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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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第3章 襲撃

 0時を迎えた瞬間、それはやってきた。
 そう、「怪盗3姉妹・狐の目」である。
「来ましたねぇ……!」
 屋敷の玄関のところでルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)はパートナーのアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)と共に「第1陣」として控えていた。
 彼女たちが扱うのは共に「深緑の槍」。その長さゆえに屋内での戦闘には向いておらず、また場所によっては静香を含めた味方を攻撃しかねない。そこで彼女たちは表に出て「迎撃」することに決めたのだ。
 そんな彼女たちの前方から人間1人分の影が高速でやってくる。狐の耳と尻尾を生やし、動きやすそうなレオタードを着込み、長い棒を持って突進してくるのは、「狐の目」の1人「ジェニー」だった。
「あれは確か、『ジェニー』ですね。他の『レミ』と『ナタリー』はどうしたのでしょうか……」
 相手は3人のはず。ルーシェリアの背後に控えたアルトリアはそう思ったが、目の前からやってくるのは1人だけだった。
 彼女たちは気づいていなかったが、実はレミとナタリーは屋根から屋敷に侵入しようとしていたのである。ジェニーは正面から突撃し、警備の注意を引き、可能ならばそこから侵入してターゲットの所まで突破する役割を担っていたのだ。
「少々想定外ではありますが、この状況自体は願ってもないものですね」
「ですねぇ。しかも相手は似たような武器を持つ人。偶然って、怖いですぅ」
 ルーシェリアとアルトリアは迎撃の際にある作戦を立てていた。それは、自分たちが有利に戦えるように、「狐の目」の3人をうまく引き離し、特に棒という似た武器を持つジェニーのみを相手取る、というものだった。主に戦うのはルーシェリアで、アルトリアはジェニーが逃げようとした時、及びルーシェリアが負けそうになった時のためのサポートに徹する気でいた。そのサポートには、レミやナタリーからの妨害の邪魔も含まれていたが、相手がジェニーのみであるならば、特にサポートは必要無いだろう。
「では、迎撃ですぅ!」
 門を飛び越え、こちらに殺到するジェニーに向かって、ルーシェリアは片手に持った槍を突き出しながら走り出した。
「迷惑は許さないですぅ!」
「!?」
 突き出された槍を横っ飛びに避け、ジェニーは棒を構えながらルーシェリアに正対する。
「その動き……、キミは契約者ね。参ったなぁ、今までは非契約者ばっかりだったから楽だったんだけどなぁ」
「なら今回はうまくいきそうにないですねぇ。私だけじゃなく、今晩の警備には契約者が大勢集まっているですぅ」
「げ……」
 それを聞いたジェニーは少々青ざめた。これまでに出会ってきた屋敷の警備は、ほとんどが非契約者だったため、契約者である自分たちは圧倒的な力と速度をもって盗みが行えたのだが、相手が契約者ばかりとなると話は別である。
「こりゃあ、ちょっと本気で行かないとまずいかな?」
 言いながら彼女は胸元のポケットから1枚のカードを取り出した。それは彼女たちが犯行予告を行う際に使う、薄い鉄板だった。
「てやっ!」
 薄い紙は空気抵抗の影響で、真っ直ぐ飛ばすのに苦労する。だが鉄板ならば薄くても重量はあるし、物によっては硬いまま形を変えないため、手裏剣のように真っ直ぐ飛ばすことができる。
「狐の目」はそれを飛ばす技術に長けていた。だがそれは決して他人に命中させるためのものではなく、あくまでも予告状として使うためであったし、また牽制に使うためでもあった。
 カードはルーシェリアの顔の横を狙って飛んできた。だが明らかに横を通り過ぎるのではなく、まして顔面に直撃するようなものではない。そのギリギリのところを狙って投げられた。ルーシェリアはこれをもう片方の手に持ったバックラーで防御しながら避けた。その瞬間を狙って、ジェニーが突撃してくる。
「そうは行きませんよぉ!」
 だがルーシェリアとてナイトの端くれである。振り回される棒は盾で受け止め、滑らせるようにしてはじき返すと、今度は逆にジェニーの右肩を狙って槍を突き出す。槍は肩部分の生地を少し破る程度で、完全に命中はしなかった。
「ちっ、結構やるね!」
「そっちこそぉ!」
 両手で振り回され、突き出される棒。片手で振り回され、突き出される槍。似たような武器の戦いは、まさに互角といっていいほどの動きを見せた。
 その流れが変わったのは、ジェニーがまたカードを投げつけたところである。棒から片手を離し、すぐさま隠し持っていた鉄板を顔面付近に飛ばしてルーシェリアに防御させる。ルーシェリアが顔を守ろうと盾を上げたその瞬間、ジェニーはルーシェリアの胴体に蹴りを入れ、彼女を引き離したのである。
「あうっ!」
「ルーシェリア殿!」
 ルーシェリアが離れるや否や、ジェニーは追撃を行わずに屋敷へと走る。だがその目の前に今度はアルトリアが立ち塞がる。
「逃がしません!」
「くっ!」
 アルトリアの武器も槍だ。イングランド出身の英霊である彼女は、槍をまるで騎兵のランスのように扱う。盾は防御だけでなく、時にはそれで殴ることもできる。先ほどののんびりしていそうな女と違う戦い方に、ジェニーは再びその場で拘束されることになった。
「よくもやってくれましたねぇ! お返しですぅ!」
 アルトリアと戦っているジェニーのその背後から、立ち上がったルーシェリアが突撃する。挟み撃ちの形だ。槍の最大の特徴は「攻撃リーチの長さ」にある。うまく間合いを取れば、敵を寄せ付けずに攻撃できる。アルトリアに押さえ込まれている今がチャンスだ。
 だが2人のコンビネーション攻撃は失敗に終わる。ジェニーがアルトリアに向けていた力を抜き、横に避けたのである。
「あっ!?」
「きゃあっ!」
 ターゲットになっていたはずのジェニーが横によければどうなるか。ルーシェリアの攻撃はあわやアルトリアに直撃しそうになったのである。寸前で槍を放り出したことにより、彼女たちに加わったダメージは、互いの体がぶつかった衝撃のみで、大した怪我を負うことはなかった。だがジェニーを逃がしてしまったのには変わりなく、狐の獣人はすぐさま2人を放置して屋敷に突撃した。
「じゃ〜ね〜」
「あっ、待つですぅ!」
 体当たりから立ち直り、今度は屋敷内で決着をつけるべく、ルーシェリアとアルトリアは、捨てた槍を握りなおしてジェニーを追った。