
 交わし切れない明日香に火炎弾が襲い掛かる。

 男の乗るイノシシの傍に、白い毛並みが眩しい直実の愛馬『ブリュンヒルド』が主人を乗せ、駆けてきた。
「今度は何だ……?」
 注意を惹くように、目の前を行ったり来たりする白馬と直実に、男は不思議そうにぼやく。
(そういえば、このモンスターも魔獣だな……)
 ふと思いついた直実は、自分の方が食物連鎖における上位存在であると悟らせようと、イノシシを睨み付けた。
 男に操られているからか、直実に服従する様子はない。
 そうしている間にも弥十郎が地面から少し浮いた状態で、砂の上を歩く音を立てないようにしながら、男へと近付いていて、幻槍モノケロスを構えた。
 素早い動きで、弥十郎はユニコーンの角のような形状の刃先を突き出す。
 男の身体を貫いたかのように思えたが、イノシシだけを従えて、単身で動いていることもあり、神官服という薄そうな防具の下に、しっかりと硬い防護服を着ていたらしい。
 弥十郎の突き出した槍は神官服を破っただけで、男へと痛みを与えることは出来なかった。
 男が杖を掲げ、目映い光を放つ。
 そして、弥十郎の身体をその杖で思い切り、殴った。
 予想外のことに吹き飛ばされた弥十郎を白馬を駆って直実が受け止める。

「モンスターを操ってるやつをぶっ倒せばモンスターによる被害が少なくなるよな」
 イノシシに乗る男の近くへとやって来た御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は構えた魔銃モービッド・エンジェルと魔銃カルネイジの引鉄を引く。
 それぞれから打ち出された弾丸が男へと当たると、炎がその身を焦がした。
「っ」
 痛みを受けて、顔を歪めるけれども炎を振り払った彼は、直ぐに平然とした態度を取り戻していた。
「主様、助太刀するのじゃ」
 アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が声を上げると共に、天から稲妻が落とされる。避けようとする男へ綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が指を突き出すと彼の動きを制し、直撃させた。
 柄からビームの光刃を作り出しているライトブレードをアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が素早く振るう。
 振るわれたライトブレードから、雷電が放たれ、痺れる男の身体を更に痺れさせた。
 けれども、それを振り払った男は、短く詠唱して、紫音たちに向かって炎を放つ。

 イノシシたちの進路を予測して、その先で待ち構えるのは、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)と彼女のパートナーたちだ。
 ただ、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)の姿はそこにはない。
 彼女は、龍騎士の面や従竜騎士の鎧を纏い、レッサーワイバーンに乗って、カナンの視察に訪れたエリュシオンの龍騎士に成りすましていた。
 その格好で、イノシシに乗る男へと近付いていく。
 相手に変装を見破られないようエシクは、相手に幻影を見せるように仕掛けて近付いたのだが、それが裏目に出てしまった。
 その身を蝕む妄執で見せられる幻影は、相手にとって恐ろしいもので、男は近付いてくるそれから逃げるように、イノシシを走らせ始める。
「なっ……!」
 予想外の展開にエシクは驚くけれど、イノシシが駆け出した方向にローザマリアたちが居ることを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。
 イノシシが向かった先に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が立っていた。
 彼女もまた、その身を蝕む妄執で幻影を見せようとしていたのだが、それはやはり、イノシシにとって恐ろしいものが見えているわけで、イノシシは急に突進を止めようと脚を止めた。
 けれど、急には止まることが出来ず、グロリアーナに突っ込んでいく。
 すれ違い様にイノシシの脚に向かって、目にも留まらぬ速さで刀を鞘から抜き、斬りつける。
 転びまではしないけれど、イノシシはよろめきながら、脚を止めた。
 上杉 菊(うえすぎ・きく)が放った爆薬のついた矢を放つ。その矢に向かって、菊の乗るレッサーワイバーンがブレスを吐き出すと、着弾する前――イノシシの鼻先で、爆発が起こった。
「悪いけれど――これ以上、好き勝手蹂躙されるに任せる訳には、いかないのよ……少し、眠って貰いましょうか?」
 驚くイノシシの様子を見ながらローザマリアが言葉を紡ぐ。
 充分に狙いを定めた後、男の頭部目掛けて、グリントライフルの引鉄を引いた。
 予想以上にイノシシが暴れて、放たれた弾丸は男の頭部を掠めていく。
 暴れるイノシシの足元で、グロリアーナはその脚――特に関節を狙って、強力な突き技を繰り出した。
 男が落下することを狙うけれど、落ちてくる気配はない。

 【龍雷連隊】の名の下に集った松平 岩造(まつだいら・がんぞう)たちは、男の乗るイノシシに真正面から向かっていくことはせず、逆に近付いてくることを待った。
 周りのイノシシたちを足止めされながらも男の乗るイノシシは跡地の中央へと歩みを進めてくる。それでも突進するようなことはせず、周りにイノシシたちを従えているような形なのには違いないけれど。
 気配――特に、害意を探っていた岩造は、徐々に近付いてくるそれを感じ取ると、手にした刀――ブレード・オブ・リコから冷気をイノシシの足元目掛けて、放ち始めた。
 イノシシの足元が見る見るうちに凍っていき、脚を滑らせる。けれど、転ぶことなく、イノシシは踏ん張った。
「それなら、これはどうでございますか」
 小声でそう言いながら、岩造のパートナー、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が強化型光条兵器――ラスターハンドガンで、イノシシの脚を狙い撃った。
 放たれた弾丸がその脚を貫くけれど、少しよろけたくらいで、簡単には倒れはしない。
「すっころべー」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)は念力で以って、イノシシを転ばせようと試みた。
 けれど、痛みを与えているようではあるが、転ぶには至らない。
「やれ」
 男が短く、イノシシに向かって指示を出す。
 イノシシは大きく息を吸い込むと、次々と火炎弾を吐き出した。
「そんなの、止めてあげるんだもん」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が放たれた火炎弾に向かって、呼び出した氷をぶつけた。
 ぶつかった氷は蒸発し、やや小さくなった火炎弾が裁やアリス、メフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)を襲う。
 岩造やフェイトも火炎弾を受け、傷を負った。
(他のイノシシを倒すまでの間、彼の攻撃は抑えるか、耐えることに専念するしかないだろうか)
 まだ足止めされていないイノシシたちで壁を作ることで学生たちから距離を取り、自分からの攻撃はイノシシの火炎弾のみを使用する――観察した結果、そう思いを巡らせたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、他の学生たち同様に、男の乗るイノシシの脚を狙って、機動力を削ぎ、逃走を防止することにした。
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は対イコン用爆弾弓を斜め上に向けて構える。
 射た矢は、イノシシたちの壁を越えて、放射線状に飛来し、上空で爆発が起こった。その爆発に、イノシシが暴れようとするけれど、男は直ぐにそれを鎮める。
「クレア様、今です」
 男の注意がイノシシへと向いている隙にクレアは、そのイノシシの足元を凍りつかせていく。
 暴れるイノシシは氷を踏みつけ、滑ってしまいそうになったが、踏み止まってしまった。
「さぁて、奴らはどこに隠れたんだ……?」
 男は呟くように声を発した。
 逃げ回っていた村人たちが見えなくなり、それを探しているようだ。
「崩すか」
 建物が邪魔で見えないのだと判断した男は、イノシシたちに指示を出した。
 足止めされていないイノシシたちが自ら建物にぶつかって、破壊しようと試みていく。
 ただ埋もれていただけで原形をとどめていた建物も幾度となくぶつかられては、徐々に崩れてきていた。
 それは、村人たちが逃げ込んだ、西の外れの頑丈な家もそうだ。
 崩れる家から、マウロや村人たちが学生たちに促されるままに、出てくる。