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リアクション
7-2
そしてようやくスーパードクター最後のシーンに到着である。
もう忘れちゃったかもしれないけど、アゲハのこと時々でいいから思い出してあげてください。
……と言うわけでお話に戻る。
「よー、あんたが梅さんか? 俺は鈴木周、ちょいとあんたに頼みがあって来たんだぜ」
続いての来訪者は軽薄オーラ満点の鈴木 周(すずき・しゅう)だった。
「梅さん医者なんだろ?」
「そうだが……?」
「医者ってぇことは、女の子が来たら脱がしておっぱいに聴診器でイタズラし放題なんだよな?」
「んなわけあるか!」
全国のお医者さんが聞いたら同時にズッコケる発言だ。
「頼みってのは他でもねぇ、俺も女の子とお医者さんごっこがしてぇんだ!」
その上、こいつは人の話を聞かない。
「な、混ぜてくれよー。女の子が来るまで一緒に待ってるからさー、いいだろ?」
「いや君ね……」
「おっと、心配しなくても隠し撮りとか無粋な真似はしねぇよ。きっちりとこの目と記憶と魂に焼き付けるだけだ。あとちゃんと手伝いもするし。女の子にはイタズラして、男は叩き出すのでOKだよな。基本方針はそれでOKだよな」
「全然OKじゃない上に、私は精神科医だから聴診器なんて持っていない」
「いや、そんなことは関係ねぇんだ」
まったくぶれずに言う。人としての軸はだいぶぶれてるのに。
「ただ、あんたが一言『上着をまくってください』と言えばいい、そうだろ?」
「超なれなれしい……」
スーパードクターの手を握りしめ、きらっきらと目を輝かせる周だったが、ふいに背中に寒気が走った。
「ん? なんか殺気が……?」
「周く〜ん……!」
「ひぃ! てめ、レミ、鈍器だと……がふっ!」
振り下ろされたメイスに頭蓋骨を粉砕され周は倒れた。
殺ったのは……いや、やったのはパートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)である。
「こんなことするためにここに来たんじゃないでしょ。周くんのあたまを見せようと思ってきたのに逃げるなんて……」
むんずと首根っこを掴んでスーパードクターに引き渡す。
「すいません。今更列挙するのもキリがないんですけど、このスケベ病はどうにかなりませんか?」
「はぁ。たぶんどうにもならないと思いますけど、一応診るだけ診てみます」
そう言って、カルテに目を通す。
『決戦! マ・メール・ロア!!』の12ページと『世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)』の5ページ。
どちらも後世に伝えなくてはならない大事件だ。反面教師的な意味で。
「君の契約者はどこかで頭を強打したのか?」
「残念ながら生まれつきです……」
「悪魔の申し子だな」
二人で呼吸の代わりにため息を吐いていると、周はむくりと起き上がった。
「……って気絶もしてらんねえ! 黙って聞いてりゃ誰か病気だってんだよ!?」
「まだなんか言ってる……」
「これは健康な男子の情熱だ! パトスだ! 男たるもの人生で目指すのは常にハーレムエンドだろ!?」
「ごめんなさい、先生。ちょっときつく指導してきます」
「ちょ、待った、黙ってメイスを振り上げるのはやめやが……げふぁっ!」
昨今、教師の体罰が問題視されるが、時として暴力が最良の教育を生むこともある。
そんな目の前で執行される暴力をぼんやり見つつ、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)はポツリと言った。
「世の中には随分と困ったひとがいるもんですねぇ」
「言っておきますけど、あなたも同類です……」
パートナーのルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)が残念そうに言う。
「君たちも診察希望者か?」
「はい、彼のあたまを診て頂きたいのです」
そう言うと、嫌がるクドを無理矢理スーパードクターの前に座らせた。
「異常なまでのストライクゾーン、もとい守備範囲の広さもさることながら、残念な思考回路もどうにかならないものでしょうか。彼、眠る時にですね、羊の数ではなく女性のバストサイズを数えながら眠ったりしているんです。『バストが72cm、バストが73cm、バストが……』といった具合に。これって色々と末期だと私は思うのです」
「それが末期じゃなかったら、この先どうなるんだって話ですね……」
「どうか、どうか彼の頭をどうにかしてあげて下さい」
「随分な言われようですねぇ。お兄さん、悲しくなっちゃう」
クドは肩をすくめる。
「『冥界急行ナラカエクスプレス(第3回)』の6Pめと『らばーず・いん・きゃんぱす』の27Pにあります通り、お兄さんは常人よりもやや守備範囲が広いだけなんです。それをおかしいと言っちゃうルルこそおかしいと思うんですよ」
「私がですか……?」
「ただ、ただお兄さんはどんな形も姿も愛も満遍なく受け止められる深い懐をもってるだけでしてうんたらかんたら」
「ね、梅様。いつもこんな感じなんです」
「なるほど。あなたも一緒にいてお辛いでしょう」
思わずスーパードクターも同情を見せてしまった。
「そんなことよりですよ、お兄さんは他に気になることがあるんです」
「なんです?」
「『それを弱さと名付けた(第1回/全3回)』の6ページ、ここ、ここ見てください。ここに出てるこの女生徒さんに『セクハラ夢遊病』の疑いがあるんじゃないか的な事を言われてるんですがどうなんでしょうか?」
「あるかそんなこと!」
女生徒に言われた台詞と一字一句違わず罵倒された。
「そんなこと言わないでくださいよぅ。病気って聞くだけでお兄さん、凄く不安になるんです。最近は道端で出会った女性に今日の下着を聞く回数も減ってますし、シリアスなシナリオでは空気を読んでシリアスに頑張っちゃう始末。これ、よくない兆候なんじゃないでしょうか。以前は、羊の代わりに数えるバストサイズ、これをHカップまで数えなければ眠れなかったのに、最近はDカップの所で眠っちゃったりしてますし……、もう不安で不安で……」
「まぁ……、緊急入院が必要なのはよくわかりました」
「ええー……、お兄さん、枕がかわると眠れないタイプなんですけど……」
スーパードクターはさらさらと(周のぶんも含め)入院の手続きをとった。
そこに本日最後の患者がやってきた。
トライアングルビキニの上にコートを羽織っただけと言う全男子の夢が詰まった衣装のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、そのパートナーのこれまたレオタードの上にコートを羽織っただけと言う全男子の愚息も昇天する美女セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)のモストデンジャラスコンビである。
「取り込み中? ええと……スーパードクターはだれ?」
セレアナが尋ねると、スーパードクターが返事をするよりはやく、周とクドが元気よく手を挙げた。
「なにを隠そうスーパードクターとはこの俺! 必要以上に時間をかけて触診してやるぜっ!」
「いやスーパードクターって言ったら、お兄さんのことでしょうよ。ちょっとその水着すらも脱ぎ捨ててくれます?」
スパコーンと軽快な音とともに倒れる二人。
「何回殴ってもすぐに復活するんだから……」と、レミ。
「すみません。遠くに捨ててきますから。すみません」と、ルルーゼ。
気を取り直して、スーパードクターは診療にはいる。
「……それで、どのようなご相談ですか?」
「え、ええと……実はこっちのセレンのことなの。もしかして露出狂なんじゃないかって心配になって……。夏ならまだしも、冬でもコートを引っ掛けただけだし……寒くないのかなって。というか、羞恥心すらないのかなって」
「君がそれを言うか」
コートを引っ掛けただけのセレアナに言った。
「これはセレンに着せられてるの。本当はおなじ格好にされそうだったんだけど、何とかレオタードに妥協させたのよ」
「大してかわらないじゃない!」
誰もが思ってることをずばばっとセレンは言った。
「まったく失礼しちゃうわよ。別に全裸ではないし、だいいち上にコートをまとってるから全然エロくもないし」
「なにを言ってるのよ、むしろエロいわ。エロさ、三割増しよ」
「そんなことないし! あと今しかできないでしょ、こーゆー格好は!」
むむむ……と火花を散らせている。
「ケンカはやめたまえ。私が責任をもって診察をおこなう、ケンカは病状が明らかになってからでもいいだろう」
「まぁ……それもそうね。じゃあはやくお願いするわ」
「よろしい。じゃあコートを脱いでこちらに……」
聴診器を取り出し診察に移ろうとしたところで、リース・アルフィンにその腕をガシィと掴まれる。
「ドクター、どうして精神科に聴診器が必要なんです?」
「……ちょっとドンペリを飲み過ぎたようだ」
小さく舌打ちしてしまう。
「結論から言おう。なんら異常はない。そもそも人間も大昔は裸だったのだ、自然に回帰するのは結構なことじゃないか」
「ほらー! セレアナがおかしいのよ!」
「うそでしょ……?」
無論、彼女たちが『露出狂』であることは素人の目にも明らかである。
だがしかし……とスーパードクターは思うのだ。何も治療してしまうだけがすべてではない、と。
彼女たちを直してしまったら、何千何万の男たちが悲しむことになる、優しいドクターにはそんな酷いことはできない。
「私も医者である前に、ひとりの人間なのだ」
気が付けば、今日もたくさんの人間を救ってしまった。
しかし、この世に心を病む患者がいる限り、スーパードクターの戦いは終わらない。
頑張れ、スーパードクター梅! 負けるな、スーパードクター梅!
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