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リアクション
第8章 遭 遇
一方、そんな騒動を知らないフレデリカ一行は、キマクでの配達の終盤に差し掛かっていた。拠点を決め、そこを中心にそれぞれの力量にあった配分でプレゼントを配り、次の拠点へ移動するという方法をとっていたが、配達が順調という事もあり、フレデリカが無茶をしないよう気遣っていた正悟の提案と立会人のルカルカの勧めで今はひと休みしている所だ。冬の夜気で冷えた体をメイベルのパートナーのセシリアが用意してくれた温かいコーヒーで温める。
ひと息ついて疲労を和らげたフレデリカ達は、そろそろ配達を再開しようと立ち上がった。
フレデリカに恥をかかせないよう、ちゃんとしたサンタクロースに見える服を選んだ空京大学のリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、自分の配達区画を確認し、プレゼント袋をしっかりと担ぎ直した。
「それじゃ、行ってきます」
そう言うリュースにフレデリカが、
「よろしくね、気をつけて!」
と声を掛ける。
「オレは大丈夫。それより、フレデリカさんの方こそ気をつけて下さいね。なんといってもここはキマクなんですから。危険だと思ったらすぐ逃げて。それと、暗い路地に入る時は必ず注意する事。トラブルにあったら、1人でなんとかしようとせずに、すぐに誰かを呼ぶんですよ?」
「はいはい、わかってるってば」
「返事は1回」
「はぁい。ちゃんと気をつけます」
「よし。じゃあ、改めて、行ってきます!」
兄のようにフレデリカを気遣いながら、リュースはレッサーワイバーンに乗ってその場を後にした。
リュースを見送ったフレデリカは、まわりのサンタ達に声をかけた。
「こっちも行こうか!」
そう言うと、彼女のソリを先頭に、サンタ達がプレゼントを配りに家々に向かった。
フレデリカから離れ、闇夜に潜み移動する小さな和風サンタがいた。パラ実の辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、音も立てずに移動すると、素早く煙突から家の中へと侵入し、『隠れ身』で身を隠しながら子供部屋へと辿り着いた。
気配を殺してそっと忍びこむと、枕元に飾られた大きな靴下にプレゼントを詰め込む。刹那は、自分とさほど年の変わらない無防備に眠る子供をじっと見つめた。
(危害を加える目的ではない侵入というのは、不思議な感じじゃのう)
物心ついた時から殺伐とした世界で生きてきた刹那には、無縁の光景。
刹那は、子供に「メリークリスマス」と囁き、家を後にした。
小型飛空挺で物陰に待機していた刹那のパートナーでハーフフェアリーのアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)は、戻ってきた刹那の様子に異変を感じた。
「せっちゃん、なにかあったの?」
アルミナの問いに、心当たりのない刹那は首を横に振った。
「特に問題はないのう」
そう答える刹那はいつもと同じ刹那だった。
「気のせいかな?」
考え込むアルミナに、刹那が次のターゲットに向かうよう指示を出す。
後ろにプレゼント袋を乗せた小型飛空艇は、通常なら人の乗り込むスペースはないが、幼い刹那は器用に隙間を探し、立ったままそれに乗っている。そのせいで通常より移動速度が落ちてしまうのはやむを得ない。そんな小型飛空艇を走らせながら、アルミナはまだ考えていた。先ほど刹那の頬が珍しく緩んでいたのは見間違いだったのだろうかと。
フレデリカの近くでは、自前のサンタ服を着た空京大学のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とパートナーの魔女の少年、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が、配達が滞っては大変と手分けしてプレゼントを配っていた。
お菓子好きのクマラには、あとで必ずケーキをお腹いっぱい食べさせるからと、訪問宅でつまみ食いしないよう言い聞かせたので、心配ないはずだ。
エースは『サンタのトナカイ』を屋根の上に停めると器用に壁を伝い、『ピッキング』で子供部屋の窓を開けて部屋へと侵入を果たした。
『ダークビジョン』で部屋の中を窺うと、女の子が安らかな寝息をたてて眠っている。エースは彼女の眠りを妨げないよう気をつけながら、枕元にそっとプレゼントを置いた。
「メリークリスマス」
エースは優しく囁くと、さらに1輪の花を添えて部屋を出た。
再びソリに乗り家から離れると、配達中のフレデリカと出くわした。近くで配っていたパートナーのクマラもこちらに気づいてやってくる。
フレデリカは、2人に状況を訪ねた。
「順調に進んでる?」
エースがそれに答える。2人の話が終わるのを待って、先ほどから何かを言いたそうだったクマラがようやくフレデリカに話しかけた。
「あのね、オイラ、甘いものが好きなんだ。ケーキが食べられない生活なんて、オイラだったら泣いちゃうヨ。もしもね、そのケーキが年に1回しか食べられなくて、でもその日も食べられなくなったら、すごく悲しいと思うんだ」
クマラは、豊かとは言えない荒野のあばら家に目を向けた。ケーキを食べるどころか、毎日の食事にも困っていそうなその佇まいに、クマリはフレデリカに頼み込む。
「だからね、ケーキも配っていい? あとで皆と食べようと思って、いっぱい作ってきたんだ。でも、いっぱいいっぱいあるから、少しくらいならわけてもいいよね?」
ケーキを食べられない子供たちを思って一生懸命になるクマラの小さな頭をフレデリカが優しく撫でた。
「もちろんだよ。クマラサンタさんからのプレゼント、きっと喜んでもらえるよ」
フレデリカの言葉に、顔を明るくしたクマラはプレゼント袋を担ぎ直すと、『空飛ぶ箒』を器用に操り、エース達が通れないような狭い壁の間をすり抜け、子供部屋へと向かった。
エースがパートナーの願いを受け入れたフレデリカに礼を言う。
「ありがとう」
フレデリカは首を横に振ってほほ笑んだ。
「こちらこそ。素敵なサンタクロースにお手伝いしてもらえて、とっても嬉しいよ!」
そこへ、『小型飛空艇ヴォルケーノ』に乗った未沙がやって来た。
「フレデリカさん、向こうがすごい追い上げてるって。急いで配らないとちょっと大変かも!」
未沙は、立会人のルカルカから得た情報を、急いでフレデリカに伝える。
「わかった! じゃあ、エースさん、引き続きよろしくね!」
フレデリカはエースに手を振って行ってしまった。
フレデリカを見送ったエースは自前の『サンタのトナカイ』のソリに乗り込むと、トナカイに話し掛けた。
「もうひとふんばり頑張ってくれよ。遅れて子供達が泣いちゃうと大変だからな」
トナカイはそれに応えるように、夜空を駆け出した。
自前のサンタ服を着た蒼空学園の白銀 司(しろがね・つかさ)は、配達を割り当てられた家々の警戒が厳しい事に首を傾げた。
「うーん。いくらキマクだからって、さすがにちょっと武装しすぎじゃないかな?」
司の問いに、こんな寒い夜中に自分は何をやっているのだろうかとぼんやり考えていたパートナーの剣の花嫁、セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)がめんどくさそうに返事をする。
「まぁ、キマクは物騒なとこだしなー」
「おかしーなー、配達するお家には、きちんとお知らせしておいたのに」
司の言葉に、セアトは訪れていた眠気がドン引きするのを感じた。
「ちょっと待て。今、何って言った?」
「だから、配達するお家には、前もって連絡しといたんだってば」
聞き間違いではなかったようだ。セアトに悪い予感が襲いかかる。
「……ちなみに、具体的に何をしたんだ?」
「ほら、パラミタではサンタさんは普通に居るみたいだから、お願いすれば親御さんが私達を家に入れてくれるかなって思って、ご挨拶のメッセージカードを送ったの!」
にこやかに答える司に、セアトは恐る恐る質問を続けた。
「……ちなみに、何て書いたんだ?」
「ええと、『今夜、お宅に参上します』って」
やっぱりこんなオチかと思いながらも、セアトは言わずにはいられなかった。
「あのな、司」
「なぁに、セアトくん」
「その文面は、どっからどう聞いても犯行予告じゃねーか! ただでさえ素人が他人の家に忍び込もうってのに、さらに難易度上げてどーする!!」
小声でどなるセアトに、背後から声が掛けられた。
「大丈夫よぉ、アタシに任せてちょうだい」
司のもう1人のパートナー、マホロバ人の八神 八雲(やがみ・やくも)だ。セアトはそれを無視して、更に司を問い詰める。
「あと、何でこのオカマ連れてきた」
不満をこめて言う司に、八雲が文句を言う。
「いやぁねぇ、オカマなんて呼ばないでくれる? 今のアタシは、可愛いサンタガールなんだから!」
そう言って八雲はくるりと回って見せる。フレデリカから借りたワンピースのサンタ服は、八雲の逞しい体を無理やり詰め込まれ、ぱつんぱつんで今にもはち切れそうだ。何より、逞しい生足が目にしみた。
「八雲さん素敵だよ。セアトくんも着れば良かったのに」
「断る。てか、このままコレも連れて行くのか? 下手すりゃ子供に夢や希望どころかトラウマ植え付けかねんぞ」
「大丈夫だよ、子供は寝てる時間だもん。とにかく! レッツ、ミッション・イン・ポッシボー! 頑張ろうね、二人とも!」
司の言葉に八雲は大きく頷く。
「もちろんよ! 全国の男子達は、ふんどし洗って待ってなさーい!」
そんな2人の後ろでセアトはがっくりと肩を落とした。
(とっとと済ませて惰眠を貪るつもりが。………帰りてぇ)
今までの経験からして、セアトのその望みはもはや叶う事はないだろう。
厳しい防犯設備を慎重に潜り抜け、司達3人はようやく玄関に辿り着いた。
「鍵はアタシにお・ま・か・せ。ピッキングは乙女のたしなみよ♪」
小声でそう言う八雲に、どこからつっこむべきか、それとも無言で殴り倒すべきかセアトが悩んでいるうちに、家のドアが開いた。家人に気づかれないよう何とか子供部屋への侵入を成功させる。
可愛い男の子の寝顔を見た八雲は、
「あら、可愛い子。食べちゃいたいくらい♪」
と呟いてしまい、セアトが鋭く睨みつけてきたので慌てて口を押さえた。
そうして、セアトが周囲を警戒し、司が子供の枕元にそっとプレゼントを置いて部屋を出ようとすると、持っていたプレゼント袋を漁っていた八雲が待って待ってと2人を引きとめた。
「アタシも魅惑のサンタガールとして、個人的にプレゼント用意してみたのよ。じゃじゃーん! アーデルハイトのひみつ写真よ♪ こんな使える素敵アイテム、サンタからはもらえないと思うわ!」
「当たり前だ」
冷たく言うセアトの隣で、司が首を傾げた。
「写真って使うものだっけ?」
司の問いに、八雲がうふふと声を出し、にたりと笑った。
「そりゃあもう……男子は大変よぉ?」
ご機嫌で写真を置こうとした八雲の手を、がしりと掴んで止めた者がいた。セアトが慌てて司の目を塞ぐ。
「な、なに!? どうしたの?」
「いや、ちょっと手違いで悪夢が来たみたいだから、大人しくしててくれ」
「?」
司は、納得いかないという表情をしたが、セアトの指示に従った。
「何をするのよ!?」
八雲は写真ごと自分の手を掴んでいる人物に向かってどなった。
そこには、全裸にツリーの電飾を飾り付けた、ピカピカサンタ。薔薇の学舎の変熊 仮面(へんくま・かめん)がいた。一番大事なところを、一番輝く星で隠してあるのは気遣いなのかなんなのか。
「わかっとらんようだな、貴様!」
変熊は、八雲の肩に腕をまわし、強引に内緒話に持ち込んだ。
「アーデルハイドはいかんだろう。版権絡むと面倒だぞ。この時期に配るならば、フレデリカかスネグーラチカが常識というものだ」
「でも、この写真よく撮れてるレアモノよ。絶対にこっちの方が需要があるわ」
「いかんいかん。……で、……だろう。であるからして…………」
2人はこしょこしょと何事かを話合う。
「……というわけで、大人なんだから分かるだろ?」
そう締め括った変熊に、八雲がしぶしぶうなずいた。
「そういう理由なら、あきらめるわ」
「うむ。クリスマスは法的にもクリアにいきたいものだからな。では、諸君また会おう!」
変熊がガラリと窓を開ける。
「う…うん……」
周りの騒々しさに、とうとう子供が眠りから覚めてしまったようだ。
「窓に、ツリー……?」
寝ぼけ眼をぐりぐりとこする男の子は、目覚める前に再び強制的に眠りの世界へと連れ去られた。
通りがかったエースが『ヒプノシス』を掛けてくれたらしい。
「おまえら何やってんだ? ふざけてないで仕事しろよ」
呆れながら言うエースに、八雲が投げキッスを寄越す。
「ありがと、助かったわ♪」
『ダークビジョン』で闇夜でもくっきり見える視界を手に入れていたが為に、部屋の中の八雲をまともに見てしまったエースは反射的に手綱をパシリと強く打ち下ろし、彼の乗るソリを引くトナカイは、明後日の方向目掛けて掛け出した。悲鳴を残して去ったエースに、セアトは心の中で手を合わせた。
エースの『ヒプノシス』が効いているうちにと家を脱出した司達と変熊は、異変を感じてやって来たフレデリカと出くわした。
「何かあったの!? って、変熊さん!? 久し振り。なんか、すごく……ハデだねー」
フレデリカは変熊の恰好に笑顔を強張らせた。
「当たり前だ。機晶サンタになんか負けてられないからな!」
今回の彼のライバルは機晶ロボのようだ。
「でも、一応サンタなんだから、子供達には特に見つからないようにね」
フレデリカは無駄かもしれないと思いつつ、変熊に注意をする。そんな変熊の脇腹のあたりに、もふっとした感触が懐いてきた。
「おおっ、貴様はハイキングの時の仔トナカイではないか! しばらく見ないうちに、大きくなったなぁ」
変熊は、身をかがめ、顔見知りの若トナカイの首筋を撫でてやった。若トナカイは気持ち良さそうに目を閉じる。
フレデリカがそんな2人を微笑ましく見守る。
「への子ちゃん、まだソリはひけないんだけど、変熊さんが会いたいかなと思って連れてきたんだよ。良かったら、一緒に配達に連れてってあげて。足手まといにはならないと思うよ」
フレデリカに言われ、変熊と若トナカイのへの子はじっと見つめあった。
「では、一緒に行くぞ、タシガンへ! そうと決まれば競争だ!」
変熊の言葉に応えるように、への子が走り出す。何度も変熊を振り返る様はまるで、「うふふ、捕まえてごらんなさーい」と言っているようにも見えた。
「まてまて、こいつぅ〜!!」
変熊はアハアハと笑い、ピカピカ輝きながら、白馬に乗ってトナカイとともにタシガンの方角へ走り去って行った。
それをついつい見送っていた司達とフレデリカだったが、そうだと八雲が思いついた事を皆に相談する。
「ねぇ、アーデルハイトの写真がダメなら、他の物を配っちゃダメかしら。念のため、持ってきたのよ。ほら、大人のおも」
ごすり、とセアトの見事な中段蹴りが八雲の鳩尾に決まった。息も出来ない激痛に、膝から崩れ落ちた八雲を見下ろし、セアトが呟く。
「黙れ、変態」
「セ、セアトちゃんたら…ウブなんだから…そんな所も好き」
苦しい息の下で八雲がそう言った途端、セアトの回し蹴りが八雲の首に決まり、叩き伏せる。地面に沈んだ八雲にさらに何度も踏みつけるセアトの様子を、司はほのぼのと眺めていた。
「ほんとに、二人は仲良しだねぇ」
「そ、そうなんだ」
司の感想にフレデリカがそんな関係もあるのかと納得しようとしたその時、
ドーン!という爆発音が拠点にしている場所の方角から聞こえた。
嫌な予感に、フレデリカが慌てて走り出す。
駆けつけてみれば、機晶ロボに乗ったスネグーラチカが、フレデリカの手伝いをしている者達のにらみ合っている。
「どうしたの!?」
フレデリカが戻ったのを見て、メイベル達や、正悟、未沙がフレデリカを庇うようにスネグーラチカとの間に立った。
スネグーラチカがくすくすと笑う。
「ほらごらんなさい、そうやって庇われて、1人では何も出来ないくせに。1人前のサンタクロースになったつもりですの?」
反論しようとしたフレデリカは、いつもと違う幼馴染の様子に、眉を顰めた。
「スネグーラチカ……?」
「あなたはいつもそう。いつもいつも、わたくしの前に立って邪魔をするのですわ。本当に、目障りですのよっ!!」
スネグーラチカの命令で、機晶ロボがフレデリカ達目掛けて機晶レーザーを連射する。
「フレデリカさん、危ないっ!」
未沙がフレデリカを体で庇い、正悟が2人を背で庇う。警戒して『超感覚』を発動させていたリュースは、獣特有の鋭い感覚で異変を感じ取り、配達から慌てて戻ってきた。
「やめなさい!」
そう叫び、リュースは機晶ロボのアームに『則天去私』で必殺の拳を叩き込む。相手がロボットだけに、思うようなダメージは与えられなかったが、ひとまず機晶レーザーでの攻撃は止んだ。リュースは機晶ロボの頭部に立つスネグーラチカに向かって怒鳴った。
「こんなもので攻撃するなんて、何を考えているんですか! これはサンタクロースの勝負でしょう!? 大体、同じサンタで争う必要なんかありません。フレデリカさんもあなたもサンタでいいじゃないですか!」
リュースに応えず、スネグーラチカは更に機晶ロボに攻撃を続けさせようとする。フレデリカが叫んだ。
「スネグーラチカ、こんなの、今すぐやめて!!」
そこへ、司達が駆け付ける。不穏な雰囲気と、フレデリカ達の周りに出来たレーザーの攻撃痕を見て、司は手にした者の魂を蝕むという拳銃『灼骨のカーマイン』を構えた。
「助けなきゃ!!」
機晶ロボなら電気が効くのではないかと思った司は、『ライトニングウェポン』を発動させると拳銃に帯電させ、雷電属性を帯びた弾丸を機晶ロボ目掛けて撃ち込んだ。
「ライトニングウェポン! びりびり〜!!」
弾丸は機晶ロボのボディに当たり、内部のAIに衝撃を与えると同時に、機晶ロボの上に立っていたスネグーラチカへもダメージを与えた。
「きゃっ!」
スネグーラチカがバランスを崩して機晶ロボから落ちるのを、間一髪、フレデリカの手伝いをしていた明日香が『空飛ぶ魔法↑↑』を使い、彼女が3メートル下の地面に頭から落ちるのを防いだ。
雪娘達が、スネグーラチカに攻撃を加えた司に向かって氷術を使い、沢山の小さな氷の塊を容赦なく撃ち込んでくる。
セアトが慌てて司を庇い、八雲は逃げ惑った拍子にとうとうワンピースの背中のファスナーをはち切れさせた。
メイベル達は司達を守るように立つと、『爆炎波』でそれぞれの持つ武器から爆炎を放ち、氷の攻撃を相殺する。殺気立つ雪娘達に、スカサハが『機晶姫用レールガン』を向けた。
「フレデリカ様のお邪魔をするなら、覚悟するであります! さあ、いくでありますよ。機晶姫用レールガン! ミサイル全弾発……」
スカサハの容赦ない攻撃が加えられる寸前、スネグーラチカの側の配達を手伝っていたカレンがようやく追いつき、戦いの場に飛び出した。
「ちょっと、君達、なにやってるの!?」
カレンのパートナーのジュレールは、スカサハの『機晶姫用レールガン』を見て、同じ武器を構える。
「こんなことしてる場合? 子供達にプレゼントが届けられるのが遅くなるじゃない! サンタ同士がイブに喧嘩だなんて、子供達が悲しむだけだよ。いい加減にして!!」
そこへ遅れてきた翡翠も加わった。
「やめてください! 子供に夢を配るサンタさんが、誰かを攻撃するだなんて、もうこれ以上、私達の夢を壊さないでください!!」
サンタクロースを目指す翡翠が嘆願する。
スネグーラチカの顔が泣きそうに歪み、細い手が顔を覆う。
「……らい……きらい……みんな、だいっきらいですわっ!!」
スネグーラチカは雪娘達に攻撃させながら、機晶ロボをフレデリカ達とは反対の方向へ走らせた。
「スネグーラチカ!!」
フレデリカが後を追おうとするのを、一緒に配っていた美羽とコハクが止める。
「私が追うよ! サンタちゃんは、プレゼント配らなきゃでしょ。任せて、絶対に目を覚まさせてあげるんだから!」
美羽とコハクはそう言うと、攻撃を避けるルートを選びながら、『サンタのトナカイ』でスネグーラチカの後を追っていった。フレデリカが2人を見送る。
「スネグーラチカのこと、お願いね!」
スネグーラチカの姿がかなり小さくなった頃、雪娘達も撤退を始めるかと思いきや、別々の場所に散って行った。
雪娘と親しい歩がフレデリカの元に走ってくる。
「急いでそっちの皆に連絡して! 雪娘さん達、スネグーラチカさんに妨害を命令されたみたいなの!」
歩からもたらされた情報に、フレデリカがルカルカを見る。ルカルカは頷いて、配達メンバーにメッセージを送った。
フレデリカは、まだスネグーラチカを追うという歩を気をつけるよう言って見送り、ようやく静かになったあたりを見回した。
「皆、怪我はない?」
それぞれが大丈夫だと合図をする。皆の無事を確認したフレデリカは、ほっと胸を撫で下ろした。
そんなフレデリカの傍に、フィリッパが歩み寄る。
「ごめんなさい」
突然謝られたフレデリカが聞く。
「どうしたの?」
フレデリカの疑問に、フィリッパは申し訳なさそうな顔でほほ笑んだ。
「わたくし、もしかするとフレデリカさんがスネグーラチカさんの妨害で怒り出すのではないかと思ってたんですの。意外と冷静ですのね」
フィリッパの言葉に、フレデリカが苦笑する。
「昔はそんな時期もあったけど、今はもう、あの子のやる事に慣れたっていうか……。あ、でもさっきのは私から見ても、かなり行き過ぎだけどね」
フレデリカの心中を察して、フィリッパが慰めの言葉をかけた。
「いろいろ、ありましたのね」
フレデリカ達は、次の場所に移動しようとそれぞれの乗り物に向かった。愛用のソリに乗り込み、手綱を握ったフレデリカは、同行してくれる者達を見て、ぼそりと呟く。
「1人じゃ何も出来ない……か」
スネグーラチカに言われた言葉が、心に引っ掛かっていた。それをリュースが聞き咎める。
「フレデリカさん、依存と協力は違います。皆、あなたが好きだから手伝ってるんですよ?」
リュースの言葉に、フレデリカがほほ笑む。
「うん。私は、幸せ者だよね」
そう言ったフレデリカは、心配そうにスネグーラチカの去った方角を見つめた。
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