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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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「見つけた……ボルドだな!」
 ユースティティアに乗る朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)はボルドを見つけ、指さしながら叫んだ。
 だが、ボルドはそんな千歳に一瞥もくれず、小型飛空挺を駆って去ろうとした。
「私を無視、できるかな。会いたいんだろう、お前が妖刀を奪ったシズルさんに……ッ!」
 その言葉に、ボルドの動きが止まった。
「……ネエチャン、どういうつもりか知らねぇが、嘘はよくねぇな」
「嘘じゃない。私はシズルさんの判断は間違っていなかったと思う。人質の人命が最優先なのは、当然だ。私でも同じことをしたろう。犠牲になっていい人命なんてないからな」
「ハハ、甘っちょろい、甘っちょろいなぁぁぁ!」
「そう、その甘さを悔やんでいる。だから自分の手で捕まえたいだろうし、判官としてバックアップに徹するつもりだ」
「……信じろというのか……?」
「お前だって、ハメられた、とわかってるんだろ? だから依頼主であるシズルを真っ先に始末すれば、壊滅は避けられるかもしれない。加えて、契約者の群れを追い払ったとハクがつくと思っている。まあ、淡い期待だが……。違うか?」
「……ネエチャン……あの女は、どこだ?」
「案内する。ついてこい」
 千歳はサイレンを鳴らしながら、ボルドの前に立ち、空を駆った。
 自分にできるのは、舞台に上がる人間を合わせることしかできないのだ。



「わらわも相乗りして、悪いのう。何分機会が苦手での……」
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は申し訳なさそうに言いながら、相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)のトナカイに乗り込んだ。
 明らかに狭く、重量オーバーのような気もするが、そこはもうトナカイに頑張ってもらうしかない。
「構わん。人手は常に不足しているのだ! よし、これより敵旗艦に対する強襲攻撃を仕掛ける。みと、準備はいいな? トナカイの性能では追いつかれるかもしれんが、とにかく乗り込めばこちらの勝ちだ! 出撃する!」
「行きますッ!」
 トナカイが鈴を鳴らしながら、夜空を駆けた。
 だが、届けるのはプレゼントではない。
 ボルド空賊団の旗艦は、その進路を大型飛空挺に向けていた。
 ――ドンフッ!
 大砲を向けて攻撃を仕掛けてくるが、バリスタに張り付いた仲間がそれを撃ち落としているのだろう。
 砲撃が当たることはなかった。
 しかし、トナカイで駆けているこちらに当たれば大問題である。
 ぐずぐずしていれば流れ弾に当たりかねない。
「洋さま、最短距離を突っ込みます。対ショック体勢を!」
 そのままトナカイは大きく跳躍するように駆け、旗艦の甲板に乗りつけた。
「よし、敵司令部を叩き次第、再びここで落ち合おう。相手は賊だ、生死は問わん。遠慮するな!」
「命令了解しました」
「わらわは動力部でも叩いてくるかのう」
 二手に分かれての白兵戦が始まった。

 隠れ身を使用した刹那は空賊に見つかることなく動力部に辿り着いた。
 そこには、戦闘中にも関わらず、隠れて一服する空賊が3人いた。
 辺りに散乱した酒瓶とトランプを見るに、相当サボリ癖のついた者たちなのだろう。
(ならば……たやすいのぉ……)
 エンジン音が丁度よく足音を掻き消し、刹那は3人の背後に忍び寄った。
「悪く思うなよ、こちらも仕事なのでな……」
「……ヘッ、ブシッ!?」
 ブラインドナイブスで3人を一瞬で仕留め、刹那は動力部の仕組みも停止方法もわからないのだからと言い訳をして、それらを力の限りダガーで刻みつけ破壊した。

「ウ……ガッ……」
 ポイズンアローで毒が回った空賊が倒れた。
「しかし、妖刀を渡すとは馬鹿なことをしたものだ。対テロ戦術基本原則では人質を無視すること。刀が渡らねば被害者が1人ですんだ物を」
「全く」
 武器で肩を叩きながら、洋は愚痴るように言った。
「さて……行くとするか、みと」
 コントロールブリッジの扉の前に立ち、洋は構えた。
「洋さま! 援護します!」
 みとの力強い言葉に頷き、洋はその扉を力強く蹴って開いた。
 驚いた空賊達の視線が一斉に集まるが、軍人の洋にとっては、それはそれは間抜けな光景にしか見えなかった。
「敵勢力に向け、魔導支援砲撃、相手に人権はいらん。そうだろう?」
「命令了解しました。空賊の皆さま、死んでくださいな」
 洋はひたすらにポイズンアローを乱れ撃ち、みとは火術、雷術、氷術を無差別、手加減なしで撃ちこんだ。
 あらかた片付き、残った数名の空賊は完全に腰を抜かし、戦意を喪失していた。
 その時、ガクンと旗艦が揺れた。
 刹那が動力部をやったのだろうと一瞬で察し、2人はその場を後にした。

 刹那と甲板で合流後、再びトナカイに乗って、3人は空へ舞い戻った。

「た、助けてくれ! オレ達はボルド空賊団じゃねぇ! ボ、ボルドの野郎に脅されただけだ!」
 ボルド空賊団の旗艦が煙を上げながら、今更ながらに命乞いをしてきた。
 外部音声に切り替えての通信であろう。
 後ろからは、他のクルーが奮闘している声が聞こえる。
 が、
「違うな、間違っているぞ。無法な空賊とは交渉はしない、それが国際ルールだ」
 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)はそれを認めなかった。
 未だ生き残っている左舷のバリスタに張り付いていた幸祐は引き金を引いて、攻撃をした。
「や、やめろ、このままじゃ皆落ちちまう!」
「この下は日本の太平洋側だ! 日本はいい国だぞ、きっと善良な平和ボケした市民に助けてもらえるかもしれない!」
「た、助けてもらえる保障なんてないだろぉ!?」
「空賊が命乞いとは情けない。貴様らはその言葉を今まで盾にした人質にも言えるか!? 言えないだろう!?」
 ――ドォォンッ!
 旗艦内部で破壊工作をしている者の影響だからか、旗艦が急降下を始めた。
「よく空賊という激務に耐えた……貴様らには特別休暇をやろう! 海水浴を楽しんで来い!」
 幸祐は照準をコントロールブリッジに向けて、引き金を引いた。
「これで、チェックメイトだ」
 正確な射撃が、旗艦を貫いた。

 ボルド空賊団の海賊船仕様旗艦の最期であった。