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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

リアクション

 【龍雷連隊】の仲間たちと共に、待ち伏せし、タイミングを見て攻撃を開始していた夜月 鴉(やづき・からす)は、男――ファウストがイノシシから降り、学生たちと乱戦状態になる中で、彼の姿を見失ってしまった。
 仲間や他の学生たちもファウストが何処に行ったのかと探し始める中、パートナーであるアスタ・アシナ(あすた・あしな)までもが居ないことに気付く。
(もしや……)
 鴉は仲間たちから離れると、アスタを探し始めた。

「流石に、これ以上は……っく!」
 路地裏で、ファウストは壁に手をつき、肩で息をしていた。
 そこへ脚を貫く痛みを感じる。目を向けると、ブロードソードが刺さっていた。
「逃がしませんよ」
 掛けられた声は女性のもの――アスタだ。
 ファウストへと近付いてくると、ブロードソードを引き抜く。彼は小さく呻いた。
「な、何でも話そう……だから、命だけは……ッ!」
 ファウストは情けない声で、命乞いの言葉を並べ始める。
「き、貴様も神職につく者だろう?! ……同じ、神職につく者を殺そうっていうのか!?」
 アスタの持つ榊の枝を見つけたファウストがそう告げると、ブロードソードを振り上げていた彼女の手が止まった。
「どうだ……。ここで、逃がしてくれれば、貴様をわしの部下として……仲間として迎えよう……」
 告げるファウストに、アスタは軽く鼻で笑った。
「私は【代行者】です。あなたの犯したことは、大罪……私は、【代行者】として、あなたの罪を裁きます」
 彼女がそう告げて、ブロードソードを振り下ろそうとしたときだった。
「アスタッ!!」
 彼女を呼ぶ声が聞こえ、掴み掛かられる。
 声の主、掴んだ主は、彼女のパートナー、鴉であった。
 更に後方から、他の学生もやって来る。
 そこへ小型飛空艇ヘリファルテに乗った男――白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が突進してきた。
 竜造はアスタとファウストの間に降りてきた。
「獣使い、多勢に無勢っぽそうだな。手貸すぜ」
 おぞましい気配を発し、闇の化身となった竜造は、虎徹を構える。
「カナンの再生なんてくだらねえ……んなことよりも俺と戦おうぜぇ!」
 叫び、竜造は奈落の鉄鎖で動きを制し、その身を蝕む妄執で以って学生たちに恐ろしい幻影を見せた。
 そして、普段抑制している力を解放し、目の前のアスタへと斬りかかる。
 アスタに斬りかかったところへ彼女と竜造の間に、鴉が割り込む。光条兵器である刀身が紫色に発光しているカットラスでその攻撃を受け止めた。
 ファウストを追ってきたハインリヒやセオボルトたちもそれぞれの得物を構え、竜造へと立ち向かっていく。
「どうしたぁ! その程度じゃ外道の一人も倒せねえよ!」
 竜造は楽しそうに声を上げながら、多くの学生たちの間を立ち回った。
 危険を感じ取れば距離を取り、サイコキネシスで近くの瓦礫などを動かして、牽制する。
 そしてまた狙いを定めれば、鉄鎖を放った。
「また、居ないよっ!?」
 そうしている間に、竜造を盾に再びファウストが姿を消していることに気付いた亜衣が声を上げた。

「貴方が猪を操っている者ですね」
 再び路地裏を抜け、別の通りへと出てきたファウストをバイクに乗ったプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が待ち構えていた。
「何だ、貴様はっ!?」
「マスターの命により、あなたを捕獲します」
 驚きを見せるファウストに、プラチナムは淡々と告げる。
 ファウストは相手の足がバイクだということを改めて確認すると、細い路地へと入った。
「逃がしません」
 告げて、プラチナムは追いかけ始める。
「意外と、小回りも利くのですね」
 大きくはないバイクであるため、多少の路地の細さは彼女の腕も相まってカバーできる。
 だが、バイクの方がそれをカバーしきれなかった。
 改造も何も施されていないただのバイクは、市街地――オンロード以外には向いていない。
 増してや、今走っているのは、土や砂だらけのオフロードだ。
 度々、タイヤが空回りして、ファウストとの距離が広がってしまう。
 だが追い掛け回しているうちに、目的地には確実に近付いていた。
「来ましたね」
 目的地の近くで狙いを定めていたのは、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だ。
 火天魔弓ガーンデーヴァに番えた矢には既に魔力が籠もっている。
 やって来たファウストへと改めて狙いを定めると、睡蓮は矢を引いていた手を放した。
 衝撃波と共に、炎を纏った矢がファウスト目掛けて飛んでいく。
 多少のズレは即座に念力を使って、修正した。
 けれど、その矢はファウストを貫く前に、他方から飛んできた火によって、撃ち落されてしまう。
「何故!?」
 睡蓮が不思議に思って辺りを見回すと、火が飛んできただろう方向に、空中で待機しているレッサーワイバーンの姿があった。
 背にはゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が乗っている。

 レッサーワイバーンに乗ってカナンを訪れたゲドーは、当てもなく彷徨っていたところ、今回の騒ぎを偶然見かけて、近付いてきていた。
 カナンで活動するにあたって、後ろ盾が欲しいと、思っていたところだ。
「おおっと、見つかっちまった」
 睡蓮と目の合ったゲドーは道化の如くおどけたようにそう口にすると、レッサーワイバーンに指示を出し、下降して行く。
(とりあえず生きていれば、立て直し可能だろう)
 ファウストを回収して、この場を去ろうと彼へと近付いていく。
 けれど、ゲドーとファウストの間に割り込むように、別のレッサーワイバーンが飛んできた。
 背には、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)を乗せている。
「先を越されてたまるかよ……!」
 ゲドーはレッサーワイバーンに早く近付くよう指示を出す。
「うわあっ!?」
「ふふ、伊達に常にロープを持っているわけではありませんよ」
 だが、ウィングが登山用ザイルを投げつけ、手早くファウストの身を簀巻きに仕上げ、彼のレッサーワイバーンの背に乗せ、その場を離脱していく。
 ゲドーもすぐさま追いかけるよう、レッサーワイバーンを急かせたが、建物の影を上手く利用したのか、ウィングの姿は既に見えなかった。

「この辺でよいでしょうか」
 少し離れた場所、見つかりにくい建物の影で、レッサーワイバーンからファウストを下ろしたウィングは、フェルキアの試金石の力を用いて、精神力と生命力を吸い上げた上に、信仰を源とする力を拡散させておいてから、口を開いた。
「とりあえず私がほしい情報は3つです。1つ目、あなたと同じような役目を負っている奴は、どのくらいいるのですか?」
「……」
 ファウストは答えることを否定するかのように口を閉ざし、顔を逸らしている。
 暫しの間、ウィングは彼が口を開くことを待った。
 けれども待てどもファウストが口を開きそうにはない。
 そんな彼の襟元を掴むと、ウィングは顔を近づける。
「口を割らないというのなら、その状態で村人たちの前に放置するぞ」
「ッ!」
 簀巻きのまま、力も使えない――そのような状態で放り出されようものなら、何の罪も無く追い掛け回され、怪我なども負ってしまった村人たちが黙っては居ないだろう。
「……分かった、話す! 話すから、それだけは止めてくれッ!」
 ファウストが答えると、ウィングは襟元を掴んでいた手を離した。
「うわっ」
 どさりと簀巻きのままのファウストの身体が地面に落ちる。
「では、改めて。あなたと同じような役目を負っている奴は、どのくらいいるのですか?」
「……1000人以上じゃないか? 詳しいことは分からないな」
 落ちた拍子に口の中に入り込んだ砂を唾と共に吐き出しながら、ファウストが答える。
「そうですか。では、次……イナンナはどこに封じられているのですか?」
「そんなこと、一介の神官に分かるわけがないだろ」
 ファウストの答えに、それもそうですね、と先の答えと合わせて目の前の男が下っ端に近い位置に居るのだと考えたウィングは納得するよう頷く。
「これが最後です。あなたの仲間のアジトやたまり場はどこにあるのですか?」
「……、……各町にあるイナンナの神殿だ」
 ただの情報だけでなく、仲間を売ってしまうことになりかねない問いかけに、答えることを躊躇ったファウストは、ウィングの睨むような表情に渋々口を開いた。
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
 答えをメモし終えたウィングは怪力の籠手を装着した拳でファウストの腹を強打した。
 その一撃に気を失った彼を再びレッサーワイバーンに乗せると上空へと飛び立ち、マウロや村人たちを探す。
 眼下に広がる跡地の至るところでは、頭を失い暴走するだけのイノシシたちの群れの対処に終着を迎えていた。