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マホロバで迎える大晦日・謹賀新年!明けましておめでとう!

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第一章 大奥恒例。年末大掃除! 1

 パラミタの東に浮かぶ島国マホロバ
 長い間鎖国を行い、日本の江戸に似た独特の文化で繁栄していた。
 その国を治めるのが鬼城将軍家――。
 マホロバ城には将軍のために、美女三千人ともいわれる大奥があった。



 年末ともなると大奥も慌しくなっている。
 師走に入ってからというもの毎日、大掃除のための煤払いが行われていた。
「あー! これは手ごわいな、まったく終わらん!」
 大奥の女官透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)がはたきでパタパタと埃をはらい落としていた。
 彼女の頭には三角頭巾が巻かれている。
 布団干しや雑巾がけもこれほど広くて大掛かりなのものになると、もはや掃除を通り越してちょっとした戦争だ。
「外へ出て、掃除道具を仕入れてくる」
 畳替えの為に数百人の畳職人が詰め掛けている広敷を尻目に、透玻は外出した。
 前もって外出の申請はしてある。
「あいつなら、頼まれずとも色々買ってきているだろうしな」
 マホロバ城外には彼女の期待に沿うかのように、「あいつ」こと、パートナーのヴァルキリー璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)が大荷物を抱えたまま突っ立っていた。
 ほうきにはたき、バケツに雑巾……タスキに前掛け……。
 身長189cmの璃央の男らしい身体にピンクのフリルエプロンがまばゆい。
 門番がじろじろと彼を見ている。
「り、璃央! バカ正直にそのままの格好で来るとは……呆れた奴だ」
「大奥の大掃除と聞きましたので。こういうとき、透玻様は変に気合を入れますから、少しでもお力になれればと思いまして……透玻様?!」
 透玻は急ぎ璃央の腕を引っ張って、城の中に引き入れていた。
「よろしいのですか?」と、璃央。
「よろしいもなにも、そのままの格好でいられた方がよほど迷惑だろう!」
「はあ……しかしこれは、透玻様が必要だとおっしゃていたので」
「貴様という奴は、冗談の通じぬ男だな」
 そう言いながらも透玻は、少し彼をからかいたくなった。
「あの時もそうだ。普通、大奥は男の立入りは許されぬ。それをまさか大奥内に入ってくるとはな?」
 以前、龍騎士漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)がマホロバ城を強襲したとき、璃央は大奥の御花実や子供、透玻に危険を知らせるためにやってきた。
 通常なら即刻捉えられ、打ち首を申し付けられてもおかしくはない。
「あれは緊急時でしたので。それに感謝すべきは御根口の方々ですよ。あの方々の許可が無ければ今頃は……あ、プライベートなところは見てませんよ。本当です!」
 慌てて否定する璃央は透玻はくすりと笑った。
「わかっている。まあ……あのときは助かった。礼を言う」
「……どういたしまして。これからも、少しでもお役にたてれば」
 璃央は小さく頭を下げ、透玻は頷いた。
 と、そこへドーンと大きな音が響き渡った。
「何事だ?!」
 女官たちが大騒ぎして天井を見上げている。
 ばらばらと落ちてくる木材の間から、大きな足がニョキッと伸びていた。
「きゃー、鬼鎧(きがい)さんで屋根が抜けましたー!」
 鬼鎧調査隊の一人水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が真下で叫んでいた。


「はわわ……大丈夫でしょうか。修理代が高くつきそうですが……?」
 睡蓮が心配そうに見守る中、鬼鎧はなんとか自力で抜け出そうとしていた。
 しかし、睡蓮の足元には、彼女が大掃除の為に雷術の静電気で集めた埃と魔法の霧で固めた埃の塊がある。
「あ、危険、かも……?」
 そういったときは遅かった。
 静電気を帯びた埃の山の上に落ちてきた鬼鎧に電気が走り、ばちんと火花を散らした。
「……!(危ない!)」
 睡蓮に常に付き添っている機晶姫鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が、猛ダッシュで斬りこんで来る。
 鬼鎧をふっ飛ばし、彼女を庇った。
 九頭切丸の黒色の装甲越しに白い歯(刃)がきらりと光る。
「く、九頭切丸ありがとう。でも、たぶんやり過ぎ……」
「……(フッ)」
 睡蓮は壁に突き刺さっている鬼鎧を気の毒そうに見ながら九頭切丸に言うが、彼は答えない。
 彼の全てのセリフは「……」であり、そういう設定なのだ。
 書く方の身としては非常に楽だが、使いドコロに注意しないと手抜きと思われるのが厄介である。
「あー、折角屋根の修理が済んだと思ったのに! 壁にも穴が開いてる!」
 長身の巫女がずかずかとやって来て、鬼鎧を壁から引き抜こうとしていた。
「これ、水無月くんの仕業かな? 俺、さっきこいつと雨漏り直してたんだけど」
「すすす、すみません。九頭切丸が過剰に反応してしまって。習慣のような、骨髄反射みたいなものなんです。ところであなたは……まさか如月さん?」
 ぎくりっ
 と、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は振り返った。
「え、えーと。そう見えるかな?やっぱり」
「ええ。その眼鏡にぼさぼさ髪……巫女の格好した立派な変態さんに見えますね」
「なっ!? これはアルマさんが無理やりだな。俺は着るより見るほうが好きなんだ!」
 佑也は必死に弁明するが、睡蓮はにこにこと笑っている。
「いいんですよ。男の人はどこかそういう変態ちっくなところがあって。『私の』玖朔さんもきわどい水着を着てくれって言ったり、すぐに女の人に手を出そうとするし……」
 睡蓮は恋人のことを思い出しながら不適に笑っている。
「玖朔さんも……これで薙いだらどんな風になるかなあ」
 ほやほやっとした睡蓮の視線の先には鬼鎧の刀がある。
 佑也はゾッとして、鬼鎧とともにすごすご退散を試みた。
 すると、背後から高笑いが聞こえた。
「こんなところで何をしてるの、佑也! 逃がしはしないんだからね」
 佑也の剣の花嫁アルマ・アレフ(あるま・あれふ)が、奈落の鉄鎖を握りしめながらにじり寄ってくる。
 それをみて佑也は真っ青になった。
「待て、アルマさん。巫女の格好で十分だろ。大奥に入るなら女装しろといったのはアルマさんじゃないか」
「ええ、そうよ。まだ足りないわ。最終回でハブられた、私の悲しみを思い知るがいいわ!」
 アルマは言うなり、最終回参加で外された怒りに任せて佑也をがんじがらめに縛り上げ、胸にパットを詰め込み、化粧を施し始めた。
「それは俺せいじゃない〜中の人がやったことじゃないかあ!」
 すでに涙目の佑也。
 巫女が本職である睡蓮は、始終にこにこと笑いながらそれを見ている。
「ふふ。お仲間が増えて嬉しいですね」
「ちょ、仲間って……ギャース! タスケテー!」
 佑也の唇が真っ赤に塗られていく。

卍卍卍


「……ニンゲン、オモシロ」
 屋根の上では、鬼鎧が九頭切丸と一緒に茶をすすっていた。
 九頭切丸は「……(うむ)」と頷く。
「九頭切丸 殿ハ、ズット コノきゃらデ、イカレル ノカ?」
 鬼鎧の問いに、九頭切丸の使い古されたAIは、何で鬼鎧はしゃべるのに自分はしゃべれないんだろうと思っていたが、すぐにそれもかき消された。
「……(これが持ちネタなので)」
「ナルホド」
 鬼鎧は小さなミニチュアサイズになっている湯のみを見つめる。
「きゃらハ、大事デ、ゴザルナ」
「ちょっと待って。俺も入れてくれ」
 アルマの魔の手から逃れてきた佑也が、巫女服を引きずりながら屋根の上に上ってきた。
「……コレハ、キツイデ、ゴザルナ」
「ん? 何のこと言ってるんだ」
 佑也はおしろいで真っ白に塗られた首を傾げたが、彼らの隣に座り込んだ。
「俺は前から聞きたかったことがあるんだよ。鬼鎧が生きた時代や初代将軍がそんな人だったとか、二千五百年前のことを。なぜ、鬼鎧として生き、戦おうとしたのか」
「……フム」
 鬼鎧はしばらく考え込んでいた。
「ソレヲ 描コウトシタラ、しなりお一本 デキルト、ウシロノ人ガ イッテルデ、ゴザル」
「そこを何とか……」
「ウ〜ム。――戦乱ノ世、天下人トナッタ 将軍貞康公ハ、もてタ」
「は?」
「ソノ チカラガ、まほろばヲ 救ッタ」
「おい……俺をからかうなって」
 佑也の問いに鬼鎧はえらく真面目そうに答えていた。
「戦デ、沢山死ンダ。貞康公ハ、人モ、鬼モ 愛シタ。まほろばヲ 愛シタ」と、鬼鎧。
「忠義トハ、真心ヲ 尽シテ 仕エルコト。鬼鎧ハ、ソノ場所ヲ 与エラレテ 幸セ、ダッタ……」
「幸せ、だったのか」
 その言葉を聞いて、佑也は少しほっとしていた。
 鬼は無理矢理鬼鎧になったわけでもなく、戦争の道具にされたのでもないようだ。
 鬼鎧は鬼鎧として生き、その使命を全うしたのだろう。
 混迷で先の見えない時代に生きているという点では、現在と戦国の世は似ているかもしれないが、彼らには何をするべきかわかっていただけ、多少羨ましいともいえるかもしれない。
「アト、貞康公ハ、オ子ヲ 沢山作ラレタ ゾ。百人ハ、イタハズ。最後ノ子ハ、確カ 四百歳ヲ 過ギテカラ」
「ひゃく人に四百歳!? どれだけお盛んなんだ?」
 正直、女の子にモテたことのない佑也には頭がくらくらしてきた。
 鬼城の子沢山の血は、ここからきているのかもしれない。
「主君タルモノ。常ニ 第一線ニ 立ツ。ソウデ ナクテハナ」
 鬼鎧は片目をつぶって見せた。