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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   伍

「それでは、氷雨様は後学のために見物なさっているのですね」
 白姫はゆるゆるとかぶりを振った。
「白姫には到底出来ませぬ」
「結構、面白いんだよー」
「主様、普段の勉強もそれぐらいなさればいいのに」
「勉強の種類が違うよー」
 氷雨は笑った。
「こういうの、いつか実戦で役立つと思うんだー」
「氷雨殿、すごいです。それに比べてあたしは……」
 うっうっ、と葉莉はしゃくり上げた。デロちゃんがよしよしとその頭を撫でる。
「葉莉ちゃんも一緒に見るといいよー。ちゃんと見ていればね、見ているだけで勉強になるから、強くなるのに役立つよ」
「本当ですか!?」
 葉莉は立ち上がり、小さい身体を隙間に押し込みながら、最前列に出た。
「ありがとうございます」
と、白姫。
「んー?」
「葉莉が立ち直ってくれましたわ」
「ボクは何もしてないよー」
 そう言って笑う氷雨に、主様は凄いなあとデロちゃんは思った。


  第一回戦
  審判:黒六道三

○第十二試合
 鳴神 裁(なるかみ・さい)(天御柱学院)VS.神崎 輝(かんざき・ひかる)(蒼空学園)

 これまた変わった組み合わせである。
 裁は格闘新体操という非常に変わった格闘技を使った。得物は新体操のフープ。これはさすがに用意していなかったが、そもそも殺傷能力がないので持ち込み可とした。
 対する輝はアイドルだ。――そう、アイドルなのだ。セイバーでもあるが。
 観客席の男たちが、歓声を上げたのは言うまでもない。
「L・O・V・E! ラブリー、輝ちゃん!!」
 しかし神埼輝ファンクラブの内何名かは、裁に流れた。責められまい。
「武と舞は互いに相通ず。強く、華麗に、美しく! 格闘新体操の真髄魅せてあげる!」
「俺が魅せられてぇ〜!!」
と誰かが叫んだ。
 審判の道三が前に出るよう、指示する。まだ十四〜五歳なのに、落ち着いた様子で審判をこなしている。
 共にきちんと一礼し、二人は間を取った。
 裁はフープを腕に通し、くるくると回す。ゆっくりと円を描きながら移動し、輝の隙を窺う。輝の目はじっとその動きについていく。
 先に仕掛けたのは裁だった。フープが輝の頭部を狙う。同時に輝は腰を落とし、裁の足首を狙った。裁は飛び上がり避けようとしたが、パシリと竹刀が掠る。道三が一本を告げた。
 怯む間もなく、裁はスピードを上げた。足首の痛みは無視した。その速さに輝は追いつけない。フープを見たと思ったら、そこには既に裁の姿はない。
「そこ!」
 フープが飛んだ。輝はそこから逆算して、裁の位置に半ば当てずっぽうで竹刀を突き出した。
「遅いよ!」
【バーストダッシュ】で更にスピードを上げ、裁は輝の真後ろに入った。くるりとバック転しながら、裁の蹴りが輝の顎を打つ。着地すると同時に、地面に跳ね返って戻ってきたフープをキャッチした。
 おお、と歓声が上がる。それは「アイドル」ではなく、純粋な、二人の戦いへの賞賛だ。
 だがそこまでだった。
「ボクを……なめるなあっ!」
 裁がフープをキャッチすると同時に、輝は竹刀を振り下ろした。音速の一撃が、フープを真っ二つにした。

 観客席脇の通路で、麻羅はじっと試合場を睨んでいた。
「まさかな……」
 視線の先には、淡々と審判の仕事をこなす道三がいた。


○第十三試合
 杉原 龍漸(すぎはら・りゅうぜん)(葦原明倫館)VS.花京院 秋羽(かきょういん・あきは)(葦原明倫館)

「師匠ー! 見ていて下さい!! 拙者絶対に勝つでござる!」
 龍漸は観客席に向けて拳を突き上げた。彼の言う師匠とは、ハイナ・ウィルソンのことである。正直、秋羽はちょっと面白くない。彼もハイナを尊敬してやまない。
「お前ね、そういうことは俺に勝ってから言いな」
 龍漸は自信満々に言い切った。
「拙者は負けないでござる!」
「前へ」
 道三が指示する。
 龍漸は腕のバンダナを頭に巻いた。気合は十分。薙刀を構え、合図と同時に秋羽の頭部を狙う。
 秋羽は龍漸が近づくと同じ分だけ距離を取り、薙刀が自分を襲うと同時に更に後ろへ飛び下がった。
 龍漸が宙を飛ぶ。秋羽のナイフが龍漸の足元を襲った。避けようもない龍漸は、そのままバランスを崩して地面に着地したが、「まだまだあ!」と薙刀を振り回して立ち上がった。
 ――が、その場で足を取られ、ばたんと倒れる。
「あ、あれ?」
「オシマイ」
 倒れた龍漸の背中を、秋羽が踏んだ。
「て、手強い……だが勝つ!」
 龍漸は秋羽の足を振り払い、立ち上がった。
「いくぞ!」
「試合終了だ」
 ぐい、と道三が龍漸の襟首を掴んだ。
「せ、拙者はまだ戦える!」
「戦場であればな。だがこれは試合だ。審議に文句があるなら、相手になるが?」
「い、いや、そういうわけではござらぬが」
「ならば、敗者はとっとと去ね!」
 龍漸は泣きそうになった。が、泣かなかった。サムライが、いや、男がそうそう涙など見せるものではない。ぐっと顔を上げ、観客席のハイナに向かって言った。
「師匠……。拙者まだまだでござるな。次からの修行はもっと厳しくお願いするでござるな!!」
 ハイナは微笑んだ。総奉行として一人に特別声をかけるわけにはいかない。だが、龍漸には十分だった。師匠は分かってくれている。前へ進もう。ただ、強くなるために。
 龍漸はバンダナを外し、試合場を去った。


○第十四試合
 柊 北斗(ひいらぎ・ほくと)(葦原明倫館)VS.神崎 瑠奈(かんざき・るな)(蒼空学園)

 観客席に小さな小さな女の子が座っていた。しかし、腕と足を組み、椅子に踏ん反り返っている様子は、見た目の可愛らしさとはそぐわなかった。
「北斗ー! 何が何でも勝ちなさいよー!」
 イランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)は声を張り上げた。
 試合場の北斗は、へいへいと手を振った。が、試合相手が登場するや、むっと口をへの字に曲げた。
 神埼輝のパートナーである瑠奈は、アイドルではない。言うなれば見習い中だが、やはり戦闘には向いていない。しかし、やる気満々にベレッタPx4を弄っている。負けて元々、勝てればラッキー。カッコイイところを見せられればなおよし。
 北斗はなおも、むむむと唸っている。
 道三が試合開始を告げた。
「いくにゃー!」
「まいった」
「…………え?」
 ぽいと捨てられた竹刀と、告げられた一言に、試合会場は一瞬、水を打ったように静かになった。
「……それは、降参ということか?」
と道三。
「そう」
「分かった。勝者、神埼瑠奈!」
 とたんにブーイングが上がる。
 北斗は耳の穴を穿りながら試合場を後にする。
 しょうがないだろう、と彼は思った。女を相手に戦うわけにはいかない。そういうものなのだから。
 それが柊北斗という男であった。
 イランダが投げた紙コップが、頭に当たった。
 ……しょうがないだろう、と彼はまた呟いた。