リアクション
卍卍卍 大奥に入口にある広敷(ひろしき)に、大勢の見学者がいったん集められていた。 ここから御根口(おねくち)を通り、大奥に入る。 「えーと、まずこちらの地図を受け取ってください。大奥の内部は迷路みたいになってますからね。初めての方はまず間違いなく迷いますからねー」 御根口では大奥の女官竹中 姫華(たけなか・ひめか)が大奥の地図(姫華作)を見学者に手渡ししていた。 姫華の地図は見学者にとってありがたい存在である。 「ねえ、姫ちゃん……ボク思うんだけどさ」 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が見学者たちを横目で見ながら、ふと我に返ったようにぽつりと言った。 「こんな風に平和に大奥の見学ツアーなんてやってていいのかな? アレは明らかにシリアスだったよね? あの終わり方はシリアス以外の何ものでもないよね?!」 氷雨はさらにぶつぶつと独り言を続けている。 「アレか! 『パラレルだから大丈夫ーっ』て、どこかのCM『100人乗っても大丈夫ー』なノリなのか! そうなのか!? ならしょうがないね、パラレルだからしょうがない!!」 「もうー氷雨くん! 落ち着いて! 中の人出てるから。むしろ憑依してるから。しかも自己完結してるし!」 姫華は氷雨を正気づかせようと肩を掴んでぶんぶん振っている。 氷雨はようやくはっとした顔で彼女を見た。 「あれ、ボク……何か言ってた?」 「うん、何かが乗り移ってた」 「あれ、ううん。何かを言おうとしていたんだ。えーと、そうだお蕎麦だ! ボク、お蕎麦って食べたこと無いんだ。だから、おうどんでもいいのかな?」 突然訳のわからないことを口走ったり、蕎麦やうどんがどうのと言い出す氷雨。 しかし、姫華は怒ることなく、氷雨に優しく教えてやった。 「そうだね、お蕎麦は『細く長く達者で暮らせるように』って意味があるらしいんだけど、『太く長く』って意味でおうどんを食べる地域もあるみたいだよ。だからどっちでもいいんじゃないかな?」 姫華はいそいそと酒瓶を取り出し栓を開けている。 「え、姫ちゃん。それってどっから……」 「フフフ、氷雨君。さっきの大奥の地図、誰が書いたと思ってるの?」 姫華は据わった目で含み笑いをしていた。 「もちろん、御台所から失敬してきたのよ。常に自分のための手札は持ってないと。パラレルだもん。固いこと言いっこなしだよ!」 可愛い顔に似合わず、ぐびぐびと酒をあびるように飲む姫華。 氷雨は呆然とその姿を見ていた。 「姫ちゃんがここでも……抜け目がなくて怖い」 きっとどの世界でも彼女はうまくやっていくことだろう。 そして、何処からとも無くお酒を調達してくるに違いない。 「そういえば、姫ちゃんって、知る人ぞ知る名軍師竹中半兵衛の英霊だったよね。今度、日本史教えてもらおうーっと」 氷雨はニコニコしながら、地図配りの仕事に戻った。 一応、アイドルのサインの練習の為に、姫華の地図に自分のサインを入れるのを忘れなかった。 |
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